第百八十四話 宮廷舞踏会(三)カリンとフェリシア
ー/ー--時間を少し戻した ゴズフレズ王国 王都ハフニア 王城。
バレンシュテット帝国皇太子ジークフリート一行への歓待のため、王城で宮廷舞踏会が催されていた。
二曲目の円舞曲が終わり、他の参加者も踊ることが出来るダンスタイムとなった。
踊らない者は席に座り、食事やお酒を楽しみながらダンスを鑑賞し始める。
カリンは、一人で佇むフェリシアの元に行くと、二人でテラスに向かう。
フェリシアは、中庭に面したテラスで心地良い夜風に当たりながら呟く。
「……良い風です。喧騒というか、人混みというか。……どうも、私は、舞踏会という場は苦手で」
カリンは、フェリシアの傍らで笑顔で答える。
「ふふ。私もです」
ジークの命により皇宮で倒れたカリンに付き添っていたのがフェリシアであり、カリンは三人いるジークの妃たちの中で、フェリシアに最も親しみを感じていた。
カリンは、フェリシアに尋ねる。
「あの……、フェリシアさん。色々とお話を伺いしても?」
フェリシアは、カリンからの問いに笑顔で答える。
「ええ。どうぞ」
カリンは、興味津々でフェリシアに尋ねる。
「その、目にされている御化粧は、何というのですか?」
フェリシアは、自分の目の周りを指差して笑顔で答える。
「ふふ。これですか? ……これは『アイシャドウ』といって、私の生まれた国で、礼装の時に女性がする化粧です。……強い日差しから目を守る効果もあるのですよ」
「そうなのですか」
カリンは、初めて見る遠い異国の文化に目を輝かせる。
「フェリシアさんは、バレンシュテットの生まれではないのですか? ……ソフィアさんや、アストリッドさんとは、雰囲気が違うというか……気を悪くされたら、ごめんなさい」
フェリシアは、遠慮がちに尋ねるカリンに笑顔で答える。
「お気になさらないで下さい。……私は、バレンシュテット人ではありません。ここより遥か東にある『トラキア』という地の生まれです」
カリンは驚く。
「トラキア……初めて聞きました」
フェリシアは自分の瞳と髪を指差して告げる。
「ふふふ。この黒い瞳も、黒い髪も、トラキア人のものです」
遠い異国の巫女服を身を纏い、月の光を浴びながらテラスに立つフェリシアの姿は、カリンの目に幻想的に映る。
「女の私が口にするのも何ですが……、フェリシアさん、とても綺麗です。美人です」
フェリシアはカリンの言葉に微笑む。
「そうですか? ありがとうございます」
カリンは、興味津々にフェリシアに尋ねる。
「フェリシアさんが着ている、そのドレスというか、衣装も……トラキアの?」
フェリシアは自分の着ている服を指して答える。
「この服ですか? これはトラキアの巫女服です」
「巫女?」
「アスカニアの神々にお祈りする職業です」
「そうなのですか」
カリンは、初めて目にする遠い異国トラキアの文化に目を輝かせながら、気兼ねなくフェリシアに色々と尋ねる。
フェリシアは、元々、人々に神々の教えを説く巫女という職業であるため、カリンから寄せられる様々な質問に丁寧に答えていた。
やがて、二人の話は、フェリシアの夫であるジークの話題になる。
カリンは遠慮がちに尋ねる。
「ジーク様とフェリシアさんは、どの様に知り合われたのですか? よろしければ、お二人の馴れ初めを伺いしても?」
フェリシアは、少し寂しげな顔をして口を開く。
「私は、帝国軍に捕らえられてジーク様にお会いしたのです」
カリンはフェリシアの言葉に驚く。
「捕えられて!?」
フェリシアは続ける。
「帝国とトラキアの戦争があって、トラキアはバレンシュテット帝国に占領され併合されました。その時にトラキアの王族であった私は帝国軍に捕らえられ、捕虜としてジーク様にお会いしました。……それがジーク様との最初の出会いでした」
カリンは、気まずそうにフェリシアに謝罪する。
「ごめんなさい。その……とても……悪いことを聞いてしまったようで……」
フェリシアは笑顔で答える。
「カリンさんが謝ることはありません。戦争で負けた国の王族の女が、征服者の妻になることは、古今東西、珍しいことではありません。気にしないで下さい。……それに」
「……それに?」
「今の私は、ジーク様の三人目の妃として、とても幸せに過ごしています」
「そうなのですか?」
「ええ。国や民を背負うという重責から解き放たれ、ジーク様の妃の一人として、なに一つ不自由無く暮らしています」
「御妃が三人もおられると、色々と大変なのでは……?」
フェリシアは、ジークから贈られたショールを止めている帝室の紋章のブローチを指先でなぞりながら思い出す。
トラキア連邦の降伏式。
フェリシアは、衆目に晒されながら裸に剥かれ、平伏してトラキアの降伏を宣言させられた。
ジークは、羞恥と屈辱で泣いているフェリシアを自らのマントで覆うと、穏やかにフェリシアに告げた。
「……もう苦しまなくて良い」
そして、気を失ったフェリシアをマントで包んで抱き上げ、あの場から救い出してくれた。
「ジーク様は、他に妃が何人いても、私を害しようという者が何人いようとも、私を守ってくれます。……あの方は、お優しい方です」
フェリシアの言葉に釣られ、カリンも本音を漏らす。
「……素敵な方ですよね」
フェリシアは、悪戯っぽく微笑むとカリンをからかう。
「カリンさん、ジーク様の四人目の妃に立候補されては、いかがです? カリンさんなら、きっと、ジーク様は迎え入れてくれますよ」
カリンは、照れて顔を真っ赤にしながら答える。
「そんな! 私なんて! 私は、フェリシアさんみたいな美人じゃないですし……ジーク様の妃に立候補するなんて、そんな……」
顔を真っ赤にして慌てるカリンに、フェリシアは微笑み掛けた。
華やかな宮廷舞踏会を他所に、二人がテラスで他愛もない話で盛り上がる中、ゆっくりと時は過ぎていた。
バレンシュテット帝国皇太子ジークフリート一行への歓待のため、王城で宮廷舞踏会が催されていた。
二曲目の円舞曲が終わり、他の参加者も踊ることが出来るダンスタイムとなった。
踊らない者は席に座り、食事やお酒を楽しみながらダンスを鑑賞し始める。
カリンは、一人で佇むフェリシアの元に行くと、二人でテラスに向かう。
フェリシアは、中庭に面したテラスで心地良い夜風に当たりながら呟く。
「……良い風です。喧騒というか、人混みというか。……どうも、私は、舞踏会という場は苦手で」
カリンは、フェリシアの傍らで笑顔で答える。
「ふふ。私もです」
ジークの命により皇宮で倒れたカリンに付き添っていたのがフェリシアであり、カリンは三人いるジークの妃たちの中で、フェリシアに最も親しみを感じていた。
カリンは、フェリシアに尋ねる。
「あの……、フェリシアさん。色々とお話を伺いしても?」
フェリシアは、カリンからの問いに笑顔で答える。
「ええ。どうぞ」
カリンは、興味津々でフェリシアに尋ねる。
「その、目にされている御化粧は、何というのですか?」
フェリシアは、自分の目の周りを指差して笑顔で答える。
「ふふ。これですか? ……これは『アイシャドウ』といって、私の生まれた国で、礼装の時に女性がする化粧です。……強い日差しから目を守る効果もあるのですよ」
「そうなのですか」
カリンは、初めて見る遠い異国の文化に目を輝かせる。
「フェリシアさんは、バレンシュテットの生まれではないのですか? ……ソフィアさんや、アストリッドさんとは、雰囲気が違うというか……気を悪くされたら、ごめんなさい」
フェリシアは、遠慮がちに尋ねるカリンに笑顔で答える。
「お気になさらないで下さい。……私は、バレンシュテット人ではありません。ここより遥か東にある『トラキア』という地の生まれです」
カリンは驚く。
「トラキア……初めて聞きました」
フェリシアは自分の瞳と髪を指差して告げる。
「ふふふ。この黒い瞳も、黒い髪も、トラキア人のものです」
遠い異国の巫女服を身を纏い、月の光を浴びながらテラスに立つフェリシアの姿は、カリンの目に幻想的に映る。
「女の私が口にするのも何ですが……、フェリシアさん、とても綺麗です。美人です」
フェリシアはカリンの言葉に微笑む。
「そうですか? ありがとうございます」
カリンは、興味津々にフェリシアに尋ねる。
「フェリシアさんが着ている、そのドレスというか、衣装も……トラキアの?」
フェリシアは自分の着ている服を指して答える。
「この服ですか? これはトラキアの巫女服です」
「巫女?」
「アスカニアの神々にお祈りする職業です」
「そうなのですか」
カリンは、初めて目にする遠い異国トラキアの文化に目を輝かせながら、気兼ねなくフェリシアに色々と尋ねる。
フェリシアは、元々、人々に神々の教えを説く巫女という職業であるため、カリンから寄せられる様々な質問に丁寧に答えていた。
やがて、二人の話は、フェリシアの夫であるジークの話題になる。
カリンは遠慮がちに尋ねる。
「ジーク様とフェリシアさんは、どの様に知り合われたのですか? よろしければ、お二人の馴れ初めを伺いしても?」
フェリシアは、少し寂しげな顔をして口を開く。
「私は、帝国軍に捕らえられてジーク様にお会いしたのです」
カリンはフェリシアの言葉に驚く。
「捕えられて!?」
フェリシアは続ける。
「帝国とトラキアの戦争があって、トラキアはバレンシュテット帝国に占領され併合されました。その時にトラキアの王族であった私は帝国軍に捕らえられ、捕虜としてジーク様にお会いしました。……それがジーク様との最初の出会いでした」
カリンは、気まずそうにフェリシアに謝罪する。
「ごめんなさい。その……とても……悪いことを聞いてしまったようで……」
フェリシアは笑顔で答える。
「カリンさんが謝ることはありません。戦争で負けた国の王族の女が、征服者の妻になることは、古今東西、珍しいことではありません。気にしないで下さい。……それに」
「……それに?」
「今の私は、ジーク様の三人目の妃として、とても幸せに過ごしています」
「そうなのですか?」
「ええ。国や民を背負うという重責から解き放たれ、ジーク様の妃の一人として、なに一つ不自由無く暮らしています」
「御妃が三人もおられると、色々と大変なのでは……?」
フェリシアは、ジークから贈られたショールを止めている帝室の紋章のブローチを指先でなぞりながら思い出す。
トラキア連邦の降伏式。
フェリシアは、衆目に晒されながら裸に剥かれ、平伏してトラキアの降伏を宣言させられた。
ジークは、羞恥と屈辱で泣いているフェリシアを自らのマントで覆うと、穏やかにフェリシアに告げた。
「……もう苦しまなくて良い」
そして、気を失ったフェリシアをマントで包んで抱き上げ、あの場から救い出してくれた。
「ジーク様は、他に妃が何人いても、私を害しようという者が何人いようとも、私を守ってくれます。……あの方は、お優しい方です」
フェリシアの言葉に釣られ、カリンも本音を漏らす。
「……素敵な方ですよね」
フェリシアは、悪戯っぽく微笑むとカリンをからかう。
「カリンさん、ジーク様の四人目の妃に立候補されては、いかがです? カリンさんなら、きっと、ジーク様は迎え入れてくれますよ」
カリンは、照れて顔を真っ赤にしながら答える。
「そんな! 私なんて! 私は、フェリシアさんみたいな美人じゃないですし……ジーク様の妃に立候補するなんて、そんな……」
顔を真っ赤にして慌てるカリンに、フェリシアは微笑み掛けた。
華やかな宮廷舞踏会を他所に、二人がテラスで他愛もない話で盛り上がる中、ゆっくりと時は過ぎていた。
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二曲目の円舞曲が終わり、他の参加者も踊ることが出来るダンスタイムとなった。
踊らない者は席に座り、食事やお酒を楽しみながらダンスを鑑賞し始める。
カリンは、一人で佇むフェリシアの元に行くと、二人でテラスに向かう。
フェリシアは、中庭に面したテラスで心地良い夜風に当たりながら呟く。
「……良い風です。喧騒というか、人混みというか。……どうも、私は、舞踏会という場は苦手で」
カリンは、フェリシアの傍らで笑顔で答える。
「ふふ。私もです」
ジークの命により皇宮で倒れたカリンに付き添っていたのがフェリシアであり、カリンは三人いるジークの妃たちの中で、フェリシアに最も親しみを感じていた。
カリンは、フェリシアに尋ねる。
「あの……、フェリシアさん。色々とお話を伺いしても?」
フェリシアは、カリンからの問いに笑顔で答える。
「ええ。どうぞ」
カリンは、興味津々でフェリシアに尋ねる。
「その、目にされている御化粧は、何というのですか?」
フェリシアは、自分の目の周りを指差して笑顔で答える。
「ふふ。これですか? ……これは『アイシャドウ』といって、私の生まれた国で、礼装の時に女性がする化粧です。……強い日差しから目を守る効果もあるのですよ」
「そうなのですか」
カリンは、初めて見る遠い異国の文化に目を輝かせる。
「フェリシアさんは、バレンシュテットの生まれではないのですか? ……ソフィアさんや、アストリッドさんとは、雰囲気が違うというか……気を悪くされたら、ごめんなさい」
フェリシアは、遠慮がちに尋ねるカリンに笑顔で答える。
「お気になさらないで下さい。……私は、バレンシュテット人ではありません。ここより遥か東にある『トラキア』という地の生まれです」
カリンは驚く。
「トラキア……初めて聞きました」
フェリシアは自分の瞳と髪を指差して告げる。
「ふふふ。この黒い瞳も、黒い髪も、トラキア人のものです」
遠い異国の巫女服を身を纏い、月の光を浴びながらテラスに立つフェリシアの姿は、カリンの目に幻想的に映る。
「女の私が口にするのも何ですが……、フェリシアさん、とても綺麗です。美人です」
フェリシアはカリンの言葉に微笑む。
「そうですか? ありがとうございます」
カリンは、興味津々にフェリシアに尋ねる。
「フェリシアさんが着ている、そのドレスというか、衣装も……トラキアの?」
フェリシアは自分の着ている服を指して答える。
「この服ですか? これはトラキアの巫女服です」
「巫女?」
「アスカニアの神々にお祈りする|職業《クラス》です」
「そうなのですか」
カリンは、初めて目にする遠い異国トラキアの文化に目を輝かせながら、気兼ねなくフェリシアに色々と尋ねる。
フェリシアは、元々、人々に神々の教えを説く巫女という職業であるため、カリンから寄せられる様々な質問に丁寧に答えていた。
やがて、二人の話は、フェリシアの夫であるジークの話題になる。
カリンは遠慮がちに尋ねる。
「ジーク様とフェリシアさんは、どの様に知り合われたのですか? よろしければ、お二人の馴れ初めを伺いしても?」
フェリシアは、少し寂しげな顔をして口を開く。
「私は、帝国軍に捕らえられてジーク様にお会いしたのです」
カリンはフェリシアの言葉に驚く。
「捕えられて!?」
フェリシアは続ける。
「帝国とトラキアの戦争があって、トラキアはバレンシュテット帝国に占領され併合されました。その時にトラキアの王族であった私は帝国軍に捕らえられ、捕虜としてジーク様にお会いしました。……それがジーク様との最初の出会いでした」
カリンは、気まずそうにフェリシアに謝罪する。
「ごめんなさい。その……とても……悪いことを聞いてしまったようで……」
フェリシアは笑顔で答える。
「カリンさんが謝ることはありません。戦争で負けた国の王族の女が、征服者の妻になることは、古今東西、珍しいことではありません。気にしないで下さい。……それに」
「……それに?」
「今の私は、ジーク様の三人目の妃として、とても幸せに過ごしています」
「そうなのですか?」
「ええ。国や民を背負うという重責から解き放たれ、ジーク様の妃の一人として、なに一つ不自由無く暮らしています」
「御妃が三人もおられると、色々と大変なのでは……?」
フェリシアは、ジークから贈られたショールを止めている帝室の紋章のブローチを指先でなぞりながら思い出す。
トラキア連邦の降伏式。
フェリシアは、衆目に晒されながら裸に剥かれ、平伏してトラキアの降伏を宣言させられた。
ジークは、羞恥と屈辱で泣いているフェリシアを自らのマントで覆うと、穏やかにフェリシアに告げた。
「……もう苦しまなくて良い」
そして、気を失ったフェリシアをマントで包んで抱き上げ、あの場から救い出してくれた。
「ジーク様は、他に妃が何人いても、私を害しようという者が何人いようとも、私を守ってくれます。……あの方は、お優しい方です」
フェリシアの言葉に釣られ、カリンも本音を漏らす。
「……素敵な方ですよね」
フェリシアは、悪戯っぽく微笑むとカリンをからかう。
「カリンさん、ジーク様の四人目の妃に立候補されては、いかがです? カリンさんなら、きっと、ジーク様は迎え入れてくれますよ」
カリンは、照れて顔を真っ赤にしながら答える。
「そんな! 私なんて! 私は、フェリシアさんみたいな美人じゃないですし……ジーク様の妃に立候補するなんて、そんな……」
顔を真っ赤にして慌てるカリンに、フェリシアは微笑み掛けた。
華やかな宮廷舞踏会を他所に、二人がテラスで他愛もない話で盛り上がる中、ゆっくりと時は過ぎていた。