第4話 器用貧乏の義兄2
ー/ー サザランド家の人間は皆エリアスに甘い。義兄も例外なく、幼い頃からエリアスの世話をするのが好きだった。
触れる手からシルヴェスターの魔力を感じ、体内の不穏な力が安定してくるのが分かった。
「最近は落ち着いていると思っていたんだが、何かあったのか?」
「セドリック殿下に会った」
「ああ、なるほど……」
サザランド家の人間は、王家と特別懇意にしているわけではない。
現在貴族たちは王太子、第二王子、第三王子の派閥で別れている。
第二王子はほとんど重要な政務をせず、王位にも興味がない態度でいるため、実質は王太子とトリスタンの派閥が主体である。
サザランド伯爵は三人の王子たちとの関係は良好ではあるものの、中立を保っている。
王家の特質については、言葉にしなくても家族は皆知っている。
特にシルヴェスターは学生のときもよくエリアスの魔力調整をしていたため、セドリックが近くにいるとエリアスが不調になると知っている。
義兄はサザランド家の次男で、長男よりもエリアスと年齢が近いこともあり、幼い頃はよくエリアスともに遊んでいた。
彼の魔力量は平均的なものだが、昔から制御能力が高く、魔力にも敏感だった。そのため、魔力に振り回されていたエリアスの魔力調整を幼い頃からよく行っていたのだ。
細やかで気遣いができて、器用な男だ。けれど押しが弱い性格が原因なのか、いまだにシルヴェスターにはいい仲の女性がいない。
美しいエリアスの顔を見慣れているから、顔だけで絶対に結婚相手を選ばないと宣言していたこともある。
麗しい美貌を持つ面倒な性格の義弟を見ていれば、女性に対しても理想を持つことは難しいのだろう。
「また絡まれたんだろう。団長から話は聞いた。うちの騎士が悪かったな」
「いや、いいんだ。兄さんのせいじゃねぇし」
今は家族と二人だけということもあり、普段は使うことのない粗野な口調で話す。
表向きはこの顔を武器にして生きているけれど、エリアスの生来の性根は細やかな気配りや、隠れて暗躍することに向いていない。
直情的で、まっすぐな気性なのだ。機微に疎く、短気でもあり、人の裏を考えることは最も苦手としている。
貴族として生きていくならば、裏の顔をある程度使い分けていかなければならない。
裏の顔を持っている人間を理解するなら、美しい顔を武器にして己も実践すればいい。
そう考えてはじめたのが、遊び人という設定で夜を徘徊することだった。
はじめは長い時間をかけて本気で取り組むつもりはなかったのに、今ではやめようと思っても、やめられない。
大人になった今でも、顔色を窺うようなやりとりは好きではない。それでもエリアスは貴族の世界しか知らない。
いくら平民に偏見がないとはいえ、慣れない場所での生活や、他の価値観で生きていくのは難しい。
それなら街を徘徊することをやめるべきではないし、現状はどうしても必要なことだった。
エリアスの情報を上司であるトリスタンが必要としているのなら、続けていくつもりである。
はじめはある程度表と裏の顔を使い分けることができるくらいでいいと思っていたのに、今では仕事の一部になっている。
サザランド家の家族から、大きな猫を被っていると言われることも多い。
シルヴェスターには、猫の皮を被った獰猛な虎に例えられ、しかもその猫の皮もまったかわいくないと言われたことがある。
妙な言い方に失笑したものである。
「セドリック殿下に近づくことはあまりないとはいえ、近衛にいれば遭遇する確率も高くなる。お前の実力なら誰かの専属になることは予想できた。トリスタン殿下の側にいるほうが、乱れは少ないが……」
義兄は眉間に刻まれた皺を指で解しながら、難しい表情で唸っている。
「やはりトリスタン王子を止めた方がよかったか……」
「いや、いくら兄さんでも止めるのは無理だろ。うちは王家と特別仲がいいわけでもねぇし、聞き入れてもらえたと思うか?」
「王家ならお前の出自も理解している。できないわけがない」
昔、王都を襲った[[rb:魔獣の大発生 > スタンピード]]を食い止めた英雄ロベルト・ニリアン。
その男のたったひとりの子どもであるエリアスが、特別扱いをされたとしても不思議ではない。
しかし、そう扱われるのなら、エリアスも覚悟を決めなくてはならない。おそらく何かしら対価を要求されるはずだ。
そんな面倒な事態になるなら、特別扱いなどいらない。
その考えの基、今まで権力者には関わらないように生きてきた。
エリアスはただ平凡に、普通の人生を歩きたい。
この顔が原因で、一般人とはかなり逸れた道を歩んでいることは分かっている。それでも、できるだけただの凡人のように、目立たない暮らしをしたい。
「そういえば、近々ロベルト様が帰ってこられるそうだな」
途端に渋面になる麗しい顔を見て、シルヴェスターは反射的に笑いを吹き出していた。
「くくくっ、皆の憧れの近衛騎士様が、そんな顔をするとは……っ! そんなに嫌か?」
「嫌どころじゃねぇ。仕事を逃げ出したい」
「そんなに嫌か?」
「実際は逃げやしねぇけど……。セドリック殿下にも釘を刺された。もっと近衛騎士の自覚を持てってよ」
言われた内容を簡単に言うとそんなものだろう。あれほど真摯に、まっすぐ意見をされるとは思わなかった。
横切るだけで不調になることもあり、セドリックとまともに話をしたことはない。一度話しただけなのに、今まで感じていた柔和な印象は、嘘みたいに消えている。
あれほど強い印象を残す男なのだ。ぼんくら王子と呼ばれているのもそう装っているからだろう。
シルヴェスターは意外だと思わなかったのか、納得したように頷いている。
「殿下がお前にそんなことを言ったのか。まあ、あの方は竜騎士団内では、厳しいと結構有名だからな」
今ならばそれほど驚かないが、前ならば意外に思う内容だった。
エリアスが深緑の瞳で見ると、シルヴェスターは昔を思い出すようにしていた。
「噂では散々にいわれているが、そういわれ始めたのは殿下が学園に入学されてからだ。幼かったおまえが覚えているはずもないが、昔の殿下はかなり優秀だといわれていたんだぞ」
「……ふーん」
王族のことに首を突っ込むつもりがなかったのだから、それほど詳しく知らなかった。
それでも能力を偽らざるを得ないことがあったのだと、想像だけは勝手に頭の中で広がっていく。
「竜騎士団は王族に縁のある騎士が多いから、おそらく殿下も気が楽なんじゃないか?」
周囲が事情を知っている人間ばかりなら、無闇に優秀だという噂も流れないだろう。
そうであれば、馬鹿を装う必要もないし、普段と違う厳しい態度でいても不思議はない。
自然体で過ごせるなら、竜騎士団の中にいればセドリックもかなり楽だろう。
素の自分でいられる場所というのは、かなり重要である。
自身のことを顧みると、それも理解できる。
初めて知る情報だが、人にはやはり二面性があるのだと実感せずにいられない。
「面倒くせぇな」
「騎士ならその面倒くさいものとつきあう必要もある。エリアスならよく分かるだろう」
少しずつ波立っていた魔力が落ち着いていくのを感じながら、エリアスは渋々頷く。
結局、どんなに避けたくても、エリアスが面倒なパーティーから逃げ出すのは不可能なのだ。
あたたかなシルヴェスターの魔力を感じて話をしていると、徐々に瞼が重くなってくる。
うつらうつらしていると、シルヴェスターが瞼の上に掌を置く。
「今日はいろいろと疲れただろう。結界は帰るときに戻しておくから心配するな。ゆっくり眠るといい」
ベッドで力を抜いていると、シルヴェスターが頭に触れる。優しく撫でられる心地よさを感じながら、ぼんやりとした思考でゆったりと意識が眠りに傾く。
そう時間がかかることなく、エリアスは眠りへと誘われていった。
触れる手からシルヴェスターの魔力を感じ、体内の不穏な力が安定してくるのが分かった。
「最近は落ち着いていると思っていたんだが、何かあったのか?」
「セドリック殿下に会った」
「ああ、なるほど……」
サザランド家の人間は、王家と特別懇意にしているわけではない。
現在貴族たちは王太子、第二王子、第三王子の派閥で別れている。
第二王子はほとんど重要な政務をせず、王位にも興味がない態度でいるため、実質は王太子とトリスタンの派閥が主体である。
サザランド伯爵は三人の王子たちとの関係は良好ではあるものの、中立を保っている。
王家の特質については、言葉にしなくても家族は皆知っている。
特にシルヴェスターは学生のときもよくエリアスの魔力調整をしていたため、セドリックが近くにいるとエリアスが不調になると知っている。
義兄はサザランド家の次男で、長男よりもエリアスと年齢が近いこともあり、幼い頃はよくエリアスともに遊んでいた。
彼の魔力量は平均的なものだが、昔から制御能力が高く、魔力にも敏感だった。そのため、魔力に振り回されていたエリアスの魔力調整を幼い頃からよく行っていたのだ。
細やかで気遣いができて、器用な男だ。けれど押しが弱い性格が原因なのか、いまだにシルヴェスターにはいい仲の女性がいない。
美しいエリアスの顔を見慣れているから、顔だけで絶対に結婚相手を選ばないと宣言していたこともある。
麗しい美貌を持つ面倒な性格の義弟を見ていれば、女性に対しても理想を持つことは難しいのだろう。
「また絡まれたんだろう。団長から話は聞いた。うちの騎士が悪かったな」
「いや、いいんだ。兄さんのせいじゃねぇし」
今は家族と二人だけということもあり、普段は使うことのない粗野な口調で話す。
表向きはこの顔を武器にして生きているけれど、エリアスの生来の性根は細やかな気配りや、隠れて暗躍することに向いていない。
直情的で、まっすぐな気性なのだ。機微に疎く、短気でもあり、人の裏を考えることは最も苦手としている。
貴族として生きていくならば、裏の顔をある程度使い分けていかなければならない。
裏の顔を持っている人間を理解するなら、美しい顔を武器にして己も実践すればいい。
そう考えてはじめたのが、遊び人という設定で夜を徘徊することだった。
はじめは長い時間をかけて本気で取り組むつもりはなかったのに、今ではやめようと思っても、やめられない。
大人になった今でも、顔色を窺うようなやりとりは好きではない。それでもエリアスは貴族の世界しか知らない。
いくら平民に偏見がないとはいえ、慣れない場所での生活や、他の価値観で生きていくのは難しい。
それなら街を徘徊することをやめるべきではないし、現状はどうしても必要なことだった。
エリアスの情報を上司であるトリスタンが必要としているのなら、続けていくつもりである。
はじめはある程度表と裏の顔を使い分けることができるくらいでいいと思っていたのに、今では仕事の一部になっている。
サザランド家の家族から、大きな猫を被っていると言われることも多い。
シルヴェスターには、猫の皮を被った獰猛な虎に例えられ、しかもその猫の皮もまったかわいくないと言われたことがある。
妙な言い方に失笑したものである。
「セドリック殿下に近づくことはあまりないとはいえ、近衛にいれば遭遇する確率も高くなる。お前の実力なら誰かの専属になることは予想できた。トリスタン殿下の側にいるほうが、乱れは少ないが……」
義兄は眉間に刻まれた皺を指で解しながら、難しい表情で唸っている。
「やはりトリスタン王子を止めた方がよかったか……」
「いや、いくら兄さんでも止めるのは無理だろ。うちは王家と特別仲がいいわけでもねぇし、聞き入れてもらえたと思うか?」
「王家ならお前の出自も理解している。できないわけがない」
昔、王都を襲った[[rb:魔獣の大発生 > スタンピード]]を食い止めた英雄ロベルト・ニリアン。
その男のたったひとりの子どもであるエリアスが、特別扱いをされたとしても不思議ではない。
しかし、そう扱われるのなら、エリアスも覚悟を決めなくてはならない。おそらく何かしら対価を要求されるはずだ。
そんな面倒な事態になるなら、特別扱いなどいらない。
その考えの基、今まで権力者には関わらないように生きてきた。
エリアスはただ平凡に、普通の人生を歩きたい。
この顔が原因で、一般人とはかなり逸れた道を歩んでいることは分かっている。それでも、できるだけただの凡人のように、目立たない暮らしをしたい。
「そういえば、近々ロベルト様が帰ってこられるそうだな」
途端に渋面になる麗しい顔を見て、シルヴェスターは反射的に笑いを吹き出していた。
「くくくっ、皆の憧れの近衛騎士様が、そんな顔をするとは……っ! そんなに嫌か?」
「嫌どころじゃねぇ。仕事を逃げ出したい」
「そんなに嫌か?」
「実際は逃げやしねぇけど……。セドリック殿下にも釘を刺された。もっと近衛騎士の自覚を持てってよ」
言われた内容を簡単に言うとそんなものだろう。あれほど真摯に、まっすぐ意見をされるとは思わなかった。
横切るだけで不調になることもあり、セドリックとまともに話をしたことはない。一度話しただけなのに、今まで感じていた柔和な印象は、嘘みたいに消えている。
あれほど強い印象を残す男なのだ。ぼんくら王子と呼ばれているのもそう装っているからだろう。
シルヴェスターは意外だと思わなかったのか、納得したように頷いている。
「殿下がお前にそんなことを言ったのか。まあ、あの方は竜騎士団内では、厳しいと結構有名だからな」
今ならばそれほど驚かないが、前ならば意外に思う内容だった。
エリアスが深緑の瞳で見ると、シルヴェスターは昔を思い出すようにしていた。
「噂では散々にいわれているが、そういわれ始めたのは殿下が学園に入学されてからだ。幼かったおまえが覚えているはずもないが、昔の殿下はかなり優秀だといわれていたんだぞ」
「……ふーん」
王族のことに首を突っ込むつもりがなかったのだから、それほど詳しく知らなかった。
それでも能力を偽らざるを得ないことがあったのだと、想像だけは勝手に頭の中で広がっていく。
「竜騎士団は王族に縁のある騎士が多いから、おそらく殿下も気が楽なんじゃないか?」
周囲が事情を知っている人間ばかりなら、無闇に優秀だという噂も流れないだろう。
そうであれば、馬鹿を装う必要もないし、普段と違う厳しい態度でいても不思議はない。
自然体で過ごせるなら、竜騎士団の中にいればセドリックもかなり楽だろう。
素の自分でいられる場所というのは、かなり重要である。
自身のことを顧みると、それも理解できる。
初めて知る情報だが、人にはやはり二面性があるのだと実感せずにいられない。
「面倒くせぇな」
「騎士ならその面倒くさいものとつきあう必要もある。エリアスならよく分かるだろう」
少しずつ波立っていた魔力が落ち着いていくのを感じながら、エリアスは渋々頷く。
結局、どんなに避けたくても、エリアスが面倒なパーティーから逃げ出すのは不可能なのだ。
あたたかなシルヴェスターの魔力を感じて話をしていると、徐々に瞼が重くなってくる。
うつらうつらしていると、シルヴェスターが瞼の上に掌を置く。
「今日はいろいろと疲れただろう。結界は帰るときに戻しておくから心配するな。ゆっくり眠るといい」
ベッドで力を抜いていると、シルヴェスターが頭に触れる。優しく撫でられる心地よさを感じながら、ぼんやりとした思考でゆったりと意識が眠りに傾く。
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触れる手からシルヴェスターの魔力を感じ、体内の不穏な力が安定してくるのが分かった。
「最近は落ち着いていると思っていたんだが、何かあったのか?」
「セドリック殿下に会った」
「ああ、なるほど……」
「セドリック殿下に会った」
「ああ、なるほど……」
サザランド家の人間は、王家と特別懇意にしているわけではない。
現在貴族たちは王太子、第二王子、第三王子の派閥で別れている。
第二王子はほとんど重要な政務をせず、王位にも興味がない態度でいるため、実質は王太子とトリスタンの派閥が主体である。
第二王子はほとんど重要な政務をせず、王位にも興味がない態度でいるため、実質は王太子とトリスタンの派閥が主体である。
サザランド伯爵は三人の王子たちとの関係は良好ではあるものの、中立を保っている。
王家の特質については、言葉にしなくても家族は皆知っている。
特にシルヴェスターは学生のときもよくエリアスの魔力調整をしていたため、セドリックが近くにいるとエリアスが不調になると知っている。
特にシルヴェスターは学生のときもよくエリアスの魔力調整をしていたため、セドリックが近くにいるとエリアスが不調になると知っている。
義兄はサザランド家の次男で、長男よりもエリアスと年齢が近いこともあり、幼い頃はよくエリアスともに遊んでいた。
彼の魔力量は平均的なものだが、昔から制御能力が高く、魔力にも敏感だった。そのため、魔力に振り回されていたエリアスの魔力調整を幼い頃からよく行っていたのだ。
細やかで気遣いができて、器用な男だ。けれど押しが弱い性格が原因なのか、いまだにシルヴェスターにはいい仲の女性がいない。
美しいエリアスの顔を見慣れているから、顔だけで絶対に結婚相手を選ばないと宣言していたこともある。
麗しい美貌を持つ面倒な性格の義弟を見ていれば、女性に対しても理想を持つことは難しいのだろう。
「また絡まれたんだろう。団長から話は聞いた。うちの騎士が悪かったな」
「いや、いいんだ。兄さんのせいじゃねぇし」
「いや、いいんだ。兄さんのせいじゃねぇし」
今は家族と二人だけということもあり、普段は使うことのない粗野な口調で話す。
表向きはこの顔を武器にして生きているけれど、エリアスの生来の性根は細やかな気配りや、隠れて暗躍することに向いていない。
表向きはこの顔を武器にして生きているけれど、エリアスの生来の性根は細やかな気配りや、隠れて暗躍することに向いていない。
直情的で、まっすぐな気性なのだ。機微に疎く、短気でもあり、人の裏を考えることは最も苦手としている。
貴族として生きていくならば、裏の顔をある程度使い分けていかなければならない。
裏の顔を持っている人間を理解するなら、美しい顔を武器にして己も実践すればいい。
裏の顔を持っている人間を理解するなら、美しい顔を武器にして己も実践すればいい。
そう考えてはじめたのが、遊び人という設定で夜を徘徊することだった。
はじめは長い時間をかけて本気で取り組むつもりはなかったのに、今ではやめようと思っても、やめられない。
大人になった今でも、顔色を窺うようなやりとりは好きではない。それでもエリアスは貴族の世界しか知らない。
いくら平民に偏見がないとはいえ、慣れない場所での生活や、他の価値観で生きていくのは難しい。
いくら平民に偏見がないとはいえ、慣れない場所での生活や、他の価値観で生きていくのは難しい。
それなら街を徘徊することをやめるべきではないし、現状はどうしても必要なことだった。
エリアスの情報を上司であるトリスタンが必要としているのなら、続けていくつもりである。
はじめはある程度表と裏の顔を使い分けることができるくらいでいいと思っていたのに、今では仕事の一部になっている。
サザランド家の家族から、大きな猫を被っていると言われることも多い。
シルヴェスターには、猫の皮を被った獰猛な虎に例えられ、しかもその猫の皮もまったかわいくないと言われたことがある。
シルヴェスターには、猫の皮を被った獰猛な虎に例えられ、しかもその猫の皮もまったかわいくないと言われたことがある。
妙な言い方に失笑したものである。
「セドリック殿下に近づくことはあまりないとはいえ、近衛にいれば遭遇する確率も高くなる。お前の実力なら誰かの専属になることは予想できた。トリスタン殿下の側にいるほうが、乱れは少ないが……」
義兄は眉間に刻まれた皺を指で解しながら、難しい表情で唸っている。
「やはりトリスタン王子を止めた方がよかったか……」
「いや、いくら兄さんでも止めるのは無理だろ。うちは王家と特別仲がいいわけでもねぇし、聞き入れてもらえたと思うか?」
「王家ならお前の出自も理解している。できないわけがない」
「いや、いくら兄さんでも止めるのは無理だろ。うちは王家と特別仲がいいわけでもねぇし、聞き入れてもらえたと思うか?」
「王家ならお前の出自も理解している。できないわけがない」
昔、王都を襲った[[rb:魔獣の大発生 > スタンピード]]を食い止めた英雄ロベルト・ニリアン。
その男のたったひとりの子どもであるエリアスが、特別扱いをされたとしても不思議ではない。
その男のたったひとりの子どもであるエリアスが、特別扱いをされたとしても不思議ではない。
しかし、そう扱われるのなら、エリアスも覚悟を決めなくてはならない。おそらく何かしら対価を要求されるはずだ。
そんな面倒な事態になるなら、特別扱いなどいらない。
そんな面倒な事態になるなら、特別扱いなどいらない。
その考えの基、今まで権力者には関わらないように生きてきた。
エリアスはただ平凡に、普通の人生を歩きたい。
この顔が原因で、一般人とはかなり逸れた道を歩んでいることは分かっている。それでも、できるだけただの凡人のように、目立たない暮らしをしたい。
「そういえば、近々ロベルト様が帰ってこられるそうだな」
途端に渋面になる麗しい顔を見て、シルヴェスターは反射的に笑いを吹き出していた。
「くくくっ、皆の憧れの近衛騎士様が、そんな顔をするとは……っ! そんなに嫌か?」
「嫌どころじゃねぇ。仕事を逃げ出したい」
「そんなに嫌か?」
「実際は逃げやしねぇけど……。セドリック殿下にも釘を刺された。もっと近衛騎士の自覚を持てってよ」
「嫌どころじゃねぇ。仕事を逃げ出したい」
「そんなに嫌か?」
「実際は逃げやしねぇけど……。セドリック殿下にも釘を刺された。もっと近衛騎士の自覚を持てってよ」
言われた内容を簡単に言うとそんなものだろう。あれほど真摯に、まっすぐ意見をされるとは思わなかった。
横切るだけで不調になることもあり、セドリックとまともに話をしたことはない。一度話しただけなのに、今まで感じていた柔和な印象は、嘘みたいに消えている。
あれほど強い印象を残す男なのだ。ぼんくら王子と呼ばれているのもそう装っているからだろう。
あれほど強い印象を残す男なのだ。ぼんくら王子と呼ばれているのもそう装っているからだろう。
シルヴェスターは意外だと思わなかったのか、納得したように頷いている。
「殿下がお前にそんなことを言ったのか。まあ、あの方は竜騎士団内では、厳しいと結構有名だからな」
今ならばそれほど驚かないが、前ならば意外に思う内容だった。
エリアスが深緑の瞳で見ると、シルヴェスターは昔を思い出すようにしていた。
エリアスが深緑の瞳で見ると、シルヴェスターは昔を思い出すようにしていた。
「噂では散々にいわれているが、そういわれ始めたのは殿下が学園に入学されてからだ。幼かったおまえが覚えているはずもないが、昔の殿下はかなり優秀だといわれていたんだぞ」
「……ふーん」
「……ふーん」
王族のことに首を突っ込むつもりがなかったのだから、それほど詳しく知らなかった。
それでも能力を偽らざるを得ないことがあったのだと、想像だけは勝手に頭の中で広がっていく。
それでも能力を偽らざるを得ないことがあったのだと、想像だけは勝手に頭の中で広がっていく。
「竜騎士団は王族に縁のある騎士が多いから、おそらく殿下も気が楽なんじゃないか?」
周囲が事情を知っている人間ばかりなら、無闇に優秀だという噂も流れないだろう。
そうであれば、馬鹿を装う必要もないし、普段と違う厳しい態度でいても不思議はない。
そうであれば、馬鹿を装う必要もないし、普段と違う厳しい態度でいても不思議はない。
自然体で過ごせるなら、竜騎士団の中にいればセドリックもかなり楽だろう。
素の自分でいられる場所というのは、かなり重要である。
素の自分でいられる場所というのは、かなり重要である。
自身のことを顧みると、それも理解できる。
初めて知る情報だが、人にはやはり二面性があるのだと実感せずにいられない。
初めて知る情報だが、人にはやはり二面性があるのだと実感せずにいられない。
「面倒くせぇな」
「騎士ならその面倒くさいものとつきあう必要もある。エリアスならよく分かるだろう」
「騎士ならその面倒くさいものとつきあう必要もある。エリアスならよく分かるだろう」
少しずつ波立っていた魔力が落ち着いていくのを感じながら、エリアスは渋々頷く。
結局、どんなに避けたくても、エリアスが面倒なパーティーから逃げ出すのは不可能なのだ。
結局、どんなに避けたくても、エリアスが面倒なパーティーから逃げ出すのは不可能なのだ。
あたたかなシルヴェスターの魔力を感じて話をしていると、徐々に瞼が重くなってくる。
うつらうつらしていると、シルヴェスターが瞼の上に掌を置く。
うつらうつらしていると、シルヴェスターが瞼の上に掌を置く。
「今日はいろいろと疲れただろう。結界は帰るときに戻しておくから心配するな。ゆっくり眠るといい」
ベッドで力を抜いていると、シルヴェスターが頭に触れる。優しく撫でられる心地よさを感じながら、ぼんやりとした思考でゆったりと意識が眠りに傾く。
そう時間がかかることなく、エリアスは眠りへと誘われていった。
そう時間がかかることなく、エリアスは眠りへと誘われていった。