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第百三十一話 特訓

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 今日は休日であり士官学校の授業は休みであったが、アレクは早朝から相棒のアルと練兵場の片隅で剣術の練習をしていた。

 アルが相手役を努め、アレクは上級騎士(パラディン)の剣技である『受け流し』と『斬り返し』を必死に練習していた。

「……こう受けて、……こう流す。……こう斬り返す」

 アルは軽口を叩く。

「アレク。『受け流し』は、たいぶ上達したんじゃないのか?」

 アレクは答える。

「いや、まだ……」



 アレクとしては、何としても小隊対抗模擬戦トーナメントで優勝して、父ラインハルトに自分を認めて貰う必要があった。

 ラインハルトに認められ処罰を解いて貰い、ルイーゼと一緒になって、母ナナイの実家であるルードシュタットで暮らす。

 アレクは、そのために必死であったし、同じ中堅職の騎士であるルドルフにも負けたくなかった。



 先日の霊樹の森の戦いで、マスタークラスの上級騎士(パラディン)である父ラインハルトは、三人のダークエルフを圧倒した。

 アレクは、初めて父ラインハルトの速く、重く、流れるような美しい剣技を目の当たりにした。

 自分の剣の運びとラインハルトのそれは、大きな差があった。

 アレクは、ラインハルトの剣の運びを思い浮かべ、ブツブツ呟きながら剣の動きと体捌きの練習を繰り返す。

(速く、重く、流れるように……、『斬り返し』の一太刀……、相手を斬り伏せる『神速の一刀』!)

 アレクとアルが練習していると、小隊の他のメンバーが集まって来る。

 トゥルムは二人に話し掛ける。

「早朝から二人で特訓とは。水臭いぞ。私も一緒に訓練するとしよう」

 ドミトリーも続く。

「拙僧も一緒に鍛錬するぞ」

「私達も!」

 小隊の女の子達も訓練し始める。

 トゥルムは、愛用の三叉槍の穂先に重りを付け、槍術の型や構えを繰り返す。

 ドミトリーは、腕立て伏せをし始める。

 女の子達は地面の上に敷物を敷くと、ルイーゼとエルザがその上に仰向けに寝て、ルイーゼの足の上にナタリーが乗り、エルザの足の上にナディアが乗って、腹筋を鍛え始めた。

 アレクとアルの二人は、訓練を始めた女の子達を見て驚き、練習の手を止める。

 アルは女の子達に尋ねる。

「……急に腹筋なんか鍛えだして、どうしたんだ?」

 エルザが答える。

「鍛えるなら、まず、腹筋からよ! エルザちゃんのこの見事なプロポーションが崩れたら、アレクが悲しむでしょ?」

 ルイーゼも答える。

「そうよ! 腰のくびれもそうだけど、鍛えるのは、まず、腹筋からよ!」

「……そうなんだ」

 アレクとアルは互いに顔を見合わせると、苦笑いする。



 アレクたちは、昼まで小隊メンバーで特訓を続け、昼食の買い出しに補給処へ行った。

 小隊の仲間たちがそれぞれ補給処で昼食を買っていると、ジカイラと出会う。

 ジカイラはアレクたちに尋ねる。

「お前達、休日も学校に来ていたのか?」

 アレクは答える。

「はい。練兵場で皆で特訓していました」

 アレクの答えを聞いたジカイラは、素直に感心する。

「ほう? 良い心掛けだな」
 
 ジカイラは、昼食を選んで会計しているアレクたちを眺めて考える。

(頑張る教え子たちを、放置するわけにはいかないな……)

 ジカイラはアレクたちに告げる。

「よし! 昼食を取ったら、オレとヒナもお前達の特訓を手伝ってやる!」

 ジカイラからの申し入れにアレクたちは、お礼を口にする。

「おぉ!」

「ありがとうございます!」

 ジカイラたちから指導を受けられる事になったアレクたちは、意気揚々と昼食を手に補給処を後にする。



 アレクたちは、練兵場の木陰に集まって補給処で買ってきた簡単な昼食を取り、休憩する。

 ナタリーが口を開く。

「魔法が第一位階しか使えないけど、私達、勝てるかしら?」

 アルが笑顔で答える。

「当然だな! 帝国騎士(ライヒス・リッター)十字章(・クロス)に輝くオレ達ユニコーン小隊が優勝さ!」

 トゥルムも追従する。

「うむ! 我々が一番、実戦経験がある!」

 ドミトリーも追従する。

「そうだな。二年生の先輩方は、鼠人(スケーブン)の雑兵しか戦ったことが無い。実戦経験は我々の方が上だ!」

 エルザも追従する。

「なんたって、ユニコーン小隊には、美人剣士のエルザちゃんが居るんだから、優勝間違いなしよ!」

 ナディアも追従する。

「そうよ! 美人精霊使いのナディアお姉さんもいるんだから!」

 意気揚々と優勝への意気込みを語る仲間達を見ながら、アレクが呟く。

「勝てる……かな」

 ルイーゼが微笑みながらアレクに答える。

「私達、勝てるわよ。きっと」



 アレクたちが盛り上がっていると、ジカイラたちがやって来る。

 ジカイラは口を開く。

「盛り上がっているな」

 アレクは苦笑いしながら答える。

「ええ。まぁ……」

 ジカイラはアレクに話し掛ける。

「アレク。オレが直接、相手してやる。……構えろ」

 ジカイラの言葉にアレクは驚いたが、言われた通り休憩していた木陰から出ると、剣を構えてジカイラと対峙する。

「お願いします!」

 ジカイラは、魔剣シグルドリーヴァを抜いて構えると、アレクと対峙する。

 ユニコーン小隊の仲間たちとヒナが二人の対峙を見守っていた。

「いくぞ」

「はい!」

 ジカイラは、アレクとの間合いを一気に詰めると、斬撃を放つ。

 アレクは、ジカイラの斬撃を剣で受け止める。

「ぐうっ!」

 アレクの口から思わず嗚咽が漏れる。

 革命戦役を戦い抜いた百戦錬磨の英雄であり、マスタークラスの暗黒騎士であるジカイラの一撃は、アレクがそれまで受けた、どの斬撃よりも速く、重かった。

 ジカイラは、アレクへの斬撃を繰り返す。

 数段、格上のジカイラの斬撃にアレクは圧倒される。

 ジカイラが口を開く。

「いいか! 斬撃を剣でまともに受け止めたら、相手との力比べになる! 剣で『受け流せ』!」

 アレクは、ジカイラの言葉にハッとする。

(『受け流し』だ!)

 アレクは、ジカイラの斬撃を剣で受け流す。

 ジカイラは続ける。

「『受け流し』ってのは、防御技だ。『切り返し』と組み合わせて連続で使え!」

「はい!」

 アレクは、ジカイラの斬撃を、自分の剣で受け、体捌きによって、相手の攻撃を自分の体の中心軸から外れるように流すと同時に、間合いを一気に詰め、返す刀で切り返す。

 ジカイラは身を反らして、アレクの切り返しを(かわ)す。

 ジカイラは続ける。

「いいぞ! だが、身体の中心軸を崩すな! 腕だけで斬り返してもダメだ!」

 ジカイラの言葉にアレクは納得する。

(なるほど……!)

 ジカイラとアレクが剣戟を繰り返すうちに、次第にアレクが組み合わせて使う『受け流し』と『切り返し』が鋭くなっていく。




 二人は、半時ほど剣戟を続け、繰り返して特訓した。

 ジカイラは魔剣シグルドリーヴァを鞘に納めると、アレクたちに話し掛ける。

「アレク。だいぶ上達したじゃないか。……次、アル! トゥルム! 槍術を教えるぞ!」

「ありがとうございました」

 アレクはジカイラに頭を下げると、ルイーゼの待つ木陰に向かって歩いて行く。

 アルとトゥルムは、アレクと交代してジカイラから槍術を教わる。

 ナタリーは、ヒナからあれこれと魔導師同士の戦闘について教わっていた。

 ルイーゼは、木陰に戻ったアレクに話し掛ける。

「アレク。お疲れ様」

 アレクは、汗をぬぐいながら笑顔で答える。

「戻ったよ」

 ルイーゼはアレクの顔を覗き込むように尋ねる。

「どうだった?」

「……凄い。斬撃を剣で受け止めたら、潰されるかと思った。勉強になったよ」

 ジカイラとの特訓を語るアレクの顔には、『何かを会得した』という達成感が浮かんでいた。 




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 今日は休日であり士官学校の授業は休みであったが、アレクは早朝から相棒のアルと練兵場の片隅で剣術の練習をしていた。
 アルが相手役を努め、アレクは|上級騎士《パラディン》の剣技である『受け流し』と『斬り返し』を必死に練習していた。
「……こう受けて、……こう流す。……こう斬り返す」
 アルは軽口を叩く。
「アレク。『受け流し』は、たいぶ上達したんじゃないのか?」
 アレクは答える。
「いや、まだ……」
 アレクとしては、何としても小隊対抗模擬戦トーナメントで優勝して、父ラインハルトに自分を認めて貰う必要があった。
 ラインハルトに認められ処罰を解いて貰い、ルイーゼと一緒になって、母ナナイの実家であるルードシュタットで暮らす。
 アレクは、そのために必死であったし、同じ中堅職の騎士であるルドルフにも負けたくなかった。
 先日の霊樹の森の戦いで、マスタークラスの|上級騎士《パラディン》である父ラインハルトは、三人のダークエルフを圧倒した。
 アレクは、初めて父ラインハルトの速く、重く、流れるような美しい剣技を目の当たりにした。
 自分の剣の運びとラインハルトのそれは、大きな差があった。
 アレクは、ラインハルトの剣の運びを思い浮かべ、ブツブツ呟きながら剣の動きと体捌きの練習を繰り返す。
(速く、重く、流れるように……、『斬り返し』の一太刀……、相手を斬り伏せる『神速の一刀』!)
 アレクとアルが練習していると、小隊の他のメンバーが集まって来る。
 トゥルムは二人に話し掛ける。
「早朝から二人で特訓とは。水臭いぞ。私も一緒に訓練するとしよう」
 ドミトリーも続く。
「拙僧も一緒に鍛錬するぞ」
「私達も!」
 小隊の女の子達も訓練し始める。
 トゥルムは、愛用の三叉槍の穂先に重りを付け、槍術の型や構えを繰り返す。
 ドミトリーは、腕立て伏せをし始める。
 女の子達は地面の上に敷物を敷くと、ルイーゼとエルザがその上に仰向けに寝て、ルイーゼの足の上にナタリーが乗り、エルザの足の上にナディアが乗って、腹筋を鍛え始めた。
 アレクとアルの二人は、訓練を始めた女の子達を見て驚き、練習の手を止める。
 アルは女の子達に尋ねる。
「……急に腹筋なんか鍛えだして、どうしたんだ?」
 エルザが答える。
「鍛えるなら、まず、腹筋からよ! エルザちゃんのこの見事なプロポーションが崩れたら、アレクが悲しむでしょ?」
 ルイーゼも答える。
「そうよ! 腰のくびれもそうだけど、鍛えるのは、まず、腹筋からよ!」
「……そうなんだ」
 アレクとアルは互いに顔を見合わせると、苦笑いする。
 アレクたちは、昼まで小隊メンバーで特訓を続け、昼食の買い出しに補給処へ行った。
 小隊の仲間たちがそれぞれ補給処で昼食を買っていると、ジカイラと出会う。
 ジカイラはアレクたちに尋ねる。
「お前達、休日も学校に来ていたのか?」
 アレクは答える。
「はい。練兵場で皆で特訓していました」
 アレクの答えを聞いたジカイラは、素直に感心する。
「ほう? 良い心掛けだな」
 ジカイラは、昼食を選んで会計しているアレクたちを眺めて考える。
(頑張る教え子たちを、放置するわけにはいかないな……)
 ジカイラはアレクたちに告げる。
「よし! 昼食を取ったら、オレとヒナもお前達の特訓を手伝ってやる!」
 ジカイラからの申し入れにアレクたちは、お礼を口にする。
「おぉ!」
「ありがとうございます!」
 ジカイラたちから指導を受けられる事になったアレクたちは、意気揚々と昼食を手に補給処を後にする。
 アレクたちは、練兵場の木陰に集まって補給処で買ってきた簡単な昼食を取り、休憩する。
 ナタリーが口を開く。
「魔法が第一位階しか使えないけど、私達、勝てるかしら?」
 アルが笑顔で答える。
「当然だな! |帝国騎士《ライヒス・リッター》|十字章《・クロス》に輝くオレ達ユニコーン小隊が優勝さ!」
 トゥルムも追従する。
「うむ! 我々が一番、実戦経験がある!」
 ドミトリーも追従する。
「そうだな。二年生の先輩方は、|鼠人《スケーブン》の雑兵しか戦ったことが無い。実戦経験は我々の方が上だ!」
 エルザも追従する。
「なんたって、ユニコーン小隊には、美人剣士のエルザちゃんが居るんだから、優勝間違いなしよ!」
 ナディアも追従する。
「そうよ! 美人精霊使いのナディアお姉さんもいるんだから!」
 意気揚々と優勝への意気込みを語る仲間達を見ながら、アレクが呟く。
「勝てる……かな」
 ルイーゼが微笑みながらアレクに答える。
「私達、勝てるわよ。きっと」
 アレクたちが盛り上がっていると、ジカイラたちがやって来る。
 ジカイラは口を開く。
「盛り上がっているな」
 アレクは苦笑いしながら答える。
「ええ。まぁ……」
 ジカイラはアレクに話し掛ける。
「アレク。オレが直接、相手してやる。……構えろ」
 ジカイラの言葉にアレクは驚いたが、言われた通り休憩していた木陰から出ると、剣を構えてジカイラと対峙する。
「お願いします!」
 ジカイラは、魔剣シグルドリーヴァを抜いて構えると、アレクと対峙する。
 ユニコーン小隊の仲間たちとヒナが二人の対峙を見守っていた。
「いくぞ」
「はい!」
 ジカイラは、アレクとの間合いを一気に詰めると、斬撃を放つ。
 アレクは、ジカイラの斬撃を剣で受け止める。
「ぐうっ!」
 アレクの口から思わず嗚咽が漏れる。
 革命戦役を戦い抜いた百戦錬磨の英雄であり、マスタークラスの暗黒騎士であるジカイラの一撃は、アレクがそれまで受けた、どの斬撃よりも速く、重かった。
 ジカイラは、アレクへの斬撃を繰り返す。
 数段、格上のジカイラの斬撃にアレクは圧倒される。
 ジカイラが口を開く。
「いいか! 斬撃を剣でまともに受け止めたら、相手との力比べになる! 剣で『受け流せ』!」
 アレクは、ジカイラの言葉にハッとする。
(『受け流し』だ!)
 アレクは、ジカイラの斬撃を剣で受け流す。
 ジカイラは続ける。
「『受け流し』ってのは、防御技だ。『切り返し』と組み合わせて連続で使え!」
「はい!」
 アレクは、ジカイラの斬撃を、自分の剣で受け、体捌きによって、相手の攻撃を自分の体の中心軸から外れるように流すと同時に、間合いを一気に詰め、返す刀で切り返す。
 ジカイラは身を反らして、アレクの切り返しを|躱《かわ》す。
 ジカイラは続ける。
「いいぞ! だが、身体の中心軸を崩すな! 腕だけで斬り返してもダメだ!」
 ジカイラの言葉にアレクは納得する。
(なるほど……!)
 ジカイラとアレクが剣戟を繰り返すうちに、次第にアレクが組み合わせて使う『受け流し』と『切り返し』が鋭くなっていく。
 二人は、半時ほど剣戟を続け、繰り返して特訓した。
 ジカイラは魔剣シグルドリーヴァを鞘に納めると、アレクたちに話し掛ける。
「アレク。だいぶ上達したじゃないか。……次、アル! トゥルム! 槍術を教えるぞ!」
「ありがとうございました」
 アレクはジカイラに頭を下げると、ルイーゼの待つ木陰に向かって歩いて行く。
 アルとトゥルムは、アレクと交代してジカイラから槍術を教わる。
 ナタリーは、ヒナからあれこれと魔導師同士の戦闘について教わっていた。
 ルイーゼは、木陰に戻ったアレクに話し掛ける。
「アレク。お疲れ様」
 アレクは、汗をぬぐいながら笑顔で答える。
「戻ったよ」
 ルイーゼはアレクの顔を覗き込むように尋ねる。
「どうだった?」
「……凄い。斬撃を剣で受け止めたら、潰されるかと思った。勉強になったよ」
 ジカイラとの特訓を語るアレクの顔には、『何かを会得した』という達成感が浮かんでいた。