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五話 私、この下はシャネルN°5しか着てないの。

ー/ー



「どなた?」

 中から返答がある。ここ数日ですっかり聞き慣れた方とはちょっと違う、トーンを落とした声。

「逸郎です」

「ひとり?」

 トーンが上がった。いつもの方。逸郎は、はい、と応じた。

「待ってたよ。入って」

 逸郎はドアを開け、横尾研究室に入った。
 目の前には簡易ソファとミニテーブル、左右の壁と正面中央に書架が並んでいる。

「ちょっとその辺に座って、待っててね。あ、あと、鍵閉めといて」

 いぶかしみながらも後ろ手でドアのシリンダー錠を回し、逸郎はソファに腰かけた。部屋中央の書架の裏側から声がする。あの向こうにすみれ先生用のデスクがあるようだ。んー、よいしょっと。何かに格闘する声と、擦れるような音。そのあとに長いジッパーを閉める音がした。

「できたー。おまたせ」

 じゃーん、という掛け声とともに現れたのは、全身を黒い革ツナギに覆われたすみれ先生だった。

「どう?似合う?」

 黒いブーツと黒い革グローブもフルセットで装着したその姿は、彼女の素晴らしいボディラインを完全なシルエットでなぞっていた。フロントエントリーのジッパーを胸の谷間の少し上まで下ろしポーズを取るすみれ先生。ご丁寧にウィンクまでして見せる。

「黙ってないで、ちゃんと感想言って」

 見蕩れていた逸郎は、我に返ったように口を開き、芸の無い感嘆を吐いた。

「かっけぇー」

「でしょー!」

 そんな返答でもお気に召したようで、すみれ先生はにこにこしながら回り込んできた。

「ほらほら、見て見て。昨日届いたばっかで今日初めて全部合わせてみてるの。かっこいいでしょう。ほら、触ってごらん。カンガルーだよ。ワシントン条約ぎりぎりだよ」

 そういいながらひじを突き出してくる。ソファから立ち上がり、おずおずと手を伸ばして指先でひじ辺りに触れる逸郎。

「そんなんじゃわかんないでしょ。ほら、こんな感じで触ってみて」

 グローブを外し、開いた右手で自分の左肩から腕の先まで触って見せるすみれ先生。じゃ、失礼しまして、などとぼそぼそ言いながら同じように彼女の左腕を肩から撫でおろしてみた。直接肌を触ってるみたいだった。

「すげぇ、しっとりくる」

「ねー、やっぱ本革は違うねぇ」

「これ、結構するんじゃないですか」

「オーダーメイドだしね、吊るしの倍はしたかな。原付なら楽勝で1台買えちゃうくらい」

 逸郎の周りをくるくる回りながら喋っているすみれ先生は、実に嬉しそうだった。オフタイムのこの人は、本当に感情表現が豊かだな。
 動きを止め、急に真顔になったすみれ先生は、やや上目遣いの視線を正面の逸郎の目に合わせたまま、胸のジッパーに手を掛けてこう言った。

《*「私、この下はシャネルN°5しか着てないの」*》

 そのままゆっくりとジッパーを下していく。首筋から下の白い肌が覗き、豊かな胸の谷間が見えてくる。
 ゴクリ、と息をのむ音がした。むろん逸郎の。

「なぁんてね。うそうそ。ちゃんと中に水着着てるから。やっぱいっぺんやってみたいじゃん、峰不二子ごっこ」

 大笑いしながら、すみれ先生はソファにどんと腰を落とす。これ、膝がちょっと曲げづらいんだよね、などと言いながら。それはマリリン•モンローごっこでしょ、というツッコミを逸郎は呑み込んだ。

「てか、中、水着だけ?」

「そこツッコんじゃう? やっぱ健康な男の子だね、イツローくんも。お姉さん、ちょっと安心したよ」

 俺、なんか心配されるようなことしてたか?

「ゆうべ袖通してはみたんだけど、中結構きつくてね。下着(じか)くらいじゃないと足とか通らないのよ。上もタンクトップか、ぎりTシャツ。まぁイツローくんもアラサーの下着姿とか見たくはないだろうから、今日は水着にしてみました。ほら、こんな感じ」

 そう言うと、すみれ先生はジッパーを一気にへそまで下ろしてみせた。白いビキニに包まれたボリュームのあるバストが窮屈な革スーツを左右に押し広げている。そのまま、よいしょ、と言いながら腕を抜いている。片方腕を抜くたびに両の胸がぶるんぶるん揺れている。総統、ヤバいッス。ヤバすぎッス。

「この部屋ちょっと暑いんだよね。さすがに革ツナギで上から下まで覆ってると中汗だくになっちゃいそうだから。ごめんね。粗末なもんで」

 上半身が白ビキニだけの半裸美女が、学術書籍満載の書棚を背景にソファに座ってる図。AVでもこんなエロい絵面は見たことない。前かがみにならざるを得ない逸郎は、とにかく誤魔化そうとパイプ椅子に腰かけた。


「ちなみに先生、さっき言ってたレポートってのは?」

 目の前で揺れるエロオブジェから意識を逸らすため、逸郎はあえて話題を変えた。

「え? レポート?なにそれ。あ、さっきの口実か。無い無いそんなもん。あるわけないじゃん。イツローくんも覚えないでしょ」

 まぁ当然だよな。てことは、

「俺を呼んだのはツナギ姿を見せてくれるために?」

「ん。それもあるけど、あともう一個」

 そう答え、すみれ先生はミニテーブルの下から何かを取り出そうとする。座ったまま屈みこむことで、肩甲骨のくぼみと重力に引っ張られる胸のボリュームがいやがうえにも目に飛び込んでくる。いったいこれはなんの拷問なんだ?

「はい、これ」

 すみれ先生が取り出したものは、大量のバイクカタログだった。

「新しいのも古いのも、いろいろ取り揃えたよ。イツローくんこの前言ってじゃん。アメリカンに乗りたいってさ。ほら、もっとこっちに来て、一緒に乗りたいバイク選ぼ」

 ミニテーブルにカタログの束を載せたすみれ先生は、申し訳程度の白ビキニに包まれた胸を揺らしながら手招きしてきた。無理。もう耐えられないです。逸郎は降参した。

「その前に先生、上になんか着てください。俺には刺激が強すぎます」


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「どなた?」
 中から返答がある。ここ数日ですっかり聞き慣れた方とはちょっと違う、トーンを落とした声。
「逸郎です」
「ひとり?」
 トーンが上がった。いつもの方。逸郎は、はい、と応じた。
「待ってたよ。入って」
 逸郎はドアを開け、横尾研究室に入った。
 目の前には簡易ソファとミニテーブル、左右の壁と正面中央に書架が並んでいる。
「ちょっとその辺に座って、待っててね。あ、あと、鍵閉めといて」
 いぶかしみながらも後ろ手でドアのシリンダー錠を回し、逸郎はソファに腰かけた。部屋中央の書架の裏側から声がする。あの向こうにすみれ先生用のデスクがあるようだ。んー、よいしょっと。何かに格闘する声と、擦れるような音。そのあとに長いジッパーを閉める音がした。
「できたー。おまたせ」
 じゃーん、という掛け声とともに現れたのは、全身を黒い革ツナギに覆われたすみれ先生だった。
「どう?似合う?」
 黒いブーツと黒い革グローブもフルセットで装着したその姿は、彼女の素晴らしいボディラインを完全なシルエットでなぞっていた。フロントエントリーのジッパーを胸の谷間の少し上まで下ろしポーズを取るすみれ先生。ご丁寧にウィンクまでして見せる。
「黙ってないで、ちゃんと感想言って」
 見蕩れていた逸郎は、我に返ったように口を開き、芸の無い感嘆を吐いた。
「かっけぇー」
「でしょー!」
 そんな返答でもお気に召したようで、すみれ先生はにこにこしながら回り込んできた。
「ほらほら、見て見て。昨日届いたばっかで今日初めて全部合わせてみてるの。かっこいいでしょう。ほら、触ってごらん。カンガルーだよ。ワシントン条約ぎりぎりだよ」
 そういいながらひじを突き出してくる。ソファから立ち上がり、おずおずと手を伸ばして指先でひじ辺りに触れる逸郎。
「そんなんじゃわかんないでしょ。ほら、こんな感じで触ってみて」
 グローブを外し、開いた右手で自分の左肩から腕の先まで触って見せるすみれ先生。じゃ、失礼しまして、などとぼそぼそ言いながら同じように彼女の左腕を肩から撫でおろしてみた。直接肌を触ってるみたいだった。
「すげぇ、しっとりくる」
「ねー、やっぱ本革は違うねぇ」
「これ、結構するんじゃないですか」
「オーダーメイドだしね、吊るしの倍はしたかな。原付なら楽勝で1台買えちゃうくらい」
 逸郎の周りをくるくる回りながら喋っているすみれ先生は、実に嬉しそうだった。オフタイムのこの人は、本当に感情表現が豊かだな。
 動きを止め、急に真顔になったすみれ先生は、やや上目遣いの視線を正面の逸郎の目に合わせたまま、胸のジッパーに手を掛けてこう言った。
《*「私、この下はシャネルN°5しか着てないの」*》
 そのままゆっくりとジッパーを下していく。首筋から下の白い肌が覗き、豊かな胸の谷間が見えてくる。
 ゴクリ、と息をのむ音がした。むろん逸郎の。
「なぁんてね。うそうそ。ちゃんと中に水着着てるから。やっぱいっぺんやってみたいじゃん、峰不二子ごっこ」
 大笑いしながら、すみれ先生はソファにどんと腰を落とす。これ、膝がちょっと曲げづらいんだよね、などと言いながら。それはマリリン•モンローごっこでしょ、というツッコミを逸郎は呑み込んだ。
「てか、中、水着だけ?」
「そこツッコんじゃう? やっぱ健康な男の子だね、イツローくんも。お姉さん、ちょっと安心したよ」
 俺、なんか心配されるようなことしてたか?
「ゆうべ袖通してはみたんだけど、中結構きつくてね。下着|直《じか》くらいじゃないと足とか通らないのよ。上もタンクトップか、ぎりTシャツ。まぁイツローくんもアラサーの下着姿とか見たくはないだろうから、今日は水着にしてみました。ほら、こんな感じ」
 そう言うと、すみれ先生はジッパーを一気にへそまで下ろしてみせた。白いビキニに包まれたボリュームのあるバストが窮屈な革スーツを左右に押し広げている。そのまま、よいしょ、と言いながら腕を抜いている。片方腕を抜くたびに両の胸がぶるんぶるん揺れている。総統、ヤバいッス。ヤバすぎッス。
「この部屋ちょっと暑いんだよね。さすがに革ツナギで上から下まで覆ってると中汗だくになっちゃいそうだから。ごめんね。粗末なもんで」
 上半身が白ビキニだけの半裸美女が、学術書籍満載の書棚を背景にソファに座ってる図。AVでもこんなエロい絵面は見たことない。前かがみにならざるを得ない逸郎は、とにかく誤魔化そうとパイプ椅子に腰かけた。
「ちなみに先生、さっき言ってたレポートってのは?」
 目の前で揺れるエロオブジェから意識を逸らすため、逸郎はあえて話題を変えた。
「え? レポート?なにそれ。あ、さっきの口実か。無い無いそんなもん。あるわけないじゃん。イツローくんも覚えないでしょ」
 まぁ当然だよな。てことは、
「俺を呼んだのはツナギ姿を見せてくれるために?」
「ん。それもあるけど、あともう一個」
 そう答え、すみれ先生はミニテーブルの下から何かを取り出そうとする。座ったまま屈みこむことで、肩甲骨のくぼみと重力に引っ張られる胸のボリュームがいやがうえにも目に飛び込んでくる。いったいこれはなんの拷問なんだ?
「はい、これ」
 すみれ先生が取り出したものは、大量のバイクカタログだった。
「新しいのも古いのも、いろいろ取り揃えたよ。イツローくんこの前言ってじゃん。アメリカンに乗りたいってさ。ほら、もっとこっちに来て、一緒に乗りたいバイク選ぼ」
 ミニテーブルにカタログの束を載せたすみれ先生は、申し訳程度の白ビキニに包まれた胸を揺らしながら手招きしてきた。無理。もう耐えられないです。逸郎は降参した。
「その前に先生、上になんか着てください。俺には刺激が強すぎます」