表示設定
表示設定
目次 目次




第百九十七話 ティティス脱出

ー/ー



 アレクとルイーゼは、漁港の船揚げ場の一角にある隠れ家の倉庫に戻って来る。

 トゥルムとドミトリーは戻ってきた二人を出迎え、トゥルムはアレクに尋ねる。

「隊長、無事か?」

 アレクは二人に答える。

「無事さ!」

 ドミトリーも二人を労う。

「良く戻って来た! 首尾は?」

 ルイーゼは片目を瞑ってみせると布袋を見せて二人に答える。

「バッチリよ。この布袋にカスパニア軍の地図と通信文があるわ」

 ドミトリーは、ルイーゼの挙げた戦果に感心する。

「流石、隊長とルイーゼだ!」

 アレクは指示を出す。

「小舟を漁港に出せ! 脱出の準備を! 四人が戻ってきたら、直ぐにこの街を離れるぞ!」

「了解!」

 トゥルムとドミトリーは、小舟を倉庫から船揚げ場に移し、荷物をまとめて小舟に乗せる。



 アレクたち四人が脱出の準備を整えていると、続いてアルとナタリーが小走りで戻ってくる。

 アルはアレクに告げる。

「アレク、すまない! やっちまった! 脱出の準備を急いでくれ!」

 アレクはアルに尋ねる。

「『やっちまった』って、どうかしたのか?」

 アルは振り向いて、ナタリーが爆破した見張り塔の方角を指差しながら答える。

「アレだよ!」



 アレクたち六人は、アルが指差す方角を一斉に見て、目が点になり素っ頓狂な声を上げる。

「はぁ!?」

 アルが指差す方角の先には、街の建物をなぎ倒しながら地響きと共に漁港に向かって歩いてくる巨大なストーンゴーレムの姿があった。

 ストーンゴーレムが胸の前に置く手のひらの上には、ナディアとエルザがいた。

 ナディアは、勝ち誇ったような笑顔で腕を組みながら仁王立ちし、エルザは笑顔でアレクに向かって手を振りながら叫ぶ。

「はぁ~い、アレク! どう、このゴーレム!? 凄いでしょ!」

 やがて漁港の船揚げ場まで来たストーンゴーレムは、ナディアとエルザの二人を手のひらから地上に降ろす。

 ナディアは、唖然とするアレクたちに告げる。

「ただいま! 戻ったわよ!」

 エルザもナディアに続く。

「カスパニア軍をやっつけて来たわ!」



 意気揚々と帰って来たナディアとエルザを見たアレクは、額に手を当てて俯くと、傍らのアルに呻くように呟く。

「これ……、もう『やっちまった』とか、そういうレベルの話じゃないだろ!?」

 アルもアレクに続く。

「やっぱり、お前ら、派手にやらかしやがったか! ……って、話は後だ! カスパニア軍が師団規模で攻めて来てるぞ! アレク、早く脱出しよう!」

 アレクが顔を上げると、アルの言葉どおり、ストーンゴーレムの後をカスパニア軍が追って来ていた。

 アレクは指示を出す。

「みんな、早く小舟に乗れ! 沖に出せ! ルイーゼ、赤の信号弾を!」

 ナディアはアレクに告げる。

「アレク、ちょっと待って!」

 ナディアは、迫って来るカスパニア軍を指差し、ストーンゴーレムに命令を出す。

Сокрушить(ソー・クラシーット・)  моих(モイ・)   врагов!(ヴィラゴフ!)  Сдирать,(ズィディライト・)  Stepping(スティッピング・)  давка!!(ダフカ!!)  Underway!(アンデロイ!)  Каменный(カーメネイ・)  гигант!!(ギガント!!)
(我が敵を粉砕せよ! 薙ぎ払い、踏みしだけ!! 進め! 石の巨兵よ!!)

 ストーンゴーレムは、『承知した』と言わんばかりに両目を一度、大きく赤く輝かせると、くるりと振り返り、漁港に迫って来るカスパニア軍を目指して歩き出した。



「いいわ! 行きましょう!」

 ナディアが駆け寄ってくるとアレクたちは急いで小舟に乗り込み、沖に漕ぎ出して行く。

 ルイーゼは、トゥルムの背嚢から信号弾の発射装置を取り出して小舟の上から赤の信号弾を打ち上げる。

 ルイーゼが打ち上げた信号弾は、赤い煙を吐きながら弧を描いて空に飛んで行く。

 程なく空からジカイラ達の揚陸艇が沖にやって来て小舟の傍に着水すると、跳ね橋(コーヴァス)を降ろす。

 跳ね橋(コーヴァス)からジカイラが現れ、アレクたちを出迎える。

「お前達、派手にやったようだな! 早く乗れ!」

「はい!」

 アレクたちは、小舟から跳ね橋(コーヴァス)を登り、揚陸艇に乗り込んで行く。

 やがて、アレクたちが乗り込んだ揚陸艇は跳ね橋(コーヴァス)を上げると離水し、高度を上げていく。

 アレクたちが揚陸艇の窓からティティスの街を見下ろすと、ナタリーが魔法で爆破した塔は未だに炎上して黒煙を上げ続けており、ナディアが召喚したストーンゴーレムは、街中でカスパニア軍を相手に大暴れしていた。


 
--夕刻。

 ゴズフレズ軍の本陣に戻ったアレクたちは、ジカイラに司令部に呼び出される。

 アレクたちは、ジカイラとヒナ、ネルトン将軍に戦果を報告して状況を説明する。

 ジカイラは、アレクたちからひととおり戦果報告と状況説明を聞いて苦笑いしながらアレクたちに尋ねる。

「……それで、潜入探索任務のついでに、カスパニアの将軍を暗殺して、見張り塔を爆破。ティティスの街中でストーンゴーレムを暴れさせ、カスパニア軍を蹴散らしてきたって訳だ」

 ジカイラからの問いに、アレクは力無く答える。

「……はい」

 アレクは、潜入探索任務は敵であるカスパニア軍が占領する都市ティティスに隠密に潜入して敵の情報や動向を探るものであり、揚陸艇の中でルイーゼから将軍の暗殺を聞かされた時も、アルとナタリーから見張り塔の爆破を聞かされた時も、ナディアとエルザが街中でストーンゴーレムで大暴れして帰って来た時も、さすがにやり過ぎだろうと思っていた。

 ユニコーン小隊の隊長として、叱責や処罰を受けるのは免れないだろうとも思っていた。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第百九十八話 エルザの慰め


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 アレクとルイーゼは、漁港の船揚げ場の一角にある隠れ家の倉庫に戻って来る。
 トゥルムとドミトリーは戻ってきた二人を出迎え、トゥルムはアレクに尋ねる。
「隊長、無事か?」
 アレクは二人に答える。
「無事さ!」
 ドミトリーも二人を労う。
「良く戻って来た! 首尾は?」
 ルイーゼは片目を瞑ってみせると布袋を見せて二人に答える。
「バッチリよ。この布袋にカスパニア軍の地図と通信文があるわ」
 ドミトリーは、ルイーゼの挙げた戦果に感心する。
「流石、隊長とルイーゼだ!」
 アレクは指示を出す。
「小舟を漁港に出せ! 脱出の準備を! 四人が戻ってきたら、直ぐにこの街を離れるぞ!」
「了解!」
 トゥルムとドミトリーは、小舟を倉庫から船揚げ場に移し、荷物をまとめて小舟に乗せる。
 アレクたち四人が脱出の準備を整えていると、続いてアルとナタリーが小走りで戻ってくる。
 アルはアレクに告げる。
「アレク、すまない! やっちまった! 脱出の準備を急いでくれ!」
 アレクはアルに尋ねる。
「『やっちまった』って、どうかしたのか?」
 アルは振り向いて、ナタリーが爆破した見張り塔の方角を指差しながら答える。
「アレだよ!」
 アレクたち六人は、アルが指差す方角を一斉に見て、目が点になり素っ頓狂な声を上げる。
「はぁ!?」
 アルが指差す方角の先には、街の建物をなぎ倒しながら地響きと共に漁港に向かって歩いてくる巨大なストーンゴーレムの姿があった。
 ストーンゴーレムが胸の前に置く手のひらの上には、ナディアとエルザがいた。
 ナディアは、勝ち誇ったような笑顔で腕を組みながら仁王立ちし、エルザは笑顔でアレクに向かって手を振りながら叫ぶ。
「はぁ~い、アレク! どう、このゴーレム!? 凄いでしょ!」
 やがて漁港の船揚げ場まで来たストーンゴーレムは、ナディアとエルザの二人を手のひらから地上に降ろす。
 ナディアは、唖然とするアレクたちに告げる。
「ただいま! 戻ったわよ!」
 エルザもナディアに続く。
「カスパニア軍をやっつけて来たわ!」
 意気揚々と帰って来たナディアとエルザを見たアレクは、額に手を当てて俯くと、傍らのアルに呻くように呟く。
「これ……、もう『やっちまった』とか、そういうレベルの話じゃないだろ!?」
 アルもアレクに続く。
「やっぱり、お前ら、派手にやらかしやがったか! ……って、話は後だ! カスパニア軍が師団規模で攻めて来てるぞ! アレク、早く脱出しよう!」
 アレクが顔を上げると、アルの言葉どおり、ストーンゴーレムの後をカスパニア軍が追って来ていた。
 アレクは指示を出す。
「みんな、早く小舟に乗れ! 沖に出せ! ルイーゼ、赤の信号弾を!」
 ナディアはアレクに告げる。
「アレク、ちょっと待って!」
 ナディアは、迫って来るカスパニア軍を指差し、ストーンゴーレムに命令を出す。
「|Сокрушить《ソー・クラシーット・》  |моих《モイ・》   |врагов!《ヴィラゴフ!》  |Сдирать,《ズィディライト・》  |Stepping 《スティッピング・》  |давка!!《ダフカ!!》  |Underway! 《アンデロイ!》  |Каменный《カーメネイ・》  |гигант!!《ギガント!!》」
(我が敵を粉砕せよ! 薙ぎ払い、踏みしだけ!! 進め! 石の巨兵よ!!)
 ストーンゴーレムは、『承知した』と言わんばかりに両目を一度、大きく赤く輝かせると、くるりと振り返り、漁港に迫って来るカスパニア軍を目指して歩き出した。
「いいわ! 行きましょう!」
 ナディアが駆け寄ってくるとアレクたちは急いで小舟に乗り込み、沖に漕ぎ出して行く。
 ルイーゼは、トゥルムの背嚢から信号弾の発射装置を取り出して小舟の上から赤の信号弾を打ち上げる。
 ルイーゼが打ち上げた信号弾は、赤い煙を吐きながら弧を描いて空に飛んで行く。
 程なく空からジカイラ達の揚陸艇が沖にやって来て小舟の傍に着水すると、|跳ね橋《コーヴァス》を降ろす。
 |跳ね橋《コーヴァス》からジカイラが現れ、アレクたちを出迎える。
「お前達、派手にやったようだな! 早く乗れ!」
「はい!」
 アレクたちは、小舟から|跳ね橋《コーヴァス》を登り、揚陸艇に乗り込んで行く。
 やがて、アレクたちが乗り込んだ揚陸艇は|跳ね橋《コーヴァス》を上げると離水し、高度を上げていく。
 アレクたちが揚陸艇の窓からティティスの街を見下ろすと、ナタリーが魔法で爆破した塔は未だに炎上して黒煙を上げ続けており、ナディアが召喚したストーンゴーレムは、街中でカスパニア軍を相手に大暴れしていた。
--夕刻。
 ゴズフレズ軍の本陣に戻ったアレクたちは、ジカイラに司令部に呼び出される。
 アレクたちは、ジカイラとヒナ、ネルトン将軍に戦果を報告して状況を説明する。
 ジカイラは、アレクたちからひととおり戦果報告と状況説明を聞いて苦笑いしながらアレクたちに尋ねる。
「……それで、潜入探索任務のついでに、カスパニアの将軍を暗殺して、見張り塔を爆破。ティティスの街中でストーンゴーレムを暴れさせ、カスパニア軍を蹴散らしてきたって訳だ」
 ジカイラからの問いに、アレクは力無く答える。
「……はい」
 アレクは、潜入探索任務は敵であるカスパニア軍が占領する都市ティティスに隠密に潜入して敵の情報や動向を探るものであり、揚陸艇の中でルイーゼから将軍の暗殺を聞かされた時も、アルとナタリーから見張り塔の爆破を聞かされた時も、ナディアとエルザが街中でストーンゴーレムで大暴れして帰って来た時も、さすがにやり過ぎだろうと思っていた。
 ユニコーン小隊の隊長として、叱責や処罰を受けるのは免れないだろうとも思っていた。