第百六十三話 野営訓練(七)
ー/ー 入浴を済ませたエルザとナディアは、二人並んで楽しそうに話しながら、浴場から他のメンバーのところへ戻って来る。
エルザが焚火を囲むトゥルムとドミトリーに告げる。
「それじゃ、私達も寝るわね」
ナディアはトゥルムとドミトリーに手を振る。
「おやすみ~」
エルザとナディアは、二人のテントへと向かって行った。
二人を見送ったトゥルムが口を開く。
「最後は私達か……」
ドミトリーが答える。
「そのようだな」
二人は、浴場へと向かう。
二人は裸になって浴場に入ると、トゥルムは浴槽のお湯で身体を洗い流して椅子に座る。
「私は、これで良い。皮膚から海水だけ洗い流せば大丈夫だ」
ドミトリーが驚く。
「蜥蜴人は、随分と便利にできているんだな」
次にドミトリーがお湯で身体を流して、木の樽の浴槽に浸かる。
ドミトリーが口を開く。
「ドワーフである拙僧には、この樽は、ちと深いな……」
トゥルムが湯沸かし器からお湯を汲んで来て、ドミトリーが浸かっている木の樽の浴槽にお湯を足していく。
「かたじけない」
「構わない」
浴槽に浸かりながら、ドミトリーはトゥルムに話し掛ける。
「トゥルム。付き合わせたようで済まない。拙僧は修行中の身であるゆえ、裸の御婦人と入浴を共にする訳にはいかんのだ」
「気にすることは無い。……それに、私は、あの二人は苦手だ」
トゥルムの言う『あの二人』とは、エルザとナディアの事であった。
ドミトリーもトゥルムに追従する。
「うむ。拙僧も、あの二人は苦手だ。……あの二人は『煩悩に捕らわれている』というより、『煩悩の塊』のような女達だ」
ドミトリーの話を聞いたトゥルムは、乾いた笑い声をあげる。
「はははは。『煩悩の塊』か。上手い事を言う」
ドミトリーは真顔になると、トゥルムに尋ねる。
「……トゥルム。一度、聞いてみたかったのだが、隊長とルイーゼをどう思う?」
トゥルムは聞き返す。
「『どう思う』とは?」
ドミトリーは続ける。
「アルは、革命戦役の英雄である『黒い剣士』ことジカイラ中佐の子息。ナタリーも革命戦役の英雄である『爆炎の大魔導師』ことハリッシュ導師の息女だ。……帝国軍高官の息子と帝国政府高官の息女。この二人の育ちが良いのは判る」
「ふむ」
「隊長とルイーゼ。……あの二人は、いきなり中堅職になり、黒パンの食べ方を知らなかっただけでなく、食事の時には優雅にナイフとフォークを使っていた。……あの食べ方は、貴族の食事作法だ。平民ならスプーンだけで食べただろう。……それに、隊長は、帝国プラチナ貨を持ち歩いているだけでなく、『騎士典礼』も身に付けている」
「ふむ」
「拙僧が思うに、恐らくあの二人は平民ではない」
「二人が平民ではないなら、貴族だと言うのか?」
「たぶん。……それも下級貴族ではなく、かなりの上級貴族だ。下級貴族では、帝国プラチナ貨など小遣いで持ち歩けない。それに『騎士典礼』は、主に宮廷で必要とされる儀礼だ」
ドミトリーの推理に、トゥルムは首をかしげる。
「私は、人間の社会には詳しくないが、その『かなりの上級貴族』の二人が、なぜ、平民組にいるのだ?」
「判らない。……きっと、何か、身分を伏せなければならない理由があるのだろう」
「そう言えば、あの二人は恋人同士だったな。……『駆け落ち』か?」
「人間の社会ならば、あり得る話だ」
「ならば、無粋な詮索などせず、黙って匿ってやるのが人情というものだろう」
「確かに。……拙僧も、あの二人が語らない以上、二人の素性に付いて無粋な詮索をするつもりはない。……ただ、『トゥルムも二人の素性に付いて気付いているのでは?』と思って尋ねてみただけだ」
「ふ~む。私は、二人の素性や身分など考えた事も無かったな」
「そうか」
「……まぁ、私は、あの二人が貴族だろうと、平民だろうと、どちらでも良い。隊長は隊長だ。上級騎士を目指す真面目な努力家で、好感が持てる」
「そうだな。隊長は、煩悩に捕らわれ過ぎだが、真面目な努力家で、拙僧も好感が持てる」
ひと呼吸おいて、ドミトリーは口を開く。
「トゥルム。この話は、他言無用だぞ」
「うむ」
身に付けた教養や教育は、無意識にその人の『人となり』を醸し出す。
武辺一辺倒の槍術士トゥルムと修行僧のドミトリーは、アレクとルイーゼの素性について、薄々、感付いていた。
エルザが焚火を囲むトゥルムとドミトリーに告げる。
「それじゃ、私達も寝るわね」
ナディアはトゥルムとドミトリーに手を振る。
「おやすみ~」
エルザとナディアは、二人のテントへと向かって行った。
二人を見送ったトゥルムが口を開く。
「最後は私達か……」
ドミトリーが答える。
「そのようだな」
二人は、浴場へと向かう。
二人は裸になって浴場に入ると、トゥルムは浴槽のお湯で身体を洗い流して椅子に座る。
「私は、これで良い。皮膚から海水だけ洗い流せば大丈夫だ」
ドミトリーが驚く。
「蜥蜴人は、随分と便利にできているんだな」
次にドミトリーがお湯で身体を流して、木の樽の浴槽に浸かる。
ドミトリーが口を開く。
「ドワーフである拙僧には、この樽は、ちと深いな……」
トゥルムが湯沸かし器からお湯を汲んで来て、ドミトリーが浸かっている木の樽の浴槽にお湯を足していく。
「かたじけない」
「構わない」
浴槽に浸かりながら、ドミトリーはトゥルムに話し掛ける。
「トゥルム。付き合わせたようで済まない。拙僧は修行中の身であるゆえ、裸の御婦人と入浴を共にする訳にはいかんのだ」
「気にすることは無い。……それに、私は、あの二人は苦手だ」
トゥルムの言う『あの二人』とは、エルザとナディアの事であった。
ドミトリーもトゥルムに追従する。
「うむ。拙僧も、あの二人は苦手だ。……あの二人は『煩悩に捕らわれている』というより、『煩悩の塊』のような女達だ」
ドミトリーの話を聞いたトゥルムは、乾いた笑い声をあげる。
「はははは。『煩悩の塊』か。上手い事を言う」
ドミトリーは真顔になると、トゥルムに尋ねる。
「……トゥルム。一度、聞いてみたかったのだが、隊長とルイーゼをどう思う?」
トゥルムは聞き返す。
「『どう思う』とは?」
ドミトリーは続ける。
「アルは、革命戦役の英雄である『黒い剣士』ことジカイラ中佐の子息。ナタリーも革命戦役の英雄である『爆炎の大魔導師』ことハリッシュ導師の息女だ。……帝国軍高官の息子と帝国政府高官の息女。この二人の育ちが良いのは判る」
「ふむ」
「隊長とルイーゼ。……あの二人は、いきなり中堅職になり、黒パンの食べ方を知らなかっただけでなく、食事の時には優雅にナイフとフォークを使っていた。……あの食べ方は、貴族の食事作法だ。平民ならスプーンだけで食べただろう。……それに、隊長は、帝国プラチナ貨を持ち歩いているだけでなく、『騎士典礼』も身に付けている」
「ふむ」
「拙僧が思うに、恐らくあの二人は平民ではない」
「二人が平民ではないなら、貴族だと言うのか?」
「たぶん。……それも下級貴族ではなく、かなりの上級貴族だ。下級貴族では、帝国プラチナ貨など小遣いで持ち歩けない。それに『騎士典礼』は、主に宮廷で必要とされる儀礼だ」
ドミトリーの推理に、トゥルムは首をかしげる。
「私は、人間の社会には詳しくないが、その『かなりの上級貴族』の二人が、なぜ、平民組にいるのだ?」
「判らない。……きっと、何か、身分を伏せなければならない理由があるのだろう」
「そう言えば、あの二人は恋人同士だったな。……『駆け落ち』か?」
「人間の社会ならば、あり得る話だ」
「ならば、無粋な詮索などせず、黙って匿ってやるのが人情というものだろう」
「確かに。……拙僧も、あの二人が語らない以上、二人の素性に付いて無粋な詮索をするつもりはない。……ただ、『トゥルムも二人の素性に付いて気付いているのでは?』と思って尋ねてみただけだ」
「ふ~む。私は、二人の素性や身分など考えた事も無かったな」
「そうか」
「……まぁ、私は、あの二人が貴族だろうと、平民だろうと、どちらでも良い。隊長は隊長だ。上級騎士を目指す真面目な努力家で、好感が持てる」
「そうだな。隊長は、煩悩に捕らわれ過ぎだが、真面目な努力家で、拙僧も好感が持てる」
ひと呼吸おいて、ドミトリーは口を開く。
「トゥルム。この話は、他言無用だぞ」
「うむ」
身に付けた教養や教育は、無意識にその人の『人となり』を醸し出す。
武辺一辺倒の槍術士トゥルムと修行僧のドミトリーは、アレクとルイーゼの素性について、薄々、感付いていた。
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エルザが焚火を囲むトゥルムとドミトリーに告げる。
「それじゃ、私達も寝るわね」
ナディアはトゥルムとドミトリーに手を振る。
「おやすみ~」
エルザとナディアは、二人のテントへと向かって行った。
二人を見送ったトゥルムが口を開く。
「最後は私達か……」
ドミトリーが答える。
「そのようだな」
二人は、浴場へと向かう。
二人は裸になって浴場に入ると、トゥルムは浴槽のお湯で身体を洗い流して椅子に座る。
「私は、これで良い。皮膚から海水だけ洗い流せば大丈夫だ」
ドミトリーが驚く。
「|蜥蜴人《リザードマン》は、随分と便利にできているんだな」
次にドミトリーがお湯で身体を流して、木の樽の浴槽に浸かる。
ドミトリーが口を開く。
「ドワーフである拙僧には、この樽は、ちと深いな……」
トゥルムが湯沸かし器からお湯を汲んで来て、ドミトリーが浸かっている木の樽の浴槽にお湯を足していく。
「かたじけない」
「構わない」
浴槽に浸かりながら、ドミトリーはトゥルムに話し掛ける。
「トゥルム。付き合わせたようで済まない。拙僧は修行中の身であるゆえ、裸の御婦人と入浴を共にする訳にはいかんのだ」
「気にすることは無い。……それに、私は、あの二人は苦手だ」
トゥルムの言う『あの二人』とは、エルザとナディアの事であった。
ドミトリーもトゥルムに追従する。
「うむ。拙僧も、あの二人は苦手だ。……あの二人は『煩悩に捕らわれている』というより、『煩悩の塊』のような女達だ」
ドミトリーの話を聞いたトゥルムは、乾いた笑い声をあげる。
「はははは。『煩悩の塊』か。上手い事を言う」
ドミトリーは真顔になると、トゥルムに尋ねる。
「……トゥルム。一度、聞いてみたかったのだが、隊長とルイーゼをどう思う?」
トゥルムは聞き返す。
「『どう思う』とは?」
ドミトリーは続ける。
「アルは、革命戦役の英雄である『黒い剣士』ことジカイラ中佐の子息。ナタリーも革命戦役の英雄である『爆炎の大魔導師』ことハリッシュ導師の息女だ。……帝国軍高官の息子と帝国政府高官の息女。この二人の育ちが良いのは判る」
「ふむ」
「隊長とルイーゼ。……あの二人は、いきなり中堅職になり、黒パンの食べ方を知らなかっただけでなく、食事の時には優雅にナイフとフォークを使っていた。……あの食べ方は、貴族の食事作法だ。平民ならスプーンだけで食べただろう。……それに、隊長は、帝国プラチナ貨を持ち歩いているだけでなく、『騎士典礼』も身に付けている」
「ふむ」
「拙僧が思うに、恐らくあの二人は平民ではない」
「二人が平民ではないなら、貴族だと言うのか?」
「たぶん。……それも下級貴族ではなく、かなりの上級貴族だ。下級貴族では、帝国プラチナ貨など小遣いで持ち歩けない。それに『騎士典礼』は、主に宮廷で必要とされる儀礼だ」
ドミトリーの推理に、トゥルムは首をかしげる。
「私は、人間の社会には詳しくないが、その『かなりの上級貴族』の二人が、なぜ、平民組にいるのだ?」
「判らない。……きっと、何か、身分を伏せなければならない理由があるのだろう」
「そう言えば、あの二人は恋人同士だったな。……『駆け落ち』か?」
「人間の社会ならば、あり得る話だ」
「ならば、無粋な詮索などせず、黙って匿ってやるのが人情というものだろう」
「確かに。……拙僧も、あの二人が語らない以上、二人の素性に付いて無粋な詮索をするつもりはない。……ただ、『トゥルムも二人の素性に付いて気付いているのでは?』と思って尋ねてみただけだ」
「ふ~む。私は、二人の素性や身分など考えた事も無かったな」
「そうか」
「……まぁ、私は、あの二人が貴族だろうと、平民だろうと、どちらでも良い。隊長は隊長だ。|上級騎士《パラディン》を目指す真面目な努力家で、好感が持てる」
「そうだな。隊長は、煩悩に捕らわれ過ぎだが、真面目な努力家で、拙僧も好感が持てる」
ひと呼吸おいて、ドミトリーは口を開く。
「トゥルム。この話は、他言無用だぞ」
「うむ」
身に付けた教養や教育は、無意識にその人の『人となり』を醸し出す。
武辺一辺倒の槍術士トゥルムと|修行僧《モンク》のドミトリーは、アレクとルイーゼの素性について、薄々、感付いていた。