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3-2 ◇ 詩織 Side ◇

ー/ー



 稲村ユウトは、待ち合わせ時間ぴったりになってようやく姿を現した。

 店の中に入るなりキョロキョロとテーブル席のほうに首をめぐらせ、あたしの顔を見つけるなり安堵したように溜息を吐いている。

「よかった。すっぽかされてるかもって少し不安だったんだ」

 ユウトはあたしが座っている席までやってくると、暢気にそんなことを言ってきた。

 あたしはすでにかなりイライラしていたが、表には出さないようになんとか我慢する。

 すっぽかされたのではないかと思っていたのは、こちらのほうだ。

 もう三十分も前からここで待っていて、五分前になってもなかなかユウトが姿を見せないことに内心ではかなり焦燥していた。

 普通、こういう待ち合わせは最低でも約束の十分前くらいには到着しているものだろう。

 連絡先も交換していないし、もしこれで待ち合わせを忘れられていたのだとしたら、あたしがただの馬鹿みたいではないか。

(どれだけ準備に時間かけたと思ってんのよ……!)

 昨日の晩からしっかり服選びをして、今日は朝からシャワーを浴びて二時間もかけてメイクをして、待ち合わせの一時間前には駅に着いていたのだ。

 あまりに早く着きすぎたから、近くをブラブラしながら適当して時間を潰して、それで三十分前に「そろそろきてるかな……」と思ってやってきてみれば、これである。

(これじゃ、あたしだけが楽しみにしてたみたいじゃない……!)

 対してユウトは、以前に見たときと変わり映えのしないスウェットのパーカーにジーパンという冴えない格好だった。

 コイツには、これからデートだという自覚が本当にあるのだろうか。

(……いや、別にデートじゃないし……!)

 慌てて首を振る。

 そうだ。これはデートじゃない。

 ただ、あたしは自分の性欲を処理したいだけ。そのためにユウトを呼び出しただけだ。

 決して、デートなんかじゃ……。

「お昼は食べた? 僕も何か注文したほうがいいかな」

 そんなこちらの焦りなど気づいた様子もなく、ユウトがヘラヘラと訊いてくる。

「……待ってる間に食べた。そっちは?」

 イライラしていることを察せられたらそれはそれで腹が立つので、できるだけ声を抑えながら訊き返した。

 すると、何がおかしいのか、ユウトはキョトンと目を丸くしてみせる。

「僕は家で食べてきたけど……待ってたの? あれ? 待ち合わせ時間、間違ってた?」

(あっ……!)

 しまった。迂闊だった。イライラしすぎて、そこまで気が回らなかった。

 首筋のあたりから耳の裏にかけて、一気に熱を持っていくのを感じる。

(コイツ……何処まであたしに恥をかかせれば気が済むのよ……!)

「い、行くわよ!」

 席を立つと、慌てた様子のユウトは無視して店の出口に向かって歩き出した。

 今日はもう朝からずっとリズムを崩されっぱなしだ。

 今朝だって、興奮のせいかアラームが鳴るずっと前に目が覚めてしまった。

 本当は認めなくない。絶対に認めたくはないが――。

 あたしはずっと、この日がくるのが楽しみで楽しみで仕方がなかったのだ。



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 稲村ユウトは、待ち合わせ時間ぴったりになってようやく姿を現した。
 店の中に入るなりキョロキョロとテーブル席のほうに首をめぐらせ、あたしの顔を見つけるなり安堵したように溜息を吐いている。
「よかった。すっぽかされてるかもって少し不安だったんだ」
 ユウトはあたしが座っている席までやってくると、暢気にそんなことを言ってきた。
 あたしはすでにかなりイライラしていたが、表には出さないようになんとか我慢する。
 すっぽかされたのではないかと思っていたのは、こちらのほうだ。
 もう三十分も前からここで待っていて、五分前になってもなかなかユウトが姿を見せないことに内心ではかなり焦燥していた。
 普通、こういう待ち合わせは最低でも約束の十分前くらいには到着しているものだろう。
 連絡先も交換していないし、もしこれで待ち合わせを忘れられていたのだとしたら、あたしがただの馬鹿みたいではないか。
(どれだけ準備に時間かけたと思ってんのよ……!)
 昨日の晩からしっかり服選びをして、今日は朝からシャワーを浴びて二時間もかけてメイクをして、待ち合わせの一時間前には駅に着いていたのだ。
 あまりに早く着きすぎたから、近くをブラブラしながら適当して時間を潰して、それで三十分前に「そろそろきてるかな……」と思ってやってきてみれば、これである。
(これじゃ、あたしだけが楽しみにしてたみたいじゃない……!)
 対してユウトは、以前に見たときと変わり映えのしないスウェットのパーカーにジーパンという冴えない格好だった。
 コイツには、これからデートだという自覚が本当にあるのだろうか。
(……いや、別にデートじゃないし……!)
 慌てて首を振る。
 そうだ。これはデートじゃない。
 ただ、あたしは自分の性欲を処理したいだけ。そのためにユウトを呼び出しただけだ。
 決して、デートなんかじゃ……。
「お昼は食べた? 僕も何か注文したほうがいいかな」
 そんなこちらの焦りなど気づいた様子もなく、ユウトがヘラヘラと訊いてくる。
「……待ってる間に食べた。そっちは?」
 イライラしていることを察せられたらそれはそれで腹が立つので、できるだけ声を抑えながら訊き返した。
 すると、何がおかしいのか、ユウトはキョトンと目を丸くしてみせる。
「僕は家で食べてきたけど……待ってたの? あれ? 待ち合わせ時間、間違ってた?」
(あっ……!)
 しまった。迂闊だった。イライラしすぎて、そこまで気が回らなかった。
 首筋のあたりから耳の裏にかけて、一気に熱を持っていくのを感じる。
(コイツ……何処まであたしに恥をかかせれば気が済むのよ……!)
「い、行くわよ!」
 席を立つと、慌てた様子のユウトは無視して店の出口に向かって歩き出した。
 今日はもう朝からずっとリズムを崩されっぱなしだ。
 今朝だって、興奮のせいかアラームが鳴るずっと前に目が覚めてしまった。
 本当は認めなくない。絶対に認めたくはないが――。
 あたしはずっと、この日がくるのが楽しみで楽しみで仕方がなかったのだ。