第3話 器用貧乏の義兄1
ー/ー まだ夕方というには早い時間帯に寮の自室へ戻る。
重い身体を引きずり、朝のうちに部屋で脱ぎ散らかしたルームウェアを拾い集める。
シャツの袖から腕を抜くだけでも億劫で、普段よりも時間をかけて着替える。
服を片づけようとしても、それができないほど身体がだるい。諦めて力尽きるように、柔らかなシーツへと身を投げ出す。
魔力が乱れた状態で護衛をしていると、すぐさまトリスタンに気づかれた。珍しく体調が悪そうなエリアスを見て、他の近衛騎士にも心配された。
エリアスは平気だと言ったけれど、青い顔では説得力もない。すぐさま交代を命令された。
トリスタンは無表情を装っていたけれど、視線でエリアスのことを心配しているとすぐに分かった。
このまま任務を続けても周囲に迷惑をかけるだけである。渋々ではあるものの、エリアスはおとなしく休むことにした。
セドリックと出会ったときに、嫌な予感はあったのだ。
トリスタンの護衛をしていることもあり、エリアスは王族の特異体質のことをある程度知っている。
王族の魔力は、他の人間と質が違う。その血筋の人間は魔力に問題が起きたとしても、一般的な魔力調整では治らないと護衛に任命されたときに聞いた。
それは貴族の当主であればほぼ皆知っていることで、義父であるサザランド伯爵も知っている。
幼い頃からエリアスはなんとなく察していたけれど、義父からそのことを聞いたわけではない。
ただ、体内の魔力が反応することで、実体験として知ることになったのだ。
アストリア王国の王族は、神竜の血を受け継いでいる。初代国王が神竜と人間の混血だという言い伝えもある。
そんな血筋の一族だからか、王族の人間は竜騎士のように竜と契約していなくても対話ができる。そして竜たちはその血を敬い、自ら王族に従うのだ。
それが可能な仕組みというものは解明されていないのだが、エリアスには少しだけ分かることがあった。
生まれながら膨大な魔力を持っていても、エリアスはほとんど魔法が扱えない。それなのに魔力だけで他者を圧倒してしまう。
その魔力は、昔から魔道具を使った測定が不可能だった。
多少魔力が多いくらいなら普通に暮らせたのだが、多すぎる魔力はときにエリアスの身体を蝕んだ。幼い頃はよく熱を出して寝込むこともあった。
今では身体がだるくなる程度で済んでいる。
年齢を重ね、王立学園で過ごすようになると、王族との距離はそれなりに近くなる。
そのときにトリスタンと交友関係を築いた。
二歳年上のセドリックとも、学園内ですれ違うこともあった。
何度か彼らの近くに寄る機会もあり、そのうち気づくことになる。
王族の側にいると魔力が不安定になるのだ。
おそらく魔力量が特に多いエリアスくらいにしか影響はない。
王族の側にいると、体内の魔力が落ち着かなくなり、体調不良になる。
今回もセドリックと会話してから胸の鼓動が速くなっていた。触れてもいないし、数分間側にいただけなのに、ここまで影響されるとは予想外だった。
今のところ、トリスタンの側にいてもそれほど体調に変化はないのだが、セドリックだと顕著に表れる。
王立学園にいた頃から、彼の隣を横切るだけで体調が悪くなるほど、魔力に乱れが生じていた。
神竜については伝承程度のことしか知られていないけれど、竜についての研究は進んでいる。
膨大な魔力を持つということ、魔力制御がかなり器用であること。それだけではなく、目鼻が効き、人間には感知できない魔力の色や匂いが分かるといわれている。
竜は魔力の好みで自身の騎士を選んでいると研究者たちはいう。
神竜は古くから神話で語られるくらい壮大な存在だが、現在では本当にいるのかもわからない。
そのような伝説の生き物を一般的な竜と比べるなど、普通はしない。
だが魔力に関しては似たようなところがあると、エリアスはなんとなく予想している。
エリアスに魔力の違いが分かるわけではないけれど、知られていない特別な何かがある。
直感でしかないし、詳細はエリアスにも分からない。ただ、身体に流れる母方の血が本能的に訴えてくるのだ。
今日はしばらく近距離でしばらく話をしたせいなのか、普段よりも波が激しい。荒々しく身のうちを暴れる大量の魔力は、身体に毒だ。
ベッドの上で落ち着かないように寝返りを打つ。
どくどくと耳の裏で速い脈を感じて、明日は熱が出るかもしれないとぼんやりと思考する。
騎士になってからは、体調を崩すこともなく過ごしていた。今回の変調は久々ということもあり、精神的にも堪えていた。
普段なら弱音を吐くことはほぼないけれど、今は誰かに甘えたい気分だった。
不意に部屋の前に誰かが立つ気配を感じた。その気配の持ち主は部屋にかけられた結界に触れて戸が開けられないことに気づくと、乱暴に叩きはじめた。
騎士の寮だからといって、結界が完備されているわけではない。
エリアスは美貌のことで厄介ごとに巻き込まれることが多く、仕方なく結界の魔道具を部屋に置くようになったのだ。
馴染みのある魔力から、義兄のシルヴェスター・サザランドだと分かった。少し不安定だった精神が微かに落ち着く。
ベッドの側にある魔道具を操作して結界を解くのと同時に、扉が開いた。
「ようやく開いた」
シルヴェスターはほっと安堵の息を吐きながら、部屋へと入ってくる。
麦の稲穂のような優しい薄茶色の髪を揺らし、淡い緑の瞳には心配そうな色が見える。
彼は第三騎士団に所属している騎士である。
とりわけ美しい容姿をしているわけではないし、目を惹くわけでもない。大衆の中では埋もれてしまいそうな、平凡な顔の作りをしている。
穏やかな性格で、柔和な笑みが印象的だが、それがどことなく謎めいている。
体躯は騎士らしく鍛えられていて、厚みもあり、がっしりとしている。
平凡にしか見えない義兄だが、魔力操作が騎士団の中でも群を抜いて秀でている。
魔力で個人が分かるほど敏感な人間はいないけれど、近くにいれば何かしら感想を持つものだ。だがシルヴェスターの魔力は完璧に制御されていて、人間らしい雰囲気が一切感じられない。
側にいて静かすぎる気配は、却って落ち着かない。
騎士でありながら、ここまで魔力制御に長けているのも珍しい。
学生時代には、魔術師団長から直接勧誘を受けたと聞いたことがある。けれどシルヴェスターは剣を振るうことが好きで、魔術師になるつもりはなかったため断ったそうだ。
魔術師ではないものの、その素養もあるため、一般的な騎士と比べると雰囲気が柔らかい。
おそらくその独特な空気が、一層彼を捉えどころのない男として見せている。
義弟であるエリアスから見ると器用だがそれを生かし切れていない、少し残念な兄にしか見えないだけだ。
「やっぱり寝込んでいたか」
「……にいさん」
横に倒した身体を起こそうとすると、シルヴェスターはそのままでいいと手で制する。
義兄は近くにあった椅子を引っ張ってくると、ベッドの側に座る。
身体を横たえたエリアスの金髪を、猫を撫でるように柔らかく、慣れた手つきで触れる。
「仕事中に遠くから見えたんだよ。魔力が安定してないと思ってはいたんだが、案の定だな」
手が触れているだけで魔力が凪いでいく気配を感じて、ほっとする。これなら明日は寝込まなくてもすみそうだ。
シルヴェスターは淡い緑の瞳を心配の色に染めて、エリアスを見下ろす。
重い身体を引きずり、朝のうちに部屋で脱ぎ散らかしたルームウェアを拾い集める。
シャツの袖から腕を抜くだけでも億劫で、普段よりも時間をかけて着替える。
服を片づけようとしても、それができないほど身体がだるい。諦めて力尽きるように、柔らかなシーツへと身を投げ出す。
魔力が乱れた状態で護衛をしていると、すぐさまトリスタンに気づかれた。珍しく体調が悪そうなエリアスを見て、他の近衛騎士にも心配された。
エリアスは平気だと言ったけれど、青い顔では説得力もない。すぐさま交代を命令された。
トリスタンは無表情を装っていたけれど、視線でエリアスのことを心配しているとすぐに分かった。
このまま任務を続けても周囲に迷惑をかけるだけである。渋々ではあるものの、エリアスはおとなしく休むことにした。
セドリックと出会ったときに、嫌な予感はあったのだ。
トリスタンの護衛をしていることもあり、エリアスは王族の特異体質のことをある程度知っている。
王族の魔力は、他の人間と質が違う。その血筋の人間は魔力に問題が起きたとしても、一般的な魔力調整では治らないと護衛に任命されたときに聞いた。
それは貴族の当主であればほぼ皆知っていることで、義父であるサザランド伯爵も知っている。
幼い頃からエリアスはなんとなく察していたけれど、義父からそのことを聞いたわけではない。
ただ、体内の魔力が反応することで、実体験として知ることになったのだ。
アストリア王国の王族は、神竜の血を受け継いでいる。初代国王が神竜と人間の混血だという言い伝えもある。
そんな血筋の一族だからか、王族の人間は竜騎士のように竜と契約していなくても対話ができる。そして竜たちはその血を敬い、自ら王族に従うのだ。
それが可能な仕組みというものは解明されていないのだが、エリアスには少しだけ分かることがあった。
生まれながら膨大な魔力を持っていても、エリアスはほとんど魔法が扱えない。それなのに魔力だけで他者を圧倒してしまう。
その魔力は、昔から魔道具を使った測定が不可能だった。
多少魔力が多いくらいなら普通に暮らせたのだが、多すぎる魔力はときにエリアスの身体を蝕んだ。幼い頃はよく熱を出して寝込むこともあった。
今では身体がだるくなる程度で済んでいる。
年齢を重ね、王立学園で過ごすようになると、王族との距離はそれなりに近くなる。
そのときにトリスタンと交友関係を築いた。
二歳年上のセドリックとも、学園内ですれ違うこともあった。
何度か彼らの近くに寄る機会もあり、そのうち気づくことになる。
王族の側にいると魔力が不安定になるのだ。
おそらく魔力量が特に多いエリアスくらいにしか影響はない。
王族の側にいると、体内の魔力が落ち着かなくなり、体調不良になる。
今回もセドリックと会話してから胸の鼓動が速くなっていた。触れてもいないし、数分間側にいただけなのに、ここまで影響されるとは予想外だった。
今のところ、トリスタンの側にいてもそれほど体調に変化はないのだが、セドリックだと顕著に表れる。
王立学園にいた頃から、彼の隣を横切るだけで体調が悪くなるほど、魔力に乱れが生じていた。
神竜については伝承程度のことしか知られていないけれど、竜についての研究は進んでいる。
膨大な魔力を持つということ、魔力制御がかなり器用であること。それだけではなく、目鼻が効き、人間には感知できない魔力の色や匂いが分かるといわれている。
竜は魔力の好みで自身の騎士を選んでいると研究者たちはいう。
神竜は古くから神話で語られるくらい壮大な存在だが、現在では本当にいるのかもわからない。
そのような伝説の生き物を一般的な竜と比べるなど、普通はしない。
だが魔力に関しては似たようなところがあると、エリアスはなんとなく予想している。
エリアスに魔力の違いが分かるわけではないけれど、知られていない特別な何かがある。
直感でしかないし、詳細はエリアスにも分からない。ただ、身体に流れる母方の血が本能的に訴えてくるのだ。
今日はしばらく近距離でしばらく話をしたせいなのか、普段よりも波が激しい。荒々しく身のうちを暴れる大量の魔力は、身体に毒だ。
ベッドの上で落ち着かないように寝返りを打つ。
どくどくと耳の裏で速い脈を感じて、明日は熱が出るかもしれないとぼんやりと思考する。
騎士になってからは、体調を崩すこともなく過ごしていた。今回の変調は久々ということもあり、精神的にも堪えていた。
普段なら弱音を吐くことはほぼないけれど、今は誰かに甘えたい気分だった。
不意に部屋の前に誰かが立つ気配を感じた。その気配の持ち主は部屋にかけられた結界に触れて戸が開けられないことに気づくと、乱暴に叩きはじめた。
騎士の寮だからといって、結界が完備されているわけではない。
エリアスは美貌のことで厄介ごとに巻き込まれることが多く、仕方なく結界の魔道具を部屋に置くようになったのだ。
馴染みのある魔力から、義兄のシルヴェスター・サザランドだと分かった。少し不安定だった精神が微かに落ち着く。
ベッドの側にある魔道具を操作して結界を解くのと同時に、扉が開いた。
「ようやく開いた」
シルヴェスターはほっと安堵の息を吐きながら、部屋へと入ってくる。
麦の稲穂のような優しい薄茶色の髪を揺らし、淡い緑の瞳には心配そうな色が見える。
彼は第三騎士団に所属している騎士である。
とりわけ美しい容姿をしているわけではないし、目を惹くわけでもない。大衆の中では埋もれてしまいそうな、平凡な顔の作りをしている。
穏やかな性格で、柔和な笑みが印象的だが、それがどことなく謎めいている。
体躯は騎士らしく鍛えられていて、厚みもあり、がっしりとしている。
平凡にしか見えない義兄だが、魔力操作が騎士団の中でも群を抜いて秀でている。
魔力で個人が分かるほど敏感な人間はいないけれど、近くにいれば何かしら感想を持つものだ。だがシルヴェスターの魔力は完璧に制御されていて、人間らしい雰囲気が一切感じられない。
側にいて静かすぎる気配は、却って落ち着かない。
騎士でありながら、ここまで魔力制御に長けているのも珍しい。
学生時代には、魔術師団長から直接勧誘を受けたと聞いたことがある。けれどシルヴェスターは剣を振るうことが好きで、魔術師になるつもりはなかったため断ったそうだ。
魔術師ではないものの、その素養もあるため、一般的な騎士と比べると雰囲気が柔らかい。
おそらくその独特な空気が、一層彼を捉えどころのない男として見せている。
義弟であるエリアスから見ると器用だがそれを生かし切れていない、少し残念な兄にしか見えないだけだ。
「やっぱり寝込んでいたか」
「……にいさん」
横に倒した身体を起こそうとすると、シルヴェスターはそのままでいいと手で制する。
義兄は近くにあった椅子を引っ張ってくると、ベッドの側に座る。
身体を横たえたエリアスの金髪を、猫を撫でるように柔らかく、慣れた手つきで触れる。
「仕事中に遠くから見えたんだよ。魔力が安定してないと思ってはいたんだが、案の定だな」
手が触れているだけで魔力が凪いでいく気配を感じて、ほっとする。これなら明日は寝込まなくてもすみそうだ。
シルヴェスターは淡い緑の瞳を心配の色に染めて、エリアスを見下ろす。
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シャツの袖から腕を抜くだけでも億劫で、普段よりも時間をかけて着替える。
服を片づけようとしても、それができないほど身体がだるい。諦めて力尽きるように、柔らかなシーツへと身を投げ出す。
魔力が乱れた状態で護衛をしていると、すぐさまトリスタンに気づかれた。珍しく体調が悪そうなエリアスを見て、他の近衛騎士にも心配された。
エリアスは平気だと言ったけれど、青い顔では説得力もない。すぐさま交代を命令された。
トリスタンは無表情を装っていたけれど、視線でエリアスのことを心配しているとすぐに分かった。
トリスタンは無表情を装っていたけれど、視線でエリアスのことを心配しているとすぐに分かった。
このまま任務を続けても周囲に迷惑をかけるだけである。渋々ではあるものの、エリアスはおとなしく休むことにした。
セドリックと出会ったときに、嫌な予感はあったのだ。
トリスタンの護衛をしていることもあり、エリアスは王族の特異体質のことをある程度知っている。
王族の魔力は、他の人間と質が違う。その血筋の人間は魔力に問題が起きたとしても、一般的な魔力調整では治らないと護衛に任命されたときに聞いた。
王族の魔力は、他の人間と質が違う。その血筋の人間は魔力に問題が起きたとしても、一般的な魔力調整では治らないと護衛に任命されたときに聞いた。
それは貴族の当主であればほぼ皆知っていることで、義父であるサザランド伯爵も知っている。
幼い頃からエリアスはなんとなく察していたけれど、義父からそのことを聞いたわけではない。
ただ、体内の魔力が反応することで、実体験として知ることになったのだ。
ただ、体内の魔力が反応することで、実体験として知ることになったのだ。
アストリア王国の王族は、神竜の血を受け継いでいる。初代国王が神竜と人間の混血だという言い伝えもある。
そんな血筋の一族だからか、王族の人間は竜騎士のように竜と契約していなくても対話ができる。そして竜たちはその血を敬い、自ら王族に従うのだ。
それが可能な仕組みというものは解明されていないのだが、エリアスには少しだけ分かることがあった。
生まれながら膨大な魔力を持っていても、エリアスはほとんど魔法が扱えない。それなのに魔力だけで他者を圧倒してしまう。
その魔力は、昔から魔道具を使った測定が不可能だった。
その魔力は、昔から魔道具を使った測定が不可能だった。
多少魔力が多いくらいなら普通に暮らせたのだが、多すぎる魔力はときにエリアスの身体を蝕んだ。幼い頃はよく熱を出して寝込むこともあった。
今では身体がだるくなる程度で済んでいる。
今では身体がだるくなる程度で済んでいる。
年齢を重ね、王立学園で過ごすようになると、王族との距離はそれなりに近くなる。
そのときにトリスタンと交友関係を築いた。
二歳年上のセドリックとも、学園内ですれ違うこともあった。
そのときにトリスタンと交友関係を築いた。
二歳年上のセドリックとも、学園内ですれ違うこともあった。
何度か彼らの近くに寄る機会もあり、そのうち気づくことになる。
王族の側にいると魔力が不安定になるのだ。
王族の側にいると魔力が不安定になるのだ。
おそらく魔力量が特に多いエリアスくらいにしか影響はない。
王族の側にいると、体内の魔力が落ち着かなくなり、体調不良になる。
王族の側にいると、体内の魔力が落ち着かなくなり、体調不良になる。
今回もセドリックと会話してから胸の鼓動が速くなっていた。触れてもいないし、数分間側にいただけなのに、ここまで影響されるとは予想外だった。
今のところ、トリスタンの側にいてもそれほど体調に変化はないのだが、セドリックだと顕著に表れる。
王立学園にいた頃から、彼の隣を横切るだけで体調が悪くなるほど、魔力に乱れが生じていた。
王立学園にいた頃から、彼の隣を横切るだけで体調が悪くなるほど、魔力に乱れが生じていた。
神竜については伝承程度のことしか知られていないけれど、竜についての研究は進んでいる。
膨大な魔力を持つということ、魔力制御がかなり器用であること。それだけではなく、目鼻が効き、人間には感知できない魔力の色や匂いが分かるといわれている。
膨大な魔力を持つということ、魔力制御がかなり器用であること。それだけではなく、目鼻が効き、人間には感知できない魔力の色や匂いが分かるといわれている。
竜は魔力の好みで自身の騎士を選んでいると研究者たちはいう。
神竜は古くから神話で語られるくらい壮大な存在だが、現在では本当にいるのかもわからない。
そのような伝説の生き物を一般的な竜と比べるなど、普通はしない。
そのような伝説の生き物を一般的な竜と比べるなど、普通はしない。
だが魔力に関しては似たようなところがあると、エリアスはなんとなく予想している。
エリアスに魔力の違いが分かるわけではないけれど、知られていない特別な何かがある。
直感でしかないし、詳細はエリアスにも分からない。ただ、身体に流れる母方の血が本能的に訴えてくるのだ。
直感でしかないし、詳細はエリアスにも分からない。ただ、身体に流れる母方の血が本能的に訴えてくるのだ。
今日はしばらく近距離でしばらく話をしたせいなのか、普段よりも波が激しい。荒々しく身のうちを暴れる大量の魔力は、身体に毒だ。
ベッドの上で落ち着かないように寝返りを打つ。
どくどくと耳の裏で速い脈を感じて、明日は熱が出るかもしれないとぼんやりと思考する。
どくどくと耳の裏で速い脈を感じて、明日は熱が出るかもしれないとぼんやりと思考する。
騎士になってからは、体調を崩すこともなく過ごしていた。今回の変調は久々ということもあり、精神的にも堪えていた。
普段なら弱音を吐くことはほぼないけれど、今は誰かに甘えたい気分だった。
普段なら弱音を吐くことはほぼないけれど、今は誰かに甘えたい気分だった。
不意に部屋の前に誰かが立つ気配を感じた。その気配の持ち主は部屋にかけられた結界に触れて戸が開けられないことに気づくと、乱暴に叩きはじめた。
騎士の寮だからといって、結界が完備されているわけではない。
エリアスは美貌のことで厄介ごとに巻き込まれることが多く、仕方なく結界の魔道具を部屋に置くようになったのだ。
エリアスは美貌のことで厄介ごとに巻き込まれることが多く、仕方なく結界の魔道具を部屋に置くようになったのだ。
馴染みのある魔力から、義兄のシルヴェスター・サザランドだと分かった。少し不安定だった精神が微かに落ち着く。
ベッドの側にある魔道具を操作して結界を解くのと同時に、扉が開いた。
「ようやく開いた」
シルヴェスターはほっと安堵の息を吐きながら、部屋へと入ってくる。
麦の稲穂のような優しい薄茶色の髪を揺らし、淡い緑の瞳には心配そうな色が見える。
麦の稲穂のような優しい薄茶色の髪を揺らし、淡い緑の瞳には心配そうな色が見える。
彼は第三騎士団に所属している騎士である。
とりわけ美しい容姿をしているわけではないし、目を惹くわけでもない。大衆の中では埋もれてしまいそうな、平凡な顔の作りをしている。
とりわけ美しい容姿をしているわけではないし、目を惹くわけでもない。大衆の中では埋もれてしまいそうな、平凡な顔の作りをしている。
穏やかな性格で、柔和な笑みが印象的だが、それがどことなく謎めいている。
体躯は騎士らしく鍛えられていて、厚みもあり、がっしりとしている。
体躯は騎士らしく鍛えられていて、厚みもあり、がっしりとしている。
平凡にしか見えない義兄だが、魔力操作が騎士団の中でも群を抜いて秀でている。
魔力で個人が分かるほど敏感な人間はいないけれど、近くにいれば何かしら感想を持つものだ。だがシルヴェスターの魔力は完璧に制御されていて、人間らしい雰囲気が一切感じられない。
側にいて静かすぎる気配は、却って落ち着かない。
側にいて静かすぎる気配は、却って落ち着かない。
騎士でありながら、ここまで魔力制御に長けているのも珍しい。
学生時代には、魔術師団長から直接勧誘を受けたと聞いたことがある。けれどシルヴェスターは剣を振るうことが好きで、魔術師になるつもりはなかったため断ったそうだ。
学生時代には、魔術師団長から直接勧誘を受けたと聞いたことがある。けれどシルヴェスターは剣を振るうことが好きで、魔術師になるつもりはなかったため断ったそうだ。
魔術師ではないものの、その素養もあるため、一般的な騎士と比べると雰囲気が柔らかい。
おそらくその独特な空気が、一層彼を捉えどころのない男として見せている。
おそらくその独特な空気が、一層彼を捉えどころのない男として見せている。
義弟であるエリアスから見ると器用だがそれを生かし切れていない、少し残念な兄にしか見えないだけだ。
「やっぱり寝込んでいたか」
「……にいさん」
「……にいさん」
横に倒した身体を起こそうとすると、シルヴェスターはそのままでいいと手で制する。
義兄は近くにあった椅子を引っ張ってくると、ベッドの側に座る。
身体を横たえたエリアスの金髪を、猫を撫でるように柔らかく、慣れた手つきで触れる。
義兄は近くにあった椅子を引っ張ってくると、ベッドの側に座る。
身体を横たえたエリアスの金髪を、猫を撫でるように柔らかく、慣れた手つきで触れる。
「仕事中に遠くから見えたんだよ。魔力が安定してないと思ってはいたんだが、案の定だな」
手が触れているだけで魔力が凪いでいく気配を感じて、ほっとする。これなら明日は寝込まなくてもすみそうだ。
シルヴェスターは淡い緑の瞳を心配の色に染めて、エリアスを見下ろす。
シルヴェスターは淡い緑の瞳を心配の色に染めて、エリアスを見下ろす。