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第3話 気づかされた感情1

ー/ー



 翌日、エセルバートは普段よりも早い時間に目を覚ますと旅支度を始めた。
 軽鎧は昨日のものと同じだが、鎧の下には帷子を身につけている。

 腰には手入れの行き届いた片手剣を帯び、腕には籠手を身につける。この籠手は盾代わりにも使える。
 昨日背負っていた盾は今回身につけていない。

 そうして準備を終えると借りている宿屋の部屋を出た。
 まだ太陽は山の向こう側に隠れていて、空は夜と朝のグラデーションで彩られている。
 薄暗い街の中では新聞の配達人くらいしか歩いていない。

 約束の北門まで行くと、ちょうど他の冒険者も集まっているところだった。

「おはよう。昨夜はよく眠れた? 俺は腹が減って力が入らない」

 レナルドは明るい笑顔を浮かべていたが、それでも空腹は辛いらしい。
 胃の辺りを手で押さえている。

 出立は日の出とほぼ変わらず、朝食を取る時間はない。
 道中休憩も兼ねて食事を取ると言われていたし、皆何も食べずに来ているはずだ。

「ヴェイセルはどうだなんだ?」
「昨日の串焼きがまた食いたいな」

 レナルドの問いに、ヴェイセルは苦笑いを浮かべている。
 まだそれほど時間が経っていないのに、既に昨日の食事が懐かしいらしい。
 見た目は冷たい印象の顔で融通が利かないように見えるのに、意外と冗談が通じる男なのかもしれない。

「俺も似たようなものだ」

 エセルバートも同意する。
 ヴェイセルの言葉で昨日の串焼きを思い出してしまい、腹が鳴りそうだ。

「三人とも、朝早くからすまないな」
「そういう契約ですから」

 レナルドはオーガストの言葉を明るい調子で否定している。
 依頼書をしっかり確認していなかったエセルバートは、何も言わずに黙っておいた。
 ヴェイセルは何も言わない。そのことに少しだけ感謝の念が浮かぶ。
 ふとヴェイセルの背中に目をやる。身の丈ほどもある槍か斧のような武器が主張している。
 幅広の斧の刃と、突きもできる細い槍部分がある。重量もかなりありそうだ。
 柄の二メートルほどあり、斧と槍の長所どちらも持っていそうだ。

「それがおまえの武器か?」
「斧槍だ。敵を叩き潰すのに向いている」

 繊細な美貌に麗しい笑みを乗せて言葉にする内容は、猛々しく歴戦の猛者のようだ。
 エセルバートが速さを生かした剣士なら、ヴェイセルは力で押すパワータイプなのだろう。

「そういえば聞いてなかったけど、ヴェイセルは魔法が扱えるのか?」

 純粋な疑問だが、男は苦虫を噛みつぶしたかのような渋面になった。

「魔力はあるんだが、制御が今ひとつなんだ」
「そうか。俺も似たようなものだ」
「でもその悩みもなんとかなりそうな予感がある」

 じっとヴェイセルがわかりにくいけれど意味ありげな視線を向けてきた。

「? それはよかったな」

 視線の意味はわからないものの、とりあえず頷いておいた。

「それじゃあ、準備も終わったし行こうか。馬と荷馬車があるが、皆の好きにしていい。エセルバートはいつもの馬か?」
「はい、そのつもりです」

 オーガストの言葉に頷く。
 レナルドとヴェイセルは怪訝そうな表情でエセルバートを見ていた。

「馬なんていないけど」
「呼べば来る。シリル、おいで」

 名を呼ぶと光の玉が頭上に現れる。
 遊ぶようにエセルバートの周囲をふらふら浮遊すると、次第に馬の形へと変化した。
 現れたのは立派な黒馬だった。

「……幻獣か」

 艶やかな青毛が周囲に光の粒子を散らす様子は、シリルが普通の馬ではないとすぐにわかる。
 馬はエセルバートに呼ばれたことが嬉しいのか、頻りに顔を寄せてくる。
 手綱と鞍を確認している最中に髪を食むシリルの首を軽く叩いた。
 準備がすむとシリルに魔石を与えた。
 シリルががりごりと魔石を噛み砕き咀嚼する様子を見て、レナルドが顔を引き攣らせている。

「魔石をそのまま食べるなんて豪快だな」
「普通に魔力を抜いて食べることもできるんだが、シリルはこの歯ごたえが好きみたいだ」
「好みの問題か?」

 三人は他の同行者である御者二人に挨拶をして回ったあと、それぞれの位置に着いた。
 レナルドとヴェイセルは荷馬車に、エセルバートはシリルに乗る。

 レナルドは手綱で手が塞がると杖を扱いにくいのを理由に、ヴェイセルは斧槍の重さで馬が潰れるのを恐れたからだ。
 馬車に乗ったのはこの商隊のトップであるオーガストだけだった。
 もし魔物に襲われでもしたら、馬車の中にいた方が対応はしやすい。

 そうしてようやく出発することになった。
 思いのほか他のメンバーとの会話が息苦しくない。

 オーガストには慣れているから除外するけれど、初対面の二人に対してエセルバートが身構えないのは珍しい。
 レナルドは社交的であり、感情の機微に聡いようだ。ヴェイセルに対しては理由はわからないけれど、隣にいても心地よかった。

 会話が弾むわけでもないのに、気まずい空気でもない。エセルバートには過ごしやすいものだった。
 少し進んで朝食を取ったときの雰囲気も悪くなかった。
 こうして誰かと快い空間にいるのは初めてのことかもしれない。

 昔からエセルバートの周囲には、彼のことを慮られた記憶はほとんどない。
 いたとしても、気を遣いすぎて却って空気が悪くなっていた。
 ただ一人だけ心を許せる人物がいたけれど、それもずいぶん昔のことである。

 現在はエセルバートの立場も変わって、周囲の様子も変化した。
 絡まれることも多くなったけれど、それ以上に対等に話しかけてくる者が増えた。

 それでも、ここまで心が凪ぐことはなかった。
 言い方はおかしいかもしれないけれど、この穏やかな時間が癖になってしまいそうだ。

 街道に沿ってゆったりと馬車を走らせながら一行は進む。
 周囲は見晴らしのいい草原で、魔物が現れればすぐにわかる。逆を言えば魔物からもこちらのことは筒抜けである。

 どちらにも不利になる状況だが、予想できない事態が起こることは予想できた。
 魔物もそのことを理解しているのか、この街道ではあまり襲ってこない。

 しばらく行くと森がある。
 森の中も人が道を作っているとはいえ、樹木で視界は悪く、魔物には都合のいい場所である。

 そこが今回の旅では一番危険な場所だと、皆認識している。
 平坦な道を進むだけで今日一日は終わりそうだ。

「こう魔物が出ないと暇だね」

 レナルドの言葉にエセルバートは苦い顔になる。

「暇な方が楽だろう」
「俺も暇だ」

 冒険者二人からの苦情に閉口する。
 そのまま何事もないまま時間は過ぎていく。

「そろそろ野宿の場所を探そう」

 ある程度進んだところでヴェイセルが声を発する。
 まだ時刻は夕方まで間がある。
 テントを張ったり、食事の用意をしたりしなくてはいけないため、早めに安全な場所は確保しておきたい。

「この辺りなら岩場があったよな?」
「あのでっかい岩ね。確かこの近辺にあったかな?」

 二人の会話を聞いて、岩場を思い浮かべる。
 何個も岩が重なり、ひとつの大岩のようになっている場所だ。

 どういう経緯で置かれたのかは、誰もわからない。
 多くの学者も研究しているようだが、それでも解明できていないらしい。

 その場所は転がる岩のおかげか、周囲に樹もなく見張りに最適である。
 オーガストに了承を得ると、岩場へと行く。

 岩と地面の境目で、なだらかになったところがある。そこに焚き火の後があった。
 旅人が野宿した痕跡だ。
 その場所を借りてテントを張り始める。

 結界魔法を扱える魔術師がその場に残り、他の二人は薪になる枝を探しに行く。
 ついでに食べられそうな山菜や、野生動物も探す。

 しばらく歩くと、小川を見つけた。
 あまり野営地から離れていないこともあり、補給に便利そうだ。
 飲めるのを確認して、あとで仲間に知らせようとその場は引き返した。

 片腕には薪を抱え、もう片方には途中で捕らえた兎を二羽持つ。
 そうして戻ると、すでにテントの準備は終わっていて、先に戻っていたヴェイセルが焚き火の準備を始めていた。

「獲物を捕ってきたのか。丁度良い。煮込んでスープを作ろう」
「米もあるし、残ったスープで雑炊もいいですね」

 オーガストと御者たちの話を聞き流しながら、抱えていた薪をヴェイセルの隣に置く。

「途中で小川があった。飲める水だから明日にでも補給しよう」

 皆に報告すると、オーガスト以外の視線が集まった。
 ヴェイセルとレナルドだけではなく、御者二人まで心配そうにしていた。

 その勢いに身を引きかけてしまう。
 何かおかしなことを言っただろうか。

「……飲んだのか?」
「飲めるか判断するには魔法が使えないと難しいのに」

 ようやく皆の心配に気づく。

「俺の身体は毒や病気には耐性がある」
「そんな体質、聞いたことないけど」

 レナルドの問いにエセルバートも頷く。
 一般的に毒耐性なら貴族や王族なら訓練を積むことがある。しかし、病気の耐性はかかってでもいなければ持つのは難しい。

「俺も聞いたことはないけど、そういうものだから仕方ない」

 理由はわからないけれど、昔からそういう体質なのだから説明のしようがない。
 納得いかない表情だったけれど、レナルドはそれ以上言葉にはしなかった。
 しかしヴェイセルの方はさらに顔を歪めていた。

「そういう体質は、あまり知られない方がいいんじゃないか。誰に利用されるかわからない」
「……そうだな」

 昔は便利な身体だと散々な扱いを受けていたことを思い出す。
 そのこともあり、こんなふうに純粋にエセルバート自身を心配されるのは擽ったい思いがした。
 知らず知らずのうちに視線が泳いでしまう。
 この話をこれ以上続けたくなくて、居たたまれない思いで話題を変えた。

「それをいうなら、ヴェイセルも魔人だというのはあまり言わない方がいい。まだこの国は魔人に優しくない」

 そんなエセルバートの心情に気づいているようだが、ヴェイセルはやわらかな笑みを浮かべて頷いた。

「なら、互いに気をつけよう」
「ああ」

 暖かな空気の中夕食を終えて、三人は順番に見張りをすることにした。


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 翌日、エセルバートは普段よりも早い時間に目を覚ますと旅支度を始めた。
 軽鎧は昨日のものと同じだが、鎧の下には帷子を身につけている。
 腰には手入れの行き届いた片手剣を帯び、腕には籠手を身につける。この籠手は盾代わりにも使える。
 昨日背負っていた盾は今回身につけていない。
 そうして準備を終えると借りている宿屋の部屋を出た。
 まだ太陽は山の向こう側に隠れていて、空は夜と朝のグラデーションで彩られている。
 薄暗い街の中では新聞の配達人くらいしか歩いていない。
 約束の北門まで行くと、ちょうど他の冒険者も集まっているところだった。
「おはよう。昨夜はよく眠れた? 俺は腹が減って力が入らない」
 レナルドは明るい笑顔を浮かべていたが、それでも空腹は辛いらしい。
 胃の辺りを手で押さえている。
 出立は日の出とほぼ変わらず、朝食を取る時間はない。
 道中休憩も兼ねて食事を取ると言われていたし、皆何も食べずに来ているはずだ。
「ヴェイセルはどうだなんだ?」
「昨日の串焼きがまた食いたいな」
 レナルドの問いに、ヴェイセルは苦笑いを浮かべている。
 まだそれほど時間が経っていないのに、既に昨日の食事が懐かしいらしい。
 見た目は冷たい印象の顔で融通が利かないように見えるのに、意外と冗談が通じる男なのかもしれない。
「俺も似たようなものだ」
 エセルバートも同意する。
 ヴェイセルの言葉で昨日の串焼きを思い出してしまい、腹が鳴りそうだ。
「三人とも、朝早くからすまないな」
「そういう契約ですから」
 レナルドはオーガストの言葉を明るい調子で否定している。
 依頼書をしっかり確認していなかったエセルバートは、何も言わずに黙っておいた。
 ヴェイセルは何も言わない。そのことに少しだけ感謝の念が浮かぶ。
 ふとヴェイセルの背中に目をやる。身の丈ほどもある槍か斧のような武器が主張している。
 幅広の斧の刃と、突きもできる細い槍部分がある。重量もかなりありそうだ。
 柄の二メートルほどあり、斧と槍の長所どちらも持っていそうだ。
「それがおまえの武器か?」
「斧槍だ。敵を叩き潰すのに向いている」
 繊細な美貌に麗しい笑みを乗せて言葉にする内容は、猛々しく歴戦の猛者のようだ。
 エセルバートが速さを生かした剣士なら、ヴェイセルは力で押すパワータイプなのだろう。
「そういえば聞いてなかったけど、ヴェイセルは魔法が扱えるのか?」
 純粋な疑問だが、男は苦虫を噛みつぶしたかのような渋面になった。
「魔力はあるんだが、制御が今ひとつなんだ」
「そうか。俺も似たようなものだ」
「でもその悩みもなんとかなりそうな予感がある」
 じっとヴェイセルがわかりにくいけれど意味ありげな視線を向けてきた。
「? それはよかったな」
 視線の意味はわからないものの、とりあえず頷いておいた。
「それじゃあ、準備も終わったし行こうか。馬と荷馬車があるが、皆の好きにしていい。エセルバートはいつもの馬か?」
「はい、そのつもりです」
 オーガストの言葉に頷く。
 レナルドとヴェイセルは怪訝そうな表情でエセルバートを見ていた。
「馬なんていないけど」
「呼べば来る。シリル、おいで」
 名を呼ぶと光の玉が頭上に現れる。
 遊ぶようにエセルバートの周囲をふらふら浮遊すると、次第に馬の形へと変化した。
 現れたのは立派な黒馬だった。
「……幻獣か」
 艶やかな青毛が周囲に光の粒子を散らす様子は、シリルが普通の馬ではないとすぐにわかる。
 馬はエセルバートに呼ばれたことが嬉しいのか、頻りに顔を寄せてくる。
 手綱と鞍を確認している最中に髪を食むシリルの首を軽く叩いた。
 準備がすむとシリルに魔石を与えた。
 シリルががりごりと魔石を噛み砕き咀嚼する様子を見て、レナルドが顔を引き攣らせている。
「魔石をそのまま食べるなんて豪快だな」
「普通に魔力を抜いて食べることもできるんだが、シリルはこの歯ごたえが好きみたいだ」
「好みの問題か?」
 三人は他の同行者である御者二人に挨拶をして回ったあと、それぞれの位置に着いた。
 レナルドとヴェイセルは荷馬車に、エセルバートはシリルに乗る。
 レナルドは手綱で手が塞がると杖を扱いにくいのを理由に、ヴェイセルは斧槍の重さで馬が潰れるのを恐れたからだ。
 馬車に乗ったのはこの商隊のトップであるオーガストだけだった。
 もし魔物に襲われでもしたら、馬車の中にいた方が対応はしやすい。
 そうしてようやく出発することになった。
 思いのほか他のメンバーとの会話が息苦しくない。
 オーガストには慣れているから除外するけれど、初対面の二人に対してエセルバートが身構えないのは珍しい。
 レナルドは社交的であり、感情の機微に聡いようだ。ヴェイセルに対しては理由はわからないけれど、隣にいても心地よかった。
 会話が弾むわけでもないのに、気まずい空気でもない。エセルバートには過ごしやすいものだった。
 少し進んで朝食を取ったときの雰囲気も悪くなかった。
 こうして誰かと快い空間にいるのは初めてのことかもしれない。
 昔からエセルバートの周囲には、彼のことを慮られた記憶はほとんどない。
 いたとしても、気を遣いすぎて却って空気が悪くなっていた。
 ただ一人だけ心を許せる人物がいたけれど、それもずいぶん昔のことである。
 現在はエセルバートの立場も変わって、周囲の様子も変化した。
 絡まれることも多くなったけれど、それ以上に対等に話しかけてくる者が増えた。
 それでも、ここまで心が凪ぐことはなかった。
 言い方はおかしいかもしれないけれど、この穏やかな時間が癖になってしまいそうだ。
 街道に沿ってゆったりと馬車を走らせながら一行は進む。
 周囲は見晴らしのいい草原で、魔物が現れればすぐにわかる。逆を言えば魔物からもこちらのことは筒抜けである。
 どちらにも不利になる状況だが、予想できない事態が起こることは予想できた。
 魔物もそのことを理解しているのか、この街道ではあまり襲ってこない。
 しばらく行くと森がある。
 森の中も人が道を作っているとはいえ、樹木で視界は悪く、魔物には都合のいい場所である。
 そこが今回の旅では一番危険な場所だと、皆認識している。
 平坦な道を進むだけで今日一日は終わりそうだ。
「こう魔物が出ないと暇だね」
 レナルドの言葉にエセルバートは苦い顔になる。
「暇な方が楽だろう」
「俺も暇だ」
 冒険者二人からの苦情に閉口する。
 そのまま何事もないまま時間は過ぎていく。
「そろそろ野宿の場所を探そう」
 ある程度進んだところでヴェイセルが声を発する。
 まだ時刻は夕方まで間がある。
 テントを張ったり、食事の用意をしたりしなくてはいけないため、早めに安全な場所は確保しておきたい。
「この辺りなら岩場があったよな?」
「あのでっかい岩ね。確かこの近辺にあったかな?」
 二人の会話を聞いて、岩場を思い浮かべる。
 何個も岩が重なり、ひとつの大岩のようになっている場所だ。
 どういう経緯で置かれたのかは、誰もわからない。
 多くの学者も研究しているようだが、それでも解明できていないらしい。
 その場所は転がる岩のおかげか、周囲に樹もなく見張りに最適である。
 オーガストに了承を得ると、岩場へと行く。
 岩と地面の境目で、なだらかになったところがある。そこに焚き火の後があった。
 旅人が野宿した痕跡だ。
 その場所を借りてテントを張り始める。
 結界魔法を扱える魔術師がその場に残り、他の二人は薪になる枝を探しに行く。
 ついでに食べられそうな山菜や、野生動物も探す。
 しばらく歩くと、小川を見つけた。
 あまり野営地から離れていないこともあり、補給に便利そうだ。
 飲めるのを確認して、あとで仲間に知らせようとその場は引き返した。
 片腕には薪を抱え、もう片方には途中で捕らえた兎を二羽持つ。
 そうして戻ると、すでにテントの準備は終わっていて、先に戻っていたヴェイセルが焚き火の準備を始めていた。
「獲物を捕ってきたのか。丁度良い。煮込んでスープを作ろう」
「米もあるし、残ったスープで雑炊もいいですね」
 オーガストと御者たちの話を聞き流しながら、抱えていた薪をヴェイセルの隣に置く。
「途中で小川があった。飲める水だから明日にでも補給しよう」
 皆に報告すると、オーガスト以外の視線が集まった。
 ヴェイセルとレナルドだけではなく、御者二人まで心配そうにしていた。
 その勢いに身を引きかけてしまう。
 何かおかしなことを言っただろうか。
「……飲んだのか?」
「飲めるか判断するには魔法が使えないと難しいのに」
 ようやく皆の心配に気づく。
「俺の身体は毒や病気には耐性がある」
「そんな体質、聞いたことないけど」
 レナルドの問いにエセルバートも頷く。
 一般的に毒耐性なら貴族や王族なら訓練を積むことがある。しかし、病気の耐性はかかってでもいなければ持つのは難しい。
「俺も聞いたことはないけど、そういうものだから仕方ない」
 理由はわからないけれど、昔からそういう体質なのだから説明のしようがない。
 納得いかない表情だったけれど、レナルドはそれ以上言葉にはしなかった。
 しかしヴェイセルの方はさらに顔を歪めていた。
「そういう体質は、あまり知られない方がいいんじゃないか。誰に利用されるかわからない」
「……そうだな」
 昔は便利な身体だと散々な扱いを受けていたことを思い出す。
 そのこともあり、こんなふうに純粋にエセルバート自身を心配されるのは擽ったい思いがした。
 知らず知らずのうちに視線が泳いでしまう。
 この話をこれ以上続けたくなくて、居たたまれない思いで話題を変えた。
「それをいうなら、ヴェイセルも魔人だというのはあまり言わない方がいい。まだこの国は魔人に優しくない」
 そんなエセルバートの心情に気づいているようだが、ヴェイセルはやわらかな笑みを浮かべて頷いた。
「なら、互いに気をつけよう」
「ああ」
 暖かな空気の中夕食を終えて、三人は順番に見張りをすることにした。