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第百七十一話 砲艦外交と新婚旅行

ー/ー



--翌日。

 フェリシアは、カリンのいる病室を訪れる。

「おはようございます。カリンさん」

「おはようございます」

 フェリシアに続いてジークが病室に現れる。

「御気分はいかがかな?」

「殿下!?」

 ジークは言葉を続ける。

「改めて御挨拶を。バレンシュテット帝国皇太子、ジークフリート・ヘーゲル・フォン・バレンシュテットと申します。以後、お見知りおきを。カリン王女」

 ジークはそう挨拶すると、カリンの手を取り、手の甲にキスする。

「私のことはジークとお呼び下さい。……突然、女性の部屋を訪れた御無礼は、ご容赦願いたい」

 ジークの騎士典礼に則った完璧な騎士の儀礼と、初めて異性に手を握られ、手の甲にキスされたことで、照れと羞恥からカリンの頬はみるみる赤くなる。

 カリンは照れながら、自分を見詰めるジークのエメラルドの瞳から逃れるように目線を反らして答える。

「私のこともカリンと呼んで下さい。……それに、無礼だなんて、そんな……」

 ジークに続いて、カリンの従者の老執事が病室に現れる。

「おはようございます。姫様。……おぉ!? 何やら、御顔が赤いようですが、まさか、熱でも?」

 カリンは両手を自分の頬に当てると、ジークに照れて自分の顔が真っ赤になっていることに気付き、慌てて老執事に答える。

「爺! 良いのです! これは病気ではありません!」

 そこまで言うと、カリンは両手で顔を覆いジークに告げる。

「……もぅ、恥ずかしい。……見ないで下さい」

 カリンの純朴さが垣間見える光景に、その場にいる者たちは微笑むと、三人は椅子に座る。

 フェリシアは口を開く。

「今日は、カリンさんにお伝えしたいことがあって訪ねました」

 カリンはフェリシアに聞き返す。

「お伝えしたいこと?」 

 フェリシアは続ける。

「ジーク様から直接、伺ったほうがよろしいでしょう」

 フェリシアから話を向けられたジークは話し始める。

「我がバレンシュテット帝国がゴズフレズ王国を見捨てることはありません。御安心下さい。『観戦武官 兼 軍事顧問団』として、教導大隊をゴズフレズに派遣します」

 老執事は驚く。

「おぉ!」

 カリンはジークに尋ねる。

「謁見の際に援軍を求めたところ、皇帝陛下は『それはできない』とおっしゃっていたようですが……」

 ジークは答える。

「帝国が『派兵』するとなると、ゴズフレズ王国を従属下に置くスベリエ王国が帝国に宣戦布告してきます。ですから、『観戦武官と軍事顧問団の派遣』という名目で、教導大隊にゴズフレズの支援に当たらせます」

 老執事は頷く。

「なるほど。スベリエの目をごまかすために……」

 ジークは話しを続ける。

「教導大隊を率いるのは、ジカイラ中佐とヒナ大尉です。帝国の『黒い剣士と氷の魔女』と言えば、お二人も少しはお耳にしたことがあるかと」

 ジークの言葉にカリンと老執事は驚く。

 カリンは呟く。

「港湾自治都市群でカスパニア軍十万に単騎で戦いを挑み、一騎打ちで指揮官を倒して撃退したという、あの『黒い剣士』が……」

 老執事も口を開く。

「それに『氷の魔女』と言えば、第十位階魔法の使い手と聞きます! これでもうカスパニア軍など、恐れることはありませんぞ!」

 ジークは、朗報に喜んで安堵する二人に告げる。

「お二人は、我がバレンシュテット帝国が責任を持って我が国の船でゴズフレズ王国にお送り致します。……失礼だが、貴国の飛行船では時間が掛かり過ぎる。先に帰したほうが良い」

 老執事は恭しく頭を下げてジークに答える。

「承知致しました。何卒、よろしくお願い致します」

 ジークは席を立つと二人に告げる。

「それではこれで失礼致します。準備が出来ましたら、お迎えに上がります」

 フェリシアもジークに続いて席を立つと、カリンに告げる。

「カリンさん、御入浴されてはいかがですか。皇宮の大浴場は素晴らしいですよ。私も最初は驚きましたので」

 フェリシアの勧めをカリンは承諾する。

「判りました。それでは、後ほど」

 フェリシアは、カリンが自分の勧めを承諾したことが判ると病室を後にする。

 

 病室には、カリンと老執事の二人だけが残る。  

 老執事は口を開く。

「姫様。帝国からの援軍の件、国王陛下には私のほうから御報告致します」

 老執事が話し掛けているにも関わらず、緊張が解けたカリンは、呆けたようにぼーっとしたまま呟く。

「ジーク様。……素敵な方ですね」

 老執事は笑顔でカリンに告げる。

「やれやれ。姫様は、すっかりご病気を召されたようで」

 カリンは、老執事の言葉に驚く。

「え!?」

 驚くカリンに、老執事は笑顔で答える。

「姫様は『恋の病』ですよ。……ほっほっほ」



--皇宮 皇帝の私室。

 ジークは、カリンの見舞いを終えた報告するため、ラインハルトのいる皇帝の私室を訪れる。

 皇帝の私室には、ラインハルトとジークの二人がいた。

 ラインハルトは椅子に座り、訪れて来たジークに尋ねる。

「どうだった? 特使の様子は?」

「だいぶ、落ち着いたようです。軍事顧問団のゴズフレズ派遣と、帝国がゴズフレズを見捨てることは無いと伝えました」

「そうか。『特使来訪の答礼』として、こちらからは皇太子であるお前がゴズフレズへ行け」

「判りました」

 ラインハルトは、考える仕草をしながらジークに告げる。

「そうだな。名目は……『新婚旅行(ハネムーン)』でどうだ?」

 ジークは驚く。

「は!?」

 ラインハルトは、真顔で続ける。 

「まだ、新婚旅行(ハネムーン)に行ってないだろう? ソフィアとアストリッド、フェリシアも連れて行って、しばらくゴズフレズに滞在すると良い。『帝国はゴズフレズを見捨てない』という担保が、皇太子である、お前のゴズフレズ来訪と滞在だ」

「なるほど。そういうことですか。 ……判りました。初めての公務と新婚旅行(ハネムーン)に、三人も喜ぶでしょう」

 ラインハルトのアイスブルーの瞳が冷たい光を宿す。

「特使の送迎と新婚旅行(ハネムーン)だが、船は『ニーベルンゲン』を使え。……カスパニアとスベリエに、帝国の力を見せつけろ」
 
「判りました」



--皇宮 大浴場。

 フェリシアの案内により、カリンは皇宮の大浴場にいた。

 広大な空間に大理石でできた白亜の大浴場は、多数ある浴槽から立ち上る湯気で煙り、様々なお湯の温度の異なる浴槽や薬湯があった。

 カリンは、目ぼしい浴槽を見つけると、身体をお湯で流して浴槽に浸かる。

 ぬるめのお湯の浴槽に浸かったカリンは手足を伸ばしてみたが、縁に届かないほど浴槽の広さがあった。

 大理石でできたライオンの彫像の口から、滝のようにお湯が注ぎ、浴槽を満たしている。

 カリンは浴槽に浸かり、手足を伸ばしてリラックスしながら考える。

(……凄い。これが帝国の豊かさ……こんなにお湯がふんだんにあるなんて……フェリシアさんが『驚いた』と言っていただけはある)


 豊富な水源と魔導石技術を持たないバレンシュテット帝国以外の国々にとって、『入浴』は、ただそれだけでも贅沢な行為であった。


 カリンは、入浴を済ませて病室に戻るとベッドに横になる。

 『帝国がゴズフレズを助けてくれる』という安心感と入浴でリラックスしたことにより、カリンは深い眠りに就いた。



--翌日。

 ジークから、皇太子妃としての初の公務であり、『新婚旅行(ハネムーン)』として友好国であるゴズフレズ王国を訪問すると教えられた三人の妃達は喜んでいた。

 ジークは三人の妃達を伴ってカリンの病室を訪れると、カリンと老執事を飛行場へと案内する。

 ジークは、飛行場に停泊する船を二人に指し示しながら口を開く。

「この船でゴズフレズへ向かいます。どうぞ」

 二人は、乗り込む船を教えられ驚く。

「これは!?」

「……凄い」

 ジークが飛行場で指し示した船は、バレンシュテット帝国軍総旗艦『ニーベルンゲン』。

 それは『バレンシュテット帝国皇帝座乗艦』として諸国に広く知られているだけでなく、『白い死神』と呼ばれる純白の巨大な飛行戦艦であった。



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--翌日。
 フェリシアは、カリンのいる病室を訪れる。
「おはようございます。カリンさん」
「おはようございます」
 フェリシアに続いてジークが病室に現れる。
「御気分はいかがかな?」
「殿下!?」
 ジークは言葉を続ける。
「改めて御挨拶を。バレンシュテット帝国皇太子、ジークフリート・ヘーゲル・フォン・バレンシュテットと申します。以後、お見知りおきを。カリン王女」
 ジークはそう挨拶すると、カリンの手を取り、手の甲にキスする。
「私のことはジークとお呼び下さい。……突然、女性の部屋を訪れた御無礼は、ご容赦願いたい」
 ジークの騎士典礼に則った完璧な騎士の儀礼と、初めて異性に手を握られ、手の甲にキスされたことで、照れと羞恥からカリンの頬はみるみる赤くなる。
 カリンは照れながら、自分を見詰めるジークのエメラルドの瞳から逃れるように目線を反らして答える。
「私のこともカリンと呼んで下さい。……それに、無礼だなんて、そんな……」
 ジークに続いて、カリンの従者の老執事が病室に現れる。
「おはようございます。姫様。……おぉ!? 何やら、御顔が赤いようですが、まさか、熱でも?」
 カリンは両手を自分の頬に当てると、ジークに照れて自分の顔が真っ赤になっていることに気付き、慌てて老執事に答える。
「爺! 良いのです! これは病気ではありません!」
 そこまで言うと、カリンは両手で顔を覆いジークに告げる。
「……もぅ、恥ずかしい。……見ないで下さい」
 カリンの純朴さが垣間見える光景に、その場にいる者たちは微笑むと、三人は椅子に座る。
 フェリシアは口を開く。
「今日は、カリンさんにお伝えしたいことがあって訪ねました」
 カリンはフェリシアに聞き返す。
「お伝えしたいこと?」 
 フェリシアは続ける。
「ジーク様から直接、伺ったほうがよろしいでしょう」
 フェリシアから話を向けられたジークは話し始める。
「我がバレンシュテット帝国がゴズフレズ王国を見捨てることはありません。御安心下さい。『観戦武官 兼 軍事顧問団』として、教導大隊をゴズフレズに派遣します」
 老執事は驚く。
「おぉ!」
 カリンはジークに尋ねる。
「謁見の際に援軍を求めたところ、皇帝陛下は『それはできない』とおっしゃっていたようですが……」
 ジークは答える。
「帝国が『派兵』するとなると、ゴズフレズ王国を従属下に置くスベリエ王国が帝国に宣戦布告してきます。ですから、『観戦武官と軍事顧問団の派遣』という名目で、教導大隊にゴズフレズの支援に当たらせます」
 老執事は頷く。
「なるほど。スベリエの目をごまかすために……」
 ジークは話しを続ける。
「教導大隊を率いるのは、ジカイラ中佐とヒナ大尉です。帝国の『黒い剣士と氷の魔女』と言えば、お二人も少しはお耳にしたことがあるかと」
 ジークの言葉にカリンと老執事は驚く。
 カリンは呟く。
「港湾自治都市群でカスパニア軍十万に単騎で戦いを挑み、一騎打ちで指揮官を倒して撃退したという、あの『黒い剣士』が……」
 老執事も口を開く。
「それに『氷の魔女』と言えば、第十位階魔法の使い手と聞きます! これでもうカスパニア軍など、恐れることはありませんぞ!」
 ジークは、朗報に喜んで安堵する二人に告げる。
「お二人は、我がバレンシュテット帝国が責任を持って我が国の船でゴズフレズ王国にお送り致します。……失礼だが、貴国の飛行船では時間が掛かり過ぎる。先に帰したほうが良い」
 老執事は恭しく頭を下げてジークに答える。
「承知致しました。何卒、よろしくお願い致します」
 ジークは席を立つと二人に告げる。
「それではこれで失礼致します。準備が出来ましたら、お迎えに上がります」
 フェリシアもジークに続いて席を立つと、カリンに告げる。
「カリンさん、御入浴されてはいかがですか。皇宮の大浴場は素晴らしいですよ。私も最初は驚きましたので」
 フェリシアの勧めをカリンは承諾する。
「判りました。それでは、後ほど」
 フェリシアは、カリンが自分の勧めを承諾したことが判ると病室を後にする。
 病室には、カリンと老執事の二人だけが残る。  
 老執事は口を開く。
「姫様。帝国からの援軍の件、国王陛下には私のほうから御報告致します」
 老執事が話し掛けているにも関わらず、緊張が解けたカリンは、呆けたようにぼーっとしたまま呟く。
「ジーク様。……素敵な方ですね」
 老執事は笑顔でカリンに告げる。
「やれやれ。姫様は、すっかりご病気を召されたようで」
 カリンは、老執事の言葉に驚く。
「え!?」
 驚くカリンに、老執事は笑顔で答える。
「姫様は『恋の病』ですよ。……ほっほっほ」
--皇宮 皇帝の私室。
 ジークは、カリンの見舞いを終えた報告するため、ラインハルトのいる皇帝の私室を訪れる。
 皇帝の私室には、ラインハルトとジークの二人がいた。
 ラインハルトは椅子に座り、訪れて来たジークに尋ねる。
「どうだった? 特使の様子は?」
「だいぶ、落ち着いたようです。軍事顧問団のゴズフレズ派遣と、帝国がゴズフレズを見捨てることは無いと伝えました」
「そうか。『特使来訪の答礼』として、こちらからは皇太子であるお前がゴズフレズへ行け」
「判りました」
 ラインハルトは、考える仕草をしながらジークに告げる。
「そうだな。名目は……『|新婚旅行《ハネムーン》』でどうだ?」
 ジークは驚く。
「は!?」
 ラインハルトは、真顔で続ける。 
「まだ、|新婚旅行《ハネムーン》に行ってないだろう? ソフィアとアストリッド、フェリシアも連れて行って、しばらくゴズフレズに滞在すると良い。『帝国はゴズフレズを見捨てない』という担保が、皇太子である、お前のゴズフレズ来訪と滞在だ」
「なるほど。そういうことですか。 ……判りました。初めての公務と|新婚旅行《ハネムーン》に、三人も喜ぶでしょう」
 ラインハルトのアイスブルーの瞳が冷たい光を宿す。
「特使の送迎と|新婚旅行《ハネムーン》だが、船は『ニーベルンゲン』を使え。……カスパニアとスベリエに、帝国の力を見せつけろ」
「判りました」
--皇宮 大浴場。
 フェリシアの案内により、カリンは皇宮の大浴場にいた。
 広大な空間に大理石でできた白亜の大浴場は、多数ある浴槽から立ち上る湯気で煙り、様々なお湯の温度の異なる浴槽や薬湯があった。
 カリンは、目ぼしい浴槽を見つけると、身体をお湯で流して浴槽に浸かる。
 ぬるめのお湯の浴槽に浸かったカリンは手足を伸ばしてみたが、縁に届かないほど浴槽の広さがあった。
 大理石でできたライオンの彫像の口から、滝のようにお湯が注ぎ、浴槽を満たしている。
 カリンは浴槽に浸かり、手足を伸ばしてリラックスしながら考える。
(……凄い。これが帝国の豊かさ……こんなにお湯がふんだんにあるなんて……フェリシアさんが『驚いた』と言っていただけはある)
 豊富な水源と魔導石技術を持たないバレンシュテット帝国以外の国々にとって、『入浴』は、ただそれだけでも贅沢な行為であった。
 カリンは、入浴を済ませて病室に戻るとベッドに横になる。
 『帝国がゴズフレズを助けてくれる』という安心感と入浴でリラックスしたことにより、カリンは深い眠りに就いた。
--翌日。
 ジークから、皇太子妃としての初の公務であり、『|新婚旅行《ハネムーン》』として友好国であるゴズフレズ王国を訪問すると教えられた三人の妃達は喜んでいた。
 ジークは三人の妃達を伴ってカリンの病室を訪れると、カリンと老執事を飛行場へと案内する。
 ジークは、飛行場に停泊する船を二人に指し示しながら口を開く。
「この船でゴズフレズへ向かいます。どうぞ」
 二人は、乗り込む船を教えられ驚く。
「これは!?」
「……凄い」
 ジークが飛行場で指し示した船は、バレンシュテット帝国軍総旗艦『ニーベルンゲン』。
 それは『バレンシュテット帝国皇帝座乗艦』として諸国に広く知られているだけでなく、『白い死神』と呼ばれる純白の巨大な飛行戦艦であった。