第二百六話 皇太子正妃vsスベリエ王太子
ー/ー--ゴズフレズ王国北部 城塞都市ティティス 上空 飛行空母ユニコーン・ゼロ。
ジカイラとヒナは、スベリエのオクセンシェルナ伯爵がハロルド王との会談を終えた後、飛行空母ユニコーン・ゼロに戻る。
ジカイラは、格納庫から続く通路を歩きながら傍らのヒナに話す。
「ヒナ。アレクとルイーゼを応接に呼んでくれ」
「判ったわ」
アレクとルイーゼは、ジカイラに呼ばれ、応接室にやってくる。
ドアをノックして二人は応接室に入り、アレクはジカイラに尋ねる。
「中佐。お呼びですか?」
「来たか。……ま、二人とも掛けてくれ」
ジカイラに促されるまま、二人は応接のソファーに座る。
ジカイラは口を開く。
「……実は、さっき、ティティスの市庁舎で、スベリエ王国軍を率いるオクセンシェルナ伯爵がハロルド王に謁見して、スベリエ王国が参戦した対価としてゴズフレズ側に戦争税の支払いと王女の身柄を要求してきた」
ジカイラは、オクセンシェルナ伯爵とハロルド王との戦争税と王女の身柄を巡るやり取りと、帝国側が万が一に備え、あらかじめ皇太子のジークをハフニアに派遣していたこと、そのジークがスベリエ軍によるゴズフレズの王女の誘拐を見過ごすはずがない旨をアレクとルイーゼの二人に説明する。
ジカイラは、説明を聞いて驚く二人に続ける
「お前たちの小隊にゴズフレズの王女のエスコートを頼みたい。徒歩や騎馬なら時間が掛かるが、飛空艇ならここから半時でハフニアまで飛べる。これからハフニアへ飛んで、ゴズフレズの王女をハロルド王のいるここへ連れて来てくれ」
「判りました」
アレクたちユニコーン小隊は飛空艇に乗り込み、飛行空母ユニコーン・ゼロから王都ハフニアに向かう。
--ゴズフレズ王国 王都ハフニア 王城 上空。
ジークたちが王城の上空に差し掛かると、王城三階にある庭園の通路を礼拝堂に向かって小走りで進むカリンと老執事、兵士二人の姿が見え、四人は礼拝堂の中に入って行く姿が見えた。
ジークは口を開く。
「ソフィア! あそこだ! 三階にある庭園の礼拝堂に向かえ!」
「ハッ!」
ソフィアは手綱を引き飛竜を旋回させると、庭園の礼拝堂に進路を向ける。
カリンと老執事、二人の兵士たちは礼拝堂の中に逃げ込み、礼拝堂の入口の扉を閉めると内側からかんぬきに木材を差し込んで扉を封じる。
ほどなく入口の扉に衝撃と共に大きな物音がして、扉が内側に大きくしなる。
老執事は、腰の鞘から剣を抜いて身構える。
「姫様は、奥に隠れていて下され!」
衝撃と大きな音は幾度と無く繰り返され、やがて扉に大きな穴が開くと、食人鬼が穴に手を入れて扉の木材を剥がし、扉を破壊していく。
老執事は扉の方角を睨む。
「食人鬼め!」
カリンは、醜い食人鬼の巨体を目の当たりにして恐怖に怯え、傍らの老執事にすがりつく。
食人鬼が入口の扉を破壊すると、スベリエ軍は二体の食人鬼を先頭に礼拝堂の入口から押し入って来る。
剣を構える老執事とカリンは、礼拝堂の奥の祭壇前に立ち、その前に二人のゴズフレズの兵士たちも斧を構えて立ち、押し入って来たスベリエ軍に対峙する。
スベリエ軍の中から意匠を凝らした派手な鎧を着た遊び人風の男が二体の食人鬼の間を通り抜けて、カリンたちの前に歩み出て来る。
遊び人風の男は、恭しくカリンたち四人に一礼する。
「お初にお目に掛かる。私は、スベリエ王国王太子アルムフェルト・ヨハン・スベリエと申します。カリン王女、我々と一緒にガムラ・スタンへ御同行願いたい」
アルムフェルトは、顔を上げてカリンを見ると、大げさな身振り手振りをしながらカリンを口説き始める。
「これはこれは! 聞きしに勝る、可憐さ! 美しさ! 是非とも、貴女と一夜を共にしたい! 私の妃になりたまえ!」
カリンは、アルムフェルトの申し出をキッパリと断る。
「嫌です!」
アルムフェルトは右手で両目を覆うと、大げさな素振りで語り出す。
「くっ! 即答だと!? ……多少は考える素振りをするのが異性への礼儀です! ……これだからゴズフレズの田舎娘は! ……貴女に拒否権などないのですよ? 私の妃になる美女に手荒なことはしたくないのですが」
カリンは、再びアルムフェルトの申し出をキッパリと断る。
「お断りします!」
先ほどまでニヤけ顔であったアルムフェルトは、再びカリンに断わられると憤怒の表情を浮かべる。
「ならば、力ずくでガムラ・スタンへ連れて行く! やれ!」
アルムフェルトの命令で二体の食人鬼がカリンたちに迫る。
ゴズフレズの兵士二人が二体の食人鬼と斬り結ぶが、食人鬼の怪力によって数回斬り結んだだけで、食人鬼の棍棒によって弾き飛ばされる。
老執事は剣を構えたまま、カリンを背中に庇うように二体食人鬼と対峙する。
「姫様は、御下がりくだされ!」
「爺!」
次の瞬間、大きな音と共に天井のステンドグラスが砕かれ、礼拝堂の中に大きな飛竜が降りてくる。
ジークとソフィアの乗る飛竜であった。
飛竜は、空中で二回ほど羽ばたいてカリンたちとスベリエ軍の間に降り立つと、背に乗るジークとソフィアを降ろす。
そして、スベリエ軍に向けて翼を広げて顔を向けると口を開いて叫び、食人鬼たちを威嚇する。
「キシャアアア!」
食人鬼たちは、威嚇してくる飛竜に怯え、こん棒を向けたまま、後退る。
スベリエ軍は、突然、目の前に現れた飛竜とジークたちに驚愕する。
「なんだ!?」
「ワ、飛竜だ!」
ジークは、床に降り立つと、カリンたちに話し掛ける。
「間に合ったか! ……二人とも、無事か?」
カリンは、目に涙を浮かべながらジークに駆け寄って抱き付く。
「ジーク様!」
ジークは、自分に抱き付いてきたカリンの頭を撫でながら、耳元で囁く。
「もう大丈夫……大丈夫です」
ジークは、老執事にカリンの身体を預けると、天井のステンドグラスのあった穴から、アストリッドが飛空艇から降ろしてきたロープを手に取り、老執事に告げる。
「上空に飛空艇が待っています。二人は、このロープのあぶみに足を掛けて、先に行って下さい」
カリンは、ジークに尋ねる。
「でも! ジーク様達は!?」
ソフィアは、ピシャリとカリンに告げる。
「先に行きなさい。ケガするわよ」
カリンは、毅然としたソフィアの態度と言葉に気圧され、素直に二人の言葉に従う。
「両殿下! かたじけない!」
老執事は抜いていた剣を鞘に仕舞うと、カリンを小脇に抱えてロープのあぶみに足を掛ける。
飛空艇のアストリッドが徐々に飛空艇の高度を上げていくと、二人はロープで引き揚げられ、礼拝堂の中からステンドグラスが砕けて開いた天井の穴を抜けて上空へと出て行った。
アストリッドは、上空で飛空艇のウインチでロープを巻き上げ、カリンと老執事は二人が出迎える飛空艇に乗り込む。
「カリンさん! 御無事でしたか!」
「フェリシアさん!」
フェリシアの声を聴いたカリンは、フェリシアに抱き付くと安心して泣き出す。
フェリシアは、泣きじゃくるカリンの頭を撫でながらなだめる。
「大丈夫。心配ありませんよ」
ソフィアの飛竜は大きく息を吸い込むと、向かって右側の食人鬼に向けて火炎息を浴びせる。
「グァアアアア!」
食人鬼と、その近くにいたスベリエ軍の兵士たちは、火達磨になって悲鳴を上げながら床を転げ回り、絶命する。
ソフィアは、飛竜の前に歩み出ると右手をかざして飛竜を制止する。
「お止め! 礼拝堂を火事にするつもり!?」
主人であるソフィアに制された飛竜は、甘えるような鳴き声を上げながら後ろに下がる。
ソフィアは、右手に持つ自分の竜騎士槍『竜王の牙』に向けて左手をかざすと、竜語の魔法を唱える。
「Клыки Короля Драконов.」
(竜王の牙よ)
「Основываясь на этом благословении」
(その加護に基づき)
「Дай мне изначальное пламя!」
(我に始原の炎を貸し与えたまえ!)
ソフィアの持つ竜騎士槍『竜王の牙』は、主の呼び掛けに応じるように、槍全体が淡く青白い光を帯び、槍の穂先は赤く輝き、光を放つ。
スベリエ軍の兵士たちは、前に歩み出て来たソフィアを見て、口々にざわつく。
「女騎士?」
「いや、女の竜騎士だ!?」
「真紅の竜騎士……」
アルムフェルトは、竜騎士姿のソフィアを見ると、ニヤけ顔を浮かべながら、今度はソフィアを口説き始める。
「お嬢さん。貴女のような美女が、そんな物を振り回しているなんて、似合いませんよ? 貴女のような美しい女性は、私と一夜を共にし、ベッドで私の腕枕で眠りにつくのが良いのです!」
ソフィアは、自分を口説いてくるアルムフェルトを侮蔑した目線で見下すと、唾棄するように告げる。
「断る! ……お前は、相手が女と見れば、誰でも口説いて迫っているようだな? チャラチャラした軟弱なフヌケが! 虫唾が走る!」
アルムフェルトは、ソフィアが最も毛嫌いしている、いわゆる『チャラ男』というタイプであった。
アルムフェルトは、先ほどまでニヤけ顔であったが、ソフィアに断られると、憤怒の表情を浮かべる。
「なら、力ずくで私のベッドへ連れて行く! やれ!」
命令された食人鬼は、ソフィアを捕まえようと手を伸ばして近寄ってくる。
ソフィアは、食人鬼に向けて竜騎士槍を構えると、気合いを上げながら、鋭い突きを放つ。
「ハァアアアアッ!」
ソフィアの竜騎士槍による鋭い突きは、食人鬼の胸に突き刺さる。
次の瞬間、槍の穂先が刺さった食人鬼の胸に人が通れるほどの大穴が空く。
「ゴフッ?」
頭の弱い食人鬼は、こん棒を持っていない左手を自分の胸に空いた大穴の中に入れ、突然、自分の胸に大穴が空いたことが理解できずに首を傾げる。
やがて食人鬼は、後ろに倒れて絶命する。
スベリエ軍は、食人鬼が一撃で倒された様子を見て、浮足立ち始める。
「食人鬼が!? 一撃で!?」
「何だ? 何が起こったんだ?」
アルムフェルトは、眉尻をピクピクと引き攣らせながらソフィアに尋ねる。
「……女……何者だ?」
ソフィアは、構えていた竜騎士槍を自分の身体の右側に立てると、背筋を伸ばして礼拝堂の中に響き渡る凛とした口調で名乗りを上げる。
「我は、バレンシュテット帝国 皇太子正妃 ソフィア・ゲキックス・フォン・バレンシュテット! 『大陸最強の竜騎士』アキックス・ゲキックスの孫! 『竜王の愛娘』とは私のことだ! 退け! スベリエの雑兵ども!」
スベリエ軍は、ソフィアの名乗りを聞いて一斉にざわつき始め、怖気づく。
「帝国の皇太子正妃だと!?」
「大陸最強の竜騎士の孫……!?」
「ゲキックスって、あの『金鱗の竜王』を従えている竜の一族か?」
「創世記の『神殺しの竜王』だぞ!?」
「あ、相手が悪すぎる!」
名乗り終えたソフィアは、再び竜騎士槍をスベリエ軍に向けて構える。
ソフィアが一歩前に歩み出ると、スベリエ軍の兵士たちは、二歩三歩と後退る。
ジークは、前に歩み出てソフィアの肩に手を置くと、その耳元で囁く。
「ソフィア。良くやった」
ソフィアは猫撫で声で答える。
「ジーク様……」
ジークは、アルムフェルトに告げる。
「私の妻を寝床に連れて行くとは、聞き捨てならないな。……貴様、斬られたいのか?」
アルムフェルトは、ジークをジロリと睨む。
「私の妻だと!? ……くっ! こちらの美女は、既に人妻であったか!」
アルムフェルトは、顎に手を当てて考えながらチラチラと横目でソフィアを見て、ブツブツと独り言を呟く。
「ふむ。……だが、人妻というのも悪く無い。……他人の妻を味見してみたいとも思う。……問題は、どうやって口説いてベッドに連れ込むかだな。うん」
考えがまとまったアルムフェルトはジークを指差して告げる。
「まさか、お前。こちらの美女の夫か?」
ジークは即答する。
「いかにも。私は、バレンシュテット帝国皇太子 ジークフリート・ヘーゲル・フォン・バレンシュテットだ」
アルムフェルトは、再び大げさな身振り手振りをしながら叫び出す。
「貴様ぁ! 夫ということは、こちらの美女と毎晩、あ~んなことも、こ~んなことも、しているというのかぁ!? 許さん! 許さんぞぉ~!」
ジークは、呆れたように答える。
「……それは好きに妄想しろ」
側近の士官はアルムフェルトに耳打ちする。
「王太子殿下。相手は、飛竜に竜騎士と上級騎士です。こちらは戦力的に勝ち目がありません。……ここは退いた方がよろしいかと」
アルムフェルトは、ジークを指差すと悔しそうに捨て台詞を吐く。
「くそっ! 貴様、覚えていろ! ……者共、退くぞ!」
アルムフェルトは、ジークたちに捨て台詞を吐くと、スベリエ軍部隊を引き連れて礼拝堂から逃げるように去って行った。
ジカイラとヒナは、スベリエのオクセンシェルナ伯爵がハロルド王との会談を終えた後、飛行空母ユニコーン・ゼロに戻る。
ジカイラは、格納庫から続く通路を歩きながら傍らのヒナに話す。
「ヒナ。アレクとルイーゼを応接に呼んでくれ」
「判ったわ」
アレクとルイーゼは、ジカイラに呼ばれ、応接室にやってくる。
ドアをノックして二人は応接室に入り、アレクはジカイラに尋ねる。
「中佐。お呼びですか?」
「来たか。……ま、二人とも掛けてくれ」
ジカイラに促されるまま、二人は応接のソファーに座る。
ジカイラは口を開く。
「……実は、さっき、ティティスの市庁舎で、スベリエ王国軍を率いるオクセンシェルナ伯爵がハロルド王に謁見して、スベリエ王国が参戦した対価としてゴズフレズ側に戦争税の支払いと王女の身柄を要求してきた」
ジカイラは、オクセンシェルナ伯爵とハロルド王との戦争税と王女の身柄を巡るやり取りと、帝国側が万が一に備え、あらかじめ皇太子のジークをハフニアに派遣していたこと、そのジークがスベリエ軍によるゴズフレズの王女の誘拐を見過ごすはずがない旨をアレクとルイーゼの二人に説明する。
ジカイラは、説明を聞いて驚く二人に続ける
「お前たちの小隊にゴズフレズの王女のエスコートを頼みたい。徒歩や騎馬なら時間が掛かるが、飛空艇ならここから半時でハフニアまで飛べる。これからハフニアへ飛んで、ゴズフレズの王女をハロルド王のいるここへ連れて来てくれ」
「判りました」
アレクたちユニコーン小隊は飛空艇に乗り込み、飛行空母ユニコーン・ゼロから王都ハフニアに向かう。
--ゴズフレズ王国 王都ハフニア 王城 上空。
ジークたちが王城の上空に差し掛かると、王城三階にある庭園の通路を礼拝堂に向かって小走りで進むカリンと老執事、兵士二人の姿が見え、四人は礼拝堂の中に入って行く姿が見えた。
ジークは口を開く。
「ソフィア! あそこだ! 三階にある庭園の礼拝堂に向かえ!」
「ハッ!」
ソフィアは手綱を引き飛竜を旋回させると、庭園の礼拝堂に進路を向ける。
カリンと老執事、二人の兵士たちは礼拝堂の中に逃げ込み、礼拝堂の入口の扉を閉めると内側からかんぬきに木材を差し込んで扉を封じる。
ほどなく入口の扉に衝撃と共に大きな物音がして、扉が内側に大きくしなる。
老執事は、腰の鞘から剣を抜いて身構える。
「姫様は、奥に隠れていて下され!」
衝撃と大きな音は幾度と無く繰り返され、やがて扉に大きな穴が開くと、食人鬼が穴に手を入れて扉の木材を剥がし、扉を破壊していく。
老執事は扉の方角を睨む。
「食人鬼め!」
カリンは、醜い食人鬼の巨体を目の当たりにして恐怖に怯え、傍らの老執事にすがりつく。
食人鬼が入口の扉を破壊すると、スベリエ軍は二体の食人鬼を先頭に礼拝堂の入口から押し入って来る。
剣を構える老執事とカリンは、礼拝堂の奥の祭壇前に立ち、その前に二人のゴズフレズの兵士たちも斧を構えて立ち、押し入って来たスベリエ軍に対峙する。
スベリエ軍の中から意匠を凝らした派手な鎧を着た遊び人風の男が二体の食人鬼の間を通り抜けて、カリンたちの前に歩み出て来る。
遊び人風の男は、恭しくカリンたち四人に一礼する。
「お初にお目に掛かる。私は、スベリエ王国王太子アルムフェルト・ヨハン・スベリエと申します。カリン王女、我々と一緒にガムラ・スタンへ御同行願いたい」
アルムフェルトは、顔を上げてカリンを見ると、大げさな身振り手振りをしながらカリンを口説き始める。
「これはこれは! 聞きしに勝る、可憐さ! 美しさ! 是非とも、貴女と一夜を共にしたい! 私の妃になりたまえ!」
カリンは、アルムフェルトの申し出をキッパリと断る。
「嫌です!」
アルムフェルトは右手で両目を覆うと、大げさな素振りで語り出す。
「くっ! 即答だと!? ……多少は考える素振りをするのが異性への礼儀です! ……これだからゴズフレズの田舎娘は! ……貴女に拒否権などないのですよ? 私の妃になる美女に手荒なことはしたくないのですが」
カリンは、再びアルムフェルトの申し出をキッパリと断る。
「お断りします!」
先ほどまでニヤけ顔であったアルムフェルトは、再びカリンに断わられると憤怒の表情を浮かべる。
「ならば、力ずくでガムラ・スタンへ連れて行く! やれ!」
アルムフェルトの命令で二体の食人鬼がカリンたちに迫る。
ゴズフレズの兵士二人が二体の食人鬼と斬り結ぶが、食人鬼の怪力によって数回斬り結んだだけで、食人鬼の棍棒によって弾き飛ばされる。
老執事は剣を構えたまま、カリンを背中に庇うように二体食人鬼と対峙する。
「姫様は、御下がりくだされ!」
「爺!」
次の瞬間、大きな音と共に天井のステンドグラスが砕かれ、礼拝堂の中に大きな飛竜が降りてくる。
ジークとソフィアの乗る飛竜であった。
飛竜は、空中で二回ほど羽ばたいてカリンたちとスベリエ軍の間に降り立つと、背に乗るジークとソフィアを降ろす。
そして、スベリエ軍に向けて翼を広げて顔を向けると口を開いて叫び、食人鬼たちを威嚇する。
「キシャアアア!」
食人鬼たちは、威嚇してくる飛竜に怯え、こん棒を向けたまま、後退る。
スベリエ軍は、突然、目の前に現れた飛竜とジークたちに驚愕する。
「なんだ!?」
「ワ、飛竜だ!」
ジークは、床に降り立つと、カリンたちに話し掛ける。
「間に合ったか! ……二人とも、無事か?」
カリンは、目に涙を浮かべながらジークに駆け寄って抱き付く。
「ジーク様!」
ジークは、自分に抱き付いてきたカリンの頭を撫でながら、耳元で囁く。
「もう大丈夫……大丈夫です」
ジークは、老執事にカリンの身体を預けると、天井のステンドグラスのあった穴から、アストリッドが飛空艇から降ろしてきたロープを手に取り、老執事に告げる。
「上空に飛空艇が待っています。二人は、このロープのあぶみに足を掛けて、先に行って下さい」
カリンは、ジークに尋ねる。
「でも! ジーク様達は!?」
ソフィアは、ピシャリとカリンに告げる。
「先に行きなさい。ケガするわよ」
カリンは、毅然としたソフィアの態度と言葉に気圧され、素直に二人の言葉に従う。
「両殿下! かたじけない!」
老執事は抜いていた剣を鞘に仕舞うと、カリンを小脇に抱えてロープのあぶみに足を掛ける。
飛空艇のアストリッドが徐々に飛空艇の高度を上げていくと、二人はロープで引き揚げられ、礼拝堂の中からステンドグラスが砕けて開いた天井の穴を抜けて上空へと出て行った。
アストリッドは、上空で飛空艇のウインチでロープを巻き上げ、カリンと老執事は二人が出迎える飛空艇に乗り込む。
「カリンさん! 御無事でしたか!」
「フェリシアさん!」
フェリシアの声を聴いたカリンは、フェリシアに抱き付くと安心して泣き出す。
フェリシアは、泣きじゃくるカリンの頭を撫でながらなだめる。
「大丈夫。心配ありませんよ」
ソフィアの飛竜は大きく息を吸い込むと、向かって右側の食人鬼に向けて火炎息を浴びせる。
「グァアアアア!」
食人鬼と、その近くにいたスベリエ軍の兵士たちは、火達磨になって悲鳴を上げながら床を転げ回り、絶命する。
ソフィアは、飛竜の前に歩み出ると右手をかざして飛竜を制止する。
「お止め! 礼拝堂を火事にするつもり!?」
主人であるソフィアに制された飛竜は、甘えるような鳴き声を上げながら後ろに下がる。
ソフィアは、右手に持つ自分の竜騎士槍『竜王の牙』に向けて左手をかざすと、竜語の魔法を唱える。
「Клыки Короля Драконов.」
(竜王の牙よ)
「Основываясь на этом благословении」
(その加護に基づき)
「Дай мне изначальное пламя!」
(我に始原の炎を貸し与えたまえ!)
ソフィアの持つ竜騎士槍『竜王の牙』は、主の呼び掛けに応じるように、槍全体が淡く青白い光を帯び、槍の穂先は赤く輝き、光を放つ。
スベリエ軍の兵士たちは、前に歩み出て来たソフィアを見て、口々にざわつく。
「女騎士?」
「いや、女の竜騎士だ!?」
「真紅の竜騎士……」
アルムフェルトは、竜騎士姿のソフィアを見ると、ニヤけ顔を浮かべながら、今度はソフィアを口説き始める。
「お嬢さん。貴女のような美女が、そんな物を振り回しているなんて、似合いませんよ? 貴女のような美しい女性は、私と一夜を共にし、ベッドで私の腕枕で眠りにつくのが良いのです!」
ソフィアは、自分を口説いてくるアルムフェルトを侮蔑した目線で見下すと、唾棄するように告げる。
「断る! ……お前は、相手が女と見れば、誰でも口説いて迫っているようだな? チャラチャラした軟弱なフヌケが! 虫唾が走る!」
アルムフェルトは、ソフィアが最も毛嫌いしている、いわゆる『チャラ男』というタイプであった。
アルムフェルトは、先ほどまでニヤけ顔であったが、ソフィアに断られると、憤怒の表情を浮かべる。
「なら、力ずくで私のベッドへ連れて行く! やれ!」
命令された食人鬼は、ソフィアを捕まえようと手を伸ばして近寄ってくる。
ソフィアは、食人鬼に向けて竜騎士槍を構えると、気合いを上げながら、鋭い突きを放つ。
「ハァアアアアッ!」
ソフィアの竜騎士槍による鋭い突きは、食人鬼の胸に突き刺さる。
次の瞬間、槍の穂先が刺さった食人鬼の胸に人が通れるほどの大穴が空く。
「ゴフッ?」
頭の弱い食人鬼は、こん棒を持っていない左手を自分の胸に空いた大穴の中に入れ、突然、自分の胸に大穴が空いたことが理解できずに首を傾げる。
やがて食人鬼は、後ろに倒れて絶命する。
スベリエ軍は、食人鬼が一撃で倒された様子を見て、浮足立ち始める。
「食人鬼が!? 一撃で!?」
「何だ? 何が起こったんだ?」
アルムフェルトは、眉尻をピクピクと引き攣らせながらソフィアに尋ねる。
「……女……何者だ?」
ソフィアは、構えていた竜騎士槍を自分の身体の右側に立てると、背筋を伸ばして礼拝堂の中に響き渡る凛とした口調で名乗りを上げる。
「我は、バレンシュテット帝国 皇太子正妃 ソフィア・ゲキックス・フォン・バレンシュテット! 『大陸最強の竜騎士』アキックス・ゲキックスの孫! 『竜王の愛娘』とは私のことだ! 退け! スベリエの雑兵ども!」
スベリエ軍は、ソフィアの名乗りを聞いて一斉にざわつき始め、怖気づく。
「帝国の皇太子正妃だと!?」
「大陸最強の竜騎士の孫……!?」
「ゲキックスって、あの『金鱗の竜王』を従えている竜の一族か?」
「創世記の『神殺しの竜王』だぞ!?」
「あ、相手が悪すぎる!」
名乗り終えたソフィアは、再び竜騎士槍をスベリエ軍に向けて構える。
ソフィアが一歩前に歩み出ると、スベリエ軍の兵士たちは、二歩三歩と後退る。
ジークは、前に歩み出てソフィアの肩に手を置くと、その耳元で囁く。
「ソフィア。良くやった」
ソフィアは猫撫で声で答える。
「ジーク様……」
ジークは、アルムフェルトに告げる。
「私の妻を寝床に連れて行くとは、聞き捨てならないな。……貴様、斬られたいのか?」
アルムフェルトは、ジークをジロリと睨む。
「私の妻だと!? ……くっ! こちらの美女は、既に人妻であったか!」
アルムフェルトは、顎に手を当てて考えながらチラチラと横目でソフィアを見て、ブツブツと独り言を呟く。
「ふむ。……だが、人妻というのも悪く無い。……他人の妻を味見してみたいとも思う。……問題は、どうやって口説いてベッドに連れ込むかだな。うん」
考えがまとまったアルムフェルトはジークを指差して告げる。
「まさか、お前。こちらの美女の夫か?」
ジークは即答する。
「いかにも。私は、バレンシュテット帝国皇太子 ジークフリート・ヘーゲル・フォン・バレンシュテットだ」
アルムフェルトは、再び大げさな身振り手振りをしながら叫び出す。
「貴様ぁ! 夫ということは、こちらの美女と毎晩、あ~んなことも、こ~んなことも、しているというのかぁ!? 許さん! 許さんぞぉ~!」
ジークは、呆れたように答える。
「……それは好きに妄想しろ」
側近の士官はアルムフェルトに耳打ちする。
「王太子殿下。相手は、飛竜に竜騎士と上級騎士です。こちらは戦力的に勝ち目がありません。……ここは退いた方がよろしいかと」
アルムフェルトは、ジークを指差すと悔しそうに捨て台詞を吐く。
「くそっ! 貴様、覚えていろ! ……者共、退くぞ!」
アルムフェルトは、ジークたちに捨て台詞を吐くと、スベリエ軍部隊を引き連れて礼拝堂から逃げるように去って行った。
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