表示設定
表示設定
目次 目次




第百十九話 ユニコーン小隊、大空へ

ー/ー



 アレクたちがキャスパーシティにあるとされるトラキア解放戦線のアジトの捜索を開始してから一週間が過ぎ、ようやくその目標を四ヶ所に絞ることができた。

 ジカイラがアレクたち各小隊を格納庫に呼び集める。

「これより一時間後、キャスパーシティ郊外にあるトラキア解放戦線のアジトと思われる四ヶ所の施設に飛空艇で同時に襲撃を掛ける。ユニコーン、グリフォン、セイレーン、フェンリルの各小隊は、自分の担当する施設の場所を地図で確認しておくように」

 ヒナが掲示板に地図を広げて貼り出すと、アレクたちは地図の前に集まり、施設の場所を確認する。

 アレクは地図を見ながら口を開く。

「オレたちの担当は、郊外の農家か」

 ルイーゼは相槌を打つ。

「そうね。開けた場所みたいだから、飛空艇での着陸も楽かも」

 アルは軽口を叩く。

「解放戦線なんて只のゴロツキだろ? チャチャッと片付けちまおうぜ!」

 ナタリーが答える。

「うん!」

 トゥルムはアルを諌める。

「自爆攻撃までやる連中だ。侮るのは危険だぞ」

 アルは渋々返事する。

「……判ってるよ」

 エルザは楽しそうに口を開く。

「飛空艇での出撃も久しぶりね!」

 ナディアも同意する。

「そうね。飛ぶのは久しぶりね」

 ジカイラは説明を続ける。

「目標となる施設に解放戦線の者達が居た場合は、緑色の信号弾を打ち上げろ。外れの場合は、黄色だ。オレとヒナは揚陸艇で上空に待機し、逮捕した者達を揚陸艇で回収に向かう。……それじゃ、全員、一時間後に戦闘装備で集合するように!」

「了解!」

 格納庫に集まったアレクたちは、一旦、解散する。



 アレクは浮かない顔で、格納庫にある自分の飛空艇・ガンシップ「エインヘリアルⅡ」で装備を確認していた。

 アルはアレクに話し掛ける。

「アレク、どうしたんだ? 浮かない顔して」

 アレクは、悩みを口にする。

「……なぁ、アル。トラキアの人たちって、バレンシュテット帝国にトラキアが併合されたことを恨んでいるのかな?」

 アレクにとって、帝国によるトラキア併合は、無関係でも他人事でもなかった。

 バレンシュテット帝国によるトラキア併合は、父である皇帝ラインハルトと兄である皇太子ジークフリートが中心になって行ったことであり、アレクが憧れたフェリシアはトラキアの王族であった。

 アルは考えながら答える。

「ん~。二通りいるんじゃないの?」

 アレクがアルに尋ねる。

「二通り?」

 アルはしたり顔で説明する。

「そう。一つは、『バレンシュテット帝国との戦争に負けて併合されたけど、鼠人(スケーブン)が駆逐され、黒死病(ペスト)が無くなって良かった』と思っている人たち」

「もう一つは?」

「『自分達がバレンシュテット帝国に負けた訳じゃない。帝国による併合は認めない』って人たちさ。そいつらが解放戦線になっているんだろ」

「なるほど……」

 アレクとアルが話し合っていると、ルイーゼとナタリーが二人の元にやって来る。

 ルイーゼは尋ねる。

「二人で何を話しているの?」

 アレクとアルは、ルイーゼとナタリーに二人で話していた事を話す。

 ルイーゼも自分の考えを口にする。

「ヒマジン伯爵による飛行艦隊で首都を直接狙った電撃戦で、あっという間に首都が占領されてトラキア政府は降伏。多くのトラキアの人たちには、バレンシュテット帝国と戦って負けた実感が無いんじゃない?」

 アレクはルイーゼの説明に感心する。

「戦火が少なかったため、逆にトラキアの人たちには『戦争で負けた実感が無い』ってことか……」

 ルイーゼは続ける。

「フェリシアさんがトラキア政府の降伏を宣言したんで政府軍のほとんどは投降して、戦争の犠牲は少なく済んだのにね」

 ナタリーが悲しげに口を開く。

鼠人(スケーブン)を退治したら、今度は人間同士が争うなんて……」

 四人で話していると、トゥルム、ドミトリー、エルザ、ナディアの四人も格納庫にやって来る。

 アレクは格納庫に来た四人にも、ルイーゼやアル達と話していた事を話す。

 トゥルムは口を開く。

「……難しいな。トラキアの人たちは、誇り高い騎馬民族の末裔だと聞く。『戦争で負けた実感が無い』のに、トラキアの人たちが、このまま大人しく引き下がるとは思えんしな」

 ドミトリーも口を開く。

「……現状、万に一つも、トラキアがバレンシュテット帝国に勝つような見込みは無い。爆弾テロごときで百万の軍勢を擁する帝国が、皇帝陛下が引き下がる訳が無い。……憎しみの連鎖が続き、血を流す事態が続くだろう」

 エルザは疑問を口にする。

「帝国に併合されたことで、鼠人(スケーブン)が駆逐されて黒死病(ペスト)が無くなり、水も食べ物も帝国から豊富に供給されるようになったのに。……トラキアの人たちって、何が不満なんだろう?」

 ナディアは答える。

「『騎馬民族の誇り』ってやつね。元々、トラキアは大帝が建国した強大なバレンシュテット帝国に対抗するために小さな騎馬民族の都市国家が集まって出来た連邦制国家だから。『帝国に対抗するために建国したのに、降伏、併合なんて納得できない』って人たちが一定数出るのは、仕方が無いのかも」

 アレクは疑問を口にする。

「……オレたちのやっている事は、正しい事なのか? 帝国が武力でトラキアの人たちをねじ伏せる事が、正しい事なのか?」

 トゥルムは答える。

「帝国も皇帝陛下も正しい。鼠人(スケーブン)から自国民を守ることは、統治者である皇帝陛下の責任であり、絶対の正義だ。それによって帝国とトラキアが戦争してもだ。……それに、如何なる理由があろうとも、非戦闘員を狙ったテロを容認してはならない。テロリストは犯罪者であり、テロは絶対の悪だ」

 トゥルムの説明にアレクたち全員が頷く。



 やがて、出撃の時間になる。

 アレクたちは、もう一度、地図で自分達が担当する地域を確認すると、自分達が乗るガンシップに乗り込む。

 小隊全員が飛空艇に乗り込んだ事を確認したアレクは、整備員に告げる。

「ユニコーン小隊、出撃します!」

「了解!」

 整備員は、同僚と共にアレクたちが乗る四機の飛空艇をエレベーターに押して乗せると、同僚の整備員に向かって叫ぶ。

「ユニコーンが出る! エレベーターを上げろ!」

 整備員が動力を切り替えると、飛行甲板に向けてアレクたちが搭乗する四機の飛空艇は、エレベーターで上昇していく。

 程なく、アレクたちが搭乗する四機の飛空艇は、飛行甲板に出る。 



 上空の冷たい風がアレクの顔を撫でる。

 ヒンヤリとした空気の感触にアレクの表情が引き締まる。

 アレクは、伝声管でルイーゼに告げる。

「行くよ。ルイーゼ。いつも通りやれば大丈夫」

「うん」

発動機始動(モータリングスタート)!」

 アレクは、掛け声と共に魔導発動機(エンジン)の起動ボタンを押す。

 魔導発動機(エンジン)の音が響く。

 ルイーゼが続く。

飛行前点検(プリフライトチェック)開始(スタート)!」

 ルイーゼは掛け声の後、スイッチを操作して機能を確認する。

発動機(エンジン)航法計器(エアーデータ)浮遊水晶(クリスタル)降着装置(ギア)昇降舵(フラップ)全て異常無し(オールグリーン)!」

 ルイーゼからの報告を受け、アレクは浮遊(フローティング)水晶(クリスタル)に魔力を加えるバルブを開く。

「ユニコーン・リーダー、離陸(テイクオフ)!」

 アレクの声の後、大きな団扇(うちわ)を扇いだような音と共に機体が浮かび上がる。

発進(ゴー)!」

 アレクは、クラッチをゆっくりと繋ぎ、スロットルを開ける。

 プロペラの回転数が上がり、風切り音が大きくなると、アレクとルイーゼの乗る機体ユニコーン・リーダーは、加速しながら飛行甲板の上を進む。

 やがて飛行甲板の終わりまでくると、二人の乗るユニコーン・リーダーは大空へと舞い上がった。



 二人の乗るユニコーン・リーダーは飛行空母ユニコーン・ゼロの上を旋回して、小隊の仲間が離陸してくるのを待つ。

 直ぐにアルとナタリーが乗るユニコーン二号機が飛行空母を発進し、上昇してくる。

 続いて、ドミトリーとナディアが乗るユニコーン三号機とエルザとトゥルムが乗るユニコーン四号機が飛行空母から発進して上昇してくる。

 四機全てが揃ったユニコーン小隊は編隊を組む。

 やがて、ユニコーン小隊は、自分たちが襲撃を担当する施設を目指して大空を飛んで行った。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第百二十話 アジト襲撃


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 アレクたちがキャスパーシティにあるとされるトラキア解放戦線のアジトの捜索を開始してから一週間が過ぎ、ようやくその目標を四ヶ所に絞ることができた。
 ジカイラがアレクたち各小隊を格納庫に呼び集める。
「これより一時間後、キャスパーシティ郊外にあるトラキア解放戦線のアジトと思われる四ヶ所の施設に飛空艇で同時に襲撃を掛ける。ユニコーン、グリフォン、セイレーン、フェンリルの各小隊は、自分の担当する施設の場所を地図で確認しておくように」
 ヒナが掲示板に地図を広げて貼り出すと、アレクたちは地図の前に集まり、施設の場所を確認する。
 アレクは地図を見ながら口を開く。
「オレたちの担当は、郊外の農家か」
 ルイーゼは相槌を打つ。
「そうね。開けた場所みたいだから、飛空艇での着陸も楽かも」
 アルは軽口を叩く。
「解放戦線なんて只のゴロツキだろ? チャチャッと片付けちまおうぜ!」
 ナタリーが答える。
「うん!」
 トゥルムはアルを諌める。
「自爆攻撃までやる連中だ。侮るのは危険だぞ」
 アルは渋々返事する。
「……判ってるよ」
 エルザは楽しそうに口を開く。
「飛空艇での出撃も久しぶりね!」
 ナディアも同意する。
「そうね。飛ぶのは久しぶりね」
 ジカイラは説明を続ける。
「目標となる施設に解放戦線の者達が居た場合は、緑色の信号弾を打ち上げろ。外れの場合は、黄色だ。オレとヒナは揚陸艇で上空に待機し、逮捕した者達を揚陸艇で回収に向かう。……それじゃ、全員、一時間後に戦闘装備で集合するように!」
「了解!」
 格納庫に集まったアレクたちは、一旦、解散する。
 アレクは浮かない顔で、格納庫にある自分の飛空艇・ガンシップ「エインヘリアルⅡ」で装備を確認していた。
 アルはアレクに話し掛ける。
「アレク、どうしたんだ? 浮かない顔して」
 アレクは、悩みを口にする。
「……なぁ、アル。トラキアの人たちって、バレンシュテット帝国にトラキアが併合されたことを恨んでいるのかな?」
 アレクにとって、帝国によるトラキア併合は、無関係でも他人事でもなかった。
 バレンシュテット帝国によるトラキア併合は、父である皇帝ラインハルトと兄である皇太子ジークフリートが中心になって行ったことであり、アレクが憧れたフェリシアはトラキアの王族であった。
 アルは考えながら答える。
「ん~。二通りいるんじゃないの?」
 アレクがアルに尋ねる。
「二通り?」
 アルはしたり顔で説明する。
「そう。一つは、『バレンシュテット帝国との戦争に負けて併合されたけど、|鼠人《スケーブン》が駆逐され、|黒死病《ペスト》が無くなって良かった』と思っている人たち」
「もう一つは?」
「『自分達がバレンシュテット帝国に負けた訳じゃない。帝国による併合は認めない』って人たちさ。そいつらが解放戦線になっているんだろ」
「なるほど……」
 アレクとアルが話し合っていると、ルイーゼとナタリーが二人の元にやって来る。
 ルイーゼは尋ねる。
「二人で何を話しているの?」
 アレクとアルは、ルイーゼとナタリーに二人で話していた事を話す。
 ルイーゼも自分の考えを口にする。
「ヒマジン伯爵による飛行艦隊で首都を直接狙った電撃戦で、あっという間に首都が占領されてトラキア政府は降伏。多くのトラキアの人たちには、バレンシュテット帝国と戦って負けた実感が無いんじゃない?」
 アレクはルイーゼの説明に感心する。
「戦火が少なかったため、逆にトラキアの人たちには『戦争で負けた実感が無い』ってことか……」
 ルイーゼは続ける。
「フェリシアさんがトラキア政府の降伏を宣言したんで政府軍のほとんどは投降して、戦争の犠牲は少なく済んだのにね」
 ナタリーが悲しげに口を開く。
「|鼠人《スケーブン》を退治したら、今度は人間同士が争うなんて……」
 四人で話していると、トゥルム、ドミトリー、エルザ、ナディアの四人も格納庫にやって来る。
 アレクは格納庫に来た四人にも、ルイーゼやアル達と話していた事を話す。
 トゥルムは口を開く。
「……難しいな。トラキアの人たちは、誇り高い騎馬民族の末裔だと聞く。『戦争で負けた実感が無い』のに、トラキアの人たちが、このまま大人しく引き下がるとは思えんしな」
 ドミトリーも口を開く。
「……現状、万に一つも、トラキアがバレンシュテット帝国に勝つような見込みは無い。爆弾テロごときで百万の軍勢を擁する帝国が、皇帝陛下が引き下がる訳が無い。……憎しみの連鎖が続き、血を流す事態が続くだろう」
 エルザは疑問を口にする。
「帝国に併合されたことで、|鼠人《スケーブン》が駆逐されて|黒死病《ペスト》が無くなり、水も食べ物も帝国から豊富に供給されるようになったのに。……トラキアの人たちって、何が不満なんだろう?」
 ナディアは答える。
「『騎馬民族の誇り』ってやつね。元々、トラキアは大帝が建国した強大なバレンシュテット帝国に対抗するために小さな騎馬民族の都市国家が集まって出来た連邦制国家だから。『帝国に対抗するために建国したのに、降伏、併合なんて納得できない』って人たちが一定数出るのは、仕方が無いのかも」
 アレクは疑問を口にする。
「……オレたちのやっている事は、正しい事なのか? 帝国が武力でトラキアの人たちをねじ伏せる事が、正しい事なのか?」
 トゥルムは答える。
「帝国も皇帝陛下も正しい。|鼠人《スケーブン》から自国民を守ることは、統治者である皇帝陛下の責任であり、絶対の正義だ。それによって帝国とトラキアが戦争してもだ。……それに、如何なる理由があろうとも、非戦闘員を狙ったテロを容認してはならない。テロリストは犯罪者であり、テロは絶対の悪だ」
 トゥルムの説明にアレクたち全員が頷く。
 やがて、出撃の時間になる。
 アレクたちは、もう一度、地図で自分達が担当する地域を確認すると、自分達が乗るガンシップに乗り込む。
 小隊全員が飛空艇に乗り込んだ事を確認したアレクは、整備員に告げる。
「ユニコーン小隊、出撃します!」
「了解!」
 整備員は、同僚と共にアレクたちが乗る四機の飛空艇をエレベーターに押して乗せると、同僚の整備員に向かって叫ぶ。
「ユニコーンが出る! エレベーターを上げろ!」
 整備員が動力を切り替えると、飛行甲板に向けてアレクたちが搭乗する四機の飛空艇は、エレベーターで上昇していく。
 程なく、アレクたちが搭乗する四機の飛空艇は、飛行甲板に出る。 
 上空の冷たい風がアレクの顔を撫でる。
 ヒンヤリとした空気の感触にアレクの表情が引き締まる。
 アレクは、伝声管でルイーゼに告げる。
「行くよ。ルイーゼ。いつも通りやれば大丈夫」
「うん」
「|発動機始動《モータリングスタート》!」
 アレクは、掛け声と共に|魔導発動機《エンジン》の起動ボタンを押す。
 |魔導発動機《エンジン》の音が響く。
 ルイーゼが続く。
「|飛行前点検《プリフライトチェック》、|開始《スタート》!」
 ルイーゼは掛け声の後、スイッチを操作して機能を確認する。
「|発動機《エンジン》、|航法計器《エアーデータ》、|浮遊水晶《クリスタル》、|降着装置《ギア》、|昇降舵《フラップ》、|全て異常無し《オールグリーン》!」
 ルイーゼからの報告を受け、アレクは|浮遊《フローティング》|水晶《クリスタル》に魔力を加えるバルブを開く。
「ユニコーン・リーダー、|離陸《テイクオフ》!」
 アレクの声の後、大きな|団扇《うちわ》を扇いだような音と共に機体が浮かび上がる。
「|発進《ゴー》!」
 アレクは、クラッチをゆっくりと繋ぎ、スロットルを開ける。
 プロペラの回転数が上がり、風切り音が大きくなると、アレクとルイーゼの乗る機体ユニコーン・リーダーは、加速しながら飛行甲板の上を進む。
 やがて飛行甲板の終わりまでくると、二人の乗るユニコーン・リーダーは大空へと舞い上がった。
 二人の乗るユニコーン・リーダーは飛行空母ユニコーン・ゼロの上を旋回して、小隊の仲間が離陸してくるのを待つ。
 直ぐにアルとナタリーが乗るユニコーン二号機が飛行空母を発進し、上昇してくる。
 続いて、ドミトリーとナディアが乗るユニコーン三号機とエルザとトゥルムが乗るユニコーン四号機が飛行空母から発進して上昇してくる。
 四機全てが揃ったユニコーン小隊は編隊を組む。
 やがて、ユニコーン小隊は、自分たちが襲撃を担当する施設を目指して大空を飛んで行った。