第百八十話 宮廷舞踏会(一)帝国の富と権威
ー/ー--ゴズフレズ王国 王都ハフニア 王城。
ジークと三人の妃達は、王城の一角にある応接室に案内され、ゴズフレズ王国のハロルド王に謁見した。
日中の謁見は、戦時中のため略式で行われ、夜にバレンシュテット帝国皇太子ジークフリート一行への歓待のため、王城で宮廷舞踏会が催される事となった。
ところが、戦時中であるゴズフレズ王国側は、様々な面で余裕が無く、ジークはハロルド王から相談を持ち掛けられ、ジークは快諾する。
相談の結果、ゴズフレズ王国側は王城のホールという場所を提供し、宮廷舞踏会に必要な料理や楽団などはバレンシュテット帝国側が用意することとなった。
ジークが乗ってきた皇帝座乗艦ニーベルンゲンとゴズフレズ王国の王城の間を、複数の揚陸艇が行き来し、帝国軍軍楽隊は宮廷楽団の制服に着替えるなどして、宮廷舞踏会の準備が進められていった。
--夜。
ジークと三人の妃達は王城の応接室に案内され、礼装姿のジークは長椅子に深く腰掛けて寛いでいた。
ジークの隣に支度を終えたソフィアが腰掛ける。
ソフィアは、身体の線がはっきり出る真紅のマーメイドドレスを着ており、Vネックで胸元と肩、背中が大きく空いているデザインのため、純白のファーショールを肩に羽織っていた。
ドレスに施されたバレンシュテット帝室の紋章をあしらった豪華な刺繍は、金糸や銀糸より遥かに高価なミスリル糸が惜し気も無く使われていた。
燃えているような赤い髪は綺麗に結い上げられ、ナナイから贈られた皇太子妃のティアラを被り、耳にはピアスを付け、フィンガーレスのロンググローブを付け、首にはリボンを付けた帝国騎士十字章を下げている。
薄く化粧を施して、実年齢よりも大人びて見える凛とした気の強そうな横顔と、上品で他を威圧する雰囲気と美しさは、まさにバレンシュテット帝国の皇太子正妃であった。
ソフィアは、エメラルドの瞳で自分の顔をじっと見詰めるジークに尋ねる。
「ジーク様、いかがされましたか?」
「お前に見惚れていたのだ。美しい。ドレスも良く似合っている」
「まぁ……嬉しいです」
そう言うと、ソフィアは羽毛の扇子を口元に当て、照れて微笑む。
ひと呼吸おいて、ソフィアは真顔でジークに尋ねる。
「ジーク様。ひとつお伺いしても?」
「何だ?」
「ジーク様は……いえ、帝国はゴズフレズをどの様にされるおつもりですか?」
「ゴズフレズは、帝国と列強であるカスパニア、スベリエ両国との『緩衝地帯』だ。帝国の保護下に置く、または従属などの形で帝国の影響下に置くが、独立国家であることが望ましい。トラキアのように占領したり、併合したりはしない。列強と国境を接したところで、港湾自治都市群のようにトラブルが増えるだけだからな。……それが私と父上の考え、『帝国の方針』だ」
ソフィアは、ジークが語る帝国の方針に納得したようであった。
「なるほど……承知しました」
ジークとソフィアが話していると、ジークの向かいの長椅子にアストリッドが座る。
「ジーク様、お待たせしました」
アストリッドは、淡い水色のポールガウンドレスを着ており、オフショルダータイプで胸元と、肩、背中が空いているものの、フリルが付いているデザインのため、肌の露出は注意を引くほどのものではなく、腰の後ろには、ドレスと同じ生地の大きなサッシュリボンを付けていた。
アストリッドもソフィアと同じように髪を綺麗に結い上げ、ナナイから贈られた皇太子妃のティアラを被り、耳にはピアスを付け、手には肘まであるロンググローブを付け、首には魔力水晶を削り出して造られた帝室の紋章が刻まれたエンドパーツが付けられたネックレスを下げていた。
ソフィアとは対照的な可愛らしいドレス姿のアストリッドは、満面の笑顔でジークに微笑み掛ける。
程なく支度を終えたフェリシアがアストリッドの隣に座る。
「遅くなりました」
フェリシアは、トラキアの民族衣装でもある純白の祭祀装束に、祭祀用の金の首飾りと金の腰飾りのついたベルトを身に付け、肩と背中の肌の露出が多いため、シルク地の白の無地の薄いストールを羽織り、ジークから貰った帝室の紋章のブローチで止めていた。
フェリシアも他の妃と同じようにナナイから贈られた皇太子妃のティアラを被っていたが、フェリシアが施したアイシャドウは特徴的で、明らかにバレンシュテットには無いトラキアの文化であった。
神職の巫女であるフェリシアは、黒目黒髪で目元にほくろのある美人であり、トラキアの巫女として最上級の礼装である祭祀装束を纏い、神秘的で近寄り難い雰囲気であったが、目元のアイシャドウが妖艶な美しさを醸し出していた。
まさに、アスカニア創世記に砂漠にあったと記されている古代王国の女王といった装いであった。
三人の妃の三者三様の装いを見たジークは、ソフィアに話した『ゴズフレズに対する帝国の方針』について、他の二人の妃にも言って聞かせる。
半時ほどすると、ハロルド王の使いがジーク達を迎えに来る。
応接室のドアをノックする音の後、使いの声がする。
「皇太子殿下。開催時間になりましたので、お迎えに上がりました」
「判った」
ジークと三人の妃達は、宮廷舞踏会の会場であるホールへと向かう。
衛兵の声がホールに響き渡る。
「バレンシュテット帝国 皇太子 ジークフリート・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット殿下、御入場!」
衛兵の口上の後、ジークは正妃のソフィアをエスコートしながら、ホールに敷かれたレッドカーペットの上を歩き、ハロルド王の元に向かう。
ジークとソフィアの後ろをアストリッドとフェリシアが続く。
レッドカーペットの上を歩くジーク達を見たゴズフレズの王侯貴族や政府役人は、様々な反応を見せる。
ジークを見た者は感嘆し、ソフィアを見た者は嘆息し、アストリッドを見た者は微笑み、フェリシアを見た者は驚いていた。
ジーク達はハロルド王の前まで歩くと、ハロルド王に会釈し、三人の妃達を順番に紹介していく、
妃達は、ジークから順にハロルド王に紹介されると、ハロルド王に挨拶していく。
ソフィアとアストリッドは、ドレスの裾を軽く摘まんでカーテシーを行って挨拶するが、裾を摘まむ事が出来ないフェリシアは、そうせずに挨拶していた。
やがてハロルド王による開催の挨拶により、宮廷舞踏会が始まる。
この世界の宮廷舞踏会は、オープニングセレモニーとして主催者とその伴侶がファーストダンスを踊るが、ハロルド王の王妃は流行り病で既に他界しており、急遽、国賓であるジークとソフィアにファーストダンスが回って来る。
ジークはソフィアに尋ねる。
「ソフィア。私達が最初に踊る事になったようだ。……大丈夫か?」
ソフィアはジークの首に両腕を回すと、ジークの耳元に顔を近づけ、そっと耳打ちする。
「私達が最初に? ……フフ。当然ですわ」
ジークにそう告げると、ソフィアは不敵な笑みを浮かべて見せる。
ソフィアは、自分達がファーストダンスを踊る事が当然だと考えていた。
また、ジークと二人で舞踏会でファーストダンスを踊る事は、ソフィアの夢でもあった。
ジークがソフィアの手を取り、二人がホールの中央に歩み出ると、ホールの片隅に陣取る宮廷楽団が演奏し始める。
奏でられる円舞曲に合わせて、ジークとソフィアの二人は踊り始める。
二人のダンスは完璧かつ優雅であり、おとぎ話のワンシーンを切り取ったような光景にゴズフレズの王侯貴族や政府高官、諸外国の大使達は、二人のダンスに見惚れる。
二人が一曲踊り終えると、次はバレンシュテット側とゴズフレズ側とで、伴侶を変えて踊るのが通例であった。
ハロルド王の相手をソフィアが、ジークの相手を故人である王妃の代理ということでカリンが努める。
「陛下。お手柔らかにお願い致します」
ソフィアは、そう告げて微笑みながらハロルド王に手を差し伸べると、ソフィアの笑顔に見惚れたハロルド王は一瞬、呆けていたが、直ぐに気を取り直してソフィアの手を取り、ホールの中央へエスコートする。
ジークはカリンの元へ行き、軽くお辞儀をすると穏やかに話し掛け、右手を差し伸べる。
「一曲、踊って頂けますか?」
「喜んで」
カリンは照れながらそう答えると、ジークの手を取る。
ジークはカリンの手を取ると、手の甲にキスしてホールの中央へエスコートする。
ハロルド王とソフィア、ジークとカリンがホールの中央に揃ったところで、二曲目の円舞曲の演奏が始まる。
熊ひげのむさ苦しい大男で武辺者のハロルド王のダンスは、お世辞にも上手ではなかったが、ソフィアは相手に合わせて上手く取り繕う。
ジークは、カリンをリードしながらダンスを踊る。
カリンはうっとりと長身のジークの顔を見上げながら、ジークのリードに合わせて踊っていた。
二曲目が終わると、他の参加者も踊ることが出来るダンスタイムとなり、踊らない者はテーブルに座り、食事やお酒を楽しみながらダンスを鑑賞し始めている。
舞踏会に振舞われた豪華な料理や、帝国各地から取り寄せた果物を見て、宮廷舞踏会の参加者たちは驚く。
『バレンシュテット帝国の富と権威、力をゴズフレズ王国の指導層に見せつける』というラインハルトやジークの思惑によるものであった。
ハロルド王は、ジークの三人の妃の中でソフィアの事が最も気に入ったようで、ソフィアの傍らでビールの入ったジョッキを片手に持ち、上機嫌でカスパニアとの戦争の武勇伝を語っていた。
大人しく口数の少ないアストリッドや、神職の巫女であり神秘的で近寄り難い雰囲気のフェリシアよりも、気が強くて気性が激しく喜怒哀楽好き嫌いがハッキリしているソフィアが武辺者のハロルド王にとって一緒にダンスを踊ったこともあり、一番接しやすかったからであった。
一方、大人しく可愛らしくいアストリッドには、ゴズフレズの貴族や政府要人達からダンスの申し込みが殺到し、アストリッドはダンスを申し込まれた順番に受けて踊っていた。
フェリシアは、一人で喧騒から離れて佇んでいた。
カリンは、一人で佇むフェリシアの元に行って話し掛け、二人でテラスに向かう。
ジークは、ゴズフレズ側の指導層である主な貴族や政府要人、外国の大使たちと政治的な話をしていた。
ジークの元に一人の男がやって来る。
ゴズフレズ王国の王都ハフニアに駐在するスベリエ王国大使、ヒッター子爵であった。
ヒッター子爵は、ジークに声を掛ける。
「皇太子殿下。少し、お話を伺いたいのですが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
ジークと三人の妃達は、王城の一角にある応接室に案内され、ゴズフレズ王国のハロルド王に謁見した。
日中の謁見は、戦時中のため略式で行われ、夜にバレンシュテット帝国皇太子ジークフリート一行への歓待のため、王城で宮廷舞踏会が催される事となった。
ところが、戦時中であるゴズフレズ王国側は、様々な面で余裕が無く、ジークはハロルド王から相談を持ち掛けられ、ジークは快諾する。
相談の結果、ゴズフレズ王国側は王城のホールという場所を提供し、宮廷舞踏会に必要な料理や楽団などはバレンシュテット帝国側が用意することとなった。
ジークが乗ってきた皇帝座乗艦ニーベルンゲンとゴズフレズ王国の王城の間を、複数の揚陸艇が行き来し、帝国軍軍楽隊は宮廷楽団の制服に着替えるなどして、宮廷舞踏会の準備が進められていった。
--夜。
ジークと三人の妃達は王城の応接室に案内され、礼装姿のジークは長椅子に深く腰掛けて寛いでいた。
ジークの隣に支度を終えたソフィアが腰掛ける。
ソフィアは、身体の線がはっきり出る真紅のマーメイドドレスを着ており、Vネックで胸元と肩、背中が大きく空いているデザインのため、純白のファーショールを肩に羽織っていた。
ドレスに施されたバレンシュテット帝室の紋章をあしらった豪華な刺繍は、金糸や銀糸より遥かに高価なミスリル糸が惜し気も無く使われていた。
燃えているような赤い髪は綺麗に結い上げられ、ナナイから贈られた皇太子妃のティアラを被り、耳にはピアスを付け、フィンガーレスのロンググローブを付け、首にはリボンを付けた帝国騎士十字章を下げている。
薄く化粧を施して、実年齢よりも大人びて見える凛とした気の強そうな横顔と、上品で他を威圧する雰囲気と美しさは、まさにバレンシュテット帝国の皇太子正妃であった。
ソフィアは、エメラルドの瞳で自分の顔をじっと見詰めるジークに尋ねる。
「ジーク様、いかがされましたか?」
「お前に見惚れていたのだ。美しい。ドレスも良く似合っている」
「まぁ……嬉しいです」
そう言うと、ソフィアは羽毛の扇子を口元に当て、照れて微笑む。
ひと呼吸おいて、ソフィアは真顔でジークに尋ねる。
「ジーク様。ひとつお伺いしても?」
「何だ?」
「ジーク様は……いえ、帝国はゴズフレズをどの様にされるおつもりですか?」
「ゴズフレズは、帝国と列強であるカスパニア、スベリエ両国との『緩衝地帯』だ。帝国の保護下に置く、または従属などの形で帝国の影響下に置くが、独立国家であることが望ましい。トラキアのように占領したり、併合したりはしない。列強と国境を接したところで、港湾自治都市群のようにトラブルが増えるだけだからな。……それが私と父上の考え、『帝国の方針』だ」
ソフィアは、ジークが語る帝国の方針に納得したようであった。
「なるほど……承知しました」
ジークとソフィアが話していると、ジークの向かいの長椅子にアストリッドが座る。
「ジーク様、お待たせしました」
アストリッドは、淡い水色のポールガウンドレスを着ており、オフショルダータイプで胸元と、肩、背中が空いているものの、フリルが付いているデザインのため、肌の露出は注意を引くほどのものではなく、腰の後ろには、ドレスと同じ生地の大きなサッシュリボンを付けていた。
アストリッドもソフィアと同じように髪を綺麗に結い上げ、ナナイから贈られた皇太子妃のティアラを被り、耳にはピアスを付け、手には肘まであるロンググローブを付け、首には魔力水晶を削り出して造られた帝室の紋章が刻まれたエンドパーツが付けられたネックレスを下げていた。
ソフィアとは対照的な可愛らしいドレス姿のアストリッドは、満面の笑顔でジークに微笑み掛ける。
程なく支度を終えたフェリシアがアストリッドの隣に座る。
「遅くなりました」
フェリシアは、トラキアの民族衣装でもある純白の祭祀装束に、祭祀用の金の首飾りと金の腰飾りのついたベルトを身に付け、肩と背中の肌の露出が多いため、シルク地の白の無地の薄いストールを羽織り、ジークから貰った帝室の紋章のブローチで止めていた。
フェリシアも他の妃と同じようにナナイから贈られた皇太子妃のティアラを被っていたが、フェリシアが施したアイシャドウは特徴的で、明らかにバレンシュテットには無いトラキアの文化であった。
神職の巫女であるフェリシアは、黒目黒髪で目元にほくろのある美人であり、トラキアの巫女として最上級の礼装である祭祀装束を纏い、神秘的で近寄り難い雰囲気であったが、目元のアイシャドウが妖艶な美しさを醸し出していた。
まさに、アスカニア創世記に砂漠にあったと記されている古代王国の女王といった装いであった。
三人の妃の三者三様の装いを見たジークは、ソフィアに話した『ゴズフレズに対する帝国の方針』について、他の二人の妃にも言って聞かせる。
半時ほどすると、ハロルド王の使いがジーク達を迎えに来る。
応接室のドアをノックする音の後、使いの声がする。
「皇太子殿下。開催時間になりましたので、お迎えに上がりました」
「判った」
ジークと三人の妃達は、宮廷舞踏会の会場であるホールへと向かう。
衛兵の声がホールに響き渡る。
「バレンシュテット帝国 皇太子 ジークフリート・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット殿下、御入場!」
衛兵の口上の後、ジークは正妃のソフィアをエスコートしながら、ホールに敷かれたレッドカーペットの上を歩き、ハロルド王の元に向かう。
ジークとソフィアの後ろをアストリッドとフェリシアが続く。
レッドカーペットの上を歩くジーク達を見たゴズフレズの王侯貴族や政府役人は、様々な反応を見せる。
ジークを見た者は感嘆し、ソフィアを見た者は嘆息し、アストリッドを見た者は微笑み、フェリシアを見た者は驚いていた。
ジーク達はハロルド王の前まで歩くと、ハロルド王に会釈し、三人の妃達を順番に紹介していく、
妃達は、ジークから順にハロルド王に紹介されると、ハロルド王に挨拶していく。
ソフィアとアストリッドは、ドレスの裾を軽く摘まんでカーテシーを行って挨拶するが、裾を摘まむ事が出来ないフェリシアは、そうせずに挨拶していた。
やがてハロルド王による開催の挨拶により、宮廷舞踏会が始まる。
この世界の宮廷舞踏会は、オープニングセレモニーとして主催者とその伴侶がファーストダンスを踊るが、ハロルド王の王妃は流行り病で既に他界しており、急遽、国賓であるジークとソフィアにファーストダンスが回って来る。
ジークはソフィアに尋ねる。
「ソフィア。私達が最初に踊る事になったようだ。……大丈夫か?」
ソフィアはジークの首に両腕を回すと、ジークの耳元に顔を近づけ、そっと耳打ちする。
「私達が最初に? ……フフ。当然ですわ」
ジークにそう告げると、ソフィアは不敵な笑みを浮かべて見せる。
ソフィアは、自分達がファーストダンスを踊る事が当然だと考えていた。
また、ジークと二人で舞踏会でファーストダンスを踊る事は、ソフィアの夢でもあった。
ジークがソフィアの手を取り、二人がホールの中央に歩み出ると、ホールの片隅に陣取る宮廷楽団が演奏し始める。
奏でられる円舞曲に合わせて、ジークとソフィアの二人は踊り始める。
二人のダンスは完璧かつ優雅であり、おとぎ話のワンシーンを切り取ったような光景にゴズフレズの王侯貴族や政府高官、諸外国の大使達は、二人のダンスに見惚れる。
二人が一曲踊り終えると、次はバレンシュテット側とゴズフレズ側とで、伴侶を変えて踊るのが通例であった。
ハロルド王の相手をソフィアが、ジークの相手を故人である王妃の代理ということでカリンが努める。
「陛下。お手柔らかにお願い致します」
ソフィアは、そう告げて微笑みながらハロルド王に手を差し伸べると、ソフィアの笑顔に見惚れたハロルド王は一瞬、呆けていたが、直ぐに気を取り直してソフィアの手を取り、ホールの中央へエスコートする。
ジークはカリンの元へ行き、軽くお辞儀をすると穏やかに話し掛け、右手を差し伸べる。
「一曲、踊って頂けますか?」
「喜んで」
カリンは照れながらそう答えると、ジークの手を取る。
ジークはカリンの手を取ると、手の甲にキスしてホールの中央へエスコートする。
ハロルド王とソフィア、ジークとカリンがホールの中央に揃ったところで、二曲目の円舞曲の演奏が始まる。
熊ひげのむさ苦しい大男で武辺者のハロルド王のダンスは、お世辞にも上手ではなかったが、ソフィアは相手に合わせて上手く取り繕う。
ジークは、カリンをリードしながらダンスを踊る。
カリンはうっとりと長身のジークの顔を見上げながら、ジークのリードに合わせて踊っていた。
二曲目が終わると、他の参加者も踊ることが出来るダンスタイムとなり、踊らない者はテーブルに座り、食事やお酒を楽しみながらダンスを鑑賞し始めている。
舞踏会に振舞われた豪華な料理や、帝国各地から取り寄せた果物を見て、宮廷舞踏会の参加者たちは驚く。
『バレンシュテット帝国の富と権威、力をゴズフレズ王国の指導層に見せつける』というラインハルトやジークの思惑によるものであった。
ハロルド王は、ジークの三人の妃の中でソフィアの事が最も気に入ったようで、ソフィアの傍らでビールの入ったジョッキを片手に持ち、上機嫌でカスパニアとの戦争の武勇伝を語っていた。
大人しく口数の少ないアストリッドや、神職の巫女であり神秘的で近寄り難い雰囲気のフェリシアよりも、気が強くて気性が激しく喜怒哀楽好き嫌いがハッキリしているソフィアが武辺者のハロルド王にとって一緒にダンスを踊ったこともあり、一番接しやすかったからであった。
一方、大人しく可愛らしくいアストリッドには、ゴズフレズの貴族や政府要人達からダンスの申し込みが殺到し、アストリッドはダンスを申し込まれた順番に受けて踊っていた。
フェリシアは、一人で喧騒から離れて佇んでいた。
カリンは、一人で佇むフェリシアの元に行って話し掛け、二人でテラスに向かう。
ジークは、ゴズフレズ側の指導層である主な貴族や政府要人、外国の大使たちと政治的な話をしていた。
ジークの元に一人の男がやって来る。
ゴズフレズ王国の王都ハフニアに駐在するスベリエ王国大使、ヒッター子爵であった。
ヒッター子爵は、ジークに声を掛ける。
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日中の謁見は、戦時中のため略式で行われ、夜にバレンシュテット帝国皇太子ジークフリート一行への歓待のため、王城で宮廷舞踏会が催される事となった。
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ジークが乗ってきた皇帝座乗艦ニーベルンゲンとゴズフレズ王国の王城の間を、複数の揚陸艇が行き来し、帝国軍軍楽隊は宮廷楽団の制服に着替えるなどして、宮廷舞踏会の準備が進められていった。
--夜。
ジークと三人の妃達は王城の応接室に案内され、礼装姿のジークは長椅子に深く腰掛けて寛いでいた。
ジークの隣に支度を終えたソフィアが腰掛ける。
ソフィアは、身体の線がはっきり出る真紅のマーメイドドレスを着ており、Vネックで胸元と肩、背中が大きく空いているデザインのため、純白のファーショールを肩に羽織っていた。
ドレスに施されたバレンシュテット帝室の紋章をあしらった豪華な刺繍は、金糸や銀糸より遥かに高価なミスリル糸が惜し気も無く使われていた。
燃えているような赤い髪は綺麗に結い上げられ、ナナイから贈られた皇太子妃のティアラを被り、耳にはピアスを付け、フィンガーレスのロンググローブを付け、首にはリボンを付けた|帝国騎士《ライヒス・リッター》|十字章《・クロス》を下げている。
薄く化粧を施して、実年齢よりも大人びて見える凛とした気の強そうな横顔と、上品で他を威圧する雰囲気と美しさは、まさにバレンシュテット帝国の皇太子正妃であった。
ソフィアは、エメラルドの瞳で自分の顔をじっと見詰めるジークに尋ねる。
「ジーク様、いかがされましたか?」
「お前に見惚れていたのだ。美しい。ドレスも良く似合っている」
「まぁ……嬉しいです」
そう言うと、ソフィアは羽毛の扇子を口元に当て、照れて微笑む。
ひと呼吸おいて、ソフィアは真顔でジークに尋ねる。
「ジーク様。ひとつお伺いしても?」
「何だ?」
「ジーク様は……いえ、帝国はゴズフレズをどの様にされるおつもりですか?」
「ゴズフレズは、帝国と列強であるカスパニア、スベリエ両国との『緩衝地帯』だ。帝国の保護下に置く、または従属などの形で帝国の影響下に置くが、独立国家であることが望ましい。トラキアのように占領したり、併合したりはしない。列強と国境を接したところで、港湾自治都市群のようにトラブルが増えるだけだからな。……それが私と父上の考え、『帝国の方針』だ」
ソフィアは、ジークが語る帝国の方針に納得したようであった。
「なるほど……承知しました」
ジークとソフィアが話していると、ジークの向かいの長椅子にアストリッドが座る。
「ジーク様、お待たせしました」
アストリッドは、淡い水色のポールガウンドレスを着ており、オフショルダータイプで胸元と、肩、背中が空いているものの、フリルが付いているデザインのため、肌の露出は注意を引くほどのものではなく、腰の後ろには、ドレスと同じ生地の大きなサッシュリボンを付けていた。
アストリッドもソフィアと同じように髪を綺麗に結い上げ、ナナイから贈られた皇太子妃のティアラを被り、耳にはピアスを付け、手には肘まであるロンググローブを付け、首には|魔力水晶《マナ・クリスタル》を削り出して造られた帝室の紋章が刻まれたエンドパーツが付けられたネックレスを下げていた。
ソフィアとは対照的な可愛らしいドレス姿のアストリッドは、満面の笑顔でジークに微笑み掛ける。
程なく支度を終えたフェリシアがアストリッドの隣に座る。
「遅くなりました」
フェリシアは、トラキアの民族衣装でもある純白の祭祀装束に、祭祀用の金の首飾りと金の腰飾りのついたベルトを身に付け、肩と背中の肌の露出が多いため、シルク地の白の無地の薄いストールを羽織り、ジークから貰った帝室の紋章のブローチで止めていた。
フェリシアも他の妃と同じようにナナイから贈られた皇太子妃のティアラを被っていたが、フェリシアが施したアイシャドウは特徴的で、明らかにバレンシュテットには無いトラキアの文化であった。
神職の巫女であるフェリシアは、黒目黒髪で目元にほくろのある美人であり、トラキアの巫女として最上級の礼装である祭祀装束を纏い、神秘的で近寄り難い雰囲気であったが、目元のアイシャドウが妖艶な美しさを醸し出していた。
まさに、アスカニア創世記に砂漠にあったと記されている古代王国の女王といった装いであった。
三人の妃の三者三様の装いを見たジークは、ソフィアに話した『ゴズフレズに対する帝国の方針』について、他の二人の妃にも言って聞かせる。
半時ほどすると、ハロルド王の使いがジーク達を迎えに来る。
応接室のドアをノックする音の後、使いの声がする。
「皇太子殿下。開催時間になりましたので、お迎えに上がりました」
「判った」
ジークと三人の妃達は、宮廷舞踏会の会場であるホールへと向かう。
衛兵の声がホールに響き渡る。
「バレンシュテット帝国 皇太子 ジークフリート・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット殿下、御入場!」
衛兵の口上の後、ジークは正妃のソフィアをエスコートしながら、ホールに敷かれたレッドカーペットの上を歩き、ハロルド王の元に向かう。
ジークとソフィアの後ろをアストリッドとフェリシアが続く。
レッドカーペットの上を歩くジーク達を見たゴズフレズの王侯貴族や政府役人は、様々な反応を見せる。
ジークを見た者は感嘆し、ソフィアを見た者は嘆息し、アストリッドを見た者は微笑み、フェリシアを見た者は驚いていた。
ジーク達はハロルド王の前まで歩くと、ハロルド王に会釈し、三人の妃達を順番に紹介していく、
妃達は、ジークから順にハロルド王に紹介されると、ハロルド王に挨拶していく。
ソフィアとアストリッドは、ドレスの裾を軽く摘まんでカーテシーを行って挨拶するが、裾を摘まむ事が出来ないフェリシアは、そうせずに挨拶していた。
やがてハロルド王による開催の挨拶により、宮廷舞踏会が始まる。
この世界の宮廷舞踏会は、オープニングセレモニーとして主催者とその伴侶がファーストダンスを踊るが、ハロルド王の王妃は流行り病で既に他界しており、急遽、国賓であるジークとソフィアにファーストダンスが回って来る。
ジークはソフィアに尋ねる。
「ソフィア。私達が最初に踊る事になったようだ。……大丈夫か?」
ソフィアはジークの首に両腕を回すと、ジークの耳元に顔を近づけ、そっと耳打ちする。
「私達が最初に? ……フフ。当然ですわ」
ジークにそう告げると、ソフィアは不敵な笑みを浮かべて見せる。
ソフィアは、自分達がファーストダンスを踊る事が当然だと考えていた。
また、ジークと二人で舞踏会でファーストダンスを踊る事は、ソフィアの夢でもあった。
ジークがソフィアの手を取り、二人がホールの中央に歩み出ると、ホールの片隅に陣取る宮廷楽団が演奏し始める。
奏でられる円舞曲に合わせて、ジークとソフィアの二人は踊り始める。
二人のダンスは完璧かつ優雅であり、おとぎ話のワンシーンを切り取ったような光景にゴズフレズの王侯貴族や政府高官、諸外国の大使達は、二人のダンスに見惚れる。
二人が一曲踊り終えると、次はバレンシュテット側とゴズフレズ側とで、伴侶を変えて踊るのが通例であった。
ハロルド王の相手をソフィアが、ジークの相手を故人である王妃の代理ということでカリンが努める。
「陛下。お手柔らかにお願い致します」
ソフィアは、そう告げて微笑みながらハロルド王に手を差し伸べると、ソフィアの笑顔に見惚れたハロルド王は一瞬、呆けていたが、直ぐに気を取り直してソフィアの手を取り、ホールの中央へエスコートする。
ジークはカリンの元へ行き、軽くお辞儀をすると穏やかに話し掛け、右手を差し伸べる。
「一曲、踊って頂けますか?」
「喜んで」
カリンは照れながらそう答えると、ジークの手を取る。
ジークはカリンの手を取ると、手の甲にキスしてホールの中央へエスコートする。
ハロルド王とソフィア、ジークとカリンがホールの中央に揃ったところで、二曲目の円舞曲の演奏が始まる。
熊ひげのむさ苦しい大男で武辺者のハロルド王のダンスは、お世辞にも上手ではなかったが、ソフィアは相手に合わせて上手く取り繕う。
ジークは、カリンをリードしながらダンスを踊る。
カリンはうっとりと長身のジークの顔を見上げながら、ジークのリードに合わせて踊っていた。
二曲目が終わると、他の参加者も踊ることが出来るダンスタイムとなり、踊らない者はテーブルに座り、食事やお酒を楽しみながらダンスを鑑賞し始めている。
舞踏会に振舞われた豪華な料理や、帝国各地から取り寄せた果物を見て、宮廷舞踏会の参加者たちは驚く。
『バレンシュテット帝国の富と権威、力をゴズフレズ王国の指導層に見せつける』というラインハルトやジークの思惑によるものであった。
ハロルド王は、ジークの三人の妃の中でソフィアの事が最も気に入ったようで、ソフィアの傍らでビールの入ったジョッキを片手に持ち、上機嫌でカスパニアとの戦争の武勇伝を語っていた。
大人しく口数の少ないアストリッドや、神職の巫女であり神秘的で近寄り難い雰囲気のフェリシアよりも、気が強くて気性が激しく喜怒哀楽好き嫌いがハッキリしているソフィアが武辺者のハロルド王にとって一緒にダンスを踊ったこともあり、一番接しやすかったからであった。
一方、大人しく可愛らしくいアストリッドには、ゴズフレズの貴族や政府要人達からダンスの申し込みが殺到し、アストリッドはダンスを申し込まれた順番に受けて踊っていた。
フェリシアは、一人で喧騒から離れて佇んでいた。
カリンは、一人で佇むフェリシアの元に行って話し掛け、二人でテラスに向かう。
ジークは、ゴズフレズ側の指導層である主な貴族や政府要人、外国の大使たちと政治的な話をしていた。
ジークの元に一人の男がやって来る。
ゴズフレズ王国の王都ハフニアに駐在するスベリエ王国大使、ヒッター子爵であった。
ヒッター子爵は、ジークに声を掛ける。
「皇太子殿下。少し、お話を伺いたいのですが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」