第百五十話 二人一組と待ち伏せ
ー/ー 決勝試合を行う試合会場『障害物』は、密林での戦闘を模擬するように造られていた。
樹木の代わりに木の杭が建てられ、茂みの代わりに矢弾を防ぐために使う木盾が設置されていた。
会場の地面は平坦ではなく起伏が付けられ、所々に池が造られていた。
アレクたちは、試合会場を観察しながら、旗のある本陣の位置に歩いて行く。
本陣の位置に着いたアレクは、アルに話し掛ける。
「……今回の会場は、見通しが効かないな。遭遇戦に注意しないと」
「斧槍の出番は無さそうだな……。コイツの出番か!」
アルは、愛用の斧槍を地面に垂直に立てて左手に持ち変えると、右手を腰の海賊剣の柄に掛けてアレクに見せる。
アルの様子を見ていたトゥルムも話に加わる。
「私も、いざという時には、コイツを使おうと思っている」
そう言うと、トゥルムは大盾の裏側に止めてある二本のショートスピアをアレクとアルに見せる。
アレクは、チラッとルイーゼの方を見る。
今朝、ナタリーに頭を撫でて貰いながら泣きじゃくっていたルイーゼであったが、戦闘装備に身を固め、ナナイから贈られた鉤爪付きの手甲を両手に装備すると、顔付きが変わる。
アレクは、ルイーゼが戦えるかどうか心配であったが、ルイーゼの様子を見てアレクは安心する。
(……どうやら、大丈夫そうだな)
ルイーゼはアレクたちの元にやって来ると皆に告げる。
「そろそろ、始まるわ!」
試合開始の合図の空砲が鳴る。
『開戦』の時であった。
アレクは、仲間たちに指示を出す。
「前衛と後衛の『二人一組』で、一定間隔に散開! 小隊全員で前進する!」
アレクたちユニコーン小隊は、右から順番にアレクとルイーゼ、アルとナタリー、トゥルムとドミトリー、エルザとナディアの二人一組に分かれ、五メートルほどの間隔で本陣から前進し始める。
アレクは続ける。
「皆、見ての通り、見通しが効かない! 遭遇戦、待ち伏せに注意!」
アレクたち、ユニコーン小隊は、慎重にゆっくりと前進していく。
程なくルイーゼはアレクに話し掛ける。
「アレク、私が前に出て索敵する」
中堅職の暗殺者であり、斥候・盗賊系の技能に長けているルイーゼは、自分がこういった地形の索敵に適していることを知っていた。
「頼む」
アレクはそう答えると、ルイーゼを前に歩かせる。
半時ほど前進を続けると、ルイーゼは屈んで立ち止まり、後続のアレクにハンドサインを示す。
(待って。物影にいる。あそこ)
アレクはアルに、アルはトゥルムに、トゥルムはエルザにハンドサインで伝える。
アレクがルイーゼの指し示す先をよく見ると、杭と木盾の影に屈んで隠れている者がいる事が判る。
ルドルフたち、グリフォン小隊の待ち伏せであった。
アレクがハンドサインで指示を出す。
(ナタリー。敵に魔法で攻撃を)
アレクのハンドサインを見たナタリーは、杭の影から出て、隠れている杭と木盾を狙って手をかざすと、魔法を唱える。
「火炎球!」
魔法を放ったナタリーは、すぐに杭の影に隠れる。
ナタリーの放った魔法は、杭と木盾に当たって砕け散ると、周囲に火の粉を巻き散らす。
「ぐあぁああああ!」
木盾の影に隠れていた者がナタリーの魔法で火傷を負い、一度立ち上がると、燃え上がる衣服の炎を消そうと物影を転げまわる。
「敵だ!」
ルドルフの叫び声がアレクたちに聞こえてくる。
すぐさまナタリーが隠れている杭に目掛けてグリフォン小隊側から魔法が次々に放たれる。
「雷撃!」
「氷結水晶槍!」
ナタリーは、杭の陰に隠れたまま屈んでグリフォン小隊からの魔法攻撃を凌いでいたが、アルが身を屈めてナタリーの元に駆け寄る。
「ナタリー! こっちへ!」
「アル!」
アルは、小脇に抱えるようにナタリーを庇いつつ、魔法攻撃を受けている杭の影から、別の杭の影にナタリーを連れ出す。
アルがナタリーを救出する様子を見ていたトゥルムは、大楯の内側からショートスピアの二本のうちの一本を取り出すと、ナタリーを攻撃していたグリフォン小隊の魔導師に向けて投擲する。
「ふんっ!」
体格と腕力のあるトゥルムが投げたショートスピアは、魔導師の顔の傍の杭に勢いよく突き刺さる。
「ヒィィッ!」
驚いた魔導師は杭の影に隠れる。
アレクは戦場を観察する。
似たような杭が無数に立ち並び、地面には起伏があり、沼のような小さな池があった。
森の茂みの代わりに不規則に木盾が据えられており、複数のグリフォン小隊の者達が木の杭や木盾の間を行き来しているのが判る。
(くそっ! あの杭、見分けが付かないぞ!?)
ルイーゼが戦場を観察すると、木の杭の間を素早く動く者を見つける。
グリフォン小隊の斥候であった。
(……敵の斥候!? エルザもトゥルムも気付いていない!)
斥候は潜伏に長けているため、エルザやトゥルムは正面にいる斥候に気付いていないようであった。
敵感知ができるルイーゼだからこそ、発見できたのであった。
ルイーゼは矢を番えると、杭の間を素早く移動している斥候を狙い、矢を放つ。
ルイーゼの放った矢は、斥候の右足のふくらはぎを射抜いた。
「がぁああああ!」
斥候が嗚咽を漏らしながら右足のふくらはぎを押さえて屈み込むと、ルドルフは斥候を後ろから両脇を抱えて木盾の影に引っ張り込む。
決勝戦の序盤は、一進一退の激しい攻防となった。
樹木の代わりに木の杭が建てられ、茂みの代わりに矢弾を防ぐために使う木盾が設置されていた。
会場の地面は平坦ではなく起伏が付けられ、所々に池が造られていた。
アレクたちは、試合会場を観察しながら、旗のある本陣の位置に歩いて行く。
本陣の位置に着いたアレクは、アルに話し掛ける。
「……今回の会場は、見通しが効かないな。遭遇戦に注意しないと」
「斧槍の出番は無さそうだな……。コイツの出番か!」
アルは、愛用の斧槍を地面に垂直に立てて左手に持ち変えると、右手を腰の海賊剣の柄に掛けてアレクに見せる。
アルの様子を見ていたトゥルムも話に加わる。
「私も、いざという時には、コイツを使おうと思っている」
そう言うと、トゥルムは大盾の裏側に止めてある二本のショートスピアをアレクとアルに見せる。
アレクは、チラッとルイーゼの方を見る。
今朝、ナタリーに頭を撫でて貰いながら泣きじゃくっていたルイーゼであったが、戦闘装備に身を固め、ナナイから贈られた鉤爪付きの手甲を両手に装備すると、顔付きが変わる。
アレクは、ルイーゼが戦えるかどうか心配であったが、ルイーゼの様子を見てアレクは安心する。
(……どうやら、大丈夫そうだな)
ルイーゼはアレクたちの元にやって来ると皆に告げる。
「そろそろ、始まるわ!」
試合開始の合図の空砲が鳴る。
『開戦』の時であった。
アレクは、仲間たちに指示を出す。
「前衛と後衛の『二人一組』で、一定間隔に散開! 小隊全員で前進する!」
アレクたちユニコーン小隊は、右から順番にアレクとルイーゼ、アルとナタリー、トゥルムとドミトリー、エルザとナディアの二人一組に分かれ、五メートルほどの間隔で本陣から前進し始める。
アレクは続ける。
「皆、見ての通り、見通しが効かない! 遭遇戦、待ち伏せに注意!」
アレクたち、ユニコーン小隊は、慎重にゆっくりと前進していく。
程なくルイーゼはアレクに話し掛ける。
「アレク、私が前に出て索敵する」
中堅職の暗殺者であり、斥候・盗賊系の技能に長けているルイーゼは、自分がこういった地形の索敵に適していることを知っていた。
「頼む」
アレクはそう答えると、ルイーゼを前に歩かせる。
半時ほど前進を続けると、ルイーゼは屈んで立ち止まり、後続のアレクにハンドサインを示す。
(待って。物影にいる。あそこ)
アレクはアルに、アルはトゥルムに、トゥルムはエルザにハンドサインで伝える。
アレクがルイーゼの指し示す先をよく見ると、杭と木盾の影に屈んで隠れている者がいる事が判る。
ルドルフたち、グリフォン小隊の待ち伏せであった。
アレクがハンドサインで指示を出す。
(ナタリー。敵に魔法で攻撃を)
アレクのハンドサインを見たナタリーは、杭の影から出て、隠れている杭と木盾を狙って手をかざすと、魔法を唱える。
「火炎球!」
魔法を放ったナタリーは、すぐに杭の影に隠れる。
ナタリーの放った魔法は、杭と木盾に当たって砕け散ると、周囲に火の粉を巻き散らす。
「ぐあぁああああ!」
木盾の影に隠れていた者がナタリーの魔法で火傷を負い、一度立ち上がると、燃え上がる衣服の炎を消そうと物影を転げまわる。
「敵だ!」
ルドルフの叫び声がアレクたちに聞こえてくる。
すぐさまナタリーが隠れている杭に目掛けてグリフォン小隊側から魔法が次々に放たれる。
「雷撃!」
「氷結水晶槍!」
ナタリーは、杭の陰に隠れたまま屈んでグリフォン小隊からの魔法攻撃を凌いでいたが、アルが身を屈めてナタリーの元に駆け寄る。
「ナタリー! こっちへ!」
「アル!」
アルは、小脇に抱えるようにナタリーを庇いつつ、魔法攻撃を受けている杭の影から、別の杭の影にナタリーを連れ出す。
アルがナタリーを救出する様子を見ていたトゥルムは、大楯の内側からショートスピアの二本のうちの一本を取り出すと、ナタリーを攻撃していたグリフォン小隊の魔導師に向けて投擲する。
「ふんっ!」
体格と腕力のあるトゥルムが投げたショートスピアは、魔導師の顔の傍の杭に勢いよく突き刺さる。
「ヒィィッ!」
驚いた魔導師は杭の影に隠れる。
アレクは戦場を観察する。
似たような杭が無数に立ち並び、地面には起伏があり、沼のような小さな池があった。
森の茂みの代わりに不規則に木盾が据えられており、複数のグリフォン小隊の者達が木の杭や木盾の間を行き来しているのが判る。
(くそっ! あの杭、見分けが付かないぞ!?)
ルイーゼが戦場を観察すると、木の杭の間を素早く動く者を見つける。
グリフォン小隊の斥候であった。
(……敵の斥候!? エルザもトゥルムも気付いていない!)
斥候は潜伏に長けているため、エルザやトゥルムは正面にいる斥候に気付いていないようであった。
敵感知ができるルイーゼだからこそ、発見できたのであった。
ルイーゼは矢を番えると、杭の間を素早く移動している斥候を狙い、矢を放つ。
ルイーゼの放った矢は、斥候の右足のふくらはぎを射抜いた。
「がぁああああ!」
斥候が嗚咽を漏らしながら右足のふくらはぎを押さえて屈み込むと、ルドルフは斥候を後ろから両脇を抱えて木盾の影に引っ張り込む。
決勝戦の序盤は、一進一退の激しい攻防となった。
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決勝試合を行う試合会場『障害物』は、密林での戦闘を模擬するように造られていた。
樹木の代わりに木の杭が建てられ、茂みの代わりに矢弾を防ぐために使う木盾が設置されていた。
会場の地面は平坦ではなく起伏が付けられ、所々に池が造られていた。
アレクたちは、試合会場を観察しながら、旗のある本陣の位置に歩いて行く。
本陣の位置に着いたアレクは、アルに話し掛ける。
「……今回の会場は、見通しが効かないな。遭遇戦に注意しないと」
「|斧槍《ハルバード》の出番は無さそうだな……。コイツの出番か!」
アルは、愛用の|斧槍《ハルバード》を地面に垂直に立てて左手に持ち変えると、右手を腰の|海賊剣《カトラス》の柄に掛けてアレクに見せる。
アルの様子を見ていたトゥルムも話に加わる。
「私も、いざという時には、コイツを使おうと思っている」
そう言うと、トゥルムは大盾の裏側に止めてある二本のショートスピアをアレクとアルに見せる。
アレクは、チラッとルイーゼの方を見る。
今朝、ナタリーに頭を撫でて貰いながら泣きじゃくっていたルイーゼであったが、戦闘装備に身を固め、ナナイから贈られた鉤爪付きの手甲を両手に装備すると、顔付きが変わる。
アレクは、ルイーゼが戦えるかどうか心配であったが、ルイーゼの様子を見てアレクは安心する。
(……どうやら、大丈夫そうだな)
ルイーゼはアレクたちの元にやって来ると皆に告げる。
「そろそろ、始まるわ!」
試合開始の合図の空砲が鳴る。
『開戦』の時であった。
アレクは、仲間たちに指示を出す。
「前衛と後衛の『二人一組』で、一定間隔に散開! 小隊全員で前進する!」
アレクたちユニコーン小隊は、右から順番にアレクとルイーゼ、アルとナタリー、トゥルムとドミトリー、エルザとナディアの二人一組に分かれ、五メートルほどの間隔で本陣から前進し始める。
アレクは続ける。
「皆、見ての通り、見通しが効かない! 遭遇戦、待ち伏せに注意!」
アレクたち、ユニコーン小隊は、慎重にゆっくりと前進していく。
程なくルイーゼはアレクに話し掛ける。
「アレク、私が前に出て索敵する」
中堅職の|暗殺者《アサシン》であり、斥候・盗賊系の|技能《スキル》に長けているルイーゼは、自分がこういった地形の索敵に適していることを知っていた。
「頼む」
アレクはそう答えると、ルイーゼを前に歩かせる。
半時ほど前進を続けると、ルイーゼは屈んで立ち止まり、後続のアレクにハンドサインを示す。
(待って。物影にいる。あそこ)
アレクはアルに、アルはトゥルムに、トゥルムはエルザにハンドサインで伝える。
アレクがルイーゼの指し示す先をよく見ると、杭と木盾の影に屈んで隠れている者がいる事が判る。
ルドルフたち、グリフォン小隊の待ち伏せであった。
アレクがハンドサインで指示を出す。
(ナタリー。敵に魔法で攻撃を)
アレクのハンドサインを見たナタリーは、杭の影から出て、隠れている杭と木盾を狙って手をかざすと、魔法を唱える。
「|火炎球《ファイヤー・ボール》!」
魔法を放ったナタリーは、すぐに杭の影に隠れる。
ナタリーの放った魔法は、杭と木盾に当たって砕け散ると、周囲に火の粉を巻き散らす。
「ぐあぁああああ!」
木盾の影に隠れていた者がナタリーの魔法で火傷を負い、一度立ち上がると、燃え上がる衣服の炎を消そうと物影を転げまわる。
「敵だ!」
ルドルフの叫び声がアレクたちに聞こえてくる。
すぐさまナタリーが隠れている杭に目掛けてグリフォン小隊側から魔法が次々に放たれる。
「|雷撃《サンダー》!」
「|氷結水晶《クリスタル》|槍《・ランス》!」
ナタリーは、杭の陰に隠れたまま屈んでグリフォン小隊からの魔法攻撃を凌いでいたが、アルが身を屈めてナタリーの元に駆け寄る。
「ナタリー! こっちへ!」
「アル!」
アルは、小脇に抱えるようにナタリーを庇いつつ、魔法攻撃を受けている杭の影から、別の杭の影にナタリーを連れ出す。
アルがナタリーを救出する様子を見ていたトゥルムは、大楯の内側からショートスピアの二本のうちの一本を取り出すと、ナタリーを攻撃していたグリフォン小隊の魔導師に向けて投擲する。
「ふんっ!」
体格と腕力のあるトゥルムが投げたショートスピアは、魔導師の顔の傍の杭に勢いよく突き刺さる。
「ヒィィッ!」
驚いた魔導師は杭の影に隠れる。
アレクは戦場を観察する。
似たような杭が無数に立ち並び、地面には起伏があり、沼のような小さな池があった。
森の茂みの代わりに不規則に木盾が据えられており、複数のグリフォン小隊の者達が木の杭や木盾の間を行き来しているのが判る。
(くそっ! あの杭、見分けが付かないぞ!?)
ルイーゼが戦場を観察すると、木の杭の間を素早く動く者を見つける。
グリフォン小隊の斥候であった。
(……敵の斥候!? エルザもトゥルムも気付いていない!)
斥候は潜伏に長けているため、エルザやトゥルムは正面にいる斥候に気付いていないようであった。
敵感知ができるルイーゼだからこそ、発見できたのであった。
ルイーゼは矢を番えると、杭の間を素早く移動している斥候を狙い、矢を放つ。
ルイーゼの放った矢は、斥候の右足のふくらはぎを射抜いた。
「がぁああああ!」
斥候が嗚咽を漏らしながら右足のふくらはぎを押さえて屈み込むと、ルドルフは斥候を後ろから両脇を抱えて木盾の影に引っ張り込む。
決勝戦の序盤は、一進一退の激しい攻防となった。