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第百八十二話 宮廷舞踏会(二)皇太子vs大使

ー/ー



--時間を少し戻した ゴズフレズ王国 王都ハフニア 王城。

 バレンシュテット帝国皇太子ジークフリート一行への歓待のため、王城では宮廷舞踏会が催されていた。

 ゴズフレズ王国側の政府要人達と歓談するジークの元に一人の男がやって来る。

 ゴズフレズ王国の王都ハフニアに駐在するスベリエ王国大使、ヒッター子爵であった。

 ヒッター子爵は、ジークに声を掛ける。

「皇太子殿下。少し、お話を伺いたいのですが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 ジークは小首を傾げて尋ねる。

「はて? どなたでしたかな?」

 ヒッター子爵は、慌てて自己紹介する。

「これは失礼致しました。私は、スベリエ王国ゴズフレズ駐在大使、ヒッター子爵と申します」

 ヒッター子爵の自己紹介を受けたジークが続ける。

「それで……大使。『話を伺いたい』とは?」

 ヒッター子爵はジークに、低く、くぐもった声で告げる。

「……込み入った話です。お人払いを」

 ジークは、ヒッター子爵の申し出を受ける。

「よかろう。では、応接で話そう。……ソフィア、これへ」

「はい」

 ソフィアはハロルド王と歓談していたが、ジークに呼ばれジークの元にやって来る。

 ジークとソフィア、ヒッター子爵の三人は、応接室に入る。



 応接室では、長椅子にジークが座って寛ぎ、ジークの向かいにヒッター子爵が座り、ジークの隣にソフィアが座る。

 ヒッター子爵は、ジークの隣に座るソフィアを見て、口を開く。

「殿下。政治の話に御婦人を同伴されるなど……」

 ジークは、ヒッター子爵の話を遮って答える。

「構わない。正妃は我が半身。心配無用だ」

 ジークに押し切られ、ヒッター子爵は力無く答える。

「はぁ……」
 
 ジークは、ソフィアに告げる。

「ソフィア、大使に何か飲み物を」

「はい」

 ソフィアは、ジークから命じられて席を立つと、紅茶を淹れて茶菓子と共にジークとヒッター子爵に出す。
 
 ソフィアは笑顔で告げる。
 
「どうぞ。バレンシュテットの紅茶です。お口に合うとよろしいのですけれど」

 ヒッター子爵は、政府の下級役人の自分より遥かに身分が高い、皇太子正妃のソフィアが自分に紅茶を淹れて用意してくれた事に恐縮しながら紅茶を口に運ぶ。

「これは!? 正妃殿下、直々にこのような……恐れ入ります。では、遠慮無く頂きます」
 
 ソフィアは、いつもなら『端女(はしため)のすること』として、紅茶を淹れたりなどしない。

 ソフィアは、ジークがスベリエ大使との会談に自分を同伴したこと、紅茶を淹れるように自分に言い付けたことに理由があると察し、自分の役割を理解していた。

 ソフィアは、ジークとヒッター子爵に紅茶を淹れて出すと再びジークの隣に座る。

 ヒッター子爵は口を開く。

「お話を伺いたいというのは、他でもありません。バレンシュテット帝国の皇太子である殿下が、何故、ゴズフレズに?」

 ジークは、とぼけたように答える。

新婚旅行(ハネムーン)だ」

 ヒッター子爵は怪訝な顔をする。

新婚旅行(ハネムーン)?」

 ジークは、悪びれた素振りも見せず答える。

「トラキアでの戦争が片付いたので、妃たちを娶ったのだ。しばらく帝都の喧噪を離れ、この地で子作りに励むつもりだ」

 そう言うと、ジークは傍らのソフィアを抱き寄せ、両手でソフィアの胸を揉みしだく。

 ジークからの愛撫に、ソフィアは甘えるような猫撫で声を上げる。

「あぁん……もぅ……人が見てます」

 ヒッター子爵は、ジークとソフィアが乳繰り合う様子を目の当たりにし、紅茶を飲みながら疑心暗鬼に駆られ、必死に考えていた。

(……これは偽装(フェイク)か!?)

(皇太子が結婚した事は事実!)

(皇太子は、帝国最年少で上級騎士(パラディン)になった実力者、士官学校を首席で、それも飛び級で卒業した秀才)

(結婚したからといって、色情に溺れるような人物ではない)

(あのカミソリのような切れ者の皇帝が、そんな者を右腕にするはずがない)

(……いや、むしろ、秀才だからこそ、初めての女で色情に溺れているのか?)

(……どっちだ?)

 ヒッター子爵は、当たり障りなく答える。

「皇族や王族にとって、世継ぎを作ることは、最も重要なお勤めでしょう」

 ジークは、トボけて答える。

「大使も、そう思うか? 父上も『早く孫の顔が見たい』とおっしゃっておいでだ」

 疑心暗鬼に駆られた顔をしたまま、ヒッター子爵は話題を変える。

「しかし、帝国は中立を宣言して、我がスベリエに従属するゴズフレズに対し、このような飛行戦艦を差し向けて来るとは。皇帝座乗艦でゴズフレズに行幸される意味とは。……一体、帝国は、どういうつもりですか?」

 再びジークは、悪びれた素振りも見せず答える。

「他の船は、演習で出払っていてな。たまたま、これしかなかったのだ」

「たまたま、これしかなかったと……、そんな言い訳が通用するとでも?」

 ジークの言葉にヒッター子爵は、怪訝な顔をしたまま必死に考えていたが、名案が閃く。

(皇太子に()()()()()()みるか……)  

 ヒッター子爵は、真顔で尋ねる。

「皇太子殿下。そろそろ、新婚旅行(ハネムーン)以外の『()()()()()()()』について教えて頂きたいのですが」

 ジークは、トボけたように答える。

「『()()()()()()()』か? ……良いだろう」

 ヒッター子爵は『してやったり』という顔をする。

「皇太子殿下。それは、一体?」

 再びジークは、悪びれた素振りも見せず答える。

「……観光だ」

 ジークの答えを聞いたヒッター子爵は、唖然として声が裏返る。

「観光!?」

 ジークは、揉みしだいていたソフィアの胸から両手を離し、抱き寄せていたソフィアを長椅子に座らせると、ヒッター子爵を正面から見据え、威圧するように告げる。

「スベリエ王国の特使オクセンシェルナ伯爵は、皇宮で父上と私にこう言った。『ゴズフレズに侵攻しているカスパニア軍など、我が軍が蹴散らして御覧に入れましょう』と。だから、父・皇帝ラインハルトの代理として皇太子であるこの私が、スベリエ軍がカスパニア軍を蹴散らすところを見るために、ここに来たのだ」

 ジークの言葉にヒッター子爵の顔が引きつるが、ジークは強い口調で続ける。

「我がバレンシュテット帝国は、北部地域でカスパニアが覇権を確立するのを座視するつもりは無い。スベリエ軍は南北の海峡に籠って動かないようだが、スベリエの手に余るなら、我がバレンシュテット帝国がゴズフレズに軍団を派遣してカスパニアを蹴散らすまでだ」

 ヒッター子爵の顔は、みるみる青ざめていく。

「て、帝国が中立を破棄して、ゴズフレズに武力介入すると!?」

 ジークのエメラルドの瞳は、恫喝するようにヒッター子爵を睨む。

「スベリエ軍が、このまま動かなければな。……この艦の火力があれば、街一つなど簡単に焼き払える」

 ヒッター子爵が、救いを求めるようにジークの傍らのソフィアに目をやると、先ほどまでジークに甘えて猫撫で声を上げていた妃の顔は消え去り、ジークの副官を務める竜騎士(ドラゴンナイト)の顔でヒッター子爵を見据えていた。

 ヒッター子爵は、ハンカチで額に溢れ出る冷や汗を拭いながら必死に答える。

「じ、自分は一介の大使に過ぎず、国軍を動かす権限などありません! スベリエ本国に伺わなければ……なにとぞ時間の猶予を賜りたく……」

 ジークは、冷酷な薄ら笑みを浮かべながらヒッター子爵に答える。

「なら、急ぐことだ……私は気が短い」

「そ、それでは、失礼致します」

 ヒッター子爵は、血の気の無い真っ青な顔で席を立つと、そそくさと退席していった。



 ジークは、ヒッター子爵が青ざめて退席するのを見届けると、傍らのソフィアを抱き寄せる。

「ソフィア。良くやった。上出来だ」

 ソフィアは、羽毛の扇子で口元を隠し、微笑みながら答える。

「ジーク様のお役に立てて嬉しいです……それにしても、大使のあの顔! ウフフ」



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--時間を少し戻した ゴズフレズ王国 王都ハフニア 王城。
 バレンシュテット帝国皇太子ジークフリート一行への歓待のため、王城では宮廷舞踏会が催されていた。
 ゴズフレズ王国側の政府要人達と歓談するジークの元に一人の男がやって来る。
 ゴズフレズ王国の王都ハフニアに駐在するスベリエ王国大使、ヒッター子爵であった。
 ヒッター子爵は、ジークに声を掛ける。
「皇太子殿下。少し、お話を伺いたいのですが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
 ジークは小首を傾げて尋ねる。
「はて? どなたでしたかな?」
 ヒッター子爵は、慌てて自己紹介する。
「これは失礼致しました。私は、スベリエ王国ゴズフレズ駐在大使、ヒッター子爵と申します」
 ヒッター子爵の自己紹介を受けたジークが続ける。
「それで……大使。『話を伺いたい』とは?」
 ヒッター子爵はジークに、低く、くぐもった声で告げる。
「……込み入った話です。お人払いを」
 ジークは、ヒッター子爵の申し出を受ける。
「よかろう。では、応接で話そう。……ソフィア、これへ」
「はい」
 ソフィアはハロルド王と歓談していたが、ジークに呼ばれジークの元にやって来る。
 ジークとソフィア、ヒッター子爵の三人は、応接室に入る。
 応接室では、長椅子にジークが座って寛ぎ、ジークの向かいにヒッター子爵が座り、ジークの隣にソフィアが座る。
 ヒッター子爵は、ジークの隣に座るソフィアを見て、口を開く。
「殿下。政治の話に御婦人を同伴されるなど……」
 ジークは、ヒッター子爵の話を遮って答える。
「構わない。正妃は我が半身。心配無用だ」
 ジークに押し切られ、ヒッター子爵は力無く答える。
「はぁ……」
 ジークは、ソフィアに告げる。
「ソフィア、大使に何か飲み物を」
「はい」
 ソフィアは、ジークから命じられて席を立つと、紅茶を淹れて茶菓子と共にジークとヒッター子爵に出す。
 ソフィアは笑顔で告げる。
「どうぞ。バレンシュテットの紅茶です。お口に合うとよろしいのですけれど」
 ヒッター子爵は、政府の下級役人の自分より遥かに身分が高い、皇太子正妃のソフィアが自分に紅茶を淹れて用意してくれた事に恐縮しながら紅茶を口に運ぶ。
「これは!? 正妃殿下、直々にこのような……恐れ入ります。では、遠慮無く頂きます」
 ソフィアは、いつもなら『|端女《はしため》のすること』として、紅茶を淹れたりなどしない。
 ソフィアは、ジークがスベリエ大使との会談に自分を同伴したこと、紅茶を淹れるように自分に言い付けたことに理由があると察し、自分の役割を理解していた。
 ソフィアは、ジークとヒッター子爵に紅茶を淹れて出すと再びジークの隣に座る。
 ヒッター子爵は口を開く。
「お話を伺いたいというのは、他でもありません。バレンシュテット帝国の皇太子である殿下が、何故、ゴズフレズに?」
 ジークは、とぼけたように答える。
「|新婚旅行《ハネムーン》だ」
 ヒッター子爵は怪訝な顔をする。
「|新婚旅行《ハネムーン》?」
 ジークは、悪びれた素振りも見せず答える。
「トラキアでの戦争が片付いたので、妃たちを娶ったのだ。しばらく帝都の喧噪を離れ、この地で子作りに励むつもりだ」
 そう言うと、ジークは傍らのソフィアを抱き寄せ、両手でソフィアの胸を揉みしだく。
 ジークからの愛撫に、ソフィアは甘えるような猫撫で声を上げる。
「あぁん……もぅ……人が見てます」
 ヒッター子爵は、ジークとソフィアが乳繰り合う様子を目の当たりにし、紅茶を飲みながら疑心暗鬼に駆られ、必死に考えていた。
(……これは|偽装《フェイク》か!?)
(皇太子が結婚した事は事実!)
(皇太子は、帝国最年少で|上級騎士《パラディン》になった実力者、士官学校を首席で、それも飛び級で卒業した秀才)
(結婚したからといって、色情に溺れるような人物ではない)
(あのカミソリのような切れ者の皇帝が、そんな者を右腕にするはずがない)
(……いや、むしろ、秀才だからこそ、初めての女で色情に溺れているのか?)
(……どっちだ?)
 ヒッター子爵は、当たり障りなく答える。
「皇族や王族にとって、世継ぎを作ることは、最も重要なお勤めでしょう」
 ジークは、トボけて答える。
「大使も、そう思うか? 父上も『早く孫の顔が見たい』とおっしゃっておいでだ」
 疑心暗鬼に駆られた顔をしたまま、ヒッター子爵は話題を変える。
「しかし、帝国は中立を宣言して、我がスベリエに従属するゴズフレズに対し、このような飛行戦艦を差し向けて来るとは。皇帝座乗艦でゴズフレズに行幸される意味とは。……一体、帝国は、どういうつもりですか?」
 再びジークは、悪びれた素振りも見せず答える。
「他の船は、演習で出払っていてな。たまたま、これしかなかったのだ」
「たまたま、これしかなかったと……、そんな言い訳が通用するとでも?」
 ジークの言葉にヒッター子爵は、怪訝な顔をしたまま必死に考えていたが、名案が閃く。
(皇太子に|カ《・》|マ《・》|を《・》|掛《・》|け《・》|て《・》みるか……)  
 ヒッター子爵は、真顔で尋ねる。
「皇太子殿下。そろそろ、|新婚旅行《ハネムーン》以外の『|も《・》|う《・》|一《・》|つ《・》|の《・》|目《・》|的《・》』について教えて頂きたいのですが」
 ジークは、トボけたように答える。
「『|も《・》|う《・》|一《・》|つ《・》|の《・》|目《・》|的《・》』か? ……良いだろう」
 ヒッター子爵は『してやったり』という顔をする。
「皇太子殿下。それは、一体?」
 再びジークは、悪びれた素振りも見せず答える。
「……観光だ」
 ジークの答えを聞いたヒッター子爵は、唖然として声が裏返る。
「観光!?」
 ジークは、揉みしだいていたソフィアの胸から両手を離し、抱き寄せていたソフィアを長椅子に座らせると、ヒッター子爵を正面から見据え、威圧するように告げる。
「スベリエ王国の特使オクセンシェルナ伯爵は、皇宮で父上と私にこう言った。『ゴズフレズに侵攻しているカスパニア軍など、我が軍が蹴散らして御覧に入れましょう』と。だから、父・皇帝ラインハルトの代理として皇太子であるこの私が、スベリエ軍がカスパニア軍を蹴散らすところを見るために、ここに来たのだ」
 ジークの言葉にヒッター子爵の顔が引きつるが、ジークは強い口調で続ける。
「我がバレンシュテット帝国は、北部地域でカスパニアが覇権を確立するのを座視するつもりは無い。スベリエ軍は南北の海峡に籠って動かないようだが、スベリエの手に余るなら、我がバレンシュテット帝国がゴズフレズに軍団を派遣してカスパニアを蹴散らすまでだ」
 ヒッター子爵の顔は、みるみる青ざめていく。
「て、帝国が中立を破棄して、ゴズフレズに武力介入すると!?」
 ジークのエメラルドの瞳は、恫喝するようにヒッター子爵を睨む。
「スベリエ軍が、このまま動かなければな。……この艦の火力があれば、街一つなど簡単に焼き払える」
 ヒッター子爵が、救いを求めるようにジークの傍らのソフィアに目をやると、先ほどまでジークに甘えて猫撫で声を上げていた妃の顔は消え去り、ジークの副官を務める|竜騎士《ドラゴンナイト》の顔でヒッター子爵を見据えていた。
 ヒッター子爵は、ハンカチで額に溢れ出る冷や汗を拭いながら必死に答える。
「じ、自分は一介の大使に過ぎず、国軍を動かす権限などありません! スベリエ本国に伺わなければ……なにとぞ時間の猶予を賜りたく……」
 ジークは、冷酷な薄ら笑みを浮かべながらヒッター子爵に答える。
「なら、急ぐことだ……私は気が短い」
「そ、それでは、失礼致します」
 ヒッター子爵は、血の気の無い真っ青な顔で席を立つと、そそくさと退席していった。
 ジークは、ヒッター子爵が青ざめて退席するのを見届けると、傍らのソフィアを抱き寄せる。
「ソフィア。良くやった。上出来だ」
 ソフィアは、羽毛の扇子で口元を隠し、微笑みながら答える。
「ジーク様のお役に立てて嬉しいです……それにしても、大使のあの顔! ウフフ」