プロローグ

ー/ー



 ――「初恋は実らない」なんて、一体誰が言い出したんだろう? もし初めて恋に落ちた相手が運命の人なら、百パーセント実らないとは限らないのに。

 実際、わたしがそうだった。生まれて初めて恋をした相手が運命の人になったのだ。
 わたしの名前は篠沢(しのざわ)(あや)()。現在まだ十九歳という若さながら、日本屈指の大財閥〈篠沢グループ〉の会長兼CEOである。
 そして、わたしが初めて恋に落ちた相手は桐島(きりしま)(みつぐ)。わたしより八歳年上で、会長秘書兼わたしの個人秘書でもある男性だ。
 彼との出会いは今から二十ヶ月前。先代会長だった父・篠沢源一(げんいち)の四十五歳の誕生日だった。
 わたしと彼との間には年齢差や経済格差、身分の差など様々な障壁があったけれど、それらを乗り越えて無事に結ばれた。わたしの初恋は見事に実ったのだ。

 わたしは今、彼が初恋の相手で本当によかったと心から思っている。彼と一緒でなければ、父を早くに亡くした悲しみを乗り越えることも、現役高校生として大きな組織の(かじ)取りをすることもできなかっただろうから。

 そして今日この日、わたしは愛しいこの男性(ひと)と新たな旅立ちの時を迎えようとしている――。


 ――ここは結婚式場。わたしはベアトップのデザインの真っ白なウェディングドレスに身を包んで、白いタキシードの上下にブルーのアスコットタイを結んだ彼と、花嫁の控え室で向き合っている。

「貢、わたしたち、やっとここまで辿り着いたね」

「ええ。今日までに色々なことがありましたけど、今日という日を無事に迎えられてよかったです」

「ホントに色んなことがあったね。わたしがストーカー男と対決したり、その前に貴方に不意討ちでキスされたり?」

「あれは……その、暴走してしまったというか。すみません。でも、あのおかげもあって僕たち、付き合い始められたようなものですから」

「うん……まぁね」

 思い出話は尽きないけれど、わたしたちにとっていちばん忘れられない出来事はやっぱり父を亡くしたことだ。あの悲しい出来事をこの人と共有できたおかげで、わたしはあれから泣くことがなくなったのだ。

「そういえば絢乃さん、お義父(とう)さまのご葬儀の後、泣かれなくなりましたよね。強くなられたというか」

「それは、貴方っていう心強い秘書がついてくれたからだよ。まあ、忙しすぎて泣くヒマもなかったからっていうのもあるけどね」

 大企業のトップとして、強くありたいとわたし自身が頑張ってきたから。でも背伸びはせず、時には周囲の人たちにも助けてもらいながら、わたしは経営者としても今日まで逞しく成長してこられたと思う。

「貴方と出会ったあの日は、今日みたいな日を迎えられるなんて夢にも思ってなかったけど」

「そうですね……。僕も多分、予想できてなかったと思います」


 それは一年と八ヶ月前。わたしと彼が、会長令嬢とひとりの社員として出会った夜のことだった――。


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 ――「初恋は実らない」なんて、一体誰が言い出したんだろう? もし初めて恋に落ちた相手が運命の人なら、百パーセント実らないとは限らないのに。
 実際、わたしがそうだった。生まれて初めて恋をした相手が運命の人になったのだ。
 わたしの名前は|篠沢《しのざわ》|絢《あや》|乃《の》。現在まだ十九歳という若さながら、日本屈指の大財閥〈篠沢グループ〉の会長兼CEOである。
 そして、わたしが初めて恋に落ちた相手は|桐島《きりしま》|貢《みつぐ》。わたしより八歳年上で、会長秘書兼わたしの個人秘書でもある男性だ。
 彼との出会いは今から二十ヶ月前。先代会長だった父・篠沢|源一《げんいち》の四十五歳の誕生日だった。
 わたしと彼との間には年齢差や経済格差、身分の差など様々な障壁があったけれど、それらを乗り越えて無事に結ばれた。わたしの初恋は見事に実ったのだ。
 わたしは今、彼が初恋の相手で本当によかったと心から思っている。彼と一緒でなければ、父を早くに亡くした悲しみを乗り越えることも、現役高校生として大きな組織の|舵《かじ》取りをすることもできなかっただろうから。
 そして今日この日、わたしは愛しいこの|男性《ひと》と新たな旅立ちの時を迎えようとしている――。
 ――ここは結婚式場。わたしはベアトップのデザインの真っ白なウェディングドレスに身を包んで、白いタキシードの上下にブルーのアスコットタイを結んだ彼と、花嫁の控え室で向き合っている。
「貢、わたしたち、やっとここまで辿り着いたね」
「ええ。今日までに色々なことがありましたけど、今日という日を無事に迎えられてよかったです」
「ホントに色んなことがあったね。わたしがストーカー男と対決したり、その前に貴方に不意討ちでキスされたり?」
「あれは……その、暴走してしまったというか。すみません。でも、あのおかげもあって僕たち、付き合い始められたようなものですから」
「うん……まぁね」
 思い出話は尽きないけれど、わたしたちにとっていちばん忘れられない出来事はやっぱり父を亡くしたことだ。あの悲しい出来事をこの人と共有できたおかげで、わたしはあれから泣くことがなくなったのだ。
「そういえば絢乃さん、お|義父《とう》さまのご葬儀の後、泣かれなくなりましたよね。強くなられたというか」
「それは、貴方っていう心強い秘書がついてくれたからだよ。まあ、忙しすぎて泣くヒマもなかったからっていうのもあるけどね」
 大企業のトップとして、強くありたいとわたし自身が頑張ってきたから。でも背伸びはせず、時には周囲の人たちにも助けてもらいながら、わたしは経営者としても今日まで逞しく成長してこられたと思う。
「貴方と出会ったあの日は、今日みたいな日を迎えられるなんて夢にも思ってなかったけど」
「そうですね……。僕も多分、予想できてなかったと思います」
 それは一年と八ヶ月前。わたしと彼が、会長令嬢とひとりの社員として出会った夜のことだった――。