表示設定
表示設定
目次 目次




四話 ぽん、なんてリアルでやる人、はじめて見たよ。

ー/ー



********************************************
 おはよ。
 今週はぜんぜん逢えてなくてさみしかったよ~( ノД`)シクシク…
 でも今日は逢える(#^^#)

 お互いコース教習もいよいよ大詰めだね。
 イツローは今日はお休みだけど、私は二回乗ってきます。
 うまくいけばチェックメイト!
 がんばるゾー!

 終わったらすぐ向かうから、バイク屋さんで逢おうね。
 楽しみにしてるよ!!
 じゃ、あとでね♡すみれ
********************************************




 土曜日の午後、逸郎は市街地南の外れにある、県内最大の展示台数を誇るカゲトラオートに来ていた。
 先日のランチ以降、逸郎は集中講義とバイト、すみれは自分の講義とその準備で同じ日の教習が取れず会えていなかった。メッセージでのやり取りは朝昼晩途切れなかったが、ちゃんと逢うのは一週間ぶりになる。昨日までの三日間かっちりアルバイトを入れたから、逸郎は今日の休みを確保済み。

 店内に足を踏み入れた逸郎は、びっしりと並ぶビッグバイクの中にハーレーダビッドソンを見つけた。チョッパーハンドルやメーターカバー、巨大なクランクケース、マフラーなどの金属部分すべてがメッキで(きらめ)くハーレーは、実のところ逸郎の趣味から外れている。それでもこの圧倒的なアメリカ感を目の当たりにすると、魅力的だと思わざるを得ない。
 ちょっと乗ってみちゃおうかな。
 思いのほか足つきのいいシートに跨って、手前に曲がり込んだハンドルのハンドグリップを掴み、通常のそれよりもはるか前に位置するフットステップに右足を掛けてみた。
 おお、ポジションが教習所のスーパーホークとは全然違う。つかこれ、ニーグリップはどうやってするんだ?
 股の間にある小振りのティアドロップタンクに顔を映していると、逸郎は突然視界を失った。

「だーれだ」

 微かに背中に触れる重量感。もちろん、ほかの誰でもない。振り返る逸郎の頬を両手で挟み、嬉しそうに笑いながらすみれは、ひさしぶりー、と声を上げた。

「逢いたかったよー」

 俺も、と答えた逸郎は、頬に置かれた手に自分の手を重ねた。

「イツロー、ハーレー乗りたいの? カウル付きのとかピカピカの派手なのはあんまり好きじゃないって言ってなかったっけ?」

「いや、好みじゃないってのはその通りなんだけどさ、こうドーンと見せられるとなんかちょっと跨ってみたくなっちゃって」

「長距離走りたいって言ってるから、そんなに悪くないんじゃない。ほら、写真撮ったげるからポーズ付けて」

 ハーレーの前でスマホを構えるすみれに向かってライディングポーズを取る逸郎。

「なんでそんなに顎しゃくるのよ」

「ピーター・フォンダの真似」

「あなた、いくつよ」

 すみれも笑いながらシャッターを切る。ちゃんと通じてる。逸郎は新しいこの小さな発見にも、また嬉しくなった。

 ハーレーを降り、中型バイクのコーナーに足を向けながら逸郎はつぶやく。

「やっぱあれだよ。ハーレー乗るんならアメリカだな。行ったことないけど」

 足元に置いていた赤いヘルメットを拾って、ぶつかるように腕を組んできたすみれは逸郎を見上げて言った。

「一緒に行こっか。私がぜーんぶアテンドしてあげるよ」

「そのうちね。そんときはよろしく」

 まかせて、と豊かな胸を張るすみれ。



「これ! これよ、私のVストロームちゃん!」

 すみれがカタログで一目惚れした黒赤のVストローム250は、実車が飾ってあった。かなり手前からそれを見つけたすみれは、ヘルメットと荷物を逸郎に預けて駆け寄っていった。ちょうど横にいたお店のメカニックになにか許可を求めている。快諾されたらしいすみれは即座に跨り、逸郎に向けてピースサインしてきた。スマホを向ける逸郎も、角度を変えて何枚か撮る。

「彼女さんのバイク選びだが?」

 作業ツナギのメカニックが地元訛り混じりで話しかけてきた。

「Vストロームはいいっけ。重さはそこそこだけんど、このクラスでは取り回しも楽だがら彼女さんにもぴったりだ。もしえがったら、試乗もでぎますよ」

 気さくに提案してきたメカニックに、すみれは恥ずかしそうに答えた。

「免許はまだなんです。あとちょっと」

 そしたら彼氏さん代わりに、と水を向けられた逸郎も、同じ反応。

「月内には取れる予定なんです。ふたりとも」

 ぽんっと大袈裟にグーで平手を打ったメカニックは、わがった、と大声で応えてきた。

「免許さ取ったらすぐにツーリングさ行ぎでんだね、おふたりで」

 そうどわがれば任せでくなんしぇ、ちょっと待ってで、と呪文のように言い残してメカニックは作業途中の伝票を置きに戻っていった。あっけにとられた逸郎が呆れ顔で隣を見ると、バイクに跨ったままのすみれも同じように感じていたようだ。顔を見合わせて思わず噴き出すふたり。

「ぽん、なんてリアルでやる人、はじめて見たよ」

「ほんと。メカニックさせとくのは惜しい人材だね」


 ふたりの笑いが収まったところで分厚いリストを手にしたメカニックが戻ってきた。油汚れがそこここについた作業ツナギの胸に菊池と刺繡がしてある。
 逸郎の希望をリストで調べた菊池氏は、さほど間を置くことなくふたりを裏の倉庫に案内した。
 びっしりと並べられた百台を軽く超えるバイク群。菊池氏はその中から、ほとんどピンポイントでサベージ400を見つけ出した。タンクの色も逸郎希望のワインレッド。

「走行一万二千キロちょい越えでっけど年配のワンオーナーに大事さ乗られでらったがら状態はいいです。預がってがらしばらぐ経ってらんで整備にはちょい時間さいだだぐごどになりますが」

「整備、どのくらいかかります?」

 逸郎は前のめりになっている。

「バラシ整備がら車検までで、今の混み具合だど一週間ちょい、まぁ安全どって十日ぐりゃーだがね」

「私のVストロームは?」

「彼女さんのは早えよ。新車だし在庫もあるし。250だがら車検もねぇしな。したっけ今日明日は陸運休みだがら、早ぐて月曜の夜」

 それじゃまだ免許取れてませんって。そうツッコミそうになる逸郎の服の脇をすみれが引っ張ってきた。菊地氏に背を向け屈んだ逸郎の耳にすみれがそっと囁く。

「十日くらい、私待つよ。どうせ来週いっぱいは講義だし、免許取るのその次の週明けてからだもんね。同じ日に納車してもらって、一緒に乗って帰る」


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



********************************************
 おはよ。
 今週はぜんぜん逢えてなくてさみしかったよ~( ノД`)シクシク…
 でも今日は逢える(#^^#)
 お互いコース教習もいよいよ大詰めだね。
 イツローは今日はお休みだけど、私は二回乗ってきます。
 うまくいけばチェックメイト!
 がんばるゾー!
 終わったらすぐ向かうから、バイク屋さんで逢おうね。
 楽しみにしてるよ!!
 じゃ、あとでね♡すみれ
********************************************
 土曜日の午後、逸郎は市街地南の外れにある、県内最大の展示台数を誇るカゲトラオートに来ていた。
 先日のランチ以降、逸郎は集中講義とバイト、すみれは自分の講義とその準備で同じ日の教習が取れず会えていなかった。メッセージでのやり取りは朝昼晩途切れなかったが、ちゃんと逢うのは一週間ぶりになる。昨日までの三日間かっちりアルバイトを入れたから、逸郎は今日の休みを確保済み。
 店内に足を踏み入れた逸郎は、びっしりと並ぶビッグバイクの中にハーレーダビッドソンを見つけた。チョッパーハンドルやメーターカバー、巨大なクランクケース、マフラーなどの金属部分すべてがメッキで|燦《きらめ》くハーレーは、実のところ逸郎の趣味から外れている。それでもこの圧倒的なアメリカ感を目の当たりにすると、魅力的だと思わざるを得ない。
 ちょっと乗ってみちゃおうかな。
 思いのほか足つきのいいシートに跨って、手前に曲がり込んだハンドルのハンドグリップを掴み、通常のそれよりもはるか前に位置するフットステップに右足を掛けてみた。
 おお、ポジションが教習所のスーパーホークとは全然違う。つかこれ、ニーグリップはどうやってするんだ?
 股の間にある小振りのティアドロップタンクに顔を映していると、逸郎は突然視界を失った。
「だーれだ」
 微かに背中に触れる重量感。もちろん、ほかの誰でもない。振り返る逸郎の頬を両手で挟み、嬉しそうに笑いながらすみれは、ひさしぶりー、と声を上げた。
「逢いたかったよー」
 俺も、と答えた逸郎は、頬に置かれた手に自分の手を重ねた。
「イツロー、ハーレー乗りたいの? カウル付きのとかピカピカの派手なのはあんまり好きじゃないって言ってなかったっけ?」
「いや、好みじゃないってのはその通りなんだけどさ、こうドーンと見せられるとなんかちょっと跨ってみたくなっちゃって」
「長距離走りたいって言ってるから、そんなに悪くないんじゃない。ほら、写真撮ったげるからポーズ付けて」
 ハーレーの前でスマホを構えるすみれに向かってライディングポーズを取る逸郎。
「なんでそんなに顎しゃくるのよ」
「ピーター・フォンダの真似」
「あなた、いくつよ」
 すみれも笑いながらシャッターを切る。ちゃんと通じてる。逸郎は新しいこの小さな発見にも、また嬉しくなった。
 ハーレーを降り、中型バイクのコーナーに足を向けながら逸郎はつぶやく。
「やっぱあれだよ。ハーレー乗るんならアメリカだな。行ったことないけど」
 足元に置いていた赤いヘルメットを拾って、ぶつかるように腕を組んできたすみれは逸郎を見上げて言った。
「一緒に行こっか。私がぜーんぶアテンドしてあげるよ」
「そのうちね。そんときはよろしく」
 まかせて、と豊かな胸を張るすみれ。
「これ! これよ、私のVストロームちゃん!」
 すみれがカタログで一目惚れした黒赤のVストローム250は、実車が飾ってあった。かなり手前からそれを見つけたすみれは、ヘルメットと荷物を逸郎に預けて駆け寄っていった。ちょうど横にいたお店のメカニックになにか許可を求めている。快諾されたらしいすみれは即座に跨り、逸郎に向けてピースサインしてきた。スマホを向ける逸郎も、角度を変えて何枚か撮る。
「彼女さんのバイク選びだが?」
 作業ツナギのメカニックが地元訛り混じりで話しかけてきた。
「Vストロームはいいっけ。重さはそこそこだけんど、このクラスでは取り回しも楽だがら彼女さんにもぴったりだ。もしえがったら、試乗もでぎますよ」
 気さくに提案してきたメカニックに、すみれは恥ずかしそうに答えた。
「免許はまだなんです。あとちょっと」
 そしたら彼氏さん代わりに、と水を向けられた逸郎も、同じ反応。
「月内には取れる予定なんです。ふたりとも」
 ぽんっと大袈裟にグーで平手を打ったメカニックは、わがった、と大声で応えてきた。
「免許さ取ったらすぐにツーリングさ行ぎでんだね、おふたりで」
 そうどわがれば任せでくなんしぇ、ちょっと待ってで、と呪文のように言い残してメカニックは作業途中の伝票を置きに戻っていった。あっけにとられた逸郎が呆れ顔で隣を見ると、バイクに跨ったままのすみれも同じように感じていたようだ。顔を見合わせて思わず噴き出すふたり。
「ぽん、なんてリアルでやる人、はじめて見たよ」
「ほんと。メカニックさせとくのは惜しい人材だね」
 ふたりの笑いが収まったところで分厚いリストを手にしたメカニックが戻ってきた。油汚れがそこここについた作業ツナギの胸に菊池と刺繡がしてある。
 逸郎の希望をリストで調べた菊池氏は、さほど間を置くことなくふたりを裏の倉庫に案内した。
 びっしりと並べられた百台を軽く超えるバイク群。菊池氏はその中から、ほとんどピンポイントでサベージ400を見つけ出した。タンクの色も逸郎希望のワインレッド。
「走行一万二千キロちょい越えでっけど年配のワンオーナーに大事さ乗られでらったがら状態はいいです。預がってがらしばらぐ経ってらんで整備にはちょい時間さいだだぐごどになりますが」
「整備、どのくらいかかります?」
 逸郎は前のめりになっている。
「バラシ整備がら車検までで、今の混み具合だど一週間ちょい、まぁ安全どって十日ぐりゃーだがね」
「私のVストロームは?」
「彼女さんのは早えよ。新車だし在庫もあるし。250だがら車検もねぇしな。したっけ今日明日は陸運休みだがら、早ぐて月曜の夜」
 それじゃまだ免許取れてませんって。そうツッコミそうになる逸郎の服の脇をすみれが引っ張ってきた。菊地氏に背を向け屈んだ逸郎の耳にすみれがそっと囁く。
「十日くらい、私待つよ。どうせ来週いっぱいは講義だし、免許取るのその次の週明けてからだもんね。同じ日に納車してもらって、一緒に乗って帰る」