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姉妹巫女

ー/ー



 名も知らぬ巫女さんに促されるまま境内を縦断し、俺は社務所らしき所へ案内された。
 ぱっと見ると引き戸が二つある。
 片方は社務所、もう片方は社務所とは別の部屋に繋がっているようで、巫女さんは社務所には繋がっていない方の扉を開けた。

「失礼します……」

 慣れない場所、初めて会う人、自分で思っていたよりも緊張していたのだろう、声がかすれている。
 巫女さんはそんな俺の様子に目もくれず、馴れた足取りで中へと入っていく。
 俺もおくれないようにと慌てて中に入ると、俺の目にまた別の巫女さんの姿が映った。

 先ほどの巫女さんとは違い、こちらはかなり長い茶色がかった髪を腰の辺りまで伸ばしている。
 こちらを向いた時の表情も先ほどの巫女さんとは違い、柔らかいような暖かい様な印象を与えてくる。
 目はやや大きめで目尻が少し下がっており、可愛らしい印象の顔立ちなのだけど、鼻筋は綺麗に通っており、美人だなと思った。
 すこし下唇が厚めでそのぽってりとした唇が、やけに色っぽく見えて心臓が高鳴ってしまった。

「あら美月、おきゃくさまかし……」

 途中まで言ったところで、茶色髪の巫女さんの言葉が止まった。
 怪訝に思いふとその顔を見ると、先ほどの巫女さんと同じように、目を見開いて口を半開きにして、だけど食い入るように俺を見ていた。
 何なのだろう、2人共にこんな反応をされると微妙な気持ちになる。
 よほど人相が悪く見えるのだろうかと少し不安になる。

 この人もどこかで見たことがあるような、でもさっきに巫女さんみたいに夢で見たわけでもないし。
 かすかに感じた既視感。
 だけど先ほどと違い、明確に印象に残る何かがあったわけでは無い。
 俺は首をひねりながらも、そこで考えるのを諦めた。

「あ……えっと、美月。そちらの方は……」

 俺が奇妙そうな顔をしていたのに気がついたのだろうか、茶髪巫女さんが慌てて取りなすように言う。

「先ほど境内にいたのよ、姉さん。多分()()()()()。」
「えぇ……、じゃあ……」
「うん、だから導かれたのだと思う。」

 俺にはよくわからない会話の応酬。
 疲れているのとこの神社に来たことに、何か因果関係でもあるのだろうか。
 導かれた?どういう意味だろう。
 会話に入ることもできず、完全に置いてきぼりになってしまった俺は、断片的な言葉から納得できる理由を導き出そうとしたが、あまりにも情報が少なすぎて、断念した。
 その頃には二人の話し合いも終わったようで、茶髪巫女さんが俺の方へ近寄ってくると、手をおなかの辺りで重ねて、深く頭を下げてきた。
 あまりの態度に、俺は恐縮してしまいどうしたら良いのかと取り乱してしまう。
 
「名乗りが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。私はこの神社の巫女を務めております、稲森 陽女(いなもりひめ)ともうします。そしてこちらが……」

 深々と頭を下げたまま自らの紹介をして、ゆっくり頭を上げた陽女は、隣にたっていた先ほどの黒髪巫女の肩に手を当てる。

「私は陽女姉さんの妹、稲森 美月(いなもりみつき)と申します」

 姉と同じように、おなかの上に手を重ねて、深々と頭を下げて、名乗り終えると頭を上げた。
 その時にふと視線が交差した。
 その瞳には何ともいえない深い色が浮かんでいて、俺は無意識に彼女に手を伸ばしそうになり、寸前で何とか其れを堪えた。
 いきなり抱きしめたら変質者、いや犯罪だろうと、無意識にそんな行動を取りそうになった自分を嫌悪した。
 だけど何故なのだろう、彼女の瞳を見た瞬間にはそれがとても自然なことに思えてしまったのだ。

 そんな俺の様子を、陽女は温かい笑みを浮かべてみていた。しかしその瞳は美月とちがって少し悲しい色を浮かべていたように見えた。

「あっと……俺は明神 智春(みょうじんともはる)といいます。去年こっちに引っ越してきたばかりで、この辺のことはあまり詳しくなくて、フラフラと散歩していたら偶然この神社を見かけて……」
「明神?高野宮では無く明神ですか?」
 
 俺の話を遮るように、雛女が口を挟んできた。

「はい、明神です。日に月っていうか、明治の明って言ったら良いのか、それに神で明神です。」

 何をそんなに取り乱しているのかは解らなかったが、ともかく自己紹介はできたから問題ないだろう。

「日……月……神……明神……」

 何か引っかかることがあるのだろうか、雛女はずっとそう呟いている。
 それは意味は解らないけれどとても重要なことなのだろうか、雛女はかなり思い詰めた顔をして足下を見ながら同じ言葉を繰り返す。
 何とも気まずい空気が流れる。
 美月もなんとなく落ち着かない様子で、姉と俺を交互にチラチラと見ている。

「あー、そういえば、ここってかなり歴史的に色々あるところらしいですね。俺のクラスにもこの町で代々名主をしていたって言う名家のご令嬢がいるんですけどね、守藤って言う。こいつの家もかなり昔から……」

 俺が守藤の名を出した途端、こんどは美月の様子が変わった。
 目尻がぐいっと上がり、眉毛は逆立ちまるで話に聞く夜叉のような姿で俺を見た。

「守藤に……関わっているのですか」

 低い声、先ほどまでの彼女からは感じなかった威圧と圧力を感じて、俺は何か失敗したのだろうかと暗澹とした気持ちになった。


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 ぱっと見ると引き戸が二つある。
 片方は社務所、もう片方は社務所とは別の部屋に繋がっているようで、巫女さんは社務所には繋がっていない方の扉を開けた。
「失礼します……」
 慣れない場所、初めて会う人、自分で思っていたよりも緊張していたのだろう、声がかすれている。
 巫女さんはそんな俺の様子に目もくれず、馴れた足取りで中へと入っていく。
 俺もおくれないようにと慌てて中に入ると、俺の目にまた別の巫女さんの姿が映った。
 先ほどの巫女さんとは違い、こちらはかなり長い茶色がかった髪を腰の辺りまで伸ばしている。
 こちらを向いた時の表情も先ほどの巫女さんとは違い、柔らかいような暖かい様な印象を与えてくる。
 目はやや大きめで目尻が少し下がっており、可愛らしい印象の顔立ちなのだけど、鼻筋は綺麗に通っており、美人だなと思った。
 すこし下唇が厚めでそのぽってりとした唇が、やけに色っぽく見えて心臓が高鳴ってしまった。
「あら美月、おきゃくさまかし……」
 途中まで言ったところで、茶色髪の巫女さんの言葉が止まった。
 怪訝に思いふとその顔を見ると、先ほどの巫女さんと同じように、目を見開いて口を半開きにして、だけど食い入るように俺を見ていた。
 何なのだろう、2人共にこんな反応をされると微妙な気持ちになる。
 よほど人相が悪く見えるのだろうかと少し不安になる。
 この人もどこかで見たことがあるような、でもさっきに巫女さんみたいに夢で見たわけでもないし。
 かすかに感じた既視感。
 だけど先ほどと違い、明確に印象に残る何かがあったわけでは無い。
 俺は首をひねりながらも、そこで考えるのを諦めた。
「あ……えっと、美月。そちらの方は……」
 俺が奇妙そうな顔をしていたのに気がついたのだろうか、茶髪巫女さんが慌てて取りなすように言う。
「先ほど境内にいたのよ、姉さん。多分|つ《・》|か《・》|れ《・》|て《・》|る《・》。」
「えぇ……、じゃあ……」
「うん、だから導かれたのだと思う。」
 俺にはよくわからない会話の応酬。
 疲れているのとこの神社に来たことに、何か因果関係でもあるのだろうか。
 導かれた?どういう意味だろう。
 会話に入ることもできず、完全に置いてきぼりになってしまった俺は、断片的な言葉から納得できる理由を導き出そうとしたが、あまりにも情報が少なすぎて、断念した。
 その頃には二人の話し合いも終わったようで、茶髪巫女さんが俺の方へ近寄ってくると、手をおなかの辺りで重ねて、深く頭を下げてきた。
 あまりの態度に、俺は恐縮してしまいどうしたら良いのかと取り乱してしまう。
「名乗りが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。私はこの神社の巫女を務めております、|稲森 陽女《いなもりひめ》ともうします。そしてこちらが……」
 深々と頭を下げたまま自らの紹介をして、ゆっくり頭を上げた陽女は、隣にたっていた先ほどの黒髪巫女の肩に手を当てる。
「私は陽女姉さんの妹、|稲森 美月《いなもりみつき》と申します」
 姉と同じように、おなかの上に手を重ねて、深々と頭を下げて、名乗り終えると頭を上げた。
 その時にふと視線が交差した。
 その瞳には何ともいえない深い色が浮かんでいて、俺は無意識に彼女に手を伸ばしそうになり、寸前で何とか其れを堪えた。
 いきなり抱きしめたら変質者、いや犯罪だろうと、無意識にそんな行動を取りそうになった自分を嫌悪した。
 だけど何故なのだろう、彼女の瞳を見た瞬間にはそれがとても自然なことに思えてしまったのだ。
 そんな俺の様子を、陽女は温かい笑みを浮かべてみていた。しかしその瞳は美月とちがって少し悲しい色を浮かべていたように見えた。
「あっと……俺は|明神 智春《みょうじんともはる》といいます。去年こっちに引っ越してきたばかりで、この辺のことはあまり詳しくなくて、フラフラと散歩していたら偶然この神社を見かけて……」
「明神?高野宮では無く明神ですか?」
 俺の話を遮るように、雛女が口を挟んできた。
「はい、明神です。日に月っていうか、明治の明って言ったら良いのか、それに神で明神です。」
 何をそんなに取り乱しているのかは解らなかったが、ともかく自己紹介はできたから問題ないだろう。
「日……月……神……明神……」
 何か引っかかることがあるのだろうか、雛女はずっとそう呟いている。
 それは意味は解らないけれどとても重要なことなのだろうか、雛女はかなり思い詰めた顔をして足下を見ながら同じ言葉を繰り返す。
 何とも気まずい空気が流れる。
 美月もなんとなく落ち着かない様子で、姉と俺を交互にチラチラと見ている。
「あー、そういえば、ここってかなり歴史的に色々あるところらしいですね。俺のクラスにもこの町で代々名主をしていたって言う名家のご令嬢がいるんですけどね、守藤って言う。こいつの家もかなり昔から……」
 俺が守藤の名を出した途端、こんどは美月の様子が変わった。
 目尻がぐいっと上がり、眉毛は逆立ちまるで話に聞く夜叉のような姿で俺を見た。
「守藤に……関わっているのですか」
 低い声、先ほどまでの彼女からは感じなかった威圧と圧力を感じて、俺は何か失敗したのだろうかと暗澹とした気持ちになった。