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第百五十六話 ルドルフ父子の再会

ー/ー



 ルドルフとルドルフの母親ティナは、皇宮の侍従によって士官学校の応接室に案内される。

 二人がソファーに腰掛けると、侍従は恭しく一礼して応接室を後にする。

「しばし、お待ちを」

 ルドルフはガチガチに緊張していたが、ティナは悠然とソファーに座っていた。

 二人は、半時ほど応接室で待つ。



 やがてドアをノックする音の後、侍従によってドアが開けられ、皇帝ラインハルトが応接室に入って来る。

 ルドルフは、座っていたソファーから立ち上がり、現れたラインハルトに対して跪いて最敬礼を取る。

 ティナは、最敬礼を取るルドルフの傍らを歩いて通り過ぎてゆく。

 ルドルフは、ティナが皇帝に頭を下げたりすることはせず、平然と歩いて自分の傍らを通り過ぎて皇帝に近寄っていくことに驚く。

(……え!?)

 ティナは、皇帝ラインハルトの目の前まで近寄ると話し掛ける。

「久しぶりね。お義兄(にい)ちゃん」

 ラインハルトは答える。

「ティナも。元気そうで」

 二人の会話を聞いたルドルフは、頭の中が混乱する。

(は!? 皇帝陛下が母さんの『お義兄(にい)ちゃん』? どういうことだ?)

 ラインハルトが、自分に対して最敬礼を取るルドルフの肩に手を置き、話し掛ける。

「立派になったな。ルドルフ。産まれた時に会ったきりだから、十七年振りか」

 ラインハルトの言葉に、ルドルフはますます混乱する。

(一体、何が、どうなっているんだ? オレは、赤子の時に皇帝陛下に会ったことがあるのか?)




 訳が分からないといった顔をしたまま、俯いているルドルフにティナは静かに告げる。

「……ルドルフ。顔をあげなさい」

 ティナに言われた通りにルドルフが顔をあげると、皇帝ラインハルトと手を取り合い、見つめ合うティナの姿が目の前にあった。

 ティナがルドルフの方を向いて告げる。

「……ルドルフ。ここに居られるのが『至高にして最強の騎士』、バレンシュテット帝国 第三十五代皇帝 ラインハルト・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット陛下。……貴方のお父さんよ」

 ティナの言葉にルドルフは激しく衝撃を受け、呟く。

「こ、皇帝陛下が、オレの……父さん!?」

 ルドルフの呟きを聞いたラインハルトは、少し考える素振りをした後、ティナに尋ねる。

「……ティナ。ルドルフには、私が父親だと、教えていなかったのか?」

「ええ。『至高にして最強の騎士』が父親とだけ」

「ふむ。ルドルフには、父親らしいことを何一つしてやれず、心苦しく思っていたのだが……」

「ルドルフが士官学校に入学できただけで十分よ。それに、ずっとお義兄(にい)ちゃんに迷惑を掛けないようにしていたから」



 ラインハルトは、ダークエルフによってティナに掛けられた呪いを解くため、義妹であるティナと肉体関係を持った。

 その時に出来た子がルドルフであった。

(※詳細は、拙著『アスカニア大陸戦記 黒い剣士と氷の魔女』を参照)
 


 ルドルフが『士官学校に入って騎士になりたい』と言い出した時に、ティナはルドルフの父親であるラインハルトにルドルフを士官学校へ入学させてくれるように手紙を書いて出していた。

 素行不良のルドルフが士官学校に入学できたのは、ルドルフの父親である皇帝ラインハルトの口利きであった。

 士官学校内でどれだけルドルフが素行不良で事件を起こしても、軍監に反抗的で営倉入りさせられても、退学処分にならなかったのは『ルドルフが皇帝ラインハルトの息子(庶子)だから』。

 バレンシュテット帝国において『法の上の存在』である皇帝の威光と権力は絶対的であった。



 ルドルフは再び呟く。

「……皇帝陛下が、オレの……父さん」

 ルドルフの母親ティナは、女手一つでルドルフを育て上げていた。

 ルドルフは、ずっとティナの苦労している姿を見て来た。

 田舎の周囲の者達は、女手一人で苦労している母を『淫売』『売女』と陰口を叩き、罵っていた。



 ルドルフの中に熱い怒りが込み上げてくる。

 自分の父が皇帝なら!

 母を抱いたのが皇帝なら!

 このバレンシュテット帝国を統べる皇帝なら、自分たち、母子に楽な暮らしをさせることくらい、簡単にできただろうに!

 なぜ、そうしなかった!?

 なぜ、自分たち、母子を捨てたのか!?


 
 ルドルフの中に込み上げた激情が、限界を超える。

 ルドルフは立ち上がると、ラインハルトに向かって告げる。

「……母さんは、ずっと苦労して女手一つでオレを育てくれた。皇帝陛下がオレの父さんなら、自分たち、母子(おやこ)に楽な暮らしをさせることくらい、簡単にできたでしょう。……なぜ、そうしなかった!? なぜ、オレたち、母子(おやこ)を捨てた!」

 ルドルフは、話しながら次第に口調が荒くなり、最後は怒鳴っていた。

 ティナは、ラインハルトに対する怒りを爆発させたルドルフを驚いた顔で見つめる。

「ルドルフ……」

 ラインハルトは、再三、ティナへの様々な援助を申し出ていたが、ティナが『迷惑を掛けるから』と断っていた。

 ラインハルトは、無言で自分への怒りを爆発させるルドルフを見詰めていた。



 ルドルフは叫ぶ。

「オレたち、母子を捨てて! 『人並み以上』を気取りやがって!」

 ルドルフは、ラインハルトに殴り掛る。

 ラインハルトは、殴り掛って来たルドルフの拳を右手で軽く受け止めると、その拳を握ったまま、静かにルドルフに告げる。

「……悪くない拳だ。だが、お前は、まず『自分を抑えること』を学ばねばならない」

 ルドルフは、ラインハルトに言い返す。

「なんだと!?」



 次の瞬間、ルドルフの視界からラインハルトが消える。

 ラインハルトは、自分を殴るために伸ばされたルドルフの右腕と拳をそのままに、ルドルフの右側に回り込むと、右手の掌を上に向け、人差し指と中指の二本の指を揃えてルドルフの顎に下から指先を当てる。

 ルドルフは、ラインハルトに瞬時に利き手の外側に回り込まれ、顎下に二本の指先を当てられたことに驚愕して息を飲む。

(……え!?)

 二本の指先を顎に当てたまま、ラインハルトの凍てつくアイスブルーの瞳がルドルフを睨み、ラインハルトはルドルフに冷酷に言い放つ。

「バレンシュテット帝国においては、皇帝に対する如何なる無礼も許されない。十七年振りに再会した祝いとして、今回は特別にお前を赦す。……次は息子であっても、その首は無いものと思え」



 もし、ラインハルトがルドルフの顎下に当てた『二本の指先』が『剣先』であったなら、ルドルフは即死であった。
 
 ラインハルトに圧倒的な実力差を見せつけられ、ルドルフは我に返り、愕然とした顔でラインハルトを見詰める。

(これが、マスタークラスの上級騎士(パラディン)の実力! もし、本気なら、オレは瞬殺されていた!)

 ルドルフは、初めて死に対する恐怖に直面して息を飲む。両膝が震え出し、その場にへたり込む。

「ハアッ! ハァ! ハァ!」

 ルドルフは、全身に冷や汗をかき、止まっていた呼吸をし始める。



 ティナはラインハルトに謝罪する。

「お義兄(にい)ちゃん、ごめんなさい。後で良く言って聞かせるから」

 ラインハルトは、ティナに優しく微笑み掛ける。

「ふふ。息子とは、これくらいでないとな……。次に会える時を楽しみにしているよ」

 ラインハルトは二人にそう告げると、士官学校の応接室から去って行った。




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次のエピソードへ進む 第百五十七話 野営訓練(一)


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 ルドルフとルドルフの母親ティナは、皇宮の侍従によって士官学校の応接室に案内される。
 二人がソファーに腰掛けると、侍従は恭しく一礼して応接室を後にする。
「しばし、お待ちを」
 ルドルフはガチガチに緊張していたが、ティナは悠然とソファーに座っていた。
 二人は、半時ほど応接室で待つ。
 やがてドアをノックする音の後、侍従によってドアが開けられ、皇帝ラインハルトが応接室に入って来る。
 ルドルフは、座っていたソファーから立ち上がり、現れたラインハルトに対して跪いて最敬礼を取る。
 ティナは、最敬礼を取るルドルフの傍らを歩いて通り過ぎてゆく。
 ルドルフは、ティナが皇帝に頭を下げたりすることはせず、平然と歩いて自分の傍らを通り過ぎて皇帝に近寄っていくことに驚く。
(……え!?)
 ティナは、皇帝ラインハルトの目の前まで近寄ると話し掛ける。
「久しぶりね。お|義兄《にい》ちゃん」
 ラインハルトは答える。
「ティナも。元気そうで」
 二人の会話を聞いたルドルフは、頭の中が混乱する。
(は!? 皇帝陛下が母さんの『お|義兄《にい》ちゃん』? どういうことだ?)
 ラインハルトが、自分に対して最敬礼を取るルドルフの肩に手を置き、話し掛ける。
「立派になったな。ルドルフ。産まれた時に会ったきりだから、十七年振りか」
 ラインハルトの言葉に、ルドルフはますます混乱する。
(一体、何が、どうなっているんだ? オレは、赤子の時に皇帝陛下に会ったことがあるのか?)
 訳が分からないといった顔をしたまま、俯いているルドルフにティナは静かに告げる。
「……ルドルフ。顔をあげなさい」
 ティナに言われた通りにルドルフが顔をあげると、皇帝ラインハルトと手を取り合い、見つめ合うティナの姿が目の前にあった。
 ティナがルドルフの方を向いて告げる。
「……ルドルフ。ここに居られるのが『至高にして最強の騎士』、バレンシュテット帝国 第三十五代皇帝 ラインハルト・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット陛下。……貴方のお父さんよ」
 ティナの言葉にルドルフは激しく衝撃を受け、呟く。
「こ、皇帝陛下が、オレの……父さん!?」
 ルドルフの呟きを聞いたラインハルトは、少し考える素振りをした後、ティナに尋ねる。
「……ティナ。ルドルフには、私が父親だと、教えていなかったのか?」
「ええ。『至高にして最強の騎士』が父親とだけ」
「ふむ。ルドルフには、父親らしいことを何一つしてやれず、心苦しく思っていたのだが……」
「ルドルフが士官学校に入学できただけで十分よ。それに、ずっとお|義兄《にい》ちゃんに迷惑を掛けないようにしていたから」
 ラインハルトは、ダークエルフによってティナに掛けられた呪いを解くため、義妹であるティナと肉体関係を持った。
 その時に出来た子がルドルフであった。
(※詳細は、拙著『アスカニア大陸戦記 黒い剣士と氷の魔女』を参照)
 ルドルフが『士官学校に入って騎士になりたい』と言い出した時に、ティナはルドルフの父親であるラインハルトにルドルフを士官学校へ入学させてくれるように手紙を書いて出していた。
 素行不良のルドルフが士官学校に入学できたのは、ルドルフの父親である皇帝ラインハルトの口利きであった。
 士官学校内でどれだけルドルフが素行不良で事件を起こしても、軍監に反抗的で営倉入りさせられても、退学処分にならなかったのは『ルドルフが皇帝ラインハルトの息子(庶子)だから』。
 バレンシュテット帝国において『法の上の存在』である皇帝の威光と権力は絶対的であった。
 ルドルフは再び呟く。
「……皇帝陛下が、オレの……父さん」
 ルドルフの母親ティナは、女手一つでルドルフを育て上げていた。
 ルドルフは、ずっとティナの苦労している姿を見て来た。
 田舎の周囲の者達は、女手一人で苦労している母を『淫売』『売女』と陰口を叩き、罵っていた。
 ルドルフの中に熱い怒りが込み上げてくる。
 自分の父が皇帝なら!
 母を抱いたのが皇帝なら!
 このバレンシュテット帝国を統べる皇帝なら、自分たち、母子に楽な暮らしをさせることくらい、簡単にできただろうに!
 なぜ、そうしなかった!?
 なぜ、自分たち、母子を捨てたのか!?
 ルドルフの中に込み上げた激情が、限界を超える。
 ルドルフは立ち上がると、ラインハルトに向かって告げる。
「……母さんは、ずっと苦労して女手一つでオレを育てくれた。皇帝陛下がオレの父さんなら、自分たち、|母子《おやこ》に楽な暮らしをさせることくらい、簡単にできたでしょう。……なぜ、そうしなかった!? なぜ、オレたち、|母子《おやこ》を捨てた!」
 ルドルフは、話しながら次第に口調が荒くなり、最後は怒鳴っていた。
 ティナは、ラインハルトに対する怒りを爆発させたルドルフを驚いた顔で見つめる。
「ルドルフ……」
 ラインハルトは、再三、ティナへの様々な援助を申し出ていたが、ティナが『迷惑を掛けるから』と断っていた。
 ラインハルトは、無言で自分への怒りを爆発させるルドルフを見詰めていた。
 ルドルフは叫ぶ。
「オレたち、母子を捨てて! 『人並み以上』を気取りやがって!」
 ルドルフは、ラインハルトに殴り掛る。
 ラインハルトは、殴り掛って来たルドルフの拳を右手で軽く受け止めると、その拳を握ったまま、静かにルドルフに告げる。
「……悪くない拳だ。だが、お前は、まず『自分を抑えること』を学ばねばならない」
 ルドルフは、ラインハルトに言い返す。
「なんだと!?」
 次の瞬間、ルドルフの視界からラインハルトが消える。
 ラインハルトは、自分を殴るために伸ばされたルドルフの右腕と拳をそのままに、ルドルフの右側に回り込むと、右手の掌を上に向け、人差し指と中指の二本の指を揃えてルドルフの顎に下から指先を当てる。
 ルドルフは、ラインハルトに瞬時に利き手の外側に回り込まれ、顎下に二本の指先を当てられたことに驚愕して息を飲む。
(……え!?)
 二本の指先を顎に当てたまま、ラインハルトの凍てつくアイスブルーの瞳がルドルフを睨み、ラインハルトはルドルフに冷酷に言い放つ。
「バレンシュテット帝国においては、皇帝に対する如何なる無礼も許されない。十七年振りに再会した祝いとして、今回は特別にお前を赦す。……次は息子であっても、その首は無いものと思え」
 もし、ラインハルトがルドルフの顎下に当てた『二本の指先』が『剣先』であったなら、ルドルフは即死であった。
 ラインハルトに圧倒的な実力差を見せつけられ、ルドルフは我に返り、愕然とした顔でラインハルトを見詰める。
(これが、マスタークラスの|上級騎士《パラディン》の実力! もし、本気なら、オレは瞬殺されていた!)
 ルドルフは、初めて死に対する恐怖に直面して息を飲む。両膝が震え出し、その場にへたり込む。
「ハアッ! ハァ! ハァ!」
 ルドルフは、全身に冷や汗をかき、止まっていた呼吸をし始める。
 ティナはラインハルトに謝罪する。
「お|義兄《にい》ちゃん、ごめんなさい。後で良く言って聞かせるから」
 ラインハルトは、ティナに優しく微笑み掛ける。
「ふふ。息子とは、これくらいでないとな……。次に会える時を楽しみにしているよ」
 ラインハルトは二人にそう告げると、士官学校の応接室から去って行った。