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失意の中で……

ー/ー



 真斗は国立大学の推薦入学のために勉強に集中することにした。
 沙希とはクラスで会う時に挨拶するだけの間柄になった。
 お互いの家で食事をするようなことも無くなった。
 沙希の母も、真斗の父も、二人の関係性の変化に気づいただろうが、特に何も言っては来なかった。

 智也と付き合い始めた沙希は、もともと美人ではあったが、髪を染めスカートの丈も短くなった。
 思わず男子の欲情をそそるような、妙な色気が沙希から湧き立ってくるのを誰もが気づいていた。
 智也とのセックスが沙希の女を際立たせているのだ、と真斗は思う。
 夕食を取って、勉強に入る前に、真斗は智也が送ってきた沙希のハメ撮り動画で一発抜くのが習慣になった。
 いわゆる賢者タイムに入ることで、学習効率がアップするのだ。
 そして深夜の就寝前にも沙希の乱れた姿でオナニーをすることで、熟睡できる。
 今や幼馴染の沙希は、単なるオナネタに成り下がった。
 真斗は毎日沙希でオナニーをしている自分の醜さが、最低だと自覚している。
 だが、そうでもしないと正気を保つ自信がないのも事実だった。
 
 梅雨が明け、本格的な夏を迎えた頃、智也が新しい動画を送ってきた。
 結局真斗は智也をブロックすることなく、動画を見ていた。
『あんっ、あんっ、あんっ、はあんっ!』
 局部のアップから始まった動画は、途中でカメラが机か何かに置かれて、裸で絡まる二人の全体像になった。
 ベッドの上で背面座位で、濃いめの陰毛の中に智也の肉棒を抜き挿しされている沙希がそこにいた。
 背後から両手で巨乳を揉み上げられた沙希が肉体を反らして喘いでいる。
 くちゅっ、ぐちゅっ、と結合部から卑猥な水音が漏れていた。
『ああっ……イグっ……!』
 沙希は顔を隠すこともなくイキ顔を晒している。
 びくっ、びくっ、と痙攣する沙希を智也は容赦なく責めている。
『あはんっ……イケメンのっ、デカチンポっ……好きっ!』
 沙希の叫びに、真斗の胸が抉られた。
 やっぱり沙希はイケメンの方が好きなのだ。そして智也の肉棒は真斗より遥かに大きいのも事実だった。
 一度絶頂を迎えた沙希を真斗は繋がったままベッドに倒し、後背位に体勢を変えた。
 カメラの角度が変えられ、斜め後ろから沙希の円い尻に智也の赤黒い肉棒が抜き差しされている所がばっちり映っている。
『ああんっ……凄いっ! 智也のデカチンポでっ、もっとっ、突いてええっ!』
 沙希があられもない姿で叫びながら、髪を振り乱している。
 ぱん、ぱん、ぱん、と肉を打つ音が耳を突く。
 ミルクのように白い沙希の尻肉が波打っている。
 重みで下に垂れ下がった沙希の乳房が乱れるように揺れていた。
 あまりにも刺激的な動画で、真斗はその日の勉強が手に付かず、精液が枯れるまで硬直した陰茎を扱き続けた。
 

 夏休みに入り、真斗は夏期講習に通った。
 ある日の夜、講習の帰りに駅前のカラオケボックスの前で智也を見かけた。
 智也の腕に金髪の女性が凭れていた。制服が違う隣町の他校の生徒だ。
 沙希は一緒にいないのだろうか、と真斗は訝しむ。
 智也と付き合い始めて、沙希の成績は急降下していた。セックスに夢中で勉強が疎かになっているのだろう。
 だが、智也は常に学年上位をキープしていた。二人で一緒に勉強することはないのだろうか、と真斗は思う。
 学校中で皆とすぐに仲良くなる智也のことだから、他校の生徒と親しいのは不自然ではない。
 だが、智也にくっついている金髪の女性とは妙に馴れ馴れしい距離感を感じる。
 真斗は智也と鉢合わせしたくなかったので、道を変えてその場を離れた。
 

 夏休み明け、沙希が学校に来なくなった。
 真斗が見た他校の女子が関係しているのだろうか。
 智也は特に様子も変わったことはなく、学校に通って来ている。
 ある晩、夏の暑さで締め切っていた窓を真斗はそっと開けた。
 向かいの沙希の部屋は真っ暗だ。
 耳を澄ますと啜り泣きのような声が聞こえた。沙希が泣いているのだろうか?
 
 
 十月に入っても残暑が厳しい頃、智也と沙希が別れた、という噂話が耳に入ってきた。
 クラスには、ちらちらと真斗を窺い見る者もいる。
 相変わらず沙希は学校に来ない。このままでは出席日数が足りなくなり、卒業が危うい。
 スマホで沙希とやり取りしていたメッセージは、ゴールデンウイークの前で止まっている。
 智也に振られた沙希に、メッセージを送るのは躊躇われた。
 毎日オナニーのネタとして使ってしまった沙希に対して、どのツラ下げて声をかけられるだろうか。
 スマホを持ちながら迷っていると、玄関のチャイムが鳴った。
 ドアを開くと沙希の母が立っていた。
「真斗くん……」
 深刻な表情で俯き加減の沙希の母は久しぶりに会ったがやつれているようだった。
「沙希が……多分、真斗くんを傷つけたのに、ずうずうしいとは思うんだけど……」
 真斗は首を横に振る。沙希は何も悪くない。真斗が傷ついたのは事実だが、それは真斗が沙希に対して勇気を持って告白できなかったからで、自業自得だと認識している。
「沙希が、部屋から出てこないの……真斗くん、沙希に声をかけてあげてくれないかしら……」
 申し訳なさそうな沙希の母の表情に、真斗は心を痛めた。

「沙希、真斗くんが来てくれたの……開けてくれないかしら?」
 久ぶりに沙希の部屋の前に立つ。返事はない。
 沙希の母の言い方だとまるで真斗が自主的に会いに来たように聞こえるが、真斗はこの後に及んでも沙希に自分からは近づけないでいたのだ。
「ママは下に行ってるから、真斗くんとお話しして……」
 そう言うと沙希の母は階段を降りて行った。
 重苦しい沈黙がドアを挟んで二人を支配していた。沙希の色濃い気配を真斗は感じる。
「真斗……」
 沙希の掠れた声がする。
 久しぶりに聞いた幼馴染の声に真斗は胸が疼いた。
「真斗……私のこと、怒ってる?」
 沙希の力ない声が震えていた。
「全然……怒って、ない……」
 真斗が、ぽつりと呟いた。
「ホント……?」
 しばらく無言の間が続いた。
 突然ドアノブが回り、ドアが軋む音がしてゆっくりと開いた。
 髪が乱れ、眼の下に隈ができた生気のない肌色の沙希が俯いていた。
「私、ひどい顔してるけど……入る?」
「うん……」
 久しぶりに沙希の部屋に入った。真斗は真っ先にベッドに眼が行ってしまう。
 沙希が智也と裸で絡んでいたベッドだ。
 いつも二人で勉強していた時のように、低いテーブルの脇に真斗は腰を下した。
 ピンクのパジャマを着た沙希はベッドに凭れるようにして床に座り込む。
 真斗は床に視線を落として沙希の顔を見ないようにした。
 眼の端にパジャマの胸を押し上げている巨乳を捉える。
 智也に突かれて揺れている映像が浮かんできたのを、真斗は慌てて打ち消した。
 沙希が大きく息を吸い込んで喋り始める。
「私……真斗に謝らなければ……」
 予想外の言葉に、真斗は思わず沙希を見ると、目線が合った。
「智也くんとは、付き合うつもりはなかったの……」
 あんなに激しいセックスをしていたのに? と真斗は心の中で唇を噛んだ。
「はっきり断れなかった私が悪いんだケド……智也くん強引で……」
 真斗は沙希が智也の告白を直ぐに受け入れたのではないと聞いて意外だと思った。
 沙希がはっきり断れなかったのは、真斗の沙希に対する態度があやふやだったからだ。そこに関しては真斗が悪いと言えた。
「お試しでいいから、一度だけデートしてって……」
 力なく呟く沙希の呟きに、真斗の胸が騒めいた。
「二人で入ったカラオケボックスで……智也くん強引に……」
 息が混じった消え入りそうな声で沙希はそう言うと、顔を両手で覆った。
 沸々とした怒りが真斗の胸を焼いた。沙希はレイプされたというのだ。
「私、嫌だったのに……真斗に申し訳ない……」
 肩を震わせて沙希が嗚咽する。
 智也は沙希をレイプして強引に肉体関係という既成事実を作りあげたのだ。
 沙希は嫌だった、と言った。真斗に申し訳ないとも言った。
 実は沙希の気持ちは真斗に向いていたと思わせる言葉だった。
 智也に対する激しい怒りが湧いてくると同時に、心の奥底に微かな違和感も感じていた。
 智也が送ってきた動画では、嫌だったと言うわりには、沙希は積極的に智也に肉体を開いていたように見えたからだ。
 沙希が徐々に真斗に肉体を寄せてきた。真斗の肩に頭を乗せ、肉体を預ける。
 腕に柔らかい乳房の感触が当たった。真斗の下腹部がずきん、と疼く。
 智也に裸身で貪られていた沙希が真斗に凭れてくる。
 激しく智也と交わる沙希の映像が脳裏をよぎった。
 既に硬直していた真斗の肉棒を沙希が指でなぞる。
 真斗は、はっ、と我に返る。
「おばさんが下にいるんだ……ダメだよ……」
 声を落として真斗が囁くが、沙希は指の動きを止めない。
 真斗が部屋に入っていったのを沙希の母は気づいて聞き耳を立てているに違いない。
 智也と沙希がこの部屋でセックスしたのは、沙希の母が夜勤の時だった。
 今ここで沙希と肉体を絡めることは慎まなければならない。
 だが、沙希は真斗のズボンのファスナーに手をかけ、反り上がった陰茎を引き出して空気に晒した。
 初めて女性の手に触れられた肉棒に血流が流れ込む。
「ダメだよっ、沙希っ!」
 真斗が沙希の耳に息を吹きかけるように囁いた。
 俯いていた沙希が口角を僅かに上げて微笑んでいる。
 何故か真斗は沙希のその表情に不気味なものを感じて、ぞくっと胸を震わせた。
 つい先ほど、ちらりと感じた違和感が、真斗の中で一気に膨らんでいく。
 智也の動画でイキ狂っていた沙希。肉欲の虜になってしまったのに、智也に捨てられた寂しさを紛らわすために真斗に迫っているのではないか?
 真斗は沙希の手首を取り、陰茎から指を引き剥がす。
 意外だ、という表情で真斗を見つめる沙希。
 目尻に涙がじわじわと浮かんできた。
「真斗……私のこと、嫌いなの?」
 沙希が肩を小刻みに震わせている。
 真斗はゆっくりと首を横に振った。
「じゃあ、何で? 私が、智也に汚されたから?」
 沙希の頬を目尻から零れた涙が伝う。
 真斗はもう一度首を振った。
「……だったら!」
 沙希が真斗の陰茎を両手で掴む。
「ダメだよっ、沙希っ!」
「何で嫌がるのっ!」
 真斗が沙希の両手首を掴み、動きを封じる。
 智也と何度もセックスしたことで沙希は変わってしまった、と真斗は感じる。
 女として魅力がある沙希が、真斗のペニスを掴んでいることは嬉しい。
 だが、智也を失った空隙を埋めようと、真斗に安易に飛びついているようにしか思えない。
「沙希っ、落ち着いてっ!」
 密やかに囁いていた声がだんだん昂ってくる。
 沙希の隈取られた瞼が大きく見開かれ、真斗のペニスに向けられている視線の必死さに、真斗は恐怖さえ覚えた。
「やめろよっ、沙希っ! 俺はイケメンでもデカチンポでもないんだよ!」
 思わず衝動的に叫んでしまった真斗の言葉で、沙希の動きが硬直して止まった。
 眼を丸く見開き、真斗を見つめる沙希。
 しまった、と真斗は思ったが遅かった。
「どうして……それを……?」
 沙希が全身を細かく震わせた。
「観たの……?」
 真斗は沙希の視線に身体を硬直させた。
「嫌っ! 出てってっ!」
 沙希は真斗の胸を、どん、と思いきり突き飛ばした。
 

「ごめんね、真斗くん……沙希、まだ心が落ち着いてないみたい……しばらくしたら、また来てくれる?」
 玄関で、沙希の母が申し訳なさそうに真斗を見送ってくれた。
 謝らなければならないのは、自分の方だ、と真斗は思ったが、無言で一礼して沙希の家を出た。
 自室のベッドに身を投げて、両腕で顔を覆う。
 ハメ撮り動画を観たことは、沙希には絶対に悟られてはならないことだった。
 沙希は智也とのセックスが忘れられず、上書きしようと真斗に迫ったのだろう。
 そんな性欲丸出しの彼女を責める資格など、真斗にはない。
 沙希が望んで智也にハメられている写真や動画を撮られていたわけがない。
 恋人の個人的な欲求を満たすために仕方なく認めただけだろう。
 それが、第三者、ましてや幼馴染の真斗に流れているなんて、沙希は思いもよらなかったに違いない。
 自分の裸、それもセックスしている所を見ていた真斗が眼の前にいる。
 沙希が真斗を拒絶したのは当然のことだ。
 智也と別れて失意の沙希が、真斗に甘えてきた。
 この流れで、真斗は沙希を抱くことができたのかもしれない。
 だが、智也が勝手に撮影したハメ撮り動画を使って毎日オナニーをしていたような不誠実な人間が、失意に付け込んで彼女を抱く資格などない。
 真斗は、自分の性欲と愚かさを呪った。 
 


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 お互いの家で食事をするようなことも無くなった。
 沙希の母も、真斗の父も、二人の関係性の変化に気づいただろうが、特に何も言っては来なかった。
 智也と付き合い始めた沙希は、もともと美人ではあったが、髪を染めスカートの丈も短くなった。
 思わず男子の欲情をそそるような、妙な色気が沙希から湧き立ってくるのを誰もが気づいていた。
 智也とのセックスが沙希の女を際立たせているのだ、と真斗は思う。
 夕食を取って、勉強に入る前に、真斗は智也が送ってきた沙希のハメ撮り動画で一発抜くのが習慣になった。
 いわゆる賢者タイムに入ることで、学習効率がアップするのだ。
 そして深夜の就寝前にも沙希の乱れた姿でオナニーをすることで、熟睡できる。
 今や幼馴染の沙希は、単なるオナネタに成り下がった。
 真斗は毎日沙希でオナニーをしている自分の醜さが、最低だと自覚している。
 だが、そうでもしないと正気を保つ自信がないのも事実だった。
 梅雨が明け、本格的な夏を迎えた頃、智也が新しい動画を送ってきた。
 結局真斗は智也をブロックすることなく、動画を見ていた。
『あんっ、あんっ、あんっ、はあんっ!』
 局部のアップから始まった動画は、途中でカメラが机か何かに置かれて、裸で絡まる二人の全体像になった。
 ベッドの上で背面座位で、濃いめの陰毛の中に智也の肉棒を抜き挿しされている沙希がそこにいた。
 背後から両手で巨乳を揉み上げられた沙希が肉体を反らして喘いでいる。
 くちゅっ、ぐちゅっ、と結合部から卑猥な水音が漏れていた。
『ああっ……イグっ……!』
 沙希は顔を隠すこともなくイキ顔を晒している。
 びくっ、びくっ、と痙攣する沙希を智也は容赦なく責めている。
『あはんっ……イケメンのっ、デカチンポっ……好きっ!』
 沙希の叫びに、真斗の胸が抉られた。
 やっぱり沙希はイケメンの方が好きなのだ。そして智也の肉棒は真斗より遥かに大きいのも事実だった。
 一度絶頂を迎えた沙希を真斗は繋がったままベッドに倒し、後背位に体勢を変えた。
 カメラの角度が変えられ、斜め後ろから沙希の円い尻に智也の赤黒い肉棒が抜き差しされている所がばっちり映っている。
『ああんっ……凄いっ! 智也のデカチンポでっ、もっとっ、突いてええっ!』
 沙希があられもない姿で叫びながら、髪を振り乱している。
 ぱん、ぱん、ぱん、と肉を打つ音が耳を突く。
 ミルクのように白い沙希の尻肉が波打っている。
 重みで下に垂れ下がった沙希の乳房が乱れるように揺れていた。
 あまりにも刺激的な動画で、真斗はその日の勉強が手に付かず、精液が枯れるまで硬直した陰茎を扱き続けた。
 夏休みに入り、真斗は夏期講習に通った。
 ある日の夜、講習の帰りに駅前のカラオケボックスの前で智也を見かけた。
 智也の腕に金髪の女性が凭れていた。制服が違う隣町の他校の生徒だ。
 沙希は一緒にいないのだろうか、と真斗は訝しむ。
 智也と付き合い始めて、沙希の成績は急降下していた。セックスに夢中で勉強が疎かになっているのだろう。
 だが、智也は常に学年上位をキープしていた。二人で一緒に勉強することはないのだろうか、と真斗は思う。
 学校中で皆とすぐに仲良くなる智也のことだから、他校の生徒と親しいのは不自然ではない。
 だが、智也にくっついている金髪の女性とは妙に馴れ馴れしい距離感を感じる。
 真斗は智也と鉢合わせしたくなかったので、道を変えてその場を離れた。
 夏休み明け、沙希が学校に来なくなった。
 真斗が見た他校の女子が関係しているのだろうか。
 智也は特に様子も変わったことはなく、学校に通って来ている。
 ある晩、夏の暑さで締め切っていた窓を真斗はそっと開けた。
 向かいの沙希の部屋は真っ暗だ。
 耳を澄ますと啜り泣きのような声が聞こえた。沙希が泣いているのだろうか?
 十月に入っても残暑が厳しい頃、智也と沙希が別れた、という噂話が耳に入ってきた。
 クラスには、ちらちらと真斗を窺い見る者もいる。
 相変わらず沙希は学校に来ない。このままでは出席日数が足りなくなり、卒業が危うい。
 スマホで沙希とやり取りしていたメッセージは、ゴールデンウイークの前で止まっている。
 智也に振られた沙希に、メッセージを送るのは躊躇われた。
 毎日オナニーのネタとして使ってしまった沙希に対して、どのツラ下げて声をかけられるだろうか。
 スマホを持ちながら迷っていると、玄関のチャイムが鳴った。
 ドアを開くと沙希の母が立っていた。
「真斗くん……」
 深刻な表情で俯き加減の沙希の母は久しぶりに会ったがやつれているようだった。
「沙希が……多分、真斗くんを傷つけたのに、ずうずうしいとは思うんだけど……」
 真斗は首を横に振る。沙希は何も悪くない。真斗が傷ついたのは事実だが、それは真斗が沙希に対して勇気を持って告白できなかったからで、自業自得だと認識している。
「沙希が、部屋から出てこないの……真斗くん、沙希に声をかけてあげてくれないかしら……」
 申し訳なさそうな沙希の母の表情に、真斗は心を痛めた。
「沙希、真斗くんが来てくれたの……開けてくれないかしら?」
 久ぶりに沙希の部屋の前に立つ。返事はない。
 沙希の母の言い方だとまるで真斗が自主的に会いに来たように聞こえるが、真斗はこの後に及んでも沙希に自分からは近づけないでいたのだ。
「ママは下に行ってるから、真斗くんとお話しして……」
 そう言うと沙希の母は階段を降りて行った。
 重苦しい沈黙がドアを挟んで二人を支配していた。沙希の色濃い気配を真斗は感じる。
「真斗……」
 沙希の掠れた声がする。
 久しぶりに聞いた幼馴染の声に真斗は胸が疼いた。
「真斗……私のこと、怒ってる?」
 沙希の力ない声が震えていた。
「全然……怒って、ない……」
 真斗が、ぽつりと呟いた。
「ホント……?」
 しばらく無言の間が続いた。
 突然ドアノブが回り、ドアが軋む音がしてゆっくりと開いた。
 髪が乱れ、眼の下に隈ができた生気のない肌色の沙希が俯いていた。
「私、ひどい顔してるけど……入る?」
「うん……」
 久しぶりに沙希の部屋に入った。真斗は真っ先にベッドに眼が行ってしまう。
 沙希が智也と裸で絡んでいたベッドだ。
 いつも二人で勉強していた時のように、低いテーブルの脇に真斗は腰を下した。
 ピンクのパジャマを着た沙希はベッドに凭れるようにして床に座り込む。
 真斗は床に視線を落として沙希の顔を見ないようにした。
 眼の端にパジャマの胸を押し上げている巨乳を捉える。
 智也に突かれて揺れている映像が浮かんできたのを、真斗は慌てて打ち消した。
 沙希が大きく息を吸い込んで喋り始める。
「私……真斗に謝らなければ……」
 予想外の言葉に、真斗は思わず沙希を見ると、目線が合った。
「智也くんとは、付き合うつもりはなかったの……」
 あんなに激しいセックスをしていたのに? と真斗は心の中で唇を噛んだ。
「はっきり断れなかった私が悪いんだケド……智也くん強引で……」
 真斗は沙希が智也の告白を直ぐに受け入れたのではないと聞いて意外だと思った。
 沙希がはっきり断れなかったのは、真斗の沙希に対する態度があやふやだったからだ。そこに関しては真斗が悪いと言えた。
「お試しでいいから、一度だけデートしてって……」
 力なく呟く沙希の呟きに、真斗の胸が騒めいた。
「二人で入ったカラオケボックスで……智也くん強引に……」
 息が混じった消え入りそうな声で沙希はそう言うと、顔を両手で覆った。
 沸々とした怒りが真斗の胸を焼いた。沙希はレイプされたというのだ。
「私、嫌だったのに……真斗に申し訳ない……」
 肩を震わせて沙希が嗚咽する。
 智也は沙希をレイプして強引に肉体関係という既成事実を作りあげたのだ。
 沙希は嫌だった、と言った。真斗に申し訳ないとも言った。
 実は沙希の気持ちは真斗に向いていたと思わせる言葉だった。
 智也に対する激しい怒りが湧いてくると同時に、心の奥底に微かな違和感も感じていた。
 智也が送ってきた動画では、嫌だったと言うわりには、沙希は積極的に智也に肉体を開いていたように見えたからだ。
 沙希が徐々に真斗に肉体を寄せてきた。真斗の肩に頭を乗せ、肉体を預ける。
 腕に柔らかい乳房の感触が当たった。真斗の下腹部がずきん、と疼く。
 智也に裸身で貪られていた沙希が真斗に凭れてくる。
 激しく智也と交わる沙希の映像が脳裏をよぎった。
 既に硬直していた真斗の肉棒を沙希が指でなぞる。
 真斗は、はっ、と我に返る。
「おばさんが下にいるんだ……ダメだよ……」
 声を落として真斗が囁くが、沙希は指の動きを止めない。
 真斗が部屋に入っていったのを沙希の母は気づいて聞き耳を立てているに違いない。
 智也と沙希がこの部屋でセックスしたのは、沙希の母が夜勤の時だった。
 今ここで沙希と肉体を絡めることは慎まなければならない。
 だが、沙希は真斗のズボンのファスナーに手をかけ、反り上がった陰茎を引き出して空気に晒した。
 初めて女性の手に触れられた肉棒に血流が流れ込む。
「ダメだよっ、沙希っ!」
 真斗が沙希の耳に息を吹きかけるように囁いた。
 俯いていた沙希が口角を僅かに上げて微笑んでいる。
 何故か真斗は沙希のその表情に不気味なものを感じて、ぞくっと胸を震わせた。
 つい先ほど、ちらりと感じた違和感が、真斗の中で一気に膨らんでいく。
 智也の動画でイキ狂っていた沙希。肉欲の虜になってしまったのに、智也に捨てられた寂しさを紛らわすために真斗に迫っているのではないか?
 真斗は沙希の手首を取り、陰茎から指を引き剥がす。
 意外だ、という表情で真斗を見つめる沙希。
 目尻に涙がじわじわと浮かんできた。
「真斗……私のこと、嫌いなの?」
 沙希が肩を小刻みに震わせている。
 真斗はゆっくりと首を横に振った。
「じゃあ、何で? 私が、智也に汚されたから?」
 沙希の頬を目尻から零れた涙が伝う。
 真斗はもう一度首を振った。
「……だったら!」
 沙希が真斗の陰茎を両手で掴む。
「ダメだよっ、沙希っ!」
「何で嫌がるのっ!」
 真斗が沙希の両手首を掴み、動きを封じる。
 智也と何度もセックスしたことで沙希は変わってしまった、と真斗は感じる。
 女として魅力がある沙希が、真斗のペニスを掴んでいることは嬉しい。
 だが、智也を失った空隙を埋めようと、真斗に安易に飛びついているようにしか思えない。
「沙希っ、落ち着いてっ!」
 密やかに囁いていた声がだんだん昂ってくる。
 沙希の隈取られた瞼が大きく見開かれ、真斗のペニスに向けられている視線の必死さに、真斗は恐怖さえ覚えた。
「やめろよっ、沙希っ! 俺はイケメンでもデカチンポでもないんだよ!」
 思わず衝動的に叫んでしまった真斗の言葉で、沙希の動きが硬直して止まった。
 眼を丸く見開き、真斗を見つめる沙希。
 しまった、と真斗は思ったが遅かった。
「どうして……それを……?」
 沙希が全身を細かく震わせた。
「観たの……?」
 真斗は沙希の視線に身体を硬直させた。
「嫌っ! 出てってっ!」
 沙希は真斗の胸を、どん、と思いきり突き飛ばした。
「ごめんね、真斗くん……沙希、まだ心が落ち着いてないみたい……しばらくしたら、また来てくれる?」
 玄関で、沙希の母が申し訳なさそうに真斗を見送ってくれた。
 謝らなければならないのは、自分の方だ、と真斗は思ったが、無言で一礼して沙希の家を出た。
 自室のベッドに身を投げて、両腕で顔を覆う。
 ハメ撮り動画を観たことは、沙希には絶対に悟られてはならないことだった。
 沙希は智也とのセックスが忘れられず、上書きしようと真斗に迫ったのだろう。
 そんな性欲丸出しの彼女を責める資格など、真斗にはない。
 沙希が望んで智也にハメられている写真や動画を撮られていたわけがない。
 恋人の個人的な欲求を満たすために仕方なく認めただけだろう。
 それが、第三者、ましてや幼馴染の真斗に流れているなんて、沙希は思いもよらなかったに違いない。
 自分の裸、それもセックスしている所を見ていた真斗が眼の前にいる。
 沙希が真斗を拒絶したのは当然のことだ。
 智也と別れて失意の沙希が、真斗に甘えてきた。
 この流れで、真斗は沙希を抱くことができたのかもしれない。
 だが、智也が勝手に撮影したハメ撮り動画を使って毎日オナニーをしていたような不誠実な人間が、失意に付け込んで彼女を抱く資格などない。
 真斗は、自分の性欲と愚かさを呪った。