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第1話 商人の護衛依頼1

ー/ー



 レンフィールド王国は人間の王が治める国である。
 今では和平が結ばれているけれど、それまでは七人の魔王の一人、憤怒の魔王と争っていた。

 締結されてから二年経っているが、まだ情勢は不安定である。
 人間の国では魔人への差別はなくなっていないし、扱いも悪い。
 国のトップは彼らを表立って冷遇することはないが、それでも偏見に満ちている。

 それは魔人側も同じで、人間への印象はかなり悪い。
 魔人の国では人間が迫害されていると噂されている。

 そんな状態で好んで魔人の国へ行こうだなんて思う人間はきっといない。
 そうエセルバートは考えている。
 こんな時代で甘い考えを持つのは危険すぎる。自分は気を抜かないようにしようと改めて思う。

 冒険者として活動を始めたのが十八歳のときで、それから既に五年が経つ。
 安定しない世界情勢が落ち着くまでおとなしくしていてもよかったのだが、そういっていられない事情があった。

 こんなご時世なのだから、後ろ盾のない孤児や浮浪者は山ほどいる。
 エセルバートも天涯孤独の身で、一人で生きていかねばならない状況だった。

 成人したばかりで頼りになる人間は他にいない。そんな状況で生活する手段は限られる。
 考えた末に冒険者になることにした。

 冒険者になれば身分証も手に入るし、手に仕事も持てる。
 その代わり危険な依頼もあり、判断を間違えれば命を失うこともある。
 自分の意思とは無関係で、不本意なことも多くある。

 トラブルに巻き込まれない方が少ないだろう。
 それでもエセルバートの身の上で他の道は選べなかった。
 剣の実力はそこそこあったし、すぐに結果も出せた。とにかく手っ取り早かったのだ。

 腕に自信のあったエセルバートは、トントン拍子でランクを上げていくことになった。
 現在では依頼主たちからの信頼もそこそこ得ているし、冒険者の間でも顔を知られるようになった。

 今日はエイドリアン領の街ピーズの冒険者ギルドで依頼を吟味していた。
 腰に片手剣を刷き、背中には盾を背負っている。上半身には何の皮かは判別がつかないが、軽鎧を身にまとっている。

 動きやすさを重視していて、下半身は丈夫な生地のスウェットパンツとブーツを、腰にはウエストポーチを身につけている。
 旅装束ではなく、近所に買い物へ行くような軽いものだ。

 軽鎧をしっかり着ているのは、厄介ごとに巻き込まれることもあるからだ。
 甘い顔だけではそれほど強く見えないせいで、喧嘩を売られることも多い。

 ギルドに入ると中にいた冒険者たちの視線が一斉にこちらへと向く。
 冒険者特有のぎらついたものだが、エセルバートには慣れたものである。
 入ってきた人間が同業者だとわかると興味をなくしたのか、視線はすぐに散っていった。

 エセルバートがこの街に来て一年くらいだろうか。
 光沢のある艶やかな黒髪と、灰や薄い青にも見える銀青色の瞳が印象的な彼は、女に間違えられるような柔らかさはなくても、その容姿はかなり整っている。
 エセルバート自身は美醜に対して無頓着で、見苦しくない程度だと思っているけれど。

 当初はそんな容姿のエセルバートを侮ったり、警戒したりして手を出す人間もいたけれど、今はそういうこともほとんどない。

 銀青色の瞳がぐるりと建物内部を見渡した。

 ギルドの中は酒場に似ている。
 入り口近くの壁には依頼が貼られた掲示板があり、奥の広いスペースでは食事ができるようになっている。

 血の気が多い連中も多いため、酒は扱っていない。酔っ払って暴れられたら困るからだ。

 掲示板の奥にある受付へ行くと、リタという猫獣人が立っていた。
 白茶黒の三毛模様の三角耳と、長い尻尾を揺らしている。
 瞳孔が鋭い金色の瞳でエセルバートを捉える。

「エセルバート、仕事を受けに来たの?」
「ああ。前の依頼から一週間は経っているし、そろそろ次を受けようかと思って。何かいい仕事はあるか?」

 エセルバートが訪ねると、リタは手元にある書類を三枚ほど取り出す。

「運びの仕事と、護衛、それと討伐がおすすめだよ。護衛は何度か受けたことある商人が出してるみたい」

 名前を聞くと、常連と言ってもいいくらい顔を知っている商人だった。

「それならその護衛依頼にする」

 気心知れている相手でもあるし、信用もしている。
 たまにたいした説明もなく危険な道程を行く無鉄砲な人間もいるけれど、この商人はそんな無茶はしない。

 軽く依頼の説明を聞くと、やはり問題はなさそうだった。

「他の冒険者と合同の護衛になるけど、それでもいい?」
「何人かはもう決まっているのか?」
「魔術師と戦士の二人。空いているのはあと一人だね」

 まったく決まっていないより不安はない。それに前衛二人と後衛一人ならバランスもいい。

 ただ、エセルバートにはあまり交友関係を広げるつもりがなく、人間関係が気がかりではある。
 今までも似たような状況になったことはあるけれど、そこまで関係が深くなったことはない。

 そう考えると、あまり気にしなくても構わないだろう。

「受けることにする」
「了解。ここにサインと、ギルド証を貸して」

 エセルバートが素早く、丁寧な字で名前を書いているうちに、リタがギルド証を水晶のような見た目の魔道具へかざしている。
 仕組みはよくわからないが、そうすることで受ける依頼を登録できるらしい。

 冒険者にはランクがあり、エセルバートのランクは上級(ハイクラス)のシルバーである。
 ランクを示す銀の紋章が一瞬輝いた。

 紋章の形は羽を広げた鷲を象っている。
 猛禽類の鷲で冒険者の勇敢さを、羽ばたくということで権力や立場に縛られることのない自由を表しているそうだ。
 本当の自由を得ることは無理な話だとわかっていても、憧れるのは理解できる。

 しかし現実だと貴族や権力者が介入してくることはよくある。
 それでも距離を開け、最低限しか関わりを持たないという協定を、各国とギルドは結んでいる。

 冒険者の自由をある程度保障されることで、有事のときには力を貸す。そういう前提ではある。
 けれど、それがあるのとないのとでは、かなり立場が変わる。

 戦争時はともかく、和平締結後の現在は無理を強いられることもない。
 過去に思いを馳せながら、リタの話に耳を傾ける。

「二人の冒険者と顔合わせがしたいなら、商人のところに行ってみて。これから会う約束をしているみたい」
「わかった。リタ、いつもありがとう」
「……っ、どういたしまして!」

 エセルバートが目尻を下げるて礼を言うと、リタは一瞬呆けてからすぐに笑顔を浮かべた。
 荒くれ者が多い冒険者の中で、毎回丁寧に感謝を告げるのはエセルバートくらいである。

 そのままギルドを出た足で、商人の店へ行くことにする。
 会ったことのない冒険者に会うのは少し憂鬱だが、先延ばしはせずに早く済ませた方がいい。

 大通りに面している店をいくつか通り過ぎて、見慣れた店舗の前へとやってくる。
 大きすぎず、小さすぎない中堅どころの店構えだ。
 実際、それほど大きな利益を得ているわけではない。

 それでもエセルバートが冒険者になる前からの知り合いで、信頼できる相手である。
 ガラス越しに陳列されている商品を一瞥して、扉を開けた。

 カランコロンと鈴が鳴ると、店員がやってきた。

「いらっしゃいませ。あら、エセルバート様。お久しぶりです。もしかして、依頼を受けてくださったのですか?」
「ああ。先ほどギルドで依頼を受けたら、他の同行者がこちらにいると聞いた」
「ちょうどおられますよ。ご案内いたします」

 店員について行くと、何度も通ったことのある見慣れた廊下を抜け、奥の応接間へと案内された。
 中では既に三人が座って話をしていた。

「店長、最後の冒険者の方がいらっしゃいました」
「そうか、案内ありがとう。おや、エセルバートじゃないか」

 四十代くらいの男は、エセルバートに気づくとうれしそうに笑った。

「お久しぶりです。オーガストさん」
「三人目がきみなら安心だな。さあ、座ってくれ」

 言われて、既にソファへ座っている二人を見る。
 一人は魔術師らしいローブを着ている男と、もう一人は一般的に背の高いエセルバートと同じくらいの身丈をしている男だった。

 魔術師は長い金髪を首の後ろでくくり、青い瞳を持っていて、貴族のように整った顔をしている。
 もう一人は戦士のようだ。がっしりとした体躯は、服の上からでも鍛えられた筋肉で覆われているのがわかる。

 微かに尖った耳を見て、彼が何者であるのかなんとなく察する。
 髪は金や茶にも見える榛色で、長さは首にかかるくらいである。
 瞳は赤銅色だろうか。角度によっては赤にも見えた。

 エセルバートは鬣を揺らす獅子を思い浮かべる。
 それくらい迫力のある男だ。
 一度見たら忘れられないような、とても強い生命力を感じる。

 ただ、なぜかその瞳がエセルバートを凝視していた。
 穴が空くほどの強い視線に内心首を傾げる。

 ソファは二つあり、エセルバートから見て手前とテーブルを挟んだ向こう側にある。
 冒険者二人が手前に座り、依頼主のオーガストが奥の対面したソファに座っている。

 エセルバートが座るなら冒険者側だ。
 自然と獅子のような男へ近づく形になる。

 男の赤銅の瞳がずっとついてくる。
 空いている真ん中に座っても、隣から強い視線を向けられ続けた。
 さすがに居心地の悪さを感じて、真正面から男を見た。

「俺の顔に何かついているのか?」

 声をかけると、はっとしたようにようやく視線が外れた。目が気まずげにうろうろと泳いでいる。

「いや、すまん。何でもない」

 戸惑う男の様子を怪訝に見ていると、肩を軽く叩かれた。

「きみは前衛かな? えーと……」

 まだ名前も知らない相手で、どう呼ぶか迷っているようだ。

「ちょうどいい。面接みたいだけど、個々の能力を知りたいだろうし、自己紹介をしてもらおうと思っていたんだ」
「それなら、俺から」

 魔術師が手を上げた。

「名前はレナルド。見た通り魔術師だ。冒険者ランクは鋼。得意なのは氷属性だけど、回復もそれなりにできる。今までパーティーを組んでたんだけど喧嘩別れしてしまってさ。今回は路銀が尽きそうだったから依頼を受けたんだ」

 氷属性は水属性と火属性がある程度扱えなくては、使えない属性である。
 三属性を使えるだけでも重宝するのに、回復魔法も扱えるのは頼もしい。
 喧嘩の原因はわからないけれど、相手にとってはかなりの痛手だろう。

「エセルバート。魔法剣士、ランクは銀だ。身体強化が得意だ。ソロで活動している」
「ソロで銀なんだ。すごいな」

 エセルバートのランクは上から数えた方が早いくらいで、白金、金、銀と数えて三番目である。
 ちなみに鋼は銀よりも一つ下である。


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 レンフィールド王国は人間の王が治める国である。
 今では和平が結ばれているけれど、それまでは七人の魔王の一人、憤怒の魔王と争っていた。
 締結されてから二年経っているが、まだ情勢は不安定である。
 人間の国では魔人への差別はなくなっていないし、扱いも悪い。
 国のトップは彼らを表立って冷遇することはないが、それでも偏見に満ちている。
 それは魔人側も同じで、人間への印象はかなり悪い。
 魔人の国では人間が迫害されていると噂されている。
 そんな状態で好んで魔人の国へ行こうだなんて思う人間はきっといない。
 そうエセルバートは考えている。
 こんな時代で甘い考えを持つのは危険すぎる。自分は気を抜かないようにしようと改めて思う。
 冒険者として活動を始めたのが十八歳のときで、それから既に五年が経つ。
 安定しない世界情勢が落ち着くまでおとなしくしていてもよかったのだが、そういっていられない事情があった。
 こんなご時世なのだから、後ろ盾のない孤児や浮浪者は山ほどいる。
 エセルバートも天涯孤独の身で、一人で生きていかねばならない状況だった。
 成人したばかりで頼りになる人間は他にいない。そんな状況で生活する手段は限られる。
 考えた末に冒険者になることにした。
 冒険者になれば身分証も手に入るし、手に仕事も持てる。
 その代わり危険な依頼もあり、判断を間違えれば命を失うこともある。
 自分の意思とは無関係で、不本意なことも多くある。
 トラブルに巻き込まれない方が少ないだろう。
 それでもエセルバートの身の上で他の道は選べなかった。
 剣の実力はそこそこあったし、すぐに結果も出せた。とにかく手っ取り早かったのだ。
 腕に自信のあったエセルバートは、トントン拍子でランクを上げていくことになった。
 現在では依頼主たちからの信頼もそこそこ得ているし、冒険者の間でも顔を知られるようになった。
 今日はエイドリアン領の街ピーズの冒険者ギルドで依頼を吟味していた。
 腰に片手剣を刷き、背中には盾を背負っている。上半身には何の皮かは判別がつかないが、軽鎧を身にまとっている。
 動きやすさを重視していて、下半身は丈夫な生地のスウェットパンツとブーツを、腰にはウエストポーチを身につけている。
 旅装束ではなく、近所に買い物へ行くような軽いものだ。
 軽鎧をしっかり着ているのは、厄介ごとに巻き込まれることもあるからだ。
 甘い顔だけではそれほど強く見えないせいで、喧嘩を売られることも多い。
 ギルドに入ると中にいた冒険者たちの視線が一斉にこちらへと向く。
 冒険者特有のぎらついたものだが、エセルバートには慣れたものである。
 入ってきた人間が同業者だとわかると興味をなくしたのか、視線はすぐに散っていった。
 エセルバートがこの街に来て一年くらいだろうか。
 光沢のある艶やかな黒髪と、灰や薄い青にも見える銀青色の瞳が印象的な彼は、女に間違えられるような柔らかさはなくても、その容姿はかなり整っている。
 エセルバート自身は美醜に対して無頓着で、見苦しくない程度だと思っているけれど。
 当初はそんな容姿のエセルバートを侮ったり、警戒したりして手を出す人間もいたけれど、今はそういうこともほとんどない。
 銀青色の瞳がぐるりと建物内部を見渡した。
 ギルドの中は酒場に似ている。
 入り口近くの壁には依頼が貼られた掲示板があり、奥の広いスペースでは食事ができるようになっている。
 血の気が多い連中も多いため、酒は扱っていない。酔っ払って暴れられたら困るからだ。
 掲示板の奥にある受付へ行くと、リタという猫獣人が立っていた。
 白茶黒の三毛模様の三角耳と、長い尻尾を揺らしている。
 瞳孔が鋭い金色の瞳でエセルバートを捉える。
「エセルバート、仕事を受けに来たの?」
「ああ。前の依頼から一週間は経っているし、そろそろ次を受けようかと思って。何かいい仕事はあるか?」
 エセルバートが訪ねると、リタは手元にある書類を三枚ほど取り出す。
「運びの仕事と、護衛、それと討伐がおすすめだよ。護衛は何度か受けたことある商人が出してるみたい」
 名前を聞くと、常連と言ってもいいくらい顔を知っている商人だった。
「それならその護衛依頼にする」
 気心知れている相手でもあるし、信用もしている。
 たまにたいした説明もなく危険な道程を行く無鉄砲な人間もいるけれど、この商人はそんな無茶はしない。
 軽く依頼の説明を聞くと、やはり問題はなさそうだった。
「他の冒険者と合同の護衛になるけど、それでもいい?」
「何人かはもう決まっているのか?」
「魔術師と戦士の二人。空いているのはあと一人だね」
 まったく決まっていないより不安はない。それに前衛二人と後衛一人ならバランスもいい。
 ただ、エセルバートにはあまり交友関係を広げるつもりがなく、人間関係が気がかりではある。
 今までも似たような状況になったことはあるけれど、そこまで関係が深くなったことはない。
 そう考えると、あまり気にしなくても構わないだろう。
「受けることにする」
「了解。ここにサインと、ギルド証を貸して」
 エセルバートが素早く、丁寧な字で名前を書いているうちに、リタがギルド証を水晶のような見た目の魔道具へかざしている。
 仕組みはよくわからないが、そうすることで受ける依頼を登録できるらしい。
 冒険者にはランクがあり、エセルバートのランクは|上級《ハイクラス》のシルバーである。
 ランクを示す銀の紋章が一瞬輝いた。
 紋章の形は羽を広げた鷲を象っている。
 猛禽類の鷲で冒険者の勇敢さを、羽ばたくということで権力や立場に縛られることのない自由を表しているそうだ。
 本当の自由を得ることは無理な話だとわかっていても、憧れるのは理解できる。
 しかし現実だと貴族や権力者が介入してくることはよくある。
 それでも距離を開け、最低限しか関わりを持たないという協定を、各国とギルドは結んでいる。
 冒険者の自由をある程度保障されることで、有事のときには力を貸す。そういう前提ではある。
 けれど、それがあるのとないのとでは、かなり立場が変わる。
 戦争時はともかく、和平締結後の現在は無理を強いられることもない。
 過去に思いを馳せながら、リタの話に耳を傾ける。
「二人の冒険者と顔合わせがしたいなら、商人のところに行ってみて。これから会う約束をしているみたい」
「わかった。リタ、いつもありがとう」
「……っ、どういたしまして!」
 エセルバートが目尻を下げるて礼を言うと、リタは一瞬呆けてからすぐに笑顔を浮かべた。
 荒くれ者が多い冒険者の中で、毎回丁寧に感謝を告げるのはエセルバートくらいである。
 そのままギルドを出た足で、商人の店へ行くことにする。
 会ったことのない冒険者に会うのは少し憂鬱だが、先延ばしはせずに早く済ませた方がいい。
 大通りに面している店をいくつか通り過ぎて、見慣れた店舗の前へとやってくる。
 大きすぎず、小さすぎない中堅どころの店構えだ。
 実際、それほど大きな利益を得ているわけではない。
 それでもエセルバートが冒険者になる前からの知り合いで、信頼できる相手である。
 ガラス越しに陳列されている商品を一瞥して、扉を開けた。
 カランコロンと鈴が鳴ると、店員がやってきた。
「いらっしゃいませ。あら、エセルバート様。お久しぶりです。もしかして、依頼を受けてくださったのですか?」
「ああ。先ほどギルドで依頼を受けたら、他の同行者がこちらにいると聞いた」
「ちょうどおられますよ。ご案内いたします」
 店員について行くと、何度も通ったことのある見慣れた廊下を抜け、奥の応接間へと案内された。
 中では既に三人が座って話をしていた。
「店長、最後の冒険者の方がいらっしゃいました」
「そうか、案内ありがとう。おや、エセルバートじゃないか」
 四十代くらいの男は、エセルバートに気づくとうれしそうに笑った。
「お久しぶりです。オーガストさん」
「三人目がきみなら安心だな。さあ、座ってくれ」
 言われて、既にソファへ座っている二人を見る。
 一人は魔術師らしいローブを着ている男と、もう一人は一般的に背の高いエセルバートと同じくらいの身丈をしている男だった。
 魔術師は長い金髪を首の後ろでくくり、青い瞳を持っていて、貴族のように整った顔をしている。
 もう一人は戦士のようだ。がっしりとした体躯は、服の上からでも鍛えられた筋肉で覆われているのがわかる。
 微かに尖った耳を見て、彼が何者であるのかなんとなく察する。
 髪は金や茶にも見える榛色で、長さは首にかかるくらいである。
 瞳は赤銅色だろうか。角度によっては赤にも見えた。
 エセルバートは鬣を揺らす獅子を思い浮かべる。
 それくらい迫力のある男だ。
 一度見たら忘れられないような、とても強い生命力を感じる。
 ただ、なぜかその瞳がエセルバートを凝視していた。
 穴が空くほどの強い視線に内心首を傾げる。
 ソファは二つあり、エセルバートから見て手前とテーブルを挟んだ向こう側にある。
 冒険者二人が手前に座り、依頼主のオーガストが奥の対面したソファに座っている。
 エセルバートが座るなら冒険者側だ。
 自然と獅子のような男へ近づく形になる。
 男の赤銅の瞳がずっとついてくる。
 空いている真ん中に座っても、隣から強い視線を向けられ続けた。
 さすがに居心地の悪さを感じて、真正面から男を見た。
「俺の顔に何かついているのか?」
 声をかけると、はっとしたようにようやく視線が外れた。目が気まずげにうろうろと泳いでいる。
「いや、すまん。何でもない」
 戸惑う男の様子を怪訝に見ていると、肩を軽く叩かれた。
「きみは前衛かな? えーと……」
 まだ名前も知らない相手で、どう呼ぶか迷っているようだ。
「ちょうどいい。面接みたいだけど、個々の能力を知りたいだろうし、自己紹介をしてもらおうと思っていたんだ」
「それなら、俺から」
 魔術師が手を上げた。
「名前はレナルド。見た通り魔術師だ。冒険者ランクは鋼。得意なのは氷属性だけど、回復もそれなりにできる。今までパーティーを組んでたんだけど喧嘩別れしてしまってさ。今回は路銀が尽きそうだったから依頼を受けたんだ」
 氷属性は水属性と火属性がある程度扱えなくては、使えない属性である。
 三属性を使えるだけでも重宝するのに、回復魔法も扱えるのは頼もしい。
 喧嘩の原因はわからないけれど、相手にとってはかなりの痛手だろう。
「エセルバート。魔法剣士、ランクは銀だ。身体強化が得意だ。ソロで活動している」
「ソロで銀なんだ。すごいな」
 エセルバートのランクは上から数えた方が早いくらいで、白金、金、銀と数えて三番目である。
 ちなみに鋼は銀よりも一つ下である。