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新しい家族、新しい家

ー/ー



 秋も深まり街路樹の紅葉が鮮やかになった頃、沙希が学校に登校してくるようになった。
 朝遅れて登校し、空き教室で一人で勉強して、早めに下校していた。
 自分を振った智也と、彼が撮ったハメ撮り動画を観ていた真斗がいるクラスには戻りたくないのだろう。
 自ら壊してしまった沙希との関係は取り戻せないものだと真斗は思う。
 あの日沙希に衝動的に叫んだ言葉で、ハメ撮り動画を観たことを悟られてしまった。
 だが、それ以前に沙希に対して思いやりがあったのなら、そもそも智也が送ってきた動画を捨てて、オナニーなどすべきではなかった。
 智也にハメられて歓喜に喘いでいる沙希の性欲を責めることなど、そもそもサルのように毎日シコっていた真斗にはできないのだ。
 

 「真斗に紹介したい人がいるんだ……」
 志望校への学校推薦が決まった夜、二人だけの食卓で父の義之が言った。
 真斗が三歳の時に母が亡くなって以来、義之には女性の影がなかった。
 もう十五年になる。真斗が大学進学するタイミングを待っていたのだろう。
 少し照れた表情の父に、あえて真斗は詮索することはしなかった。
「今度の土曜日、レストランを予約してるんだけど……」
「父さん、先週外食したばっかりだよ」
「いいんだ。特別な日だから」
 義之は、幼い真斗を育てるため、会社を辞めた。
 父には、祖父から継いだ実家の土地と、賃貸物件があった。
 家賃収入があったが、親子ふたりがなんとか暮らしていけるかどうかという金額だった。 
 その頃から、質素な生活を続け、外食は余裕がある時だけと決めていた。
 父は、実家の土地を売り、新たな賃貸物件を買った。
 収支を厳密に計算し、着実に物件を増やしていく。
 今や、その数は二十件を超え、不動産投資家としてかなりな資産と不労収入を得ている。
 だが、父は贅沢には走らず、生活費は月二十五万と決めて、その範囲内での生活を十五年間続けていた。
 幼い頃から、当たり前のように堅実な生活をしてきた真斗には、同級生のように好きなゲームやおもちゃを買ってもらえないことが少し寂しかったが、それを羨むことはせず、育っていた。

「はじめまして。新川仁美と申します」
 父に紹介されて、セミロングのふんわりとカールした毛先を揺らして微笑んだ仁美に、真斗は息を呑んだ。
 シンプルなベージュのワンピース包まれた身体は、成熟した女性の曲線を描き、はち切れんばかりに胸元を押し上げている豊乳が目を惹く。
 いつも前は通るが一度も来たことのない、この街で一番高級なフレンチレストランの重厚なエントランスに足を踏み入れる。
 入口で、仁美は羽織っていたカーディガンを脱いで店員に預けた。
 ノースリーブの肩からすらりとした腕が伸びている。
 そのシルクのようにきめ細かい肌色の艶めかしさに、真斗の胸が疼いた。
「真斗さんって、本当にお父様にそっくりなのね……」
 優しい目元を細めた仁美に見つめられた真斗は、ドギマギして視線をそらしてしまう。
 初めてのコース料理や、シャンデリアが眩い店の雰囲気が、真斗を落ち着かなくさせていた。
 なにより、父の隣に座る仁美を強く意識してしまった真斗は、あまりジロジロ見ると失礼だと思いながらも、盗み見るように視線を向けてしまうのだった。 
 
「真斗。父さん、仁美さんと再婚したいと思ってるんだ……真斗は、どう思う?」
 義之がようやく本題に入ってきた。
「どう思うも何も、父さんの人生なんだ。父さんの好きにすればいいよ……」
 むしろ仁美と家族になれることに期待してしまっている真斗は、心のなかでは大賛成だった。
 そんな内心を気取られないよう意識しすぎて、返答がぶっきらぼうになってしまった。
「ありがとう、真斗」
 父は微笑みながら、真斗を見た。
「ありがとう、真斗さん」
 仁美の視線を受け、真斗は眼を伏せてしまう。

 父と談笑している仁美が横を向いている隙に、真斗は仁美の胸を盗み見る。
 もともと仁美が着ているワンピースは、ふんわりとしたシルエットだが、横にも張り出すような豊乳が、生地を広げてかえって胸の大きさを強調してしまっている。
 ふと、智也に突かれて揺れていた沙希の巨乳を思い浮かべた。
 真斗は、こんな時にも沙希のハメられている姿を再生してしまう自分の醜さを呪った。
 だが、仁美の成熟した肉体は、真斗の胸の奥を抉ってくる。
 亡くなった母と同じくらいの年齢の女性に欲情してしまっている自分の性欲を、真斗は心の奥で嗤った。
(何を考えてるんだ、俺は……父さんの再婚相手なのに……)
 
「それで、真斗。新しい家に引っ越して、家族五人で暮らそうと思うんだ……丁度、いい物件が見つかってね……」
「五人……?」
 真斗は訝しんだ。
「真斗さん。実は、私には娘が二人いるの……」
「えっ……?」
「真斗さんと同い年の亜希と、二つ下の穂香って言うの。仲良くしてくれたら嬉しいわ」
 いきなり姉妹ができることになるのだが、父と二人で女っ気のない暮らしを続けてきたので、真斗には女性との生活が上手く想像できなかった。


 新興住宅地を抜けた丘の上に、真斗たちの新しい家がある。
 もともと建っていた豪邸を父の義之が買い取り、仁美と相談して大規模に改装していた。
 周りを竹林に囲まれた純和風の豪邸だったが、和をベースにしたモダンなデザインで統一している。
 真斗は、玄関からして以前住んでいた古い家のリビングより広いことに戸惑う。
 二階に昇る階段を、真斗は大きめのダンボールを抱えて慎重に足を運んでいた。
 卒業式が終わり、すぐに引っ越した。
 結局あの夜以来、真斗は沙希と言葉を交すことなく、三歳から住んでいた古い家を後にした。
 沙希との後味の悪い別れが真斗の胸に感傷を起こす。だが、新しい家族と新しい家に対する期待が感傷を上書きしていた。
 
「真斗。その荷物、大事なものが入ってるから、落とさないでね」
 新しく義姉となった亜希が、階段を先に昇りながら声をかけてくる。
 ホットパンツに包まれた形のいい小尻を真斗は見上げる。
 亜希は切れ長の眼がクールな、スレンダーな美人だった。
「お姉ちゃん、たったひと月早く生まれたからって、何偉そうにしてるの?」
 義妹となった穂香が階段の下から亜希を非難する。
 穂香は小柄で、仁美に似た優しい眼をしている。少しぽっちゃりているのが愛らしい。
「お兄ちゃん、私手伝うよ!」
 穂香が階段を跳ねるように昇ってくる。
 お兄ちゃん、と呼ばれると何だかこそばゆい。
 にひっ、と笑う穂香の八重歯が可愛い。
「穂香ちゃん、俺は大丈夫だから」
 真斗に手を貸そうとする穂香に声をかける。

 荷物の搬入は夕方には終わった。
 部屋に積まれた段ボール箱の整理はこれからだ。
 引っ越し前に、義之と仁美が新しい家具や食器などを購入していたので、キッチンやリビングはすでに整理されている。
 義之と仁美、真斗と、新しい姉妹の亜希と穂香。
 初めて五人が揃った。
「これから夕食、作るわね」
 仁美が言う。
「今日は疲れてるだろ? 寿司でも頼むよ」
 義之が心配そう仁美に声をかける。
「いえ、せっかく新しい家族が揃った初めての夕食なんですもの。私、皆のために作りたいの」
 優しく微笑む仁美。
「ママ、私手伝う!」
 穂香が広いオープンキッチンに入った。
「うわー凄いっ! 何でもそろってるんだね!」
 穂香が引き出しや戸棚を覗きながらはしゃいでいる。
 亜希はリビングのソファに座ってスマホを見ている。あまり料理には関心がないのだろうか。
 急に視線をあげた亜希と眼が合った。
「何?」
「いや、何でもない……です、亜希さん……」
 家族になったとはいえ、つい最近まで知らない他人だった。
 母となった仁美、姉になった亜希。真斗は二人とも「さん」づけで呼んでいる。
 キッチンの方から明るい穂香の声がした。
 穂香は、真斗のことを早速お兄ちゃん、と呼んでくれた。
 父の義之にもパパと言って懐いている。

 義之に紹介されて、初めて会ったときから真斗は仁美に惹かれるものを感じていた。
 幼い頃に母を亡くし、母親の愛情というものに飢えていたのかもしれない。
 だが、真斗は仁美に母性に対する憧れ以上のものを感じていることを自覚していた。
 いや、そんな綺麗な感情ではなく、仁美に感じているのはその肉体を思うままに貪りたいという淫欲だと言えた。
 幼馴染の沙希が智也とセックスをし、その動画を観たことで、真斗の心の奥に情欲が滾っていたのだ。
 だが父が愛した女性だ。自分の淫欲は封印するしかない。
 大学に行けば、新しい出会いがあるかもしれない。
 幼馴染の沙希とは真斗の失言で関係を壊してしまった。
 引っ越して物理的にも距離を置き、進学して新しい環境に身を置くことで、自分の醜さと愚かさを忘れたかった。

 新しい桐谷家の五人は、食卓を囲んでいた。
「仁美さん、美味しいです」 
 真斗は仁美の作った手料理に感極まって呟いていた。
「ありがとう、真斗さん」 
「お兄ちゃん、ママの作る料理は、全部最高なんだから!」
 穂香は得意気な表情だ。
 最初はぎこちない雰囲気だったが、パパやお兄ちゃんと呼んで距離を詰めて来る穂香のお陰で、食卓は和やかになる。
「義之さん……ありがとうございます」
 突然仁美が隣に座る義之に向かいあって頭を下げる。
「仁美さん、何をあらたまって……」
 父は戸惑った表情を見せた。
「私だけでなくて、娘たちの学費も援助してくれて……」
 仁美が小刻みに肩を震わせ、眼には涙が湧いてきた。
「家族なんだから、当然じゃないか」
 義之が嬉し涙を流す仁美の肩に手を置く。
「義之さん、私からもお礼を言わせてください」
 母親の涙を見て、亜希が神妙な顔で言った。
「大学行くのは、諦めてたんですけど、義之さんのお陰で……」
「亜希さんも……自分の娘なんだから、学費を出すのは当然だよ」
 真斗は胸が熱くなるのを感じる。
 父の義之から聞いた話をつなぎ合わせると、どうやら仁美は前夫との関係で苦労していたらしい。
 家庭にお金を入れないとか、暴力を振るわれた、といった所だろうか。詳しくは聞いてないので真斗の推測でしかないのだが。
「ママもお姉ちゃんも、どうしちゃったの? パパが言うように、私たち家族なんだから……さ、食べよ!」
 穂香はもらい涙を浮かべながらも、明るい声で食卓の雰囲気を変えた。  
 


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 秋も深まり街路樹の紅葉が鮮やかになった頃、沙希が学校に登校してくるようになった。
 朝遅れて登校し、空き教室で一人で勉強して、早めに下校していた。
 自分を振った智也と、彼が撮ったハメ撮り動画を観ていた真斗がいるクラスには戻りたくないのだろう。
 自ら壊してしまった沙希との関係は取り戻せないものだと真斗は思う。
 あの日沙希に衝動的に叫んだ言葉で、ハメ撮り動画を観たことを悟られてしまった。
 だが、それ以前に沙希に対して思いやりがあったのなら、そもそも智也が送ってきた動画を捨てて、オナニーなどすべきではなかった。
 智也にハメられて歓喜に喘いでいる沙希の性欲を責めることなど、そもそもサルのように毎日シコっていた真斗にはできないのだ。
 「真斗に紹介したい人がいるんだ……」
 志望校への学校推薦が決まった夜、二人だけの食卓で父の義之が言った。
 真斗が三歳の時に母が亡くなって以来、義之には女性の影がなかった。
 もう十五年になる。真斗が大学進学するタイミングを待っていたのだろう。
 少し照れた表情の父に、あえて真斗は詮索することはしなかった。
「今度の土曜日、レストランを予約してるんだけど……」
「父さん、先週外食したばっかりだよ」
「いいんだ。特別な日だから」
 義之は、幼い真斗を育てるため、会社を辞めた。
 父には、祖父から継いだ実家の土地と、賃貸物件があった。
 家賃収入があったが、親子ふたりがなんとか暮らしていけるかどうかという金額だった。 
 その頃から、質素な生活を続け、外食は余裕がある時だけと決めていた。
 父は、実家の土地を売り、新たな賃貸物件を買った。
 収支を厳密に計算し、着実に物件を増やしていく。
 今や、その数は二十件を超え、不動産投資家としてかなりな資産と不労収入を得ている。
 だが、父は贅沢には走らず、生活費は月二十五万と決めて、その範囲内での生活を十五年間続けていた。
 幼い頃から、当たり前のように堅実な生活をしてきた真斗には、同級生のように好きなゲームやおもちゃを買ってもらえないことが少し寂しかったが、それを羨むことはせず、育っていた。
「はじめまして。新川仁美と申します」
 父に紹介されて、セミロングのふんわりとカールした毛先を揺らして微笑んだ仁美に、真斗は息を呑んだ。
 シンプルなベージュのワンピース包まれた身体は、成熟した女性の曲線を描き、はち切れんばかりに胸元を押し上げている豊乳が目を惹く。
 いつも前は通るが一度も来たことのない、この街で一番高級なフレンチレストランの重厚なエントランスに足を踏み入れる。
 入口で、仁美は羽織っていたカーディガンを脱いで店員に預けた。
 ノースリーブの肩からすらりとした腕が伸びている。
 そのシルクのようにきめ細かい肌色の艶めかしさに、真斗の胸が疼いた。
「真斗さんって、本当にお父様にそっくりなのね……」
 優しい目元を細めた仁美に見つめられた真斗は、ドギマギして視線をそらしてしまう。
 初めてのコース料理や、シャンデリアが眩い店の雰囲気が、真斗を落ち着かなくさせていた。
 なにより、父の隣に座る仁美を強く意識してしまった真斗は、あまりジロジロ見ると失礼だと思いながらも、盗み見るように視線を向けてしまうのだった。 
「真斗。父さん、仁美さんと再婚したいと思ってるんだ……真斗は、どう思う?」
 義之がようやく本題に入ってきた。
「どう思うも何も、父さんの人生なんだ。父さんの好きにすればいいよ……」
 むしろ仁美と家族になれることに期待してしまっている真斗は、心のなかでは大賛成だった。
 そんな内心を気取られないよう意識しすぎて、返答がぶっきらぼうになってしまった。
「ありがとう、真斗」
 父は微笑みながら、真斗を見た。
「ありがとう、真斗さん」
 仁美の視線を受け、真斗は眼を伏せてしまう。
 父と談笑している仁美が横を向いている隙に、真斗は仁美の胸を盗み見る。
 もともと仁美が着ているワンピースは、ふんわりとしたシルエットだが、横にも張り出すような豊乳が、生地を広げてかえって胸の大きさを強調してしまっている。
 ふと、智也に突かれて揺れていた沙希の巨乳を思い浮かべた。
 真斗は、こんな時にも沙希のハメられている姿を再生してしまう自分の醜さを呪った。
 だが、仁美の成熟した肉体は、真斗の胸の奥を抉ってくる。
 亡くなった母と同じくらいの年齢の女性に欲情してしまっている自分の性欲を、真斗は心の奥で嗤った。
(何を考えてるんだ、俺は……父さんの再婚相手なのに……)
「それで、真斗。新しい家に引っ越して、家族五人で暮らそうと思うんだ……丁度、いい物件が見つかってね……」
「五人……?」
 真斗は訝しんだ。
「真斗さん。実は、私には娘が二人いるの……」
「えっ……?」
「真斗さんと同い年の亜希と、二つ下の穂香って言うの。仲良くしてくれたら嬉しいわ」
 いきなり姉妹ができることになるのだが、父と二人で女っ気のない暮らしを続けてきたので、真斗には女性との生活が上手く想像できなかった。
 新興住宅地を抜けた丘の上に、真斗たちの新しい家がある。
 もともと建っていた豪邸を父の義之が買い取り、仁美と相談して大規模に改装していた。
 周りを竹林に囲まれた純和風の豪邸だったが、和をベースにしたモダンなデザインで統一している。
 真斗は、玄関からして以前住んでいた古い家のリビングより広いことに戸惑う。
 二階に昇る階段を、真斗は大きめのダンボールを抱えて慎重に足を運んでいた。
 卒業式が終わり、すぐに引っ越した。
 結局あの夜以来、真斗は沙希と言葉を交すことなく、三歳から住んでいた古い家を後にした。
 沙希との後味の悪い別れが真斗の胸に感傷を起こす。だが、新しい家族と新しい家に対する期待が感傷を上書きしていた。
「真斗。その荷物、大事なものが入ってるから、落とさないでね」
 新しく義姉となった亜希が、階段を先に昇りながら声をかけてくる。
 ホットパンツに包まれた形のいい小尻を真斗は見上げる。
 亜希は切れ長の眼がクールな、スレンダーな美人だった。
「お姉ちゃん、たったひと月早く生まれたからって、何偉そうにしてるの?」
 義妹となった穂香が階段の下から亜希を非難する。
 穂香は小柄で、仁美に似た優しい眼をしている。少しぽっちゃりているのが愛らしい。
「お兄ちゃん、私手伝うよ!」
 穂香が階段を跳ねるように昇ってくる。
 お兄ちゃん、と呼ばれると何だかこそばゆい。
 にひっ、と笑う穂香の八重歯が可愛い。
「穂香ちゃん、俺は大丈夫だから」
 真斗に手を貸そうとする穂香に声をかける。
 荷物の搬入は夕方には終わった。
 部屋に積まれた段ボール箱の整理はこれからだ。
 引っ越し前に、義之と仁美が新しい家具や食器などを購入していたので、キッチンやリビングはすでに整理されている。
 義之と仁美、真斗と、新しい姉妹の亜希と穂香。
 初めて五人が揃った。
「これから夕食、作るわね」
 仁美が言う。
「今日は疲れてるだろ? 寿司でも頼むよ」
 義之が心配そう仁美に声をかける。
「いえ、せっかく新しい家族が揃った初めての夕食なんですもの。私、皆のために作りたいの」
 優しく微笑む仁美。
「ママ、私手伝う!」
 穂香が広いオープンキッチンに入った。
「うわー凄いっ! 何でもそろってるんだね!」
 穂香が引き出しや戸棚を覗きながらはしゃいでいる。
 亜希はリビングのソファに座ってスマホを見ている。あまり料理には関心がないのだろうか。
 急に視線をあげた亜希と眼が合った。
「何?」
「いや、何でもない……です、亜希さん……」
 家族になったとはいえ、つい最近まで知らない他人だった。
 母となった仁美、姉になった亜希。真斗は二人とも「さん」づけで呼んでいる。
 キッチンの方から明るい穂香の声がした。
 穂香は、真斗のことを早速お兄ちゃん、と呼んでくれた。
 父の義之にもパパと言って懐いている。
 義之に紹介されて、初めて会ったときから真斗は仁美に惹かれるものを感じていた。
 幼い頃に母を亡くし、母親の愛情というものに飢えていたのかもしれない。
 だが、真斗は仁美に母性に対する憧れ以上のものを感じていることを自覚していた。
 いや、そんな綺麗な感情ではなく、仁美に感じているのはその肉体を思うままに貪りたいという淫欲だと言えた。
 幼馴染の沙希が智也とセックスをし、その動画を観たことで、真斗の心の奥に情欲が滾っていたのだ。
 だが父が愛した女性だ。自分の淫欲は封印するしかない。
 大学に行けば、新しい出会いがあるかもしれない。
 幼馴染の沙希とは真斗の失言で関係を壊してしまった。
 引っ越して物理的にも距離を置き、進学して新しい環境に身を置くことで、自分の醜さと愚かさを忘れたかった。
 新しい桐谷家の五人は、食卓を囲んでいた。
「仁美さん、美味しいです」 
 真斗は仁美の作った手料理に感極まって呟いていた。
「ありがとう、真斗さん」 
「お兄ちゃん、ママの作る料理は、全部最高なんだから!」
 穂香は得意気な表情だ。
 最初はぎこちない雰囲気だったが、パパやお兄ちゃんと呼んで距離を詰めて来る穂香のお陰で、食卓は和やかになる。
「義之さん……ありがとうございます」
 突然仁美が隣に座る義之に向かいあって頭を下げる。
「仁美さん、何をあらたまって……」
 父は戸惑った表情を見せた。
「私だけでなくて、娘たちの学費も援助してくれて……」
 仁美が小刻みに肩を震わせ、眼には涙が湧いてきた。
「家族なんだから、当然じゃないか」
 義之が嬉し涙を流す仁美の肩に手を置く。
「義之さん、私からもお礼を言わせてください」
 母親の涙を見て、亜希が神妙な顔で言った。
「大学行くのは、諦めてたんですけど、義之さんのお陰で……」
「亜希さんも……自分の娘なんだから、学費を出すのは当然だよ」
 真斗は胸が熱くなるのを感じる。
 父の義之から聞いた話をつなぎ合わせると、どうやら仁美は前夫との関係で苦労していたらしい。
 家庭にお金を入れないとか、暴力を振るわれた、といった所だろうか。詳しくは聞いてないので真斗の推測でしかないのだが。
「ママもお姉ちゃんも、どうしちゃったの? パパが言うように、私たち家族なんだから……さ、食べよ!」
 穂香はもらい涙を浮かべながらも、明るい声で食卓の雰囲気を変えた。