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3-3 ◆ ユウト Side ◆

ー/ー



 眞鍋詩織は、出会ったときからすでにかなり不機嫌だった。

 あまりのご立腹っぷりに、約束の時間を間違ってしまったのかと思ったほどだ。

 ただ、彼女が僕の前で不機嫌そうにしていること自体は別に珍しくもないし、こうしてちゃんと待ち合わせ場所にきてくれているだけでもひとまずは感謝しよう。

 そもそもの話、この約束自体がなかったことにされていてもおかしくないと思っていた。

 すでに二回も関係を持っている僕たちだが、相変わらず学校では会話らしい会話もしていないし、連絡先だって交換していない。

 あんな勢いだけで交わした口約束なんて、土壇場で面倒くさくなったり、あるいは単純に忘れてしまっていたり、そういったことも十分にありえたはずだ。

 だが、待ち合わせ場所にはしっかりと詩織の姿があった。

 その上、先週にアラウンドワンで見かけたときよりもさらにオシャレで綺麗な格好をしていた。

 髪の毛はCMで見る女優みたいにサラサラだし、落ち着いた感じのメイクはいつもなら冷たい印象の彼女の雰囲気に年相応の可愛らしさをもたらしている。

 その一方で、胸許が大きく開いたシャツとタイトめのミニスカート、その上にオーバーサイズのカーディガンといった服装にはちゃんとギャルらしい色っぽさがあって、本物のモデルかと思うくらいキラキラと輝いて見えた。

 一縷の可能性に賭けてこの場に足を運ぶ決断をした自分を褒めてやりたい。

「あんた、普段はラウワンのゲーセンでなにしてんの」

 足早に出ていった詩織が店先で足をとめ、ギロリと僕の顔を睨みつけながらそんなことを訊いてきた。

「えっ……音ゲーとかやってるけど」

「ダサ。ああいうオタクくさいゲーム、何が楽しいのかマジで分かんない」

 僕の答えに、詩織は鼻を鳴らして肩をすくめた。

 まあ、音ゲーが一般的にオタクくさいものだと思われていることについて異論はない。

 とはいえ、プレイする分には誰がやっても楽しいものだと思うのだが……。

「やったことはないの?」

「あるわけないでしょ」

「じゃあ、試しに眞鍋さんも一緒にやってみる?」

 なんの気なしに訊くと、詩織は何故かギョッとしたように目を見開いて、それから僕の顔をさらにキツい目つきで睨みつけてくる。

「あんた……」

「あ、いや、ちょっと言ってみただけで……」

 そのあまりに剣呑な目つきに、僕は即座に両手を上げて降参の意を示した。

 さすがに少し馴れ馴れしすぎただろうか。

 そんな不安に駆られていると、詩織はプイッと顔を背けながら小さな声で言う。

「……いいわよ。仕方ないから、つきあってやるわ。それと、あたしのことは、名前で……」

 幸いにも、怒っているわけではなさそうだった。

 ただ、あまりにもボソボソ言うので最後のほうがほとんど聞き取れず、慌てて訊き返す。

「ご、ごめん、なんて言ったの?」

「うっさい。もういいから、さっさと行くわよ」

 しかし、それには答えてくれず、詩織は店を出たときと同じようにプリプリとアラウンドワンがあるほうに向かって歩き出してしまう。

(うーむ、女の子の考えてることは相変わらずよく分からん……)

 以前にも思ったことを頭の中で反芻しながら、僕は慌ててそのあとを追いかけた。



     ※



 なにやら怒ってはいたものの、詩織はちゃんとゲームセンターにつきあってくれた。

 休日ということもあって店内は賑わっていたが、僕が遊びたかったゲームはそこまで長い列ができてるということもなく、幸いにもすぐプレイすることができた。

「ほら、こうやって、流れてくる棒みたいなのが手前の線のところまできたらここをタッチするだけだよ」

 音ゲーと言ってもいろいろとあるが、僕が最近ハマっているのは『ニュウリズム』というシリーズのものだ。

 筐体が横にいくつも並んでいて、たまに夏希と一緒に遊ぶこともあった。

 もちろん、いきなり詩織に一人でプレイさせるのもハードルが高そうだったので、まずは僕が後ろからサポートする形で体験してもらうことにする。

「なんかモグラ叩きみたいね……」

 そう呟きながら、詩織は手許のタッチボードをバンバンと叩いていた。

『ニュウリズム』のルールは単純で、基本的には画面の奥から流れてくるノーツの位置に合わせてモニタの手前に設置されたボードをタッチするだけである。

 確かに、モグラ叩き――というか、大昔に流行ったというワニを叩くゲームに近いような気がしなくもない。

「あんた、こんなのやっててよく手が痛くならないわね」

 なんだかんだで迫りくるノーツに合わせてバンバンと掌をボードに打ちつける詩織は楽しそうだったが、確かにその勢いで叩きつけてれば痛くもなるだろう。

「そんなに強く叩かなくても大丈夫だよ」

 僕は後ろから詩織の手に自分の手を重ねると、ボードに優しくタッチさせて、それでもセンサーが反応してくれることを教えてあげた。

「あっ、ちょっ……」

 ――と、急に詩織が驚いたようにギュッと全身を硬直させ、それまで軽快にボードを叩いていた腕の動きもすっかり鈍ってしまい、一気にミスを連発してしまう。

 間違いなく僕が急に体に触れたせいだろうが、そこまで焦るようなことだろうか。

「ご、ごめん……」

 どうにも距離感が分からず、僕は慌てて身を引いた。

 すでに肉体的な関係を持っているとはいえ、同時に僕たちの間にあるのはそれだけでしかないのも事実だ。

 友達でもないし、ましてや恋人なんて関係でもない。

 セフレ――というのも、ちょっと違う気がする。

 というか、僕たちはいったいどういった関係なのだろう。

「……もういいわ。行くわよ」

 詩織は僕の顔を見ずにそう言うと、まだプレイ中であるにもかかわらずゲームをほっぽり出してその場から立ち去ってしまった。

 僕は順番待ちをしていた人に一声だけかけると、慌ててそのあとを追う。

 今日はもう出会ってからずっと彼女の後ろを追いかけさせられている気がするが、まさかこれってこの先の僕らの関係を暗示しているとかではないだろうな……。



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次のエピソードへ進む 3-4 ◇ 詩織 Side ◇


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 眞鍋詩織は、出会ったときからすでにかなり不機嫌だった。
 あまりのご立腹っぷりに、約束の時間を間違ってしまったのかと思ったほどだ。
 ただ、彼女が僕の前で不機嫌そうにしていること自体は別に珍しくもないし、こうしてちゃんと待ち合わせ場所にきてくれているだけでもひとまずは感謝しよう。
 そもそもの話、この約束自体がなかったことにされていてもおかしくないと思っていた。
 すでに二回も関係を持っている僕たちだが、相変わらず学校では会話らしい会話もしていないし、連絡先だって交換していない。
 あんな勢いだけで交わした口約束なんて、土壇場で面倒くさくなったり、あるいは単純に忘れてしまっていたり、そういったことも十分にありえたはずだ。
 だが、待ち合わせ場所にはしっかりと詩織の姿があった。
 その上、先週にアラウンドワンで見かけたときよりもさらにオシャレで綺麗な格好をしていた。
 髪の毛はCMで見る女優みたいにサラサラだし、落ち着いた感じのメイクはいつもなら冷たい印象の彼女の雰囲気に年相応の可愛らしさをもたらしている。
 その一方で、胸許が大きく開いたシャツとタイトめのミニスカート、その上にオーバーサイズのカーディガンといった服装にはちゃんとギャルらしい色っぽさがあって、本物のモデルかと思うくらいキラキラと輝いて見えた。
 一縷の可能性に賭けてこの場に足を運ぶ決断をした自分を褒めてやりたい。
「あんた、普段はラウワンのゲーセンでなにしてんの」
 足早に出ていった詩織が店先で足をとめ、ギロリと僕の顔を睨みつけながらそんなことを訊いてきた。
「えっ……音ゲーとかやってるけど」
「ダサ。ああいうオタクくさいゲーム、何が楽しいのかマジで分かんない」
 僕の答えに、詩織は鼻を鳴らして肩をすくめた。
 まあ、音ゲーが一般的にオタクくさいものだと思われていることについて異論はない。
 とはいえ、プレイする分には誰がやっても楽しいものだと思うのだが……。
「やったことはないの?」
「あるわけないでしょ」
「じゃあ、試しに眞鍋さんも一緒にやってみる?」
 なんの気なしに訊くと、詩織は何故かギョッとしたように目を見開いて、それから僕の顔をさらにキツい目つきで睨みつけてくる。
「あんた……」
「あ、いや、ちょっと言ってみただけで……」
 そのあまりに剣呑な目つきに、僕は即座に両手を上げて降参の意を示した。
 さすがに少し馴れ馴れしすぎただろうか。
 そんな不安に駆られていると、詩織はプイッと顔を背けながら小さな声で言う。
「……いいわよ。仕方ないから、つきあってやるわ。それと、あたしのことは、名前で……」
 幸いにも、怒っているわけではなさそうだった。
 ただ、あまりにもボソボソ言うので最後のほうがほとんど聞き取れず、慌てて訊き返す。
「ご、ごめん、なんて言ったの?」
「うっさい。もういいから、さっさと行くわよ」
 しかし、それには答えてくれず、詩織は店を出たときと同じようにプリプリとアラウンドワンがあるほうに向かって歩き出してしまう。
(うーむ、女の子の考えてることは相変わらずよく分からん……)
 以前にも思ったことを頭の中で反芻しながら、僕は慌ててそのあとを追いかけた。
     ※
 なにやら怒ってはいたものの、詩織はちゃんとゲームセンターにつきあってくれた。
 休日ということもあって店内は賑わっていたが、僕が遊びたかったゲームはそこまで長い列ができてるということもなく、幸いにもすぐプレイすることができた。
「ほら、こうやって、流れてくる棒みたいなのが手前の線のところまできたらここをタッチするだけだよ」
 音ゲーと言ってもいろいろとあるが、僕が最近ハマっているのは『ニュウリズム』というシリーズのものだ。
 筐体が横にいくつも並んでいて、たまに夏希と一緒に遊ぶこともあった。
 もちろん、いきなり詩織に一人でプレイさせるのもハードルが高そうだったので、まずは僕が後ろからサポートする形で体験してもらうことにする。
「なんかモグラ叩きみたいね……」
 そう呟きながら、詩織は手許のタッチボードをバンバンと叩いていた。
『ニュウリズム』のルールは単純で、基本的には画面の奥から流れてくるノーツの位置に合わせてモニタの手前に設置されたボードをタッチするだけである。
 確かに、モグラ叩き――というか、大昔に流行ったというワニを叩くゲームに近いような気がしなくもない。
「あんた、こんなのやっててよく手が痛くならないわね」
 なんだかんだで迫りくるノーツに合わせてバンバンと掌をボードに打ちつける詩織は楽しそうだったが、確かにその勢いで叩きつけてれば痛くもなるだろう。
「そんなに強く叩かなくても大丈夫だよ」
 僕は後ろから詩織の手に自分の手を重ねると、ボードに優しくタッチさせて、それでもセンサーが反応してくれることを教えてあげた。
「あっ、ちょっ……」
 ――と、急に詩織が驚いたようにギュッと全身を硬直させ、それまで軽快にボードを叩いていた腕の動きもすっかり鈍ってしまい、一気にミスを連発してしまう。
 間違いなく僕が急に体に触れたせいだろうが、そこまで焦るようなことだろうか。
「ご、ごめん……」
 どうにも距離感が分からず、僕は慌てて身を引いた。
 すでに肉体的な関係を持っているとはいえ、同時に僕たちの間にあるのはそれだけでしかないのも事実だ。
 友達でもないし、ましてや恋人なんて関係でもない。
 セフレ――というのも、ちょっと違う気がする。
 というか、僕たちはいったいどういった関係なのだろう。
「……もういいわ。行くわよ」
 詩織は僕の顔を見ずにそう言うと、まだプレイ中であるにもかかわらずゲームをほっぽり出してその場から立ち去ってしまった。
 僕は順番待ちをしていた人に一声だけかけると、慌ててそのあとを追う。
 今日はもう出会ってからずっと彼女の後ろを追いかけさせられている気がするが、まさかこれってこの先の僕らの関係を暗示しているとかではないだろうな……。