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第百八話 不死王と真祖吸血鬼の誘惑

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 エリシスは、帝国軍高級将校用の軍服に着替えて、鼻歌を交じえた上機嫌で三面鏡を眺め、自分の身嗜みを確認していた。

 傍らには、同じく帝国軍の高級将校用の軍服を着たリリーが控えている。

 リリーは確かめるように掛けている伊達メガネの縁に指で触れ、エリシスに話し掛ける。

「エリシス。随分と御機嫌ですね」

 エリシスは、上機嫌で答える。

「……当り前じゃない。陛下から『殺人許可』が下りたのよ。……堂々と殺せる。……ふふふ。楽しみだわ」

 バレンシュテット帝国軍の軍服は真っ黒なブレザータイプであり、エリシスとリリーは高級将校用のものを着ていた。

 通常は、白いシャツにネクタイを着用するのだが、エリシスとリリーは、胸元を大きく開いて胸の谷間が見える開襟シャツにしている。

 スボンは、騎兵が着用するような太腿の位置が幅広い形状になっており、軍靴は膝まであるものであった。

 二人は最後に白い手袋を着用する。



 リリーが『伊達メガネ』を掛けて愛用するようになった事には、経緯があった。

 以前、ラインハルト、ハリッシュ、エリシス、リリーの四人が皇宮で顔を合わせた時に、エリシスが悪戯してハリッシュの眼鏡を奪い、嫌がるリリーに無理矢理、掛けさせたところ、『皆の予想以上に似合っていた』。

 真祖(トゥルー・)吸血鬼(ヴァンパイア)のリリーは、不死者(アンデッド)であるため、老眼や近視などには無縁であった。

 リリーは、元々、理知的な顔立ちであり、プラチナブロンドの美しい髪を結い上げる髪型を好んでいた。

 眼鏡を掛け髪を結い上げたリリーの容姿は、さながら大企業の役員秘書、或いはキャリアウーマン、理系女子(リケジョ)といった容姿であった。

 ラインハルトは、眼鏡を掛けたリリーの姿を見て、リリーの容姿を褒める。 

「リリー。眼鏡が良く似合っているぞ。元々美人だが、美人が一層、良く映える」

 リリーは、照れながら答える。

「さ、左様ですか? 陛下がそうおっしゃられるなら……」

 皇帝であるラインハルトに眼鏡姿を褒められたことで、リリー本人もすっかりその気になってしまい、帝都の店で自分用の『伊達メガネ』を作らせて愛用していたのだった。



 エリシスとリリーの二人は、帝都の大通りに面した安酒場に入る。

 安酒場の入り口から入ってきた、帝国軍の、それも高級将校用の軍服を着た二人は、安酒場には明らかに場違いであり、店の中にいる者達の視線と関心を集める。

 二人は、店の中で一番目立つ店主前のカウンター席に並んで座る。

 帝国軍の将校は、飲み屋で金払いが良いと知られているため、店主が愛想笑いを浮かべながら二人の前にやって来て話し掛ける。

「いらっしゃ……ィイイイイ!」

 エリシスの顔を見るや否や、店主の顔が恐怖に引きつり、顔面蒼白になる。

 十七年前、この店で会合を開いた帝国四魔将にチンピラ達が絡み、そのチンピラ達はこの店の裏手の路地でエリシスとリリーによって全員が麻痺させられ、そのうちの一人は半殺しにされていた。

 店主は、その事を覚えていた。

 エリシスは、怯える店主に微笑み、優しく話し掛ける。

「……そんなに怖がらなくて良いわよ。……お酒、注文しても良い?」

「へ、へい」

 エリシスが店主にお酒を注文する。

「私は、蒸留酒の一番強いのを、ボトルで」

 リリーも店主にお酒を注文する。

「私も同じものを」

「……判りました」

 店主は、バーカウンターからエリシスとリリーが注文したお酒のボトルとグラスを持ってくると、震える手で二人のグラスにお酒を注ぐ。

 店にいる他の客たちは、店で一番目立つ席に座るエリシスとリリーの二人の美女が、強烈に強い酒を注文し、酒が注がれたグラスを手にしていることに注目する。

 店中の注目を集める中で、二人はグラスに注がれた強烈に強い酒を、一気に飲み干して見せる。

 エリシスも、リリーも、不死者(アンデッド)であり、毒に対する完全耐性(無効化)があるため、この二人がどれだけ強い酒をたくさん飲もうが、酔うことは無い。

 この酒場にいる男達の興味や関心を引くための、二人の演技であった。



 二人の酒を飲む姿を見た男が、愛想笑いを浮かべながらエリシスの傍らに来て話し掛けてくる。 

「いや~、お姉さんたち。良い飲みっぷりだね。その制服は、帝国軍の士官かい? ……何か職場で嫌な事でもあったのかい?」

 エリシスは、白い手袋を嵌めたままグラスを右手に持ち、左手を男の胸に置くと、男の顔に自分の顔を近づけて囁く。

「……私達、フナムシ一家の人とお近づきになりたいの。……貴方、誰か知ってる?」

 男は、右手の親指で自分を指し示しながらエリシスに自慢げに語る。

「目の前にいるオレさ! オレはフナムシ一家の構成員(メンバー)だ!」

 男の言葉を聞いたエリシスは、男に微笑み掛ける。

「……それじゃ、私達と『イイこと』しましょ。この店の裏でも良いかしら?」

「ああ、良いとも!」

 エリシスが店主に告げる。

「お勘定。置いとくわね」

 エリシスは、銀貨二枚をカウンターのテーブルの上に置く。

 男は、エリシスとリリーの二人を連れて、店の裏手の路地へ歩いて行った。



 エリシスは、男を路地裏の壁際に立たせると、男の頬に両手で触れ、呟く。

「ふふふ。私は、フナムシ一家の男に興味があるのよ」

 男は、下卑た笑みを受かべながら答える。

「へへ。そうかい?」

 エリシスは、キスする素振りを見せながら、男に顔を近づける。

 男は、酔ったエリシスが自分にキスしてくるものだと思い込んでいた。

 エリシスの唇が男の唇の間近くまで近づいた瞬間、エリシスはカッと大きく口を開ける。

 驚いた男の顔が恐怖に歪む。

 身動きできない男の口の中から、白くぼやけた半透明のクラゲのような形をした気体のような塊がせり上がって来る。

 エリシスは、男の口から出て来たその塊を口で咥えると、そのまま男の顔から自分の顔を離していく。

 エリシスが男の口からその塊を引っ張り出していく度に、男の身体はビクンビクンと大きく痙攣する。

 エリシスが、その塊を男の身体から完全に引き抜くと、恐怖に凍り付いた表情を顔に浮かべたまま、男は絶命した。



吸魂(ディメンダー)接吻(キス)

 不死王(リッチー)技能(スキル)であり、エリシスは生きている男の身体から、その魂を引き抜いたのであった。



 エリシスが咥えていた男の魂を口から離すと、それは空に霧散していった。
 
 エリシスは微笑みを浮かべ、恐怖に凍り付いた表情を浮かべたまま絶命した男の顔を撫でながら、男の死体に語り掛ける。

「今の貴方の、その顔、その表情。……すごく良いわ」

 リリーがエリシスの傍らにやって来て、呆れたように話し掛ける。

「……エリシス。その男を殺してしまったようですが、死体からどうやってフナムシ一家の根城を聞き出すのですか?」

 エリシスは、ハッとしてリリーの方を振り返る。

「……リリー。そういう事は、早く言わなくてはダメよ」



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 エリシスは、帝国軍高級将校用の軍服に着替えて、鼻歌を交じえた上機嫌で三面鏡を眺め、自分の身嗜みを確認していた。
 傍らには、同じく帝国軍の高級将校用の軍服を着たリリーが控えている。
 リリーは確かめるように掛けている伊達メガネの縁に指で触れ、エリシスに話し掛ける。
「エリシス。随分と御機嫌ですね」
 エリシスは、上機嫌で答える。
「……当り前じゃない。陛下から『殺人許可』が下りたのよ。……堂々と殺せる。……ふふふ。楽しみだわ」
 バレンシュテット帝国軍の軍服は真っ黒なブレザータイプであり、エリシスとリリーは高級将校用のものを着ていた。
 通常は、白いシャツにネクタイを着用するのだが、エリシスとリリーは、胸元を大きく開いて胸の谷間が見える開襟シャツにしている。
 スボンは、騎兵が着用するような太腿の位置が幅広い形状になっており、軍靴は膝まであるものであった。
 二人は最後に白い手袋を着用する。
 リリーが『伊達メガネ』を掛けて愛用するようになった事には、経緯があった。
 以前、ラインハルト、ハリッシュ、エリシス、リリーの四人が皇宮で顔を合わせた時に、エリシスが悪戯してハリッシュの眼鏡を奪い、嫌がるリリーに無理矢理、掛けさせたところ、『皆の予想以上に似合っていた』。
 |真祖《トゥルー・》|吸血鬼《ヴァンパイア》のリリーは、|不死者《アンデッド》であるため、老眼や近視などには無縁であった。
 リリーは、元々、理知的な顔立ちであり、プラチナブロンドの美しい髪を結い上げる髪型を好んでいた。
 眼鏡を掛け髪を結い上げたリリーの容姿は、さながら大企業の役員秘書、或いはキャリアウーマン、|理系女子《リケジョ》といった容姿であった。
 ラインハルトは、眼鏡を掛けたリリーの姿を見て、リリーの容姿を褒める。 
「リリー。眼鏡が良く似合っているぞ。元々美人だが、美人が一層、良く映える」
 リリーは、照れながら答える。
「さ、左様ですか? 陛下がそうおっしゃられるなら……」
 皇帝であるラインハルトに眼鏡姿を褒められたことで、リリー本人もすっかりその気になってしまい、帝都の店で自分用の『伊達メガネ』を作らせて愛用していたのだった。
 エリシスとリリーの二人は、帝都の大通りに面した安酒場に入る。
 安酒場の入り口から入ってきた、帝国軍の、それも高級将校用の軍服を着た二人は、安酒場には明らかに場違いであり、店の中にいる者達の視線と関心を集める。
 二人は、店の中で一番目立つ店主前のカウンター席に並んで座る。
 帝国軍の将校は、飲み屋で金払いが良いと知られているため、店主が愛想笑いを浮かべながら二人の前にやって来て話し掛ける。
「いらっしゃ……ィイイイイ!」
 エリシスの顔を見るや否や、店主の顔が恐怖に引きつり、顔面蒼白になる。
 十七年前、この店で会合を開いた帝国四魔将にチンピラ達が絡み、そのチンピラ達はこの店の裏手の路地でエリシスとリリーによって全員が麻痺させられ、そのうちの一人は半殺しにされていた。
 店主は、その事を覚えていた。
 エリシスは、怯える店主に微笑み、優しく話し掛ける。
「……そんなに怖がらなくて良いわよ。……お酒、注文しても良い?」
「へ、へい」
 エリシスが店主にお酒を注文する。
「私は、蒸留酒の一番強いのを、ボトルで」
 リリーも店主にお酒を注文する。
「私も同じものを」
「……判りました」
 店主は、バーカウンターからエリシスとリリーが注文したお酒のボトルとグラスを持ってくると、震える手で二人のグラスにお酒を注ぐ。
 店にいる他の客たちは、店で一番目立つ席に座るエリシスとリリーの二人の美女が、強烈に強い酒を注文し、酒が注がれたグラスを手にしていることに注目する。
 店中の注目を集める中で、二人はグラスに注がれた強烈に強い酒を、一気に飲み干して見せる。
 エリシスも、リリーも、|不死者《アンデッド》であり、毒に対する完全耐性(無効化)があるため、この二人がどれだけ強い酒をたくさん飲もうが、酔うことは無い。
 この酒場にいる男達の興味や関心を引くための、二人の演技であった。
 二人の酒を飲む姿を見た男が、愛想笑いを浮かべながらエリシスの傍らに来て話し掛けてくる。 
「いや~、お姉さんたち。良い飲みっぷりだね。その制服は、帝国軍の士官かい? ……何か職場で嫌な事でもあったのかい?」
 エリシスは、白い手袋を嵌めたままグラスを右手に持ち、左手を男の胸に置くと、男の顔に自分の顔を近づけて囁く。
「……私達、フナムシ一家の人とお近づきになりたいの。……貴方、誰か知ってる?」
 男は、右手の親指で自分を指し示しながらエリシスに自慢げに語る。
「目の前にいるオレさ! オレはフナムシ一家の|構成員《メンバー》だ!」
 男の言葉を聞いたエリシスは、男に微笑み掛ける。
「……それじゃ、私達と『イイこと』しましょ。この店の裏でも良いかしら?」
「ああ、良いとも!」
 エリシスが店主に告げる。
「お勘定。置いとくわね」
 エリシスは、銀貨二枚をカウンターのテーブルの上に置く。
 男は、エリシスとリリーの二人を連れて、店の裏手の路地へ歩いて行った。
 エリシスは、男を路地裏の壁際に立たせると、男の頬に両手で触れ、呟く。
「ふふふ。私は、フナムシ一家の男に興味があるのよ」
 男は、下卑た笑みを受かべながら答える。
「へへ。そうかい?」
 エリシスは、キスする素振りを見せながら、男に顔を近づける。
 男は、酔ったエリシスが自分にキスしてくるものだと思い込んでいた。
 エリシスの唇が男の唇の間近くまで近づいた瞬間、エリシスはカッと大きく口を開ける。
 驚いた男の顔が恐怖に歪む。
 身動きできない男の口の中から、白くぼやけた半透明のクラゲのような形をした気体のような塊がせり上がって来る。
 エリシスは、男の口から出て来たその塊を口で咥えると、そのまま男の顔から自分の顔を離していく。
 エリシスが男の口からその塊を引っ張り出していく度に、男の身体はビクンビクンと大きく痙攣する。
 エリシスが、その塊を男の身体から完全に引き抜くと、恐怖に凍り付いた表情を顔に浮かべたまま、男は絶命した。
<|吸魂《ディメンダー》|接吻《キス》>
 |不死王《リッチー》の|技能《スキル》であり、エリシスは生きている男の身体から、その魂を引き抜いたのであった。
 エリシスが咥えていた男の魂を口から離すと、それは空に霧散していった。
 エリシスは微笑みを浮かべ、恐怖に凍り付いた表情を浮かべたまま絶命した男の顔を撫でながら、男の死体に語り掛ける。
「今の貴方の、その顔、その表情。……すごく良いわ」
 リリーがエリシスの傍らにやって来て、呆れたように話し掛ける。
「……エリシス。その男を殺してしまったようですが、死体からどうやってフナムシ一家の根城を聞き出すのですか?」
 エリシスは、ハッとしてリリーの方を振り返る。
「……リリー。そういう事は、早く言わなくてはダメよ」